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虚想世界 冒険者は神を目指す  作者: OTE
森の賢者と少年少女
3/8

第一話 旅立ち

翌朝。空は綺麗に晴れ渡り、雲一つ無かった。

時間は午前6時頃だろうか。レイ達のアパートの周辺には朝日が差し込み、狭い路地には鳥が鳴いている。

日が昇りはじめたばかりの空気は非常に心地よい。

周辺の住民が動く様子は無いが、路地を出て綺麗な舗装がされた大通りに出れば、何かを配達する人が居たり、巡回をする兵士が居たりする。

街の中央の方を見れば、道ばたには早くも朝食用の屋台が開かれ、人々が何か麺をすすっている様子が見られた。


シーバ王国第三の都市ダコタ。それがこの街の名前だ。

放射状の街路が街の中央から広がり、郊外まで延びている。

郊外には畑や水田があり、さらにその外には高い壁が囲んでいた。

材質は良く分からないが、灰色で、厚さは一メートルほど、高さは五メートルもある。

その壁の外側に張り付くようにまた人家が見られた。

人家の周辺には畑があり、放牧地が有り、役所とおぼしき建物が有り。

その外側にはまた壁があった。前の物と同じような材質、同じような高さの壁だ。


上空から見ると、壁は街の中央を大きく囲み、その外側に壁を六分割するように半円状の壁が有り、さらにその隙間を埋めるように壁が有り……。

つまり、街は壁によって囲まれていた。

一番外側、四層目とでも言うのだろうか、その外側にも建設中の壁がある。ちょっと不思議な光景であった。


壁の三層目の安アパートでレイは目覚めた。

眠い目をこすりながら窓のカーテンを開ける。

太陽は隣のアパートに遮られて見えないが、太陽の出ている方向は分かる。

レイは太陽の方向を見つめると、祈りを捧げた。

「この世におわす神々よ、私は祈りを捧げます。全ての命が太陽のように燃え上がり、成長できますように」


次に、レイは部屋の中央に立ち、目をつぶる。

しばらくすると、レイの体から淡い光が出てきた。

光はしばらく大きくなったり小さくなったりしていたが、レイが目を開けると共に、体にぴったりとくっつき、光量を増した。

「…次の段階」

レイが行っているのは魔力のコントロールだ。

魔力を体外に放出したり、身に纏ったりする練習である。魔法を使うための基本的な鍛錬で有り、戦闘中でも無意識に出来るようにならねばならない。

レイが細く長く息を吐くと、光が変化した。

光が体の所々で渦を巻き、電子回路のような模様を描いたのだ。


そのまま、しばらくすると、レイは体を動かしはじめる。

ゆっくりと。まるで武道の型を行っているような動きだ。

ゆっくりとした動きだがなかなかきついようで、レイは息を乱す。

そのまま十五分ほどすると光が明滅し、途切れた。


「あ」

レイは残念そうにため息をつく。

「あーあ、もうちょっと長持ちすると思ったんだけどな」

タイミングを見計らったかのようにサンドラの声が掛かった。

「レイ、朝ご飯よ」


レイが食堂に入ると、昨日のパーティの跡がちょっと残っていた。

マーティンが残った飾りを外しながら挨拶する。

「おはよう、レイ。今日はどれくらいできた?」

「第二の型を五回だよ、パパ」

「おお、パパの子供の頃は二回が精々だったからなぁ。レイはすごいよ」

「さ、パパ、片付けは後回しにしてご飯にしましょ」


食卓にサンドラが皿を並べる。

ホットドックに骨付きソーセージと牛乳だ。ちょっと朝からボリュームが有る気がする。

「ママ、サラダは無いの?」

とマーティン。

「今日は出発の日でしょ、屋台で買ってきたから無いわよ」

「そか。じゃぁ、ママ、レイ、食べようか」

「「「いただきます」」」


手早く朝食を片付けると、レイとサンドラは出かける準備を始めた。

マーティンは部屋の片付けだ。それが終わってからサンドラと合流する。

マーティンとサンドラは装備を確認している。食料と水に関してはありったけを亜空間バッグに詰めた。

亜空間バッグは、神殿や冒険者ギルドで貸し与えてくれる貴重な品だ。

見た目は三十センチ程度のバッグだが、中に荷物用コンテナ一つ分(奥行き三メートル、高さ二メートル、横幅二メートル)のアイテムを詰める事が出来る。

重量は中に何を入れても五キロほどで、鍛えている冒険者にとっては重量も大したことは無い。

中は温度が一定だが、普通に物が腐るため、日持ちのしない食品は持って行けない。必然的に持って行くのは保存食となる。


食料を詰めると、次は消耗品。

それが終わるとそれぞれの得物を確認した。


レイも自分の荷物の確認に余念が無い。

両親が冒険に出る度、レイは様々な家に預けられてきた。行った先ではいろんな事があったが、レイは大抵上手くやっていた。

今度のフラップスの森には行ったことがない。預けられるのはいつもダコタの街の中だったからだ。

馬車で数日の所らしい。ダコタの街から離れたことの無いレイは、ワクワクしていた。


朝食からしばらく経ち、太陽がすっかり昇る頃、レイ達はアパートの外に出ていた。

アパートは長期間ほったらかしになるが、数ヶ月分の家賃は先払いしている。

三人は、サンドラ、レイ、マーティンの順に通りに出た。

通りを街の外の方に歩いて行くと、十数台の馬車が溜まっている広場があった。


「よー、サンドラにマーティン!あと、レイだったな!」

馬車の一団の一つから、男が出てきて声をかけた。

身長は百三十センチほど。しかし、筋骨隆々で緑のモヒカンにヒゲ面だ。声も野太い。

特徴的なのは、その鼻だ。かなりの大きさの鼻で、付け鼻だと言われても納得しそうだ。

早朝だが、その鼻先は赤い。

見れば片手には酒瓶が握られている。


「ギルモア! いくらドワーフだからって朝っぱらから酒は感心しないぞ」

「まぁそういうな」

酒臭い息を吐きながら、ギルモアと呼ばれた男はサンドラの前に立った。

「ドワーフにとっちゃ、これくらいの酒なんて事は無いし、それに今日は御者じゃ無いからな」

「御者を雇ったの?」

「あぁ、御者の他に護衛も雇ってるぞ」

「すごいねぇ」

「あぁ、今回はちょっと荷物が多くてな」

「そうなんだ。んじゃ、レイ、ご挨拶しなさい」

サンドラに促されて、レイは前に出る。


「ギルモアおじさんおはようございます!」

「おぉ、良い挨拶だ」

ギルモアは同じくらいの背丈のレイの頭をわしわしとなでる。

「荷物はそれだけか?」

「はい」

レイは体に似合わぬ大きなバッグを二つ持っていた。冒険者で無いレイは、亜空間バッグを使えない。

「よし、じゃぁ行くか」

「分かりました。パパママ、行ってきます!」

レイは振り返り、マーティンとサンドラに挨拶した。

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「修行頑張れよ」

「はい! パパママも早く帰ってきてね!」


マーティンとサンドラと別れたレイとギルモアは、溜まってる馬車の所に近づいた。

二頭立ての馬車が一台待っていた。

馬車の前には身長二メートルほどのハゲの大男が立っていた。

部分部分を金属の鎧で覆った、いかにも戦士と言った風貌だ。

「レイ、今回の商隊だ。こっちが護衛隊長のゴングだ。ゴング! このちっこいのが話してたレイだ」

「レイ・ランドールです! よろしくお願いします!」

レイは威圧感たっぷりのゴングにも元気に挨拶する。

「……ゴングだ。坊主、元気だな」

「ありがとうございます!」

「ま、馬車の中では大人しくしてればそれでいい」

仏頂面のまま、ゴングは馬車の様子を見に行った。ゴングの周りに他に三名ほど武装した男女が居る。今回の護衛のようだ。

馬車の御者台に居たひょろっとした若い男が、御者台を降りてギルモアに近づいてきた。

「あ、おやっさん。この子がレイ君ですか?」

「あぁそうだ。レイ、この頼りないニキビ面がヨハン。一応弟子だな」

「一応ってひどいっすよ、おやっさん。レイ君よろしくな」

「レイ・ランドールです! ヨハンさんよろしくお願いします!」

「うんうん。じゃぁそろそろ出発するから、レイ君は前の馬車に乗ってくれ。おやっさん良いですかね?」

「よし、じゃぁ出発だ」


荷台には様々な箱が積まれていた。箱の他には冒険者の荷物やテントなども有る。

その隙間に入り込むようにレイは座った。ギルモアは、御者台のすぐ後ろに座り込んだ。

ヨハンは御者台。冒険者達は荷台に乗らず周辺を歩いて行くようだ。


街の出口では簡単な検問があったが、馬車は止められもせず出て行く。

街の外に出ると、風景が変わる。

レイの旅が始まった。

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