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うめく男 

 横浜、磯子の閑静な住宅街。深夜、人の通りも絶えた道路は静寂に包まれ街灯の光が白く道路を照らしている。穏やかな上り坂の終わりの角にある洋風建築の大きな邸宅は近隣の家と同様、暗く沈み、寝静まっているように見えた。だが、二階の南端の窓から漏れる光が、仄かに庭の芝を緑に色付けしている。

 二階の一室で、大きな男が大きな手で大きな字で、何やら文章を書いている。

〔屈辱の記憶よ甦れ 正義面した偽善者ども 許さん お前達の腐った心根をさらけ出してくれる〕

 男は書いた言葉をうめくように、つぶやいていた。

 十二年前のある日、男は耐え難い屈辱に憤り、そして日常が一変した無念を味わった。

 昨日、自分に屈辱を与えた者達の同窓会が開催されると聞き、笑顔で写る写真を見た時の、心の奥底から湧き出て来るような感情の奔流に男は驚いた。

 歳月の経過が風化させたと思っていた屈辱感は、実際には風化してはいなかった。その時の感情が脳の深部にそのまま冷凍保存され、同窓会の情報がきっかけとなり瞬間解凍されたかのように、全身の血液が沸騰するほどの、屈辱、無念、怒りの感情が、噴出したのだ。

 男は十二年前の感情に支配されていた。だが、感情に持久力がない。今の感情を持続させる為、文章に書き、声にした。そして、切れ長の眼を吊り上げ、虚空に向かい、声を絞り出すように、さらにつぶやいた。

(お前ら、待ってろよ)


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