表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

赤色(才サイ)

しかし少年の声が恵司の意識を完全に実世界へ浮上させる、ということはなかった。厳しい冬の為に二重となった窓越しに、何か叫ばれたところで内容が正確に聞き取れるわけもない。それと同じだった。少しでも恵司の視界に引っ掛かっただけ幸運であろう。

それは誰にとっての幸いなのか。少なくとも恵司にとってではない。

恍惚としている恵司には認識されていなかったが、どうやら浩一はモグラと呼ばれる少年が、如何にして地面と接触しているのかを知らないようだった。だが本来なら現時点、現状況下に置いて最も頼りになり、また彼らが頼るべきである対象が不審な体勢でいれば、少しでもまともな神経を有する人間なら誰しも似通った行動に出るだろう。恵司はモグラ少年の傍にいるのだから、尚更だ。

「おい!」

他の仲間達が大人を連れてくることも、救急車が近づいてくる気配もない。しかしモグラは鉄錆びた臭いを発する液体をとめどなく溢れさせている。それらによって焦燥に駆られたのだろうが、単なる繰り返された面白味の著しく欠ける言葉だけでは、恵司に伝わりなどしない。ただの高低差の少ない音の集合。それ以上でもそれ以下でもなかった。

「おいって言ってんだろ!」

レスポンスのなさが却って焦りを増幅させたのか、浩一は誰が見ても怒りという感情を持ち合わせているに違いない、そんな所作で恵司の頭と対峙する場所に大股で移動する。

頭上に陰が出来たのに気付き、ぼんやりと視線を上げた。方角の関係で少年の姿が逆光となっていた。

抱いていた至福の一切合財が、急速に体から離れていくのを強い実感を持って感じていった。フラスコ内に閉じ込められ、中の整水に吸収されていくアンモニアも己と同じなのであろうか。ふとくだらない、そして意味のない疑問が首をもたげた。

遠くからようやく救急車のサイレンが鳴り始めた。音の不快感に顔を顰める。

「浩一、そんなところで何してるんだ?」

若い男性の、澱みのない明るさを含んだ声色であった。それは夏の風鈴が、体にべたべたと付き纏う熱気を、僅かな間でも浄化させていくのとどこか似通っている気がした。

九時の方向に首を傾けると、スーパーの袋を提げた男がのんびりと近づいてきていた。

「せんせい!! モグラが!!」

ようやっとこの異常さに気づいたのか、まだ薄ぼんやりとしている恵司にでさえも判断がつくほどの鮮やかさでもって事態を収拾していった。モグラ少年に駆け寄り、怪我を診断、到着した救急隊員に伝え、興奮状態の浩一に付き添うよう指示。後は救急車を見送る。

「さて」

男は両手をジーパンに突っ込んだ姿でくるりと反転し、こちらへと意識を戻す。徐々に回復した理性によって恵司は立ち上がっていた。

無機物への観察とばかりに頭からつま先まで一瞥をくれ、下半身に目をとめると、その男は右手の親指で背後を示す動作をした。

「まあ、ウチに来いよ」



>>>

特に否定も肯定もないままにふらふらとついていくと『山田内科』という看板が掲げられた建物へと到着した。

「まさか掘られるとでも思ったか? 存外失礼な奴だな」

言葉と裏腹に楽しそうな笑みを浮かべながら黒縁のメガネをそっと上げていた。猫のような軽やかさを持った話し方をする男だと、恵司は特徴をまた一つ拾う。

扉の鍵を開け、取り付けられたベルを鳴らしながら二人で足を踏み込んだ。病院独特の、自然とは決して相容れないにおいが体に入ってくる。

「今日は午前診療だからもう閉めてるんだ。昼休憩がてら飲み物を買っていたところでね」

袋を上げて、中に入ったウーロン茶を見せる。共に家族用の固形ヨーグルトと牛乳も大人しく静かにペットボトルに寄り添っていた。どこか調和が取れていると感じるのは、彼らがお決まりのグループだからなのかもしれない。

そのまま奥へと進み、診療室で待つよう言いつけると、男はそのまま別の部屋へと行ってしまった。

夢心地からいい加減覚めてしまった恵司は、今の自身に対して疑問を投げかけた。さて、これからどうするのか、と。

何の答えも何の感慨も顔を出さなかった。

聴覚も眠りから覚めたようで、一定の音を出し続けるポンプの存在に今更ながら認識した。部屋の脇に、大きめのノートパソコンくらいのこじんまりした大きさの水槽があった。外部接続の様々な機械からするに、熱帯魚らしい。

暖色での統一を図ったのか、橙、黄色の魚が大半を占めていた。だが恵司の注意を掴んだのは、彩度の頗る高い赤色の魚であった。両手の親指を合わせた程の小さな生命は、しかし世界に臆することなく優雅に、そして果敢に舞っていた。

それは新しい赤との邂逅であったのかもしれなかった。真由が営みの際に見せる唇の色とも、モグラ少年が流した額を染める色とも、明確に何かが異なっていた。

もしも世界がこの色で埋め尽くされているのなら。その思考はインモラルでも退廃でも狂気ともかけ離れた、想像であり、願いであり、渇望に他ならなかった。

だから男が戻ってきても、恵司は長い間そのことに気づく筈もなかった。



遅くなりました'`,、'`,、(´ω`) '`,、'`,、

文脈も伏線も全て丸投げです( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ