囚われの歌姫
あまり書いたことのない、ジャンルのものを書いてみました。
―誰でもいいから
どうか私をここから連れ出して
そんな思いを込めながら
私は今日も月を見上げ、歌を歌うの。
胸が張り裂けそうになる
外の世界への憧れは
日に日に増していくばかり
私の思いは
ちゃんと誰かに届いているのかしら?
この薄暗くて、カビ臭いこの部屋で
鎖に繋がれている無力な私の歌声を
聞いてくれている人はいるのかしら?
部屋の隅に置かれた
濁った水を飲み干して
窓からさす月明かりを
荒れてパサパサになった両手で包み込む。
手の中に確かに存在しているはずの
希望の光。
『大丈夫』
『諦めては駄目』
『しっかりするのよ』
そう自分に言いきかせて、手を胸の前で組んで
口を開いた。
―お願い。
もう強がるのも限界なの。
本当は泣きたくなる気持ちを
必死に堪えているだけなの。
今、少しでも気を抜いたら
まるで小さな子供のように
大声で泣きじゃくってしまいそう。
だからお願い。
誰でもいいから
この歌が少しでも心に響いたのなら
私を迎えに来て。
籠にとらわれて
身動きの取れない無力な私に
どうか救いの手を差し伸べて。
祈るような思いで
ふと顔を上げたとき
確かに窓の外に
月明かりに照らされた
人影を見たような気がした。
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