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眠り王子  作者:
謁見
6/12

王子。⑥



そろそろ、始業のチャイムが鳴る。

未だに他人(ひと)の席でわいわいと騒ぐ梨絵に、席に戻りなさいと口を開きかけた瞬間、見慣れた影が教室の外の廊下を通り過ぎるのを見た。


揺れる逆毛の立てられた黒髪、歩くときのポケットに手を突っ込むくせ。

大好きだったあの目。




「…!」




その瞬間、ドクンと心臓が鳴って動悸へと変わる。

悪いことをした訳じゃない。

ただ、二人が互いに愛情から覚めて離れただけ。


でも、後ろめたいのは何故だろう。

―――まだ、好き?









「ちょ、麻未!?」




気がつくと、廊下に出ていた。

気付かず隣の教室へ入っていく彼氏を見送っていた。


今更、声を掛けることも出来ないというのに。

何やっているんだと麻未は、少し考えて踵を返した。


彼氏を見たからか、少し魔が差したのか……。

今日は授業を受ける気にならなかった。


ただ、少し日常から離れた場所に行きたくなった。

彼氏の事を忘れられる場所に。














気付けば屋上の前に来ていた。

人気のない階段を登り、埃の溜まった踊り場を過ぎたその向こうの扉。


その扉は施錠された様子はなく、麻未の入学した日には確かにあった鎖もなくなっていた。


だが、それはむしろ今の麻未には好都合で。

勢い良く重たい扉を開いて、目の前の手摺まで一直線に駆け出した。






「……まだ、好きなの…?」






自問自答。

自分にしか答えられない問いを、青い空に投げかけてみたが当然帰っては来ない。


空を睨み付け、手摺に足を掛けると謎の浮遊感に囚われた。

このまま力を抜けば、私は世界と無関係になれる。


―――彼氏の事なんて一生思い出せない場所に、逝くことが出来る。









「…自殺するなら他のとこでやってくんない?」





異世界への希望を見出だそうとしたとき、背後からふんわりとした柔らかい声が聞こえてきた。



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