王子。④
麻未達の通う銀嶺高等学校は平凡な団地を見下ろすような高台にあり、たくさんの生徒たちが通っている。
その生徒たちも様々で、テンプレート的なギャルもいれば良くありがちな暗い性格の生徒もいて、まあ、平たく言ってしまえばどこにでもある学校だ。
登校風景もいつものもので、普段町でなら絶対に混じらない様な人種が同じ道を歩き、同じ場所を目指しているという光景にもなれた。
登校初日から三年も通っていれば、流石に慣れるだろう。
それに、上級生から見た下級生は何処と無く幼く、可愛いものに見える。
ジャラジャラとぶら下げたシルバーアクセサリーも、同じシルバーが何個も光るピアスも、全て背伸びしている子供のように見えて、麻未は大して怯えたりすることもなくなった。
「ったく、あんな格好してるくせに真面目に学校来る辺りが変だよなー。」
「裕貴も似たような物じゃない。」
「俺はお洒落に気を配ってるだけだし!」
裕貴は元々そういうのには興味がないようだが。
――…
「じゃーな、授業受けろよ。」
「はいはい。」
やがて二年の教室のある棟が見えてきて、裕貴は大勢の登校中の生徒から抜けていく。
それを追いかけ、肩をがしりと組む生徒が三人続いて、そのまま棟へと入っていった。
意外な弟の人気ぶりに少し驚いた。
というのも、いつもは二人で登校はせずに裕貴は一人、もしくは気まぐれに友達を引っ掻けて、そして麻未は彼氏と登校していたのだから。
朝に携帯を離さず、彼氏が家を出たタイミングで合わせて家を出ていく姉が、今日は最後まで自分のおしゃべりに付き合ったことに全てを悟ったのだろうか。
見えない弟の優しさに、また弟を誇りに思う。
「いや、思い過ごしか。」
少し考えて、答えは絶対に帰ってこない質問なのだから、と自分の中で無理矢理結論付けてから麻未は自分の教室のある、三年の棟へと歩を進めた。