王子。③
「パンで良い?」
「うん!」
にこっと笑う顔は裕貴の良いところだ。
小学生の頃からこの笑い方で、周りの雰囲気を良く変えてくれる。
だからこそ、今少女は裕貴の朝食を何だかんだと文句を言いながらも用意してしまうわけなのだが。
この光景は少女、如月 麻未の日常の始まりなのだから今更咎めることも、抗うことも特別しなかった。
「そんなんじゃ彼女出来ても長続きしないよ。」
「姉貴よりは上手くやるよ。」
いつもの小競り合いも少し心に刺さる。
優しいこの子なら上手くやるだろう、麻未は心のなかでは賛同しながらも「調子良いこと言って」と意地悪を言ってみる。
そうこうしている内に、時間は刻一刻と時を刻んでおり。
二人は会話もそこそこに各々学校の準備を始めた。
麻未は薄いメイクをして制服に着替え、髪を梳かして後ろで緩く結ぶ。
裕貴はご自慢の黒髪をセットし、私服登校のOKな緩い校則に甘えて着崩したラフな服へと着替えた。
「その格好、みっともないよ。」
「校則破らなきゃなんでも良いんだよ。」
「不良め。」
「授業態度は真面目だし。」
「…。」
また麻未は心に何か刺さったのを感じつつ、大して真面目に受ける気も起きない学校へ裕貴と共に登校した。