王子。②
「…ん。」
気がつくと少女はベッドに伏せ、朝を迎えていて。
窓の外から聞こえる鳥の声が嫌にそれを主張していた。
「…。」
その窓を見て、少女は少し眉間にシワを寄せる。
それを隠すような茶色の髪には天使の輪が見えた。
肩を通り過ぎる程にまでにあるそれを、一撫ですると少女は立ち上がり、携帯を拾い上げる。
液晶画面には【元】彼氏の名前が出たままだったが、連絡を絶ったというのに相手からのメールや着信、そして無料通信アプリのメッセージに至るまで返信はなかった。
―――それだけの関係だったんだな、と純粋に恋愛を楽しんでいた自分への自嘲の笑みが溢れた。
「姉貴ー!飯ー!」
「はーい。」
朝の静けさを割くように自宅の一階から声がする。
無邪気なその声は少女の弟のもので。
父親一人の手で育てられた少女は、仕事に忙しい父のために家事をこなし、弟の世話までして時間を過ごしていた。
そのお陰で小学生の頃から料理も洗濯も出来たし、知識もたくさん持っていてよく周りからは「凄いね!」何て、賛辞の声を浴びたものだ。
だけど、それは所詮【小学生】の頃の話で。
「裕貴、貴方ももう良い年なんだから朝御飯ぐらい自分で用意して。」
高校二年の弟、裕貴にはそう言いつつも少女は通学鞄を持って裕貴の待つ階下に降りた。