表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠り王子  作者:
謁見
12/12

眠りの国。④



「僕、ここで眠るのが好きなんだ。」


「そう、なの?」




ごろんと寝転がり、【王子】は目を閉じる。

長いまつげが少しぴくりと動いて、麻未の目を引き付けた。




「ここは滅多に誰も来ないから。

来ても、此処じゃ気付かれない。

だから……。」




まつけがふわりと浮いて、優しげな目が姿を表す。




「内緒話、しても誰も気づかないよ。」





その言葉は魔法のようで。

麻未は【王子】から目を逸らし、似ても似つかぬ【元】彼氏の事を思い出した。


拓真…。








――…




江島(えじま) 拓真(たくま)

その男は真美にとっては知らなくて当然の男だった。

三年間、一度もクラスが一緒になったこともなく、友達をどう辿ってもたどり着かない存在。


そんな二人が何故付き合ったのかというと、単純に言えば【拓真のノリ】なのだろう。


ある日、ふらりと現れては連絡先の交換を手慣れた手つきでされて、毎日連絡を取りあい、遊んでいる内に…。


今考えると、飛んでもなく馬鹿げた恋愛の始まりで、夢見た物とは程遠い。

それでも、恋愛を楽しもうと拓真に着いていったが、趣味も何も合わない二人はいつしか離れるようになって、登下校中も話すことは大して無かった。





「何で好きなの?」


「…。」


「何処が、好きなの?」


「…。」


「…聞いてる?」


「うん。」





何処が好き、そう聞かれると困る。

麻未の中では【他人に迷惑をかけてはいけない】という基盤の常識のような物と【自分は拓真が好きである】という気持ちが同じところにあるからだ。


つまり、麻未の中で拓真という存在は大事でありながら、半ば風景と同じく接触せずとも見えれば良いものでもあった。





「…それ、好きじゃないよ。」





一刀両断され、麻未はまた視線を下に向ける。

でもね、拓真はそれでも構ってくれたんだよ。

私が寂しいとき、ずっと構ってくれてたんだよ。





「暇だったからじゃない?

……ね、彼女は飾り物じゃないんだよ。」


「飾り、もの。」


「そう。

いて当たり前、とか気まぐれで引っ付かんで良いものじゃないんだよ。」





【王子】はそれ以上言わなかった。

彼氏、彼女という飾り。


真美と拓真はお互いにそう思って生きてきたのかもしれない。

男も女も恋人が出来れば、少なからず自分に自信が持てる。

……全ては子供のような思考回路が生んだ、結末のわかりきった恋愛だったのだ。




それでも、飾りだとしても。

心に穴は空いたのは事実で。


麻未は熱くなった目頭を抑えて、歯を食い縛った。





「……。」






【王子】は無防備になったその頭に手を置いて、泣き顔が見えないようにと自分の肩に抱き寄せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ