眠りの国。③
そこは少しばかり高いこともあって、一瞬恐怖を感じたが少しすると慣れて、風が気持ち良く通り抜けた。
「此処に座るとね、校庭の殆どが見えるんだ。」
「…ほんとだ。」
そこは下界を見下ろす天国のようで。
先程、麻未が拓真と立ち止まった場所もしっかりと見えた。
だが、米粒な生徒たちの中で良く自分を見つけたなとそこで気づく。
素直に聞いてみよう、と麻未が隣を見るとこちらを向いていた【王子】とばちりと目があった。
「あ。」
思わず声が漏れる。
その様子に【王子】は無表情で口を開いた。
「……間抜け?」
「はっ!?」
「顔が。」
まともに顔を見たと思えば、するりと悪口。
麻未はむっとして、【王子】の頬をつまんだ。
人間とは離れたような存在を自分の存在で汚してしまったような、少し嫌な気がしたが大人しく頬を差し出す【王子】を見て、くすりと小さく笑みを浮かべる。
「その顔も間抜けだよ。」
「……ひゃえへ。」
「んん?」
その時、一瞬甘い香りがした。
砂糖のようなキャラメルのような、メープルシロップのような。
そして、麻未は【王子】に両手を握られていた事に気づく。
その瞬間、頭の中を熱が突き上げた。
自分からさわるのは良いのに、【王子】からこちらへ触れられるのは意外だったのだ。
「なに、その顔。」
「っ、…っえ?」
「赤いよ、顔。」
「わ、あ、あの…ご、ごめん…。」
慌てて赤くなっていると指摘された顔を伏せると、頭上から【王子】の笑いが聞こえてきた。
「嘘だよ。」
子供っぽく笑みを浮かべた【王子】は、そう言って手を離した。
少し名残惜しい、と感じたのは錯覚だったのか。
麻未は遠慮がちに【王子】を見て、愛想笑いを返した。
麻未は気づかなかったが、もうそれほど【王子】への緊張はなくなっていた。