眠りの国。②
「誰、お前?」
拓真の眉間にシワが寄る。
隠そうともしないその嫌悪感を物ともせず、【王子】はうーんと小さく唸った。
「授業を一緒にサボった悪友、かなあ。
……君は?」
弧を描いた口許。
その表情は私が受け取った嫌みを言ったときと、同じ顔で。
拓真は眉間のシワを深く刻み直した。
だが、その問いには答えず麻未の隣を通り過ぎる。
「拓真…!」
そのまま校門を出ていってしまった。
【王子】はくすりと子供のように意地悪に笑って、麻未に向き直る。
「余計なことしちゃった?
……まあ、僕には関係ないか。」
「…。」
「話、聞いてあげるよ。」
【王子】の誘いに麻未は俯き、やがて小さく頷いた。
【王子】が来た場所は朝に会った屋上。
彼はどうやら此処をテリトリーにしているらしく、自宅に招くように扉を開けて麻未を待っていた。
「はい、どうぞ。」
「あ、りがとう…。」
その不思議な待遇にまた戸惑う。
そして、また麻未は不思議な空間に足を踏み入れたのだ。
……とは言っても、何処でも連れていってくれるドアではなく、ただの扉なので出た先は解放感の広がる高台でしかないのだが。
目の前の手摺にまた手を伸ばした麻未を、後ろから【王子】が引っ張る。
その力の強さに【男性】というのを意識した。
とっさに身体が強張る。
「そこじゃなくて、こっち。」
だけど、振り向いた先にはやはり眠たそうな【王子】の表情があって、その手はすぐに離され先程潜り抜けてきた扉の隣の梯子へと掛けられた。
その上には貯水タンクが一つ居座り、その前へ足を投げ出して座った。
麻未にも来るように手招きする。
仕方ないなあ、と麻未も真似をして梯子を上った。