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前編

昔々あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。

山に囲まれた森の奥深くに住んでいるこの老夫婦は昔、王に献上するほどの団子を作るほどの和菓子職人でした。


老夫婦はその腕前の為に人との関係に思うところができて山奥に引きこもります。

人が嫌いになった訳ではないのですが少々煩わしさを覚え、年齢的にも先が長くないと悟った2人はその時の地位を捨てて山に篭ったのです。


ある日、老夫婦に悪い噂が届きました。


―鬼が集団で略奪を繰り返している


鬼という種族は姿が異形で力が強く人々から恐れられはしていますが、優しい心を持った種族のはず……

それに鬼は数自体が少なく上に群れること嫌い、集団で暮らしていることはありません。


「お爺さん、もし鬼達が徒党を組んだとしたら世が荒れるでしょうねぇ。」

「そうじゃのぅ…鬼も人も沢山死んでしまうじゃろう。」

「防ぎたいですね。」

「儂等のできることをやってみる事にしようか。」


お爺さんとお婆さんはそう話し合うと台所に向かい、団子を作り始めました。

お爺さんとお婆さんの得意料理である【きびだんご】です。


3日ほどかけてお爺さんとお婆さんは山のようなきびだんごを作りました。

それを風呂敷に包んで小分けにしていきます。

小分けにしたきびだんごを台車に詰め込んでお爺さんとお婆さんは馬に乗り台車を引っ張って行きます。


いざ鬼のもとへ


・・・


旅は順調そのものでした。

馬での移動はスムーズに進み、鬼が根城にしているという通称【鬼ヶ島】に無事にたどり着くことができました。

お爺さんとお婆さんはきびだんごを小舟に載せて鬼ヶ島へ向かいます。

鬼ヶ島は草一つない荒れ果てた小島でした。

地面も栄養があるとは思えない枯れ果てた土地…これでは作物は育たないだろうな、とお爺さんは思いました。


鬼達は奥にいるのか海岸付近には姿が見えません。

お爺さんとお婆さんはきびだんごの入った風呂敷を出来る限り背負うと鬼達がいるだろう屋敷に向かうことにしました。


島の中央にある一軒の屋敷はそこまで豪華というわけではありませんでしたが、かなり大きく、数十人が住むことができるであろう広さがありました。


お爺さんとお婆さんが屋敷に入ると鬼達が顔を出してきます。

あっという間にお爺さんとお婆さんは鬼達に囲まれてしまいました。


しかしお爺さんとお婆さんの顔に恐怖はありません。

背負っていたきびだんごを下ろすと鬼達の前に広げます。


「まぁ、食え。毒はない。」

「子供から順番にね。数はあるから慌てずに食べてちょうだい。」


お爺さんとお婆さんの言葉を聞いた鬼達は恐る恐るきびだんごを食べて、その味の虜になりました。

もっともっと、ときびだんごを食べていきます。

あっという間にきびだんごは無くなってしまいました。


「よう食ったのぅ。では鬼さんがた、何があったか教えてはくれまいか?」

「あなた達は悪い事を進んでする人達には見えないわ。何があったの?」


お爺さんとお婆さんの言葉に鬼達は悲しそうに話し始めました。



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