第四話 --- 魔の理論
炎の龍と氷の血球は互いに<ruby><rb>鬩ぎ合い</rb><rp>(</rp><rt>せめぎあい</rt><rp>)</rp></ruby>、犯し合い、互いの力を相殺する。
迸る力の奔流は圧倒的な風となり、周囲を一斉に押し流す。
術者もまた例外ではなく、術者の一人は風の塊に耐えきれずその場に倒れる。
いつしか治まる風。無風に戻ったときに立っていられたのはただ一人---瑠璃のみだった。
<em><strong>聖魔降臨</strong></em>
<em>第四話 --- 魔の理論</em>
場所は変わり如月学園。
「しっかしすごいねぇるーくん」
「マユの暴走をとめちゃうなんて思わなかったわ・・・」
そりゃうそだろーと周囲からヤジが飛ぶ。今来ている服の下には結構な量の湿布や絆創膏があるために苦笑いしかできない。何よりもその怪我が証拠になってしまうから。
「で、今回の暴走ってどんなんだったんだ?」
会話が止まる。
それも仕方ないかもしれない。むやみに詳細を答えればそれは自分に飛び火しかねないからだ。
もっとも、聞きたい内容は原因ではなく、経過の方にあるのはよく分かっているのだが。
「今回は魔炎龍だったわね・・・」
ウソ、とやはり沈黙が訪れる。
魔炎龍。敵対する相手を滅ぼし、<ruby><rb>燃</rb><rp>(</rp><rt>ほろ</rt><rp>)</rp></ruby>ぼし、跡形すら残さない。
周囲に対する被害もまた大きく、土すらも炭化するとは術者自身の経験から言われている。
それほどの獣魔の被害---周囲の木々を炭化させる程度に抑え、炎龍を無力化したなどと誰が信じられようか。
もっとも、その獣魔を呼び出したということすらも信じられないだろうが。
「やっぱり<ruby><rb>地精集気蟲</rb><rp>(</rp><rt>テイチンチイチイチョン</rt><rp>)</rp></ruby>の存在は大きいわね」
地精集気蟲。獣魔術の餌となる精を集めるための獣魔なのだが。
ヒトが持つ精では獣魔を育てることしかできないため、大抵の魔術者がこの蟲を身体に纏わせる。
稀に、無限に精を持つヒトもいるが、そんなヒトを探す方が難しい。人外ならば多数いるが。
ともあれ。
マユの暴走を留めた---もとい、魔炎龍を押さえ込んだというニュースはとてつもない早さで学園内を巡り巡った。
その要素たる人物---瑠璃を一目見ようと、中等部は前例のない混雑におそわれる。中等部教育課が閉鎖措置をとるほどまでに。
それから数日、中等部教員は全力で閉鎖措置を守りきった。騒ぎの中心である瑠璃は登校すらしていなかったも騒ぎを長引かせるのに一役買っていた。
<em>4th Story</em>
<em>Magicial Method</em>
『瑠璃さまー 学校はー?』
「面倒だからいかない」
水晶球を手に瑠璃は答える。その水晶球には混雑を極めた中等部が映っていた。一般に占と呼ぶものだが、これも列記とした魔法の一つである。
「とりあえず卒業さえできればいいの。
それにこんな騒ぎになってるならなおさら面倒」
自分が行くともっと酷くなるかと思って、ぐらいの言い訳しておけばいいかな。
そんなことを考える。
『じゃ、瑠璃さま今日ひまなんだー?』
「今日、だけじゃなさそうだけどね」
『んと、んと、あのね 女王様が瑠璃さま呼んでたよ?』
ちなみに先程から語りかけているのはピクシー---妖精の一種である。
「遠いなぁ」
ただ一言を返し苦笑する。
「しばらく熱が冷めるぐらいまでお邪魔させてもらいますか」
『わーい瑠璃さまがあそびにーーー』
言葉が言い終わらないうちにピクシーの姿がかき消える。妖精界に帰ったのだろう。
ふう、と軽くため息をついて、住人たちに伝言を残すため机に向かった。
「なんですってーっ!」
リビングで見つけた手紙を渡されてからの第一声がこれだった。
[旅行に行きます
To:マユ
感情の制御ぐらい理解しれ
魔力は高ぶる感情を冷たい理性で抑え
魂と共に精錬、精製するもの
って言葉だけじゃわかんないだろうから
帰ったら特別メニューね
瑠璃]
最初にこれを手に取ったのはマユではなくレイだったのだが。
「私が居ない間に・・・マユってば抜けがけっ?!」
手紙を読んだ際の第一反応がコレだったりする。
どこをどう読んだらそういう解釈ができるのか。
そんな疑問を住人全員が思う。
「くそぅっ! あんなヤツの指導なんて受けるものですかっ!
土爪! その紙切り裂いて!」
呼ばれた獣魔---三つ足の爪の獣はテーブルごと手紙を切り裂いた。
(威力が弱まっている・・・?)
千尋は思う。
以前見せられた土爪はもっと巨大だったような気がする。
それともこの感情を揺さぶるために手紙を残したというのだろうか。そこまで読んでいたとも。
裏がある。
そう考えても何ら答えはでない。
(今は流れに任せるべきか。)
敢えて何かを口にするわけでもなく、そっと一人リビングを辞した。
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第四話 了
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ようやく4話完成です。
とはいえ、今の時点(2006/01/05)ですでに6話まで掲載してありますケド(苦笑
そろそろ難産気味にはいってきました・・・