第二話 --- イベント=フラグ成立?
そもそもの興りは明治時代にまでさかのぼるという。
もともとは小さな宿として存在した。名産というものもないためそんなに賑わうほどのモノでもなく、温泉目当ての客が集まることもない。単に急な寝床を提供する、それだけの宿場だ。
とはいえ、破産するほどに経営悪化はしておらず、格安な値段というのもあってとりあえずは生き延びていられた、というところだろうか。
「それで、これをどうしろと」
彼がそうぼやくのも仕方がないのかもしれない。
目の前にあるのは宿として賑わった建物・・・ではなく、その真ん中に大きな柳の木が貫通しているからだ。その丈は2階建ての建物の3倍を軽く上回っている。---もっとも、その珍しい風貌のため、利用客が増えたのもまた事実なのだが。
「これが、寮ねぇ・・・」
あまりに増えすぎた利用客。それに対処できるほどこの店は大きくなかった。それまで必要なかった予約が殺到し、閉館間際には3年先以上の予約まであったとされる。
その原因を作ったのが一組の老夫婦だというが・・・それは明らかにされていない。
「とりあえずは、ここの立て直しかな・・・」
そういうと彼はしゃがみ込み、地面をコンコンと、扉を開くときのように叩く。
「いるかい? お願いがあるんだけど、いいかな」
聖魔降臨
第二話 --- イベント=フラグ成立?
ぼーぜん。
そんな言葉がお似合いだろう。二人の女子学生が建物を見上げる。
「・・・えっと、ここで間違いないよね」
「・・・他のトコに来た覚えはないよ」
つまり、"間違いなく自分が住んでいる寮に帰ってきた"となる。
驚くのも無理がない。朝出てきたときの寮は確かに木造だったのだ。かなり古い。
しかし今は同じ木造でも、木目が綺麗に見えるほどの新しい造りとなっている---もちろん、シンボルの柳はそのままに。
「ねえ、マユ・・・絶対違うって」
「そういってもね・・・。道間違えてないモノ」
「絶対違う。私は帰るよっ」
「ちょ、帰るってどこによレイ」
「何処も何も、私の寮へよ!」
言うだけ言って後ろに向かって走り出す。
「レイったら・・・」
マユと呼ばれる少女は仕方なく、新しくなった(?)寮へと足を伸ばす。
その数十分前。
「まぁこんなものか。ごくろうさま」
「瑠璃様のお願いですモノ。お聞きしないわけにはいきませんわ」
「そうですぜ。ワシらのささやかなプレゼントってことでうけとってくだせぇ」
「うん、そうするよ。ありがとノーム、ドリアード」
そういって手を振る。ドリアードの姿---小さな人型の木---とノーム---大きい鼻をのぞけば小柄な人といったところか---の姿がかき消える。彼らの世界、精霊界へと帰ったのだ。
「さって、新しくなった温泉にでもいきますか」
2nd story
Relation Flag Consisted of Confused Event
「おっふろ〜おっふろ〜♪」
一通り建物---寮を見て回ったマユは温泉に向かう。
ほぼすべての部屋が、面影は残すモノの新品同然に新しくなっているのを確認したのだ。となると温泉すら新しくなっている可能性が高い、と踏んだのだろう。
その手にもつ着替えやタオル等、ワンセットと共に浮かれ気分で向かっている。
------そもそもだれが改装したのかを考えずに。
彼女にしてみれば、全く姿の見えないオーナーがやったものだと勘違いしているのだろう。いくら優秀な業者とはいえ、半日足らずで全改装などできるはずもない。
が、新品同然になっていた部屋---と家具を見てすっかり浮かれてしまっていた。
「♪〜」
脱衣所---元は宿場なので台所やキッチンなどはそのままになっている---で服を脱ぎ、いざ風呂へ、とドアに手をかける直前だった。
がらがらがらがら
「・・・・・・ん?」
「・・・・・・」
沈黙。天使の通り道とはこのことをいうのだろうか。
一方の男性は風呂側に、一方の女性は脱衣所側に。磨りガラス1枚を隔てていたが、それもなくなった。当然二人は---ある程度タオルで隠れているものの、裸である。
二人ともこういう状況は初めてで、どう対応すればいいか分からない、らしい。
「・・・ん・・・」
女性が右手を挙げる。
「我が命に答え、彼の邪悪を滅ぼせっ Hurricaneっ!」
「のわっ?!」
ここに来て男の方も思考再開されたらしい。とっさにバックステップで距離を開け・・・ようとしたのだが、ぬれたタイルというのは意外に滑る。バックステップと同時に足が滑り・・・
「っっ!!」
頭を打って悶絶する。ここぞとばかりに女は逃走。
後に残された男は、しばらく悶えていた、という。
「ぜったい私は認めないからねっ!」
「まあマユもおちつきや。いいやないか裸ぐらい」
「よくない!」
もう一人の女性---サラという---がマユをなだめる。が、火に油を注ぐ結果となった。
「だって、なぁ?」
「そうだよマユ。寮が綺麗になったのもオーナーが変わったからでしょ?」
と、これは寮人の一人である千尋の言葉。
マユと同行していたはずのレイは今だに帰ってきていない。
「関係ないわっ アナタはさっさとでてって!」
「つったって、これはばっちゃんの命令だしなぁ。ん?」
ぴくっ
三者三様に顔が引きつったのは気のせいか。
「おばあさまって・・・阿左美様?」
「片割れは」
ひくっ
三者三様に顔が引きつる。
「ま、まぁ。阿左美様の命や言うなら聞かないわけにはいかんやろ」
「そうなんだけど・・・」
うーん、と悩み始める三人、いや二人か。
「私は賛成やで。居るか居ないかわからんようなオーナーよりはるーちゃんの方がよっぽどええわ」
(((るーちゃん?)))
誰も口には出さないが。
続いて千尋が口を出す。
「私は、どっちでもいいかな。瑠璃クンがオーナーになったからって特に変わることもないんでしょ」
「暇な時間はあるから料理ぐらいはするぞ?」
「モノによるけど、不味かったら今までみたいに私らがやればいいだけだしね。
いいわ、私もどちらかといえば賛成」
「ちょっと千尋!」
「勘違いしないでマユ。管理人変更に賛成なの。瑠璃クンじゃなくてもある程度能力あるなら私は賛成よ」
残るは一人、いや二人か。マユとレイになるのだが。
瑠璃の考えではおそらくレイは問題ないとしている。---会ったことがないから、というのが理由らしい。
となればマユを攻略できればいいのだが、如何せん初印象が悪すぎた。もうこれ以上悪くなることもない、という安心感(?)が不用意な発言を産む。
「どっちかっていうと、俺は被害者なんだがな」
ギロッ
マユの目がつり上がる。
「被害者? どゆこっちゃ」
「んー、つまりだな」
「わわわ、まってまって」
慌てて口を閉ざさせるマユ。さすがに自分が侵入したとなると分が悪いと思ったのだろう。
「しょうがないわね・・・いーわ。さっきのことは不問にするから。」
「お、そっか」
「おーそれでこそマユや」
「大丈夫ですよ。明日になればキット忘れてますから」
ものすごい言われようである。
「んじゃま、これからよろしくな」
「「ようこそ 如月寮へ」」
「ほっほっほ。
あのマユ相手にあの道楽者もなかなかやるものじゃな」
後日、この事件を耳にした阿左美はこう呟いたとか。
ということで、聖魔2話です。
んー・・・第一部だけでかなり時間かかるなぁ・・・
まだまだつづきますよーっ
あ、あとHPの方にはキャラを交えた後書きなどあります。
そちらももしよければどうぞ、なのです。