機械音痴の初音がAIを使って小説を書きたいと言い出した話
「小説を書いてみようと思うの」
友達の初音が、唐突に言った。
私、知実と初音は大学の同級生。今は平日の昼間、天気がいいからとキャンパスの芝生の上に座って昼ご飯を食べているところだ。
「初音って小説を書く趣味があったの?」初めて聞く話だ。
「書いたことはないよ。でも、最近新しいことを始めてみようと思って。私、小説を読むのは好きなの」
初音がネット小説をよく読むということは知っている。小説をほとんど読まない知実が知らないだけで、小説を読む人間は簡単に小説を書くこともできるのだろうか。
「小説っていきなり書けるものなの?」
「わからないけど、とりあえずAIに書いてもらおうと思うの」初音はそう言って端末を取り出した。「ね、知実はスマホ得意でしょ?使い方教えて?」
そういうことね。初音は最新のスマホを持っているけれど、苦手なのか覚える気がないのか、使い方がわからないと言ってよく知実に聞いてくる。この間機種変更した時も、自分でできなくて知実に泣きついてきた。
「アプリは入ってるの?」知実は聞いてからパンを一口かじった。
初音は端末を操作して、アプリを開いた画面を見せてくる。見覚えのある画面が出てきた。
「チャッピーね」
「うん、前に知実に聞いて入れたのだよ」
そうだったっけ。知実は覚えていないけれど、初音がそういうならそうなんだろう。
「質問してくださいっていうウィンドウに、小説を書いてって入れてみたらいいんじゃない?」
知実はAIは授業のレポートを書くときに調べ物をするのに使ったりしている。小説を書いたことはないので、どんな文章が出力されるのか少し興味が出てきた。
「面白い小説を書いて…っと」
初音はスマホの画面をタップした。
一体どんな小説が出来上がるんだろう、と知実も画面をのぞき込むと、初音が一緒に見られるように端末の角度を変えてくれた。
画面にはこう書かれていた。
じゃあ、ちょっと不思議でワクワクする短編を書いてみるね。
**『昨日を売る店』**
商店街のはずれに、その店はあった。
看板にはこう書いてある。
「昨日、買い取ります。」
最初に見つけたのは、放課後に寄り道していた中学生のユウだった。
「昨日を…売る?」
思わず声に出すと、店のドアがひとりでに開いた。
中は古びた本屋みたいで、棚には何も並んでいない。ただ奥に、小さなカウンターがあって、白い手袋をした店主が座っていた。
「いらっしゃい。昨日、お持ちですか?」
「え、あの…どういう意味ですか?」
店主はにっこり笑った。
「あなたの“昨日”を買い取ります。いらない記憶、ありませんか?」
ユウは少し考えた。
昨日――部活でミスして、みんなに迷惑をかけた日だ。
「…それ、なくせるんですか?」
「はい。代わりに、対価をお渡しします。」
「いくらくらい?」
店主は電卓も使わずに答えた。
「あなたの場合は…3000円ほどですね。」
安いのか高いのかよく分からない。でも、あの嫌な記憶が消えるなら悪くない。
「じゃあ、お願いします。」
店主は小さな瓶を取り出した。
「目を閉じてください。」
言われた通りにすると、頭の中を誰かがそっと撫でるような感覚がした。次の瞬間――
「はい、完了です。」
ユウが目を開けると、瓶の中に淡く光る何かが入っていた。
「これがあなたの昨日です。」
ユウは首をかしげた。
「なんか…昨日のこと、思い出せない。」
「ええ、売却されましたから。」
店主は3000円を差し出した。
その帰り道、ユウは妙に軽い気持ちだった。
失敗した記憶もないし、嫌な気分もない。
だけど、次の日。
部活で同じミスをした。
「なんで同じとこでミスるんだよ!」
先輩に怒鳴られて、ユウは戸惑った。
(…これ、初めてじゃない?)
でも、周りの目は違った。
放課後、ユウはもう一度あの店へ向かった。
ドアを開けると、店主はいつも通り微笑んでいる。
「いらっしゃい。また昨日を?」
「…昨日を返してほしいんです。」
店主は少しだけ困った顔をした。
「申し訳ありません。一度売られた昨日は、基本的に再販となります。」
「再販?」
店主は棚の奥から、いくつもの瓶を取り出した。
どれも淡く光っている。
「あなたの昨日は、すでに別のお客様に人気でして。」
「えっ!?」
「“失敗の記憶”は、学びとして価値が高いのです。」
ユウは思わず言った。
「それ、いくらですか?」
店主はにこりと笑った。
「5000円になります。」
「高くなってるじゃん!」
「需要と供給です。」
ユウはしばらく悩んだあと、財布を見た。
3000円しかない。
「…足りない。」
店主は静かに言った。
「では、別の“昨日”を売っていただければ。」
ユウはふと考えた。
楽しかった昨日、嬉しかった昨日――それも売れるのか?
「それも…なくなるんですよね?」
「ええ、すべて。」
しばらくの沈黙。
やがてユウは首を振った。
「やめます。」
店主は少しだけ驚いた顔をした。
「ほう。」
「嫌なことも、ちゃんと覚えてないとダメだって分かりました。」
ユウはドアの方へ歩き出した。
「またミスしても、今度はちゃんと覚えておきます。」
店主は小さく微笑んだ。
「賢い選択です。」
店を出ると、看板はもうなかった。
まるで最初から存在しなかったみたいに。
でもユウの中には、確かに残っていた。
“昨日を売らなかった今日”が。
もしよければ、ジャンル(恋愛・ホラー・冒険・ミステリーなど)を教えてくれたら、もっと好みに合わせて書くよ。
「わぁ、ちゃんと小説になってる!面白いなぁ」初音がはしゃいでいる。
知実も意外に面白いと思った。ざっと読んだだけだけれど、話が破綻しているところもなかったように思う。
「ねぇ、もっと好みに合わせて書いてくれるんだって!どうやったらいいかな」
「そうだね」知実はなんとなく上を向いて考える。青い空に白い雲がふわふわと浮かんでいるのが目に入った。初音が好きそうな小説を出力するには……
「とりあえず言われた通りジャンルを指定してみよう。初音が好きなのは?」
「そうだね。この中だと恋愛かな。もちろんハッピーエンドで!」
「じゃあ恋愛とハッピーエンドって入れよう。うーん、あとはキャラクター?恋愛するには最低でも登場人物は2人必要じゃないかな」
「じゃあ、ヒーローとヒロインが出てくるのがいいかなぁ」
「登場人物をヒーローとヒロインで指定してみようか。年齢も指定するといいかもね。学生と社会人だとかなり違うと思うし」
「年齢は……とりあえず私と同じで二人とも20歳にしよう。そうなると、学生っていう指定も入れたほうがいいのかな?」
「そこは初音の好みで決めたらいいんじゃない?なにも指定しないと……そうだね、20歳だと学生同士だけじゃなくて社会人同士とか学生と社会人の組み合わせとか……そこらへんは書かなくてもAIが勝手に考えてくれるんだろうけど」
「なるほど。今回は指定してみる。大学生にしよう」
初音が書いた指示を見ると、
【ジャンルは恋愛でハッピーエンド。ヒーローとヒロインは二人とも20歳で大学生】
「うん。とりあえずだし、それで出力してみたら」
「よし!」初音はスマホの画面をタップした。
いいね、その条件で甘すぎず、でもちゃんと幸せになる恋愛短編を書いてみる。
---
**『君と選ぶ、普通の未来』**
春のキャンパスは、少し浮かれている。
満開の桜の下で、写真を撮る人たち。新しい友達を作ろうと声をかけ合う人たち。
その中で、ヒナは一人、ベンチに座っていた。
「……また失敗したなあ」
手元のスマホには、送信できなかったメッセージ。
――「今日、一緒に帰らない?」
たったそれだけが、どうしても送れない。
「隣、いい?」
不意に声がして、ヒナは顔を上げた。
そこにいたのは、同じ学部の男子――レンだった。
「あ、うん」
レンは軽く笑って、ヒナの隣に座る。
「また悩んでる顔してる」
「そんな分かりやすい?」
「うん、めちゃくちゃ」
ヒナは思わず苦笑した。
レンとは、入学式の日にたまたま隣に座ってから、なんとなく話すようになった。
特別仲がいいわけじゃない。でも、気づくとこうして隣にいる。
不思議な距離感だった。
「で、何の悩み?」
ヒナは少し迷ってから、スマホを見せた。
「これ、送りたいんだけど…送れなくて」
レンは画面をちらっと見て、すぐに目を逸らした。
「へえ」
それだけ言って、少し黙る。
「……なんか、感想それだけ?」
「いや、いいと思うよ」
「ほんとに?」
「うん。でも――」
レンは空を見上げた。
「それ、俺に送るつもりだった?」
ヒナの心臓が、ドクンと跳ねた。
「え…」
図星だった。
何も言えずにいると、レンは小さく笑った。
「やっぱりか」
「なんで分かるの?」
「だって最近、帰り道で毎回ちょっと待ってるだろ」
ヒナは顔が熱くなるのを感じた。
「バレてたんだ…」
「うん」
少しの沈黙。
風で桜の花びらが舞って、二人の間に落ちる。
「じゃあさ」
レンが言った。
「今、直接言ってみれば?」
ヒナは思わず目を見開いた。
「無理だよ!」
「なんで?」
「だって…変に思われたらどうしようとか…」
言いながら、自分でも情けなくなる。
でもレンは、真剣な顔でヒナを見た。
「変に思わないよ」
「なんで言い切れるの?」
レンは少しだけ息を吐いて、言った。
「俺も、同じこと思ってたから」
時間が止まったみたいだった。
「……え?」
「毎回、“今日こそ誘おう”って思って、結局言えなくて」
ヒナは何も言えなかった。
ただ、胸の奥がじんわり温かくなる。
「だからさ」
レンは少し照れたように笑った。
「どっちかが言わないと、ずっとこのままじゃん」
ヒナはぎゅっとスマホを握った。
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「……じゃあ、言うね」
「うん」
深呼吸ひとつ。
「今日、一緒に帰らない?」
言った瞬間、世界が静かになった気がした。
でも次の瞬間、レンはすぐに答えた。
「帰る」
あっさりと、でも嬉しそうに。
ヒナは思わず笑ってしまった。
「そんな即答?」
「むしろ、ずっと待ってたし」
二人は立ち上がる。
桜の下を、並んで歩き出す。
今までは少し遠かった距離が、ほんの少しだけ近くなる。
「ねえ」
ヒナが言う。
「これからも、こうやって一緒に帰っていい?」
レンは少し考えるふりをしてから、答えた。
「条件付きで」
「え、なにそれ」
「ちゃんと、毎回誘うこと」
ヒナは笑った。
「じゃあレンもね」
「分かった」
春の風が吹いて、また花びらが舞う。
特別なことは何もない。
でも、二人で選んだこの時間は、きっと少しずつ特別になっていく。
遠回りしてもいい。
ゆっくりでもいい。
――こうして一緒に帰る“普通の未来”を、二人は選んだ。
---
もっと甘めにしたり、告白シーンをドラマチックにしたりもできるよ。
「幼なじみ設定」や「すれ違い多め」とか、好みがあればそれに寄せて書くこともできる。
「さっきと全然違う小説が出来上がってる!おもしろいなぁ」初音は感心している。
「知ちゃん、ありがとう。使い方だいたい分かったみたい。これで好みの小説がたくさん読めそうだよ。またわからないことあったら教えてね」初音は嬉しそうにスマホを鞄に仕舞った。
「いいよ」
そろそろ午後の授業が始まる時間なので、2人はお弁当を片づけて立ち上がった。
翌日。二限目の授業で合った初音の元気がない。
「どうしたの」初音の顔を覗き込むと、ため息が返ってきた。
「私の考えが甘かったみたい」
「……何の話?」
「ほら、昨日小説を書いてみたでしょ、AIで」
「そうだね。好みの小説はいっぱい読めた?」
「それが、考えが甘かったの」
「どういうこと?」
「あのね……」
初音の話を要約すると、小説を自分で書いてみると言い出したのは、小説投稿サイトの小説を読んでいて物足りなさを感じたからだったらしい。例えば恋愛ものの作品は初音の感情が動かなかった。あらすじは面白そうなのに、ドキドキワクワクしなくて、淡々と物語が進んでいく。そんな作品を立て続けに読んで、消化不良だった初音は、「ないなら作ればいいじゃない」の精神で自分好みの小説を書いてみようと言い出したのだった。書いてみようと言っても、今まで小説なんか書いたことがなかったから、AIの力を借りようとAIで小説を出力してみた。そして実際にAIでできた小説をたくさん読んでみたら……
「おんなじだったの。小説投稿サイトの物足りないって思った小説とおんなじ。全然キュンキュンしない!」
「つまり、投稿されていた小説もAIで書かれてたってこと?」
「たぶんそう。どこかで見たような言い回しが多くて、読み味が似てるっていうか、なんか淡白で情熱を感じないっていうか。もう読むの疲れちゃったよ」初音は机に体を伏せてだらっとした姿勢になった。
読むのに疲れたなら読むのをやめればいいのに、と一瞬口から出かけたけれど、初音はよく字を読む子だから、やめるという選択肢はなさそうだ。調味料の成分表とかもよく読んでるし……。
どうしたら初音が楽しく投稿された小説を読めるんだろう。
「投稿する人はなんのためにAI小説を投稿してるの?ああいうのって自分が書いた作品を見てもらいたい人が投稿するものだと思ってたんだけど」
「ええ?なんでか?わからないよ」
「調べてみようか」
知実はスマホを取り出して検索してみる。
小説投稿で検索すると、関連ワードに小説投稿サイト 収入 というキーワードが出てきた。
「これかな」
「なに?」
「小説を書くと収入になるみたい。広告収入とかファンの投げ銭かな。初音が読んでるサイトは広告とかスパチャとかある?」
「あ!広告は出てくる!」
「じゃあ収入目的なのかもね。広告なら、たくさん表示されるとその分が収入になるはずだから、同じような作品ばかり投稿しても、ページを開いてもらえれば広告が表示されて儲かるってこと」
「えっ、楽しい小説をかけたから見て!じゃなくて、お金のためだけに投稿してるってことぉ?」初音はだらっとしていた上半身をがばっと起こして知実に顔を近づけてきた。
「初音、圧がすごいから……投稿してる人に聞いてみないとわからないけどね。そういう人もいるかもしれないってだけ。それに小説は職業にしてる人もいるんだし、お金のために小説を書くのは普通なんじゃない?」
「うー、お金のためでもなんでもいいけどさ……最初は面白いと思ったし。でも同じようなものばかりだと飽きちゃう。私は小説を楽しく読みたいんだよ。AIだからダメなんじゃなくて、私が読みたいのは作者の人の個性が爆発してるような作品なの」
「言いたいことはなんとなくわかった」
AIがダメなんじゃない。それは知実も同感だ。知実だって資料を理解したり、レポートを書いたりするのにAIの力を借りている。
読み味が同じなのだって、ちょっと読むだけの人なら十分満足できるのかもしれない。初音みたいに読みまくるから、同じような感じに思えてくるだけで。
それに、初音はスマホの扱いが得意ではないほうだ。上手に指示を出せる人ならもっと出力される小説も変わるのかもしれない。
それにAIはどんどん進化している。そのうち小説家のように面白い小説を書きだすかもしれない。現時点ではまだ、みたいだけれど。だから、とりあえずは初音が読みたくなるような小説を探すためにはAIで書かれていない小説を探すのがよさそうだ。
知実は手元のスマホに、「AI小説 見分け方」と入力した。すると、小説や記事が検索結果に出てきた。
「初音、これ見て」
「えーなになに」初音が私のスマホを覗き込んだ。
「初音と同じように思っている人がいろいろ書いているみたいだよ」
「おおー!見分けるコツがあるんだ!?」初音は目を輝かせている。
「私小説は興味ないけど、AIは興味あるから……一緒に勉強しよっか?」
「うん!する!」
そうして2人でスマホを覗き込んで、AI小説の見分け方の勉強を始めた。




