思ひ出は 君には一日 我には一生
私の「観覧車 回れよ回れ 思い出は」という作品を先に読んでもらった方が分かりやすい、かもしれません。
私が最初に書いた創作品なので、自分の中でも大切なこの二人の話を、よろしくお願いします。
楽しい時間はあっという間だと、分かっていたはずなのに。
俺は肝心なことを言い出せないまま、修学旅行も最終日となってしまった。
いつもの六人で遊園地をまわりながら俺は、どうにか二人きりになれるチャンスがないかずっと窺っていた。窺って、焦りだけがふつふつと募っていき、とうとう最終日の時間も終わりに近づいていた。
「すみませーん。乗っても大丈夫ですかー?」
俺たちが最後のアトラクションに選んだのは、この遊園地の目玉でもあった観覧車。着くと同時に、花菜がいつもどおり先陣を切って担当のおじさんに話しかけた。
おじさんは俺たちの姿を認めると、心苦しそうに言った。
「ごめんねぇ。今、コロナがいるでしょう。そのせいで一つのゴンドラに乗るのは二人までにしてもらっているんだよねぇ。ほんとごめんね」
「えぇー、みんなで乗れると思ってたのにー」
「ほんとにごめんねぇ」
チャンスだ。
他のみんなには申し訳ないがそう思った。
「仕方ない、二人づつわかれるか」
「じゃあ、いつもの」
いつもの、というのはジャンケンの応用で、グーとチョキとパーで六人を二人づつにわける方法だ。メンバーわけが必要な時はいつもこれをしてきた。
だから
あいつの出す手は分かっていた。
「グーチョキパーで、わっかれっましょ!」
一発で分かれたそこには、俺と同じ形の手がもう一つ。
「よろしくな、杏子」
俺はすぐに杏子の手を取って、乗り場に向かって一番最初に走り出す。
この顔を見られないように。
「もう修学旅行も終わりかー。楽しかったな、ほんとに楽しかった」
「そうだね」
「中学三年間、この六人で色んなことしたけど、全部いい思い出だ」
「私も」
「高校でバラバラになっても、絶対また遊ぼうな!」
「うん」
今にも弾け飛びそうな俺の心臓とは逆に、杏子はそっけない返事で沈んでいく夕日をただひたすらに眺めている。
きっと杏子の中でこの思い出は、一日経ったら忘れてしまうような、楽しかった修学旅行の中の一つのような。
そんな思い出なんだろう。
だけど
それでも
「なあ、杏子」
俺にとっては一生分のこの思い出を、思い出のままにしたくない
「どうした、楓くん」
夕日に照らされて薄く染まる頬を向けた彼女に、俺は、言う
「好きだ」
少し目を見開くと、彼女は顔を伏せる。夕日色の雫が数滴、きらりと光って、そして顔を上げた。
「私も、大好き」
その頬の、目の色はきっと、夕日だけのせいじゃないだろう。そしてきっと俺も、同じ色をしているのだろう。
ああ、観覧車。回れよ、回れ。
俺たちはその真っ赤な空に一番近いところで、優しく優しく、口付けを交わしたのだった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
あと楓と杏子にも、ありがとう。