第四話 レヴィの能力
その日の夕食は贅沢なものであった。大きな皿に料理が盛り付けられて、たくさんの皿が並べられていた。四人で食べるのには十分すぎる量であった。ただし、お残しは母の逆鱗に触れる行為なので父とレヴィは必死こいて口に食べ物を含みます。そんなことを知らないグレア先生は呑気に「おいし〜」なんて言いながらご飯を食べています。
その日の夜は、二人の男がソファーに寝そべっていた。
「そうだ、グレアちゃんは鉄道、乗った?」
「乗りました。今までも乗ったことはあったんですけど、ここの鉄道は他とは少し違ったでしょう?」
「はい、穀物の輸送用の車両があったのがびっくりしました」
「ここは農耕地だからね。土の街にもあるらしいんだけどね」
そうなんだよね。この世界には鉄道がある。産業革命期らしい蒸気機関の列車である。ただ、私はまだそれに乗ったことがない。短、中距離の移動であれば馬車で十分だからだ。だから、いつか旅に出る時が来たらそういう物に乗ることもあるかもしれない。
母はグレア先生と話しながら食器の片付けとお風呂を沸かす準備を始めていた。この世界に来て安心したのはお風呂という文化が存在したからだ。毎日湯を沸かすという常識があって本当に助かった。昔読んだファンタジー物語では水浴びしかしないなんてものもあったぐらいだからだ。
お風呂は小さい順に入らされた。多分、早く入って早く寝ろってことだろう。
翌日から正式な訓練が始まるからと頭を撫でられグレア先生はお風呂に入って行った。
翌日、先生は文字通り朝飯前から訓練を始めた。家の周りの走り込みである。なぜかを聞いてみれば魔法使いも常に同じ場所から攻撃をするわけではないから、体力も必要なんだよと言われた。前世のミリオタも狙撃兵に関してそんなことを言っていた気がする。
走り込みが終わると朝ごはんを食べた。その後の予定を聞けば、午前中は日課である剣術の訓練を続けるように言われた。八日道の訓練は午後から行うらしい。
父との訓練が終わり、昼食を食べると、ついに初めての八日道の訓練が始まった。
まず、先生は簡単な術を披露してくれた。
「炎弾の術、ファイア」
子供である私の拳程度の火球が一個作られた。
「これ以外にも属性ごとの弾が作れます。水だとウォルア、風だとウィズア、雷だとルトアみたいな感じですね」
そう言って、それぞれの属性の弾を作って披露してくれる。ただ、属性は八つあった気がするのだが。
「先生、属性は八つではなかったですか?」
「そう、八日道の属性は八つ。だけどそれらは正確には二種類に分けられます。火・水・風・雷の基本四属性と氷・土・花・音の副四属性です。さらに副属性には氷と土の合成属性と花と音の娯楽属性があります」
「娯楽属性とは何ですか?」
「人の愛でるという行為から生まれた属性です。そして、合成属性は基本属性を組み合わせて作られたものとされています」
先生の授業は座学が多めだ。それは先生が話し上手で言葉にするのが上手いということもあるが、何よりも私が知識という部分を欲しているからに他ならない。
「さて、今日の訓練は魔力を集めるというものです。今日から毎日やります。術を使えるのはもう少し先ですね」
「何でですか?」
使える物ならさっさと使ってみたいのだが。こういう発想はやはり子供っぽいのだろうか?
「すぐに術を使うのは難しいからと安全性の面からですね。確かに簡単な術ならすぐに使えます。でも結局、中級、上級と移っていく時に魔力が足りなくなります。そして、魔力暴走を起こす危険性もあるからです。術を起動中に暴走すると大爆発が起こります。小規模の術でもこの家は消し飛びます。だから、練習をきちんとする必要があるのです」
なるほど、確かに自分の手で実家を消し飛ばすのは良くないし、調子に乗ってから初歩的なことで蹴躓くのは私の性分じゃない。
「でも、魔力を集めるだけで暴走するのではないですか?」
「魔力だけの暴走では被害は生まれません。例えば水風船があるとします」
ふむふむ。
「その中身を火薬や毒物に変えるのが八日道の術だとすると、投げて破裂させれば被害が出ますね」
大変な惨事になる。そんなことをするわけにはいかないだろう。
「でも水風船を投げるだけ、それが暴走して破裂するだけだと、少し地面が濡れる程度で済みますね。最悪の場合でも滑って尻餅をつく程度で済むはずです」
「だから、魔力だけで訓練するんですね」
ちょっとわかりづらかったが理解できたので何も言うまい。
それから二週間毎日瞑想をする日々が続いた。その結果、日に日に先生の表情が悪くなっていく。正しく言い直せば恐ろしいものを見ると言う感じだ。
その原因は私の魔力の成長速度のようだ。先生は持っていた道具を使って、私に能力が備わっているのかを調べてくれた。まぁ私は転生者なのだからギフトを持っているのが正解なのだが、先生は私が持っている能力が「能力成長加速」と「無詠唱」と言うものであると教えてくれた。「なるほど、そうでしたか」と言って、何度も首を振っている。
どちらの能力もその名の通りのもので「能力成長加速」は成長スピード上昇すると言うもの。もう一つは「無詠唱で術が使える」と言うものであった。前者が私の魔力成長に影響を与えるようだった。