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彼女を殺す魔法  作者: 四季織姫
行く先拓くは幼き暁
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第一話 交通事故

 とある日本の某所。夜の闇がその街を包む頃、大きな交差点、その横断ほどの中央で一人の少女がその道を渡ろうとしている時だった。街灯が照らす暗闇の中から大きく眩い二つの閃光を放つものが彼女に近づいてきていた。彼女は驚きのあまり呆然としている。いよいよその二つの閃光は彼女の顔前にまで近づいてきており、その後に二つの閃光に紅が差し色として残された。


 トラックに撥ねられたはずの私の体はずいぶん長いこと空中を彷徨ったまま、地上に帰ってこない。それを自覚した時に自分は死んだのかと実感できた。死を認めた体はだんだんと冷えていきそのうちに地面ではなく温い水に沈んでいくように感じた。普通は火に沈むのではないかと思ったが、よくよく考えてみれば死んでなお意識があること自体がいささか不思議なことではあったのだ。そう思うと何事もどうでも良くなった。そして、そのまま意識を奪われ明確な死に至るのかと思っていると、

「あなたの体は死にましたが魂はまだ死んではいません。というより、死んではいけません」

 という、優しい声が耳元で囁かれた。

「ゆっくりと目を開いて。そうゆっくりとで大丈夫ですよ」

 その声に意識を委ねるように目を開く。さっきまで横になって沈んでいたような気がしていたがいつの間にか水底に立っていた。水の中のように感じていたのに目を開くことにも呼吸をすることにも抵抗がない。本当に地上に立って生きているような感覚だった。

 そんなことに意識を割かれ、目の前の女性に、いや少女に気づいたのは目を開けてからしばらく経った後であった。

 目の前の少女は語り出す。

「おはようございます。気分は、あまり良いものではないですよね?さっき死んだばかりなのですものね」

 その言葉に返事を返そうとする。が、声が出なかった。

「すみません、ここでは私からの干渉しかすることができないのです。よければ、返事は首の動きでお願いします。お試しです、先程の質問、気分は良いですか?」

 その言葉に私は首を縦にふる。

「あれ、意外と元気なんですね」

 彼女は微笑みを浮かべる。清楚な見た目の割にこういう時にも反応してくれるノリの良い人のようだ。彼女の微笑みに少し心がドキッとしてしまう。

「それでは説明に行きましょう。あなたはこれからとある異世界に行っていただきます。何故かって?たまたまちょうど良いタイミングであなたが亡くなられたからですよ。あはは。笑い事じゃないですね。嘘ですよ」

 私は首を縦に振る。いきなり現れた少女はなかなかにデリカシーがないようだった。

 彼女が指を鳴らすと、その場にテーブルと椅子が並べられる。彼女は手で座るように合図を出す。そのテーブルの上にはティーカップと透明なポット、その中に色彩豊かな紅茶が湯気をたてて小さく波打っていた。

 彼女はポットを手に取ってカップにお茶を入れる。声は出ないのに私はこれを飲めるのだろうか。

「お茶を飲むだけなら大丈夫ですよ。味がするかどうかは分かりませんが。あ、これは別に私のせいではないですよ。緊張から来るものだと思いますよ。紅茶はお飲みになられたんですか?」

 私は首を横に振る。日本の女子高生は普通紅茶を嗜まれるのだろうか?そんなことないですよね。

「あら、紅茶はお飲みにならないのですか?それなら慣れておいた方が良いでしょうね。向こうでは日常的に飲まれるものですから。そういえば、向こうの世界の話をしていませんでしたね」

 彼女のその言葉に私は首を縦に振る。

「そもそもの話、私は向こうの世界の神様と呼ばれる者です。悪い神様でそちらの世界の言い方だとアンノウンといえば良いでしょうか。正体不明の神様なんです。そして、向こうの世界は時代や文化で言えば、そちらの近代、産業革命期ですね。文化の四分の三は中国であとは日本や西洋の文化が混じっているような状態ですね。主食はパンですね。米も時々食べます。給食みたいな感じでしょうか?」

 私はふむふむと首を縦に二回振る。

「あ、そう言えばこれを言っていませんでしたね。あなたが行くのはワールドボードと呼ばれる世界です。その世界に四つある大陸のうちの神大陸と呼ばれる場所です。神大陸では八日道と呼ばれる魔法があります。もちろん魔力もね。それらの八属性を司る八神が大陸の各街を統治しているのです。…おっと」

 彼女は途端にいそいそと慌て始めた。何事かと思っていると、彼女の方から口を開いてくれた。

「すみません、もう時間がないようです。向こうの世界については転生した後で調べてください。そして、もう一つだけ伝えなければいけないことが」

 その言葉を聞きながらだんだん意識が床の向こう側へ連れていかれる。もうだめだ。意識が持たない。

「どうか私を殺してください」

 その言葉を最後に意識の糸が途切れてしまいそうになる。次に目を覚ますのは彼女の言う向こう側の世界なのだろうか?耐えられなくなって、私はそっと目を閉じて、水の流れに身を任せることにする。


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