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1.1 僕は性別がある人間が嫌いです

 小さな頃から、目に見えないものを想像することが好きだった。それは読み聞かせから、3歳年上の姉のつたない即興の物語から、知らない言葉や漢字であふれた文章から。現実から楽しいと思えるものを自ら見つけて遊ぶことよりもずっと、目に見えないものは色鮮やかで、自分が満足のいくまでイメージを膨らませられた。

 でも、だからといって他人に興味がないわけじゃなかった。一人だけじゃ、面白いと思えるものを見つけられない時だってあるのだから。

 同級生から誘われて行ってみた、枯れきった水路の奥。所有者不明の錆び付いた小屋の中で見つけた、工具の数々。それらを用いて作った、粗末な秘密基地。

 ただの遊びと違って、これらの思いでは今でも楽しいものだったと言い切れる。理由は簡単だ。自らの手で何かを作り出すという行為の始まりは、きまって何もない状態から始まる。作るということは、目に見えないものを、想像を実体のあるものへと昇華させていくことなのだから。

 僕にとって、何かを作り出すことが得意な人、あるいは独自の世界観や価値観がある人は無条件に魅力的に見えていた。今でもそうだ。男子だろうが、女子だろうが、年上だろうが、年下だろうが、関係ない。見た目といった要素も気にならないほどに。


 ――でも、それがいけなかった。


 いけないことだとわかった時には、君はいなくなっていた。君の連絡先も、引っ越し先も、知ることができないまま月日が流れて、僕は地元から少し離れた高校に進学した。

 君が僕に残してくれた思い出が色濃くて、思い返すほど滲んでしまって、今の僕のおかしなところを形作ることになっている。


「えー、初めまして。富岡市から来ました、甘楽(かんら)このはです。好きなものは小説。嫌いなものは、――性別です。一年間、よろしくお願いします」


 入学して日の浅い頃に行われた、自己紹介。僕が変わり者であることを周知させる目論見は、見事に成功を収めたと言っていいだろう。正面から突き刺さる視線は、僕のことを普通の人間だと捉えていない。教室中に鳴り響く拍手に意味はなく、一般的な形式の順序に従って行っているだけに過ぎないものだとはっきりわかる。何故なら僕は、皆が期待するものと正反対のことをしたのだから。

 変わり者とは程遠い見た目で生まれてきてしまった僕が孤立するためには、こうするしかなかった。そう自分に言い聞かせて、僕は席に戻るまでの平静さを辛うじて保っていた。

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