偽善者
ド田舎県の県知事が高額な賞金を懸けて全国のハンターに熊の駆除を要請した。
それに反対するデモがド田舎県の県庁所在地で行われ、熊の保護を求める団体に加入している私はそのデモに参加する。
その帰り、田舎の一本道と言って良いような道をノンビリと走っていたら『新鮮なタマゴあります✕✕養鶏場→』と書かれた看板が目に入った。
家族にお土産として買って帰るかと思い→の方へハンドルを切る。
『✕✕養鶏場→』と書かれた看板に従い道を暫く走ると『✕✕養鶏場』と書かれた看板が見え、養鶏場の出入り口の門の直ぐ隣にある小さな小屋の屋根に、『新鮮なタマゴあります』と書かれた看板があった。
小屋の前の空き地に車を止め小屋の中に入り、透明な扉が多数付いた棚の中を覗く。
『え?』
棚の多数ある扉の中を覗いた私の目に入って来たのは籠に座る鶏。
幾つかの扉の中には鶏と産みたてらしいタマゴが1個入ってはいた。
困惑して養鶏場の門の前を箒で掃いていた老人に声を掛ける。
「すいません、タマゴを購入しようとしたら扉の中に鶏がいるんですがタマゴは何処にあるんですか?」
「売り物はその鶏だ、そいつらは3日に2個タマゴを産むから、数羽購入してくれれば毎日新鮮なタマゴを食えるよ」
「イヤ、鶏は要らないんでタマゴだけ欲しいんですけど」
「そいつらはアンタが今日購入してくれなければ、明日絞められて肉にされる運命なんだよ。
卵は物価の優等生って良く言われるけど、ウチラみたいな養鶏場が儲けを出すために毎日タマゴを埋めなくなった鶏は直ぐ処分されるんだ、毎日タマゴを産めなくなった鶏の餌代が惜しいんでな。
3〜4年は3日に2個、その後も数年は2日に1個タマゴを産むから」
「イヤしかし……」
老人は私の車のリアガラスの下側に貼ってある、『熊の駆除反対』と書かれたステッカーをチラっと見てから話しを続けた。
「アンタ熊の駆除反対のデモに参加した帰りのようだな。
いいか、知事が賞金を懸けた熊はとんでも無く知恵がある熊なんだよ。
ベテランのハンターさえ騙されるようなとんでも無い熊で、ハンターと熊が互いに知恵を絞って化かしあいするんだ。
だからアンタらが助けろって言う熊は明日の夜生きているか殺されているかは五分と五分、それに対してそこにいる雌鶏たちは明日の夜には肉になってるんだ。
それでも鶏なんて要らないって言うならそれでも構わんけど、そういう奴は偽善者って言うんだぞ、分かってるのか?」




