ルームメイトが「お前の妹に惚れた。紹介してくれ」と言ってきたが、妹《そいつ》は女装した俺だ。
「光也、頼みがある」
大学の同期生であり、ルームメイトの隆司が真剣な表情で俺を見つめてくる。嫌な予感しかしない。
「何だよ」
「お前の妹……ミツカちゃんに惚れた。紹介してくれ!」
言われたことを理解するのに十秒を要した。
ミツカは俺が趣味の女装をしているときの仮の名前。架空の存在だ。
先日ワンピースドレスで散歩をしていたら隆司と出くわしてしまい、なんとナンパされた。
顔が光也に似ていると言われたので「妹のミツカです」と名乗って逃げた。
ミツカに惚れたなんて嘘だと言ってくれ。
「紹介はできない」
「なんでだよお兄様! オレはミツカちゃんを一生大切にするぞ!」
無理無理無理無理。お兄様なんて呼ぶな。
隆司の目がキラキラしている。ヤバい、このままだとどんどん面倒なことになる。
「いや、あれは、その……」
「頼む! 初恋なんだ!」
人生やりなおして他の人に初恋してくれ。
仕方なく、俺は女装して「ミツカ」として隆司と会うことにした。もちろん適当に誤魔化して終わらせるつもりだった。
近所の公園で待ち合わせた。
「こんにちは。隆司さん」
隆司は完全にノックアウトされたようだ。
「すっごい可愛い……!」
これはただの化粧とウィッグの力だ。
「ミツカちゃん、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
単刀直入に告白してくる隆司。
俺も間髪入れず断る。
「好きな人がいるから無理です」
これでもう次の恋に移ってくれるだろう。と思ったその瞬間、隆司の目が光る。
「その好きな人って、もしかして光也か? 兄妹の枠を超えて愛し合っているのか?」
「……は?」
隆司の暴走は止まらない。
「 光也は今からオレのライバルだ! 誰よりも大切にするから、オレを見てくれミツカちゃん!」
「ライバルなわあるかボケ! ミツカは俺だ!」
ウィッグを取っていつもの髪型になる。が、隆司は納得しなかった。
「み、光也!? オレとミツカちゃんと会わせたくないからって替え玉になるなんて。そんなにミツカちゃんが好きなのか!?」
「ミツカ=俺本人だっつってんだろ!」
ミツカは俺が女装した姿だと理解させるまでに一週間を要した。もうやだ。