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スノーローズ~転生した精霊の愛し子は唯一と何度でも巡り合う~  作者: ありや


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冬の花 2

*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*

  昨日、庭師のジャックに頼んだ精霊草の株を、その日の夕方にはアシュリーが受け取り部屋に持ってきてくれていた。

窓際に置かれた小卓に水受けの皿に鉢植えを載せ、そのまま飾っている。

そして私はその鉢植えをしみじみと眺めているところだ。


(うーん、これ花が咲いてくれないとクリスマスローズと同じ花になるのか確認出来ないよね…。せめて咲いてくれたなら、花弁の形とか色とか分かるから滅茶苦茶見たいんだけど…。

前世の記憶にあるクリスマスローズがとても可愛らしいって分かってるし、是非とも拝みたい…)


 そんなことを考えながら精霊草の葉を眺めている。

部屋にはティナがいて、部屋の片付けを簡単にしてくれている。それ自体はすぐに終わるようなもので、掃除に関しては私が部屋を出ている時にしてくれるので、今はまだその時間じゃない。


(…そろそろ部屋を出ないと、掃除の邪魔になりそう。でも、部屋から出たくない。精霊草を咲かせる方法ってないのかしら???)


 ひたすら考えているけれど、やっぱりいい考えは浮かんでは来なかった。こういう時はやっぱり本を読んだほうがいい、と考えて窓とは距離を置くように壁一面に取り付けられている書棚の前に私は向かった。

それを察したティナが、書棚の前に置かれている読書スペースとしている一人用のテーブルに、お茶と少しのお菓子を用意してくれていた。


「お嬢様、よろしければお飲みくださいね。特に用がなければ私は一旦退室いたします。

御用があればベルでお知らせください」

「ティナ、ありがとう」

「失礼いたします」


 ティナが部屋を出たところで、私は一冊の植物図鑑を手に取っていた。図鑑は子供の手には大きく重たいものだから、最下段に揃えて入れられている。ただ引っ張り出すだけでいいから、非常に助かる。

そうして、引っ張り出した図鑑を床に置き、私もそのまま床に座り込み頁を捲っていく。

目的の精霊草はすぐに見つけられたけれど、あくまでも精霊草の葉の様子を描いたものと、簡単な説明だけ。

花の絵は一切なく、花が咲くこともあるらしいが、それを見た者はいないようだ、というとにかく曖昧な説明しかなかった。


「ジャックの言っていた通りなのね。これ以外にも精霊草のことを解説した本とかあるのかしら?」


 そう呟いてはみるけれど、実際にそんな本があるのかどうかは調べてみなければ分からない。だから、小さくため息を吐くだけで、その考えを今は忘れることにした。

すぐに花を咲かせる方法というのは見つけられるわけでもなさそう、と私は理解した。こればかりは仕方のないことだろう、とも。

 毎日植物の世話をする庭師は貴族の屋敷があれば、その数だけいるはずで、それ以外の場所にも庭師はいるはずだし、他にも植物に詳しい人間はもっといる。けれど、そんな人達が精霊草を毎日のように見ていても、精霊草の花を見てはいない。

何かしらの変化があるなら、絶対に気付けるはずの人達が、だ。

ということは、普通に植物の世話をするだけでは、花を見ることは出来ないのだと思う。そう思い付いてしまうと、何が必要なのだろう? と結局頭を抱えることになるから…もっと本を読み漁りたい衝動に駆られた。


「うー。この屋敷の書斎は…お父様の本ばかりで、領地に関する事とか所謂この伯爵当主に必要な専門的な本ばかりで、私の読みたいものなんてないのよね。前にお父様と一緒に書斎に入って書棚を眺めているから、分かってる。

書庫のほうなら、使用人達も読んでいいよって形で自由に入れるから、まだそちらのほうがたくさんのジャンルの本があるんだけど…。

代わりに専門書はあまりなかったのよね。専門書は結局歴代のラロック家の人達が興味を持った物ばかりになっちゃうから。内容が偏ってる上に私の欲しい情報はない…かも。一応探してはみるけど!」


 そう口にしてはみたけれど、きっとないんだろうなぁ、なんて思う。

思い切り溜息を吐いてから部屋を出ることにした私は、図鑑を元の場所になんとか戻して、すっかり冷めてしまったお茶をグイっと飲み干したのだった。



 §



「うん。予想通りなかったわ。そして、専門書が明後日の方向にばかり多くて、本当使えなかったわ」


 そう溢してしまっても仕方ない、私は悪くない、そう思うくらいには専門書が集められている書庫の一角で途方に暮れてしまっていた。

 専門書と言っても、ただちょっと詳しく知りたい程度の知識を集めただけのような本…つまり、浅い知識を少し堀って深くしてみただけといった印象の本が並んでいるだけだったからだ。

きっと本格的な知識はそれほど必要としなかったか、専門書を持ってる人に頼ったか、図書館のような蔵書の多い場所に頼ったかしたのだろうと本の並びを見て考えているうちに、何故気付かなかったんだろう! と私は自分の迂闊さに、つい自分で自分の頭をぽかぽかと叩いてしまっていた。


「もう! どうして図書館を思い出さなかったの!?」


 この世界にも図書館はあるのだ。

私が知っているのは、王城にある関係者しか入れない図書館と、誰でも入れる王都の王立図書館。

王城の図書館は私がいくらジェイド殿下の婚約者でも、簡単には入れないはずだから頭にはない。それよりも気軽な王立図書館がいいとすら思う。

…だって私は今十二歳だ。貴族令嬢が図書館に一人で行くには問題もあるし、何より年齢がちょっと若過ぎよね! 前世の記憶のおかげで人見知りはないけれど、それでも慣れない事には不安はそれなりに感じる。だったら、慣れた人と一緒に行動したいと思うのが世の常だと思うのだけれど。

というわけで、私は迷いなく思った。「そうよ! お兄様にご一緒していただければ問題ないのでは?」と。



 §



「というわけなので、エディお兄様に王立図書館に一緒に来ていただけないかな、って思ったんですけど…大丈夫ですか?」

「勿論大丈夫だよ! アイリスが僕を頼ってくれたことが嬉しいよ。うん、図書館だったらお父様もすぐに許可を出してくれるだろうし、外出することを僕から言っておくね」

「エディお兄様! 大好きです!」

「僕もアイリスが大好きだよ」


 現在、書庫からの部屋に戻る途中でエディお兄様に廊下の曲がり角でぶつかりそうになり、慌てたエディお兄様に拉致られて、お兄様の部屋で軽く拘束されているところだ。

要するに、エディお兄様の膝の上に乗せられてソファに座り、仲良くお茶をしている。そういうことだ。

…時々思う。次兄であるエディお兄様は長兄のシトリンお兄様よりも、私に甘い、と。これが兄妹で、まだ二人共それなりに幼いから気にも留められずに済んでいるけれど、もう少し…そう、これが三年後のことなら。

私は今十二歳だから三年後と考えると、十五歳。二歳年上のエディお兄様は十七歳になるわけで。

かなりよろしくない関係と取られるだろうと思うので、私はシスコンな兄と距離を置くべきだろうか、と考えないこともない。

まぁ、いつかはお兄様も自覚してくださるだろう、と……思いたい。

『僕の初恋はアイリスだからね。シトリン兄のおかげで、秒で失恋したけど』

というのはエディお兄様の言葉だ。…だから、きっと大丈夫だと信じてる。お兄様…信じていいのよね?


「シトリンお兄様は、まだ学園から戻られてないですけど、王太子殿下と一緒に王城へ行かれてるんでしょうか?」

「そうかもしれないね、ここ最近忙しそうだし」

「大変ですね」


 シトリンお兄様を最近、太陽が明るいうちに見かける時間が減っていることが気になったから、エディお兄様に聞いてみれば、そんな答えが返ってきて驚いた。

そう思っていると、エディお兄様が声を潜めて教えてくださった。


「ここだけの話だよ。ラロック家は王家の側近にはなっちゃいけない家なんだ。けど、王族とは常に身近でいることが義務付けられてる。ちょっと難しいよね。

シトリン兄は、アレクシス殿下の幼馴染みだけど、側近じゃないんだ。候補でもない。だから側近になることは絶対にないんだけど、代わりに幼馴染みとしての立場は揺らがないんだって。

僕も聞いただけだし、詳しくは分からないけど…シトリン兄様は、アレクシス殿下にとって大事な友達って殿下から教えてもらったよ」


 エディお兄様の言うシトリンお兄様の立場は、今一つ理解出来ないものだったけど、要するにシトリンお兄様はアレクシス殿下の大事なお友達ということらしい。それだけ理解していればいい気がしたから、私はもう理解しようとするの諦めたのだった。


「まぁ、要するにシトリン兄様は殿下の側近に相応しい人を殿下の立場から一緒に考えてるってことかな。勿論、陛下も考えてくださってるってシトリン兄が言ってたから、今その話し合いをしてるんじゃないかなって思うよ」


 エディお兄様、何気なく仰ってるけれど…今お話ししてくださったことって、重要な内容なのでは? 私が知っても大丈夫なこと? だけど…誰が選ばれてるとかは分からないから、問題ないのかしら?


「今の話も内緒だよ。ふふふ」

「分かりました、内緒です」


 二人で顔を見合わせて笑い合う。

取り敢えずは、図書館に一緒に行く約束をして、外出許可はお兄様からお父様にお願いする形で、私達が図書館へ行くことになる。

その話を聞いたシトリンお兄様が、非常に悲しそうな顔をさせながら

「私も行きたかった…。アイリス、私の時間が合う時には私と一緒に出掛けてくれるかな?」

と本当に悲しそうな声で言うものだから、激しくこくこくと頷くしかなかった。頷かなければ、シトリンお兄様が泣くかもしれない、と思う程だった。


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