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スノーローズ~転生した精霊の愛し子は唯一と何度でも巡り合う~  作者: ありや


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冬の花 1

*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*

 十二歳の慌ただしい夏を終えて秋を迎えていた。

私にとって、自分の死がまだ遠い先のような感覚でいたのが、前世のように余命宣告をされたのが三年前の夏。だからこそ、生きることに前向きになった夏でもあった。

 第二王子のジェイド殿下と婚約をしたこともあり、私が婚約者としてお披露目されたのも比較的すぐのことだ。それと同時に精霊様に加護を頂いたことも公表されるに至っていた。

おかげで、私は王子妃となる身として、登城することが当たり前の生活に変わった。日々の学びはとても大変で、ただあやめさんと違って私の体はとても優秀なのだと知った。勿論あやめさんの持つ知識のおかげで、学ぶことが実は楽しいと思えるようになったことが一番なのだけれど。

 理解力が高く、教えらえることよりも多くを理解する、と教師陣から言われると、少しだけ複雑な気持ちにはなった。でも、それは自分のしたいことをする時間を捻出するのにはとても有益なことでもあったため、自身の気持ちは押し殺していた。


(自分のしたいことを出来るのなら、今持てる能力があやめさんの記憶のおかげなんだってことは誰にも知らせることじゃない。第一言えるはずもない。前世の記憶があるだなんて…)


 そうして私は殿下と共に過ごす時間も以前よりも増えていき、気付けば本当に気兼ねなく互いに話が出来るくらいには親しい友人と言える関係になっていたのだった。


「そう言えばアイリスの好きな花とか、食べ物とか具体的には聞いたことがなかったけど、どういう物が好きなのか教えてもらってもいいかな?」

「…ジェイド殿下、唐突ですね。まぁいいですけど。好きな物ですよね。花だったら…派手なものよりは控え目なもののほうが好きですね。食べ物だと…甘いお菓子も好きですけど、チーズや胡椒をきかせたような味のお菓子も好きですね。可愛い動物も好きですよ」

「そうなんだ。案外女の子らしくない物も好きなんだね」

「そうかもしれないですね。お父様がお酒を召し上がってるところに行って、クラッカーを一つだけ摘まませてもらうことが多いので、それも原因かもしれません」

「……ラロック伯爵の? 今から酒の席にって、まさか飲んでたりは、、」

「しませんよ? お酒の匂いはあまり好きではありませんから。匂いで頭が痛くなりそうですし」

「そ、そうか。良かったよ。まだ僕達の年齢じゃ飲んだりしたら、体に障るからね」

「勿論、弁えていますわ」

「そうだよな、当たり前のことだしな」


 そんな会話をしながら、私達は互いのことをゆっくり知っているところでもあった。それと同時に私はふとあやめさんが好きだった花を思い出していた。


 私は屋敷に植えられていた植物にとても気になるものがあった。

前世でとても好きで、自身で育てていた花とよく似た葉の形をした植物があったからだ。

まだ花を咲かせるにはあまりに早い時期だったため、確認も出来なかった。

庭師にはどんな花が咲くのか聞いてみたけれど、花は咲かないと言われてしまった。


「庭に植えておくと他の花を引き立てるから丁度良くて、どこのお屋敷でも植えられていると思いますよ」


そう言っていた。そうだ、前世でも緑の花をつける種類もあった。それでも寒い季節に花を咲かせることから冬場には庭を華やかにしてくれる花だった。

うん、クリスマスローズによく似た葉だった。でも…花が咲かない…。どうしてだろうか?


「長く庭師をやってますが、これの花を見たという奴はほぼいないと思いますよ。そういう話はきいたことがないんですよ」


そう教えてくれた。花が…咲かないかぁ。でも、だったら私も育ててみたいなぁ。

あまり気にしたことがなかった! よし、今日はもう遅いから明日庭で探してみよう!


 翌朝、いつもより少し早く目が覚めた私は、ベッドの上で横になりながら考えていた。花の咲かない理由を。どうして咲かないのかを。

どう考えたところで理由なんて分からないのだから、きっと普通の育て方では花が咲かないということなんだろうと予想をしてみる。普通…、一体どんな魔法が必要ですか! 魔法? 魔法……。

 そんなふうに思考を巡らしていたところで、ティナに声を掛けられ、考えが止められた。あと少しで何か思いつきそうだったのだけど。


「おはよう、ティナ」

「お嬢様、起きてらっしゃったんですね。今日もいいお天気ですよ。身支度しましょう」

「ええ、お願いね」


 いつものように身支度を手伝ってもらい、着替えが終わった頃にはアシュリーが扉をノックする。

返事をすればアシュリーは室内に入って来る。今日の予定を確認をすると、いつも通りの予定だということだった。王城でのお勉強は今日はない日。屋敷での勉強をすればいいだけの日。

 それが終われば自由の利く時間はそれなりにあるようだ。よし、庭散策をしよう。決定。


「アシュリー、今日の勉強が全部終わってからだけど、庭を散策するから、よろしくね」

「分かりました、そのように準備しておきます」


 今日の予定を組み終えてから、ティナに朝食の時間になっていると告げられ、食堂へと向かった。

その後は予定通りに時間を過ごし、やっと勉強から解放された。授業の終わりに家庭教師から言われた。


「アイリスお嬢様、随分努力されましたね。かなり理解が進んだと思います。これからは少し学ぶペースを落としても大丈夫だと思いますよ」

「本当ですか? 先生、ありがとうございます。先生の教え方が良いから授業も楽しいです」

「いいえ、成果についてはアイリスお嬢様が努力をなさった結果ですから。私もアイリスお嬢様にお教えするのはとても楽しいのですよ。努力をされて、でもそれに驕らず学ぼうとする人は尊いのです」

「先生、御言葉ありがとうございます。先生に師事できて私も嬉しいです」


 なんとかやっと人並みに理解が出来たようで安心した。一応未来の王弟妃だから、学業が疎かというわけにもいかないし、何より少しゆとりが出来るみたいだし、そこに安堵出来た。さ、この後は庭の探索だ! 探せクリスマスローズ!

 先生が帰られた後、待機していたアシュリーに休憩した後に庭へと言われ、頷いた。


「それにしても、お嬢様かなり歴史の勉強は苦手だったと思うのですが」

「うん、ちょっとね。でもがんばって本を読み込んで流れを掴めたから、やっと先生の仰ってることが理解出来るようになったわ」

「すごいですね。これでほぼ王妃教育水準ですね」

「へ?」

「先生が仰られてましたよ。アイリスお嬢様はもう王妃教育で必要な部分を満たした、と。だから後はゆっくり学んでも大丈夫だと」

「…ええええ? 私そんなこと望まれた覚えないのに!?」


 苦笑をするアシュリーを余所にちょっと混乱しそうになった私だった。

知らないうちに王妃教育に近い勉強をさせられてたとは。うむむむ。

でも、もういいんです。後はペースゆっくりでいいって先生言ったもーん。ゆっくりだもーん。これはやっぱり私が第二王子妃になるからこれ以上王妃教育が不要って意味よね? まだ十二歳だもの。


「それじゃ、庭に行くわ」

「分かりました」


 話をいきなりぶった切ったように、頭を切り替えた私にアシュリーは笑っていた。そんな彼をスルーして、私は庭へと出た。この時間なら庭師も作業をしているし、色々聞けて丁度いい。

庭に出ると、庭師を探し始めるところからスタートした。すぐに見つけることが出来たため、時間はかからず済んだ。


「今少しいいですか?」


 私が声をかけると、庭師はこちらを見て酷く驚いていた。それから慌てて立ち上がり、私に礼をする。庭師は壮年の少しくたびれた感じをさせる、でもイケオジだった。よし、庭師も愛でられる…なんて思うのは内緒の話だ。


「仕事の手を止めないでいいの。お時間が取れた時に話を聞きたいんです。それだけ教えてもらっていいですか?」

「お嬢様! 私共はお嬢様からの要請であれば、すぐにでも対処できますから、言いつけて頂いても…。それから、使用人に対して丁寧な物言いはお止めいただけますか?」

「仕事の手を止めさせてまでの用ではないの。だから後でいいの。それではダメ? それから、言葉使いはごめんなさい。癖なの。だからつい出てしまって。あまり気にしないでね」

「分かりました。それなら、少々お待ちいただけますか? もうすぐ終わるので」

「ありがとう」


 庭師はやれやれ、と言った様子ではあったものの、了承してくれた。待つ間、花の咲いていない、クリスマスローズの葉に似た植物を探してみた。すると、簡単に見つけられた。

背の低い植物だから、背の高い花の手前、華やかに彩る花々を縁取るように配置されていた。

うん、見つけた。よし、これで植物自体は問題ない。後はこの植物の情報を聞けばいい。


「お待たせしました。それで用と言うのはなんでしょうか?」

「用はこれ、この植物の事なの。私、名前を知らないのだけれど何て言うの?」

「ああ、これですか。精霊草と呼ばれていて、精霊様を見ることが出来る人だと稀に精霊様が傍にいるのを見るという逸話がありますよ」

「精霊草…面白い逸話まで…」

「何か惹かれるものでもありましたか?」

「この植物に花が咲かないのが不思議だなって思ってたから」

「そうですね、花が咲かない理由がよく分かっていないんですよ。精霊様と会える可能性もあるから、好んで育てる人は多いんですけどね」

「そうなのね…。あのね、私もこの精霊草を一緒に育ててもいい?」

「え? 構いませんが…花は本当に咲きませんよ」

「いいの。どうすれば咲くのか調べるのが楽しそうって思っただけだもの」

「分かりました。お嬢様にお付き合いいたしますよ」

「ありがとう!」


 その後私は庭師の名前を確認して、私が育てる精霊草の株に目印になるように、木の枝を削っただけのピックを地面に差した。

今日はここまででいいか、と部屋へ戻った。それから日課の日記を書き、クリスマスローズに似た精霊草を観察することにした。


「そうだ! 一株だけ鉢植えにして室内に持っていきたいのだけど、大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ。ジャックさんに頼んで用意してもらいます。用意したらお持ちしますよ」

「じゃあ、お願いするわ。ありがとうアシュリー」


 文机に向かっていた私の近くにいたのはアシュリー。お茶の用意をしているティナは席を外している。

前世あやめさんが好んだ花クリスマスローズと同じ葉を持つ精霊草、前世クリスマスローズを育てた知識がどれくらい役に立つのかは分からないが、育ててみたいと思ったのだ。

私は、精霊草のお世話をすることで、新たな出会いに…恵まれ…恵まれ? うーん、どちらかと言えば…とんでもない方と出会うことになり、その結果押し売りをされることになるのだけれど、まだ少し先の未来のことなのだった。


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