幕間 遠い記憶
*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*
本日はこの話の前にも一話投稿しています
まだお読みでない場合は、そちらからどうぞ
どれほど時間が過ぎた事でしょう。
病気で亡くなったお姫様と、お姫様を想い続け独り身を通した騎士様のことを覚えている者が誰もいなくなったのは。
繰り返し季節が移り替わり、もう誰も二人のことも知らない人ばかりの場所で、お姫様と騎士様だった魂は平民として生まれました。
二人の年は以前と違い、とても離れていました。
二人が出会ったのはお姫様だった少女が十八歳の時。騎士様だった青年はもう三十五歳となっておりました。
けれど、二人が互いに気持ちを向け合うのに時間はかかりませんでした。そして、二人はすぐに親しくなったのです。青年は少女と結婚をすることを約束しておりました。
そして、互いに結婚の約束だと指輪を贈り合っていたのです。ですが、そのすぐ後のことでした。二人はまた離れ離れになってしまうのでした。
最初と同じ理由でした。
少女が病気になり、治る術がないことが分かってすぐに青年を少女自身に繋ぎ止めることは、彼の幸せを奪うと考えて別れを告げたのでした。
お姫様と全く同じことを繰り返してしまったのです。そして、騎士様だった青年は、少女がどうして別れを告げたのか本当の理由を知らないままだったことも同じでした。
青年も騎士様と同じように、少女を失った後は誰とも結婚することなく、たった独りで生きていきました。
「もし、もう一度会えるなら、今度こそは一緒になりたい。それが無理でも生きて見守っていきたい」
そう思いながら青年もその生を終えたのでした。
そして、二人が次に生まれた場所は、精霊が人々を守る場所でした。
二人のことを気の毒に思った精霊様と神様が、今度こそ二人が結ばれるようにと考えて、その魂を連れてきたのでした。同じ年に生まれた王子様と、貴族のお嬢様はとても可愛らしい婚約者となったのでした。
けれど、二人の婚約は誰にも祝福されるものとなったけれど、お嬢様の命の期限が決められたものであったため、精霊様の祝福を与えられているにも関わらずお嬢様は長くは生きられない定めをただただ受け止め、受けいれるだけでした。
お嬢様の命の期限のことを知っているのは、精霊様とお嬢様だけ。王子様がそのことを知るのは、もっともっと後の事でした。
今のままでは結婚も危ない状況ではあるけれど、王子様との婚約がお嬢様の命の期限を辛うじて伸ばす切っ掛けになるというのです。きっと、その決断がお嬢様を救うのだと精霊様は考えておいででしたが、実際にどうなるのかは、まだ分かりませんでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「店長、在庫の確認してきまーす。それが終わったら休憩入りまーす」
「分かった。…あ、休憩終わったら早めに戻ってもらっていい?」
「えー? いいですよー」
「じゃ、よろしく」
「はーい」
花屋と言うよりは種苗もガッツリ扱うから園芸店というほうが正しいだろう店がある。
その店内にいる店長と呼ばれた三十代半ばの青年と、その隣にいるのはまだ十代に見える学生の少女。
少女は店のアルバイトだろう。店長に休憩に入ると告げ、確認を取り、その場を去る間際。二人は軽く指を絡めて、そして少女は店の奥へと消えた。
倉庫での在庫確認と店頭の品薄になっている商品との確認を終えた少女は休憩を取る。
持ってきていたマグに入れているハーブティを口にしながら、少女は本を読んでいた。どうやら大学で出されたレポートに関する本のようだ。分厚い資料としての本なのだろう。
眉間にしわを寄せながら読んでいる。が、頭に入っているのかは怪しい。
そうこうするうちに十分ほど時間が経っていた。
「そろそろ休憩終わりかな。早めに来てって言われてたっけ。そろそろ戻るかぁ」
本とマグをトートバッグに入れると、少女は店内へと戻る。そのさい在庫の確認報告のことも忘れず報告書も持っていく。
「休憩終わりましたー。ありがとうございます。で、何か用ですか? あ、これ在庫報告です」
「あやめちゃん、在庫報告ありがとう。用事ってわけじゃないけど、次の休みって定休日の時だったよね?」
在庫報告を渡しながら店長の隣に立った少女に、店長は手にしたそれを見ながら声を掛けていた。
「はい、そうですね。定休日までは連日入る予定なんで、そうですよー」
「てことは連日一緒…か。そっか…定休日も、一緒に過ごしてほしいな、と思ってるんだけど…時間くれる?」
「!」
相変わらず書類に目を落として、ボールペンで時々チェックをいれながら言葉にしている店長に、目を大きく見開いた少女は店長をガン見している状況。
幸い店内に客はおらず、二人きりだった。
ごく普通の園芸店のはずだが、なぜだか店内の装飾はアンティークなものが多く、アメリカンカントリー調で統一されていて、落ち着いているけれど可愛らしくもある。この趣味が誰のものかは知らないが。
ただ間違いなくそんな店内の様子と、二人の状況は場違いにも思えるものだった。
「何そんなに見つめてくるの? デートのお誘いだったんだけど、嫌?」
少女に顔を向けた店長は、真顔で少女にそう言う。
「え? ええ!? 店長モードの時にそういうのやめてよー!! 翡翠君に対するのと店長に対するのと、ちゃんと区別して接してるのに、困るよー!」
慌てた様子の少女は、軽い口調でいつも話してはいるものの、基本的にですます調で会話をしている。が、それが抜け落ちた口調になっているのは、動揺している証なのだろう。
やがてレジカウンターから出て、花材を選び始めた店長。選んだ花材を選り分けながら小さなフラワーアレンジメントを作っていく。片手に乗るほどのブリキのバケツにビニールのシートと淡い色合いの不織布をカットしたものを敷き、更に水を吸水させた吸水性スポンジを小さくカットしてバケツに入れていく。
あとは店長の腕の見せ所。可愛らしくアレンジメントを作り上げていく。小さなバケツの中の小さなアレンジメントに少女は心が浮き立つようだった。けれどそれを無視して店長からのデートのお誘いには、少女はタジタジだ。
「うん、知ってた。で、返事は?」
「…大丈夫。ええ勿論オッケーですよ! それなら前に話してた動物園に行きましょう! 赤ちゃんラッシュの季節だし、可愛い子達いっぱい見たいです!」
「分かった。じゃあ…動物園の後はなんか食いにいく感じで、周辺の店調べとくよ」
「わ、期待してます! ふふ、嬉しいなぁ。翡翠君と久しぶりのデート。ふふふ」
その後店の扉に付けられた鈴が鳴り、店内に客が来たことを知らせる。二人は声をそろえて客へと声を掛ける。
「いらっしゃいませ」
来店した客は女性客で、切り花を見ている。
「私行ってきますよ。店長はレジお願いします」
「じゃあ、頼むよ」
少女が時間をかけて何かを探す女性客に声を掛けに行った。声を掛けられた女性客は、少し躊躇った後に誕生日プレゼント用に見ているのだと話した。
「相手の方はどんな方ですか? お友達とかご家族とか…」
「あ…仲の良い女友達です」
「お友達のお祝いにお花ですか! 素敵ですね。その方のお好きな花とか色とか分かってるなら早いですけど…」
「なんでも好きって言う子なので、悩んでしまって…。あ、でも色だとはっきりした色よりも淡い色のほうが似合う子です」
「そうなんですね、淡い色合いが似合って、お花ならなんでも好き……。あ、定番の花は入れたいですか?」
「そうですね…それなら、、」
女性客が納得出来る花を選べた。その花をフラワーアレンジメントにすることを決めたのは女性客で、小さなバケツのアレンジメントを見て決めたようだ。
嬉しそうに頬を染めながら店を後にした客を二人で見送りながら、少女は微笑む。
「良かったです。良い物を選べたみたいなんで」
「そうだね。それにしてもお友達にお花、素敵だよね」
「私も友達から贈られたら嬉しいですもん。お手伝い出来て良かったです」
「…花を贈られたら嬉しいんだ。そっか、ふぅん、そうなんだ」
「な、なんですか!?」
「いやぁ、記念日毎に花束を贈ろうかと思っただけだよ」
「え? あ、ちょ、唐突にそういうのぶっこんでくるのやめてくださいよ!」
「ぷっ! あはははは」
少女が照れ過ぎて、焦ったように怒り出したところで店長が声を少し出して笑い始めた。
「…翡翠君意地悪だ!」
ぷいっと顔を背けてしまった少女に、まだ笑っている店長は頭にポンと手を置いてから撫で始めた。
「諦めて。俺がこういうのだって知ってるでしょ?」
「ぷぅー! お客さんが来ても困るから、立て直します! 商品の補充するんでカウンター出てますね」
「頼んだよ」
「はーい」
そんな風にして二人は時間を過ごす。少女が病に倒れるまでは。
本日は誕生日なので頑張って二話投稿しました
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