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スノーローズ~転生した精霊の愛し子は唯一と何度でも巡り合う~  作者: ありや


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婚約 10

*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*

 妹好きが過ぎる兄二人に翻弄された日の夜。自室で寝支度を終えた後、日記を書いている時だった。

窓が開いているわけでもないのに、部屋の空気が動いた気がして顔を上げると、部屋の中に精霊様がいることに気付いた。ちょうど部屋には私だけ。

正直驚いたけれど、精霊様の訪問はいつも突然だったし、こういうものなんだと諦めたのは少し前のことだ。だから、今日も驚くだけだった。


「アイリス、来たよー」

「いらっしゃいませ、今日はどうしたのですか?」

「王子との婚約の事、どうしたかな? って思ってさ」


 精霊様の訪問の理由を知れば、私はなんだか居た堪れなくて俯いてしまった。


「うん、分かった。アイリスが全く何も決められてないってこと」

「…ごめんなさい」

「謝る必要はないよ。ただ心配してるだけ。王子はアイリスの事、大事にしてくれるよ。それに、この婚約が成立すれば、アイリスの十七歳から後の人生が変わるかもしれない…かな」


突然の死亡年齢が変わる可能性に言及されれば、他の事よりも何よりも食いついてしまうのは、誰だって同じだと思う。だから、精霊様が心配してくださってることをスルーしてしまったことは申し訳ない気持ちはあるけれど、やっぱり聞いてしまう。


「! 私の死ぬ時期が変わるかも、ですか?」

「うーん、まだそこはなんとも言えないんだけど、可能性としてあるんだ」


 可能性が少しでもあるのなら、私は嬉しい。例え望まない婚約をする前提であっても。というか…婚約者になる相手が友人となっているジェイド殿下で、少なくともいい関係は築けている相手だから、貴族として私の気持ちを飲み込める相手ということもあるし、問題はない。

 そうなんだ、あやめさんが結婚したい、子供が欲しい、長く生きたい、と思っていたのだから…殿下との婚約を前向きに考えてもいいかもしれない。というか、殿下と婚約することが可能性を上げるみたいだから、考えるんじゃなくて…婚約するほうがいいのかも。


「精霊様、私殿下と婚約します。あやめさんは結婚も子供も望んでるし、私もあやめさんの記憶にない自分の家族っていうものを持ってみたいです! 親の立場にもなってみたいです!!」

「そっか。良かった…。とにかく、出来ることをやっていこう? 僕も他に手段とか方法とか探してるところだし、アイリスが動くことで変わることもあるだろうから、そういうのも探してみるからさ」

「はい。それじゃ…婚約の事は早々にお父様や殿下に話してしまいますね」


 私がずっと引っ掛かっているのは、あやめさんが病気で死んだ年齢よりも私の死期が早いという事実に、正直家族や周囲の人々を残していくことや悲しませるんだろうという予想が出来て、それがすでに苦痛で、辛い状況だから、それらが少しでも解消出来るなら、その手立てが取れるなら、と思うのだけれど…。

それでもやっぱり確定ではない事実もあって、悩んでしまう自分がいて。でも、生きることを精一杯頑張るという考え方は死期が早まっても遅くなっても変わらない。それはやっぱり、あやめさんのおかげ。だったら、少しでも長く生きる可能性に賭けるべき、かな。

そう思ったから、殿下との婚約で私が生き延びるかもしれないなら、殿下が対象外とか言ってる場合じゃないのかも、と思い直したから。あやめさんと違って私は貴族なのだから、政略結婚も受け入れる気持ちはあるのだし。年齢を考えなければ…だけれど。

 私は悩みながらも、それ以外に答えはないのだろうという結論に至っていた。

決してその答えが、私自身の希望というわけではない。でも、私の中にあるあやめさんの記憶が、生きるために努力すべきだと訴えるから。

だったら、殿下に対して今感じる思いが友情だけだとしても、今までのあやめさんが「友達から始まって、恋に変わってきた」と彼女の記憶が言うから、だったら私も同じように恋に変えていける何かがあるかもしれない、と…少しだけ、普通の女の子(平民)みたいな思いが頭を掠めてしまったから。

 あやめさんが今まで一緒に並んで歩いていた恋人達……? みたい、に……あ、どうしたのか、な…。なんだか…大事な、こと…を、わす、れ…て。


「……っ、頭、が……い、た…」

「アイリス!?」

「だいじょう、ぶ…。前みたいに倒れるようなことは…ない、です。…ちょっと何かを思い出そうとしたら、頭が痛くなって…」

「…そっか、アイリスが思い出せないことが、もしかしたら…あるのかも。無理はしないで。とにかく、今無理しても意味はないからね」

「はい、精霊様」


 精霊様が部屋に現れた時点で、私は日記を閉じ精霊様に向かい合うように椅子の位置を変えていた。

だから、頭痛がした私を精霊様はすぐに抱き止めるように私を精霊様に凭れさせるように肩を抱いてくれていた。

 精霊様も体温があるのね…なんて思いながら、精霊様の胸じゃなくほぼほぼお腹辺りに頭を預けていた。

私は、九歳だから! まだ小さいからね! 胸じゃなくお腹というのがなんとなく、絵にならない、と思っただけだから!


「精霊様、私…殿下の婚約者になるって決めました。少しは…生きる時間、引き延ばせますよ、ね?」

「ハッキリとは…約束出来ない。でも、可能性は前よりも上がるのだけは分かるよ」

「それだけでも充分です。あやめさんの出来なかった分まで、少しでも長く生きたいから」

「うん。分かってるよ。僕もアイリスには今見えてる未来よりも先を、元気に生きてほしいって思ってる。だから、王子との婚約を勧めたんだからさ」

「……はい。じゃあ…そうと決まれば、返事をしなくてはいけませんね。………。少し気が重いですけど、がんばります」

「うん。今回の婚約に関して言えば、僕の我儘も入ってるから、加護を受けた人間の意に添わない状況には当たらないから、そこは気にしなくていいからね」

「はい! この国が荒れるだなんて考えたくないですから、助かります」


そんな言葉を交わしながら、精霊様と私は顔を見ながら笑い合ったのだった。

さすがに私も吹っ切れたこともあり、頭痛も治っていて、色々落ち着いて物事を捉えられるようにもなっていたように思う。


 そうして、私は精霊様の帰られた後にお父様とお母様にジェイド殿下との婚約をお受けすることを伝えたのだった。



 §



 ジェイド殿下とのお茶会は、ラロック邸で行うことが決まっていて、その日はちょうど精霊様と婚約のことで話をしてから三日後のことだった。

良く晴れた日だったこともあり、庭園のガゼボでのお茶会となった。

ガゼボの周囲には花壇が整えられていて、たくさんの花々が咲き乱れている。夏はもう終わろうとしているけれど、花々はまだまだ入れ替わり立ち代わり咲き誇る季節は続いている。

そのせいなのか、花壇の周囲には光る小さな精が飛び交っているのが見えた。でも、殿下や使用人達には見えてはいないようだった。

 ガゼボに置かれているガーデン用の丸い卓を挟むように殿下と向かい合って座る。殿下はいつものように穏やかに笑みを浮かべている。年齢を考えれば充分に大人っぽいな、と思いながら顔を見ていたら、少し困ったような顔をして殿下が口を開いた。


「…アイリス? 僕の顔に何か…ついてるだろうか?」

「! あ…申し訳ございません。不躾にお顔を見てしまいました。

今日はお話しがあるものですから、少し…緊張していま、す」

「話?」

「はい。婚約のことですわ」


 私が婚約のことで話があると切り出せば、殿下が表情を少しだけ強張らせたような気がした。でも、すぐにいつもの表情に戻っていたから、気のせいだったのだろうか?


「婚約ということだから…返事を聞かせてもらえるってことかな?」

「はい。お父様から陛下へはもうお返事をさせていただいていると思います。ですから、ジェイド殿下もお聞きになられたのかと思っていたのですが、もしかしてまだですか?」


 婚約の話として、すでに陛下へはお父様から伝えている。それはしっかり聞いているから、間違いがない。でも、殿下の様子を見ていると、こちらの返事を聞いていないように感じて、問い掛けてみればこうだった。


「あぁ、聞いてないな。きっと今日のお茶会の予定を知っているから、僕には秘密にしていたんじゃないか…と」


なるほど。私はそう思ったけれど…大事なことなのに、本人だけが知らないってどうなの? と思ってしまっても仕方ない案件ではないか、と。


「……ご本人だけが御存知ない状況ですか!? ま、まぁ…私が伝えれば問題ないことですし、些末なことなのかもしれませんけれど。陛下も妃殿下も案外お茶目なのですね」

「お茶目で済めばいいんだけどね…。悪意なき悪戯…ってやつなんじゃないかな」

「それは…、なんて言えばいいのか」

「ふっ、慰めはいらないよ。で、本題だ。返事を聞かせてもらっても?」

「あ! はい、婚約のお話しですが、お受けさせていただきたいと思います。まだまだ至らぬ私ですが、王子妃としての学びをがんばってまいります。ジェイド殿下との関係も良いものとなるよう努力いたします。

どうぞ、よろしくお願いいたします」


 私は婚約の話を受けることにしたことを伝えた。殿下が私個人としては全く恋愛の対象外と伝えはしなかったけれど。友人としてはとても良い関係を築けていると思っているし、それで充分だろうとも思うから。

長く生きる為には、貴族としての生き方を優先するべきなのだろう、と。

それが精霊様の加護を得た者の有り方としては本当なら「ない」選択だけれど、今回のことは精霊様に気にしなくていいと言われた選択だから、私は貴族としての考え方を頭に入れた形での婚約を決めた。

でもそのことは、殿下にも家族にも伝えることはない。私が十七歳までに死ぬかもしれないという話をしないためにも、伝えないと決めたことだから。


「アイリス、僕と婚約をしてくれるんだね! ありがとう…。正直、自信がなかった。

もし、君が精霊様の加護のない令嬢であったら、王命ではなくとも断れないってことは充分知ってる。

でも、今の君は王命があったとしても、断ることが出来る立場だから、断られてしまうんじゃないかって…不安だったんだ」

「…お待たせしてしまいましたか?」


不安気な声で気持ちを伝えてくれた殿下に、申し訳ない気持ちを感じながら声を出せば、ゆるく頭を横に振る殿下がいた。


「そんなことはないよ。ただ、自信がないだけだから。アイリスは従者には親しみを込めた笑顔を向けるけど、同じ笑顔を僕には向けてくれたことはない。

まだまだ親しいというには、距離があるのかなって…」

「…アシュリーは、もう一人の兄のような存在なので、多分その違いだと思います。アシュリーには弟がいますし、私に対しても同じようなものだと思いますけど…」

「うん、それも分かってはいるんだ。勿論僕がアイリスと出会うよりも前からずっと一緒に過ごしてることも。だから、これは僕の我儘でもあるんだ。アイリスともっとずっと仲良くなりたい、親しくなりたいっていうね」


やっぱり困ったように笑いながら答える殿下だったけれど、でも少し頬は赤く染まっているようにも見えて、私も照れたように笑ってしまっていた。


「それでは、これから…今よりもっと仲良くなれるように、もっと親しくなれるように、お互いのことを知り合っていけばいいのですよね」

「! そ、そうだな。うん…よろしく頼む。……アイリスと婚約出来て、本当に嬉しいよ」


やっと安堵出来た、というように微笑んでいる殿下はいつもは凛々しいというのが似合う人だけれど、今はただ年相応の少年らしい笑顔に見えた。そのことに私はどこかホッとしていたように思う。


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