婚約 3
*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*
お父様と一緒に国王陛下からの招待を受け、第一王子殿下以外の王家の皆さんが揃う中、挙動不審になりそうになりながらも、がんばって陛下や妃殿下とお話しをさせていただくという非常に有難いような迷惑なような、貴重な機会を得た私は心臓に悪い思いをしながら必死にお話をさせていただいている最中なのであった。
「誰か助けてー!」と声を上げたいのは間違いなくあやめさんだ。でも、私はアイリスなのでそんなことしないけれど。
私は精霊様のことを聞かれた。そう、精霊様とお話しをすることになったあの領地でのことだ。
「精霊様に多分攫われたのだと思います。ラロック家の領館の敷地内にある湖に兄と一緒に行ったのですが、気付けば見知らぬ場所におりましたから」
私がそう言えば陛下も妃殿下もジェイド殿下も、大きく目を見張り驚きを隠すことはなかった。
「精霊様がそんなことをなさったのか!?」
「はい。精霊様は”僕の隠れ家”と仰っていたので。とても居心地のいいお部屋でした」
私はあの部屋を思い出しながら精霊様の様子を思い出していた。二十歳前後くらいの青年が間延びしたような口調で話す様も。だから、だろうか。気付かず口角が上がっていたのかもしれない。
「精霊様とお話しをして楽しかったのね」
ふと妃殿下にそう言われれば、そうだったのか、と感じたのだった。
「そうかもしれません。尊い御方なのに、とても親しみの持てる御方でした」
「そう。それならアイリスちゃんにとって精霊様は頼もしい味方だわ。事実そうなのだけれど、気持ち的にもね」
「そうですね」
妃殿下と言葉を交わしながら、そうか精霊様のこと好ましいと感じていたのか、と気付けたのだった。
精霊様に攫われた話では、三年前に領館の敷地内の湖に落ちてしまったことを話さないわけにはいかない為、お父様が三年前のことを陛下方に簡単に説明をしていた。それから、その時に私が横たえられていた場所以外濡れたところもなく、不自然な形で私が寝かされていたことも付け加えて。
そして、その時に湖から助けてくれたのが精霊様だったことを伝えた。
「つまり、領地へ戻ったから精霊様とお会い出来た、ということかな?」
陛下の素朴な疑問だろう言葉に私もお父様も頷いていた。
「はい、三年前に精霊様に助けて頂いた時からずっと精霊様が私を守ってくださっていたようです」
「なるほど。精霊様はどういう御方だったかな?」
「時の精霊様だそうです」
「時…、時の精霊様というのはとても珍しい御方だったな。精霊様方の中でも尊い御方だったはずだ」
そう言えば、精霊様がどういう属性なのかは最初に少しだけ伝えただけだった、と思い返した。それ以前に私自身が精霊様のことに詳しくないことも思い出していた。これから学ぶところだったというのもあるのだけれど。
まさか精霊様とお話しする機会があるとも思っていなかったし、加護を授かるだなんて想像外のことだったのだから、仕方ないことだと思う。
とりあえず…精霊様のことで知っているのは、一般的によく聞く火や水、風、土といった属性は広く知られているけれど、それ以外にも多くの属性があるらしい、というくらい。
私に加護を授けてくださったのは、時の精霊様。知らない属性だった。なので、私同様に知らない人がいても普通かな? と思っていたのだけれど…陛下は御存知のよう。初めて聞いた属性という感じでもない。
この後は精霊様についての陛下や妃殿下と話を少しした後、精霊様の加護のことで注意を受けることになった。これは私の身を守る為の注意なので、とても重要だと最初に言われた。
「今から伝えることは、精霊様の加護を授かった者にとってとても重要なことだ。王家と一部の臣下のみが知り得る情報だから、いくら貴族と言えども知られていない事になる。しっかりと理解してほしい」
「はい、陛下」
私の返事を聞き、陛下は頷いてから言葉を継いだ。
「精霊様の加護を授かるということは、精霊様に認められ、愛されているという意味になる。加護や祝福を授かる者に対して“精霊の愛し子”と呼ばれることもある。モンフレール王国では精霊様の加護と、祝福、それぞれ別のものとして扱っていることもあり、精霊の愛し子と呼ぶことはあまりない。理由は隣国のカラルナ国が分かり易いな」
「…カラルナと言うと、王家には必ず精霊様から祝福を受ける者がいるという…特別な方々がいらっしゃる…」
「そうだ。よく知っているのだな。カラルナ国の王家は必ず精霊様の祝福を受ける者が常にいる状態で、それが一人とは限らないという国としても民としても恵まれた状態だ。だからあの国は砂漠地帯でありながら、豊かな実りもあり決して貧しい国ではない」
「はい、周辺諸国のことを学んだ折に先生から教えていただきました」
「だが、精霊様の加護は祝福よりも国に与える影響が段違いに大きいのだ。たった一人の精霊様の加護を授かった者がいるだけで、その国は精霊様から多大な祝福とも呼べるだけの恩恵を受けることになる。ただし、加護を授かった者が心安らかに生活出来ているなら、という前提条件があるがな」
「…加護を授かった人が、心安らかに…ですか」
「そうだ。かつて他国で実際にあったことだが、この国限定のことではない。
精霊様の加護を授かった者が精霊様から受ける恩恵に感謝して穏やかに生活している状態だった。だが、それを自身の物にしたいと望んだ者が加護を授かった者を攫い、軟禁状態にしてしまった。
例えその軟禁状態にあっても贅沢な生活が出来るようにしたとしても、加護を授かった者が望まない状況であれば精霊様からの怒りを避けられなくなる」
「そ、…れは。もしかして、精霊様の加護を授かった人が心安らかな状態でなければ、例えその人の生活が誰が見ても最善だと、最良だと思えたとしても、ダメということでしょうか?」
「そうだ。精霊様はちゃんと加護を与えた者のお心やお気持ちを御存知なのだよ」
私は一体何を聞かされたのかな? と小首を傾げつつ考えているところだ。精霊様の加護がある者が本人の意思と関係なく贅沢だったり豊かだったり、とにかく恵まれていると考えられる環境下に置かれたとしても、本人の本当の気持ちがどうなのかを精霊様は御存知で、尚且つ守ってくださる…?
この後陛下が教えてくださったことに、正直なところ私はかなり驚いてしまったのだった。
なぜなら…。
「だからこそ、精霊様の加護を授かった者が望まない環境で生きていくことになったり、害されたりした場合は、その報復として精霊様は国に大きな影響をもたらすのだ。
己のみが豊かになりさえすればいいと加護を授かった者を攫い、軟禁し、精霊様の加護を己の為に利用しようと画策した者達は、どの国にもいて…精霊様からの報復を受けている。少なからず国にも影響はあった」
精霊様にとって大切な、加護を与える程に大事な人間に対して、その存在を丁重に扱えないのであれば、そんな国なんてなくなってもいいや! ということなのかもしれない、と時の精霊様のちょっと緩い話し方を思い出して納得してしまいそうになった。
いや、それダメでしょ!? 全然関係のない国民の大多数が大変な目に遭ってるじゃないの! ってことで、絶対にそう言う事にならないように努力をしなくては、と心に強く思うのに時間はかからなかった。




