精霊様の加護 12
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モンフレール王国の第二王子のジェイドは、王太子になるであろう第一王子のアレクシスと兄弟仲も良く、周囲にも「将来的には王太子となった兄の補佐をするのが目標だ」と言っている。
双方の兄弟が、それぞれの役割を果たすことで国を正しく豊かになるよう考えている。
そんなジェイドに、婚約の話が降って湧いたのはただの偶然ではなかった。
第一王子の婚約がまとまろうという状況にあることや、精霊の加護を授かった令嬢の報告があったことが何よりも大きな理由だろう。
「お相手の御令嬢は、父上の仰る良い報せに関係があるということでしょうか?」
「ジェイド、その通りだ。その御令嬢だが、ラロック伯爵の長女で末子だ。年齢もジェイドと同じだから釣り合いも取れる。何より、精霊様の加護を授かった御令嬢だ。我々王族よりも尊い立場にある」
「! 精霊様の加護ですか!?」
「そうだ」
国王から齎された情報は、確かに良い報せだった。けれど、ジェイドの婚約者が唐突に精霊の加護を与えられた者だと分れば、当事者たるジェイドも戸惑う部分もあっただろう。よもや自身の婚約者が国で一番尊い立場なのだから。
「父上…ラロック伯爵の御令嬢は、アイリス嬢…でしたか?」
「ジェイドは名前を聞いているのか? そうか、アレクシスからか」
「いえ、父上。私からはジェイドには伝えていませんよ。シトリンが嫌がりますから」
「アレクシスが違うというのなら、どこかで御令嬢と会ったことでもあるのか?」
ジェイドは国王に問われ、首を横に振ってから小さく息を吐いた。そして、自身の秘密を告げることにした。
「あの…僕は、時折夢で先の出来事を知らされることがあるのです。初めのうちは、ただの偶然だろうと思っていて、気にも留めていませんでした。実際に些細なことが多いので、誰に言う程の事でもなかったものですから」
夢で未来のことを知らされる。この世界では時折、そういう人間がいる。「夢見」とか「先見」と言われることのあるものだ。ただ、魔法のある世界にあってこの夢見は望んで見ることが出来るものではない為、ただ少しだけ未来を知る手立てが出来るだけであり、大抵は夢を見る本人に関わる些細なことばかりということもあり特別に重要視されるような事もない。
ただ、この夢見や先見と言われるものを手にした人間の意味はとても深いものがあるのだが、それは人間には知らされないことが多い為、軽んじられる傾向があるのだ。
「ジェイドは夢見だったのか。もしや、夢でアイリス嬢のことを知ったのか?」
「はい。アイリス嬢と一緒に過ごしている様子を何度か見ています。ですから、婚約の話をお聞きして、彼女と一緒にいる理由がやっと理解出来たところです」
「ん? 肝心な婚約のことについては夢では見ていなかったということか」
「はい。婚約した後のことばかりかと。アイリス嬢と一緒にお茶を飲んでいたり、彼女の従者のような者がいることも多いので、二人だけということはありませんでしたが。でも、王宮だったり、貴族邸の庭園らしい場所だったりで話をしていることが多かったです。話しかける時にいつもアイリスと僕が呼び掛けていたので、毎回目覚めるたびに婚約者か何かだろうか? と考えておりました」
「そうか。夢見が見る夢は正夢になることが多い。間違いなくアイリス嬢と婚約出来るということであろうな。これは僥倖! 精霊様の加護を授かった者は、その者の希望に添うよう国を挙げて守らなくてはならぬ。ジェイド、アイリス嬢をしっかり守っていくのだぞ」
「はい、父上。夢の通りの令嬢であるなら、互いに尊敬し合って手を取り合える素晴らしい令嬢でしょうから、必ず!」
彼の見た夢は、アイリスと定期的に行われるであろうお茶会での様子なのだろうと、夢を思い返しながらジェイドは思っていた。
特に大きな問題もなく、穏やかに交流している様子を夢に見ているだけだったな、とも。穏やかな夢を見ていただけだったが、懐かしい感覚や好ましい感情が伴っているものだったことに不思議に感じるのだった。
何より今までに感じたことのない不思議な気持ちを伴っていることも、だ。それは、心が優しい気持ちで満たされていたり、温かく感じたり、とても穏やかなものだったり、時に心が乱されるような瞬間もある、矛盾したような感情だとも感じていたからだ。
その後国王からは、アイリスに婚約の打診をすることや、精霊の加護を与えられた者への国の対応を伝えなければならない為、直接ラロック伯爵と国王が話をするということを聞き、その後婚約が正式に成立するだろうということも確認する形で、王家の家族会議のようなものは終了した。
この間会話にほぼ加わらず聞き役に徹していた王妃は、王子二人が退室してから口を開いていた。
「ねぇ、フランシス。アイリスちゃんはどういう御令嬢か聞いてる? 私はガーネットから手紙を貰っているからある程度知っているのだけど、まだお披露目されていないでしょう? 正直とっても楽しみなのよ」
「ははは、私だってアーネストから聞く範囲だけさ。でも…そうだな。夫人にそっくりな顔立ちらしい。将来は間違いなくとんでもない美人になるだろう。髪はアーネスト、瞳は夫人の色を受け継いだというのも聞いたな」
「まぁ! それは益々楽しみだわ! ジェイドと並んだらきっと可愛らしいでしょうね。早く婚約が調うと嬉しいわね」
「大丈夫だろう。ジェイドが夢見だというのも驚いたが、見た夢がアイリス嬢との良好な関係を築いているようだし、問題もないはずだから」
「私達には娘がいないから、本当楽しみね」
「全くだ」
実は娘を望んでいた国王と王妃は、二人の王子に恵まれたのは良いとしても、「娘…」と時折残念がっているのは、息子達には秘密にしているようだ。それでも、気持ちを切り替えて息子達の結婚相手に期待しているようで、義娘になるであろう将来の王太子妃や王子妃を今から期待するという有様であった。
「それにしても、精霊様の加護を授かる者が現れたとなると、色々と問題が起こるのだろうな…」
「そうね…。また記録に残されているようなことが起こっては、国が混乱に陥るでしょうから絶対にアイリスちゃんを守らなくてはね」
「精霊様の加護が強力なだけに、狙われてしまうだろうからな。最悪なことがあれば、この国も消えてしまいかねない。アイリス嬢には護衛も付けねばな。例えラロック伯爵が国の影を担う立場であってもな」
「国を守る立場からも、私達の家族になる御令嬢という意味でもね」
国を担う重責を負いながらも、国王は国の未来を明るいものだと信じて疑わない。そして、その隣に座る王妃も国王と同じビジョンを見、共に信じている。
今の国王の代になって益々このモンフレール王国は豊かになっている。かつて精霊の加護を与えられた者が弑された過去が、この国の代々の王の立場を「民の為、国の為、豊かであれ、栄させよ」と常に律していくことになった。
精霊の加護を与えられた者が害された場合、例え王が良い政治を行っていても、例え全ての自然現象が順調でも、例え周辺諸国と良好な関係が築けていても、全てが無に帰すほどの痛手が起こる事実が歴史の一点に記されている。モンフレール王国の汚点とも言える歴史的事実だ。たった一人の民を守れなかったことが、国が荒れる原因となったことを後に精霊から知らされたことで、代々の王達は精霊の加護を持つ人間の意味を知ることとなった。
そして、王家の人間は驕ってはいけない、民の為に生きるのが使命、王家の人間が生きていけるのは全て民のおかげ、ということを徹底的に教えられ育つのがこの国の王家の人間達だった。
精霊という存在は神の次に高位の尊い御方、というのがこの世界の理だ。その尊い御方からの加護を持つ意味は容易に想像出来る程の価値がある。
国に一人、精霊の加護を持つ人間が、心安らかに満たされた日々を過ごしていることに大きな意味がある。
どれほど飢饉であったとしても、戦乱の世であっても、王の治世が乱れていたとしても、不自然な程に安定していくのが精霊の加護の効果だ。
この世界で精霊様と仰ぐ国は少なくない。その為、必ずこの世界のどこかで、精霊に愛され加護を与えられる人間はいる。そして、そのような人間が国によって庇護されるのは、モンフレール王国に限ったことではないのだった。
だからこそ、どの国も精霊の加護を与えられた人間の価値も解っているし、その利用価値も理解している。もっと言うなら、その価値が邪魔になることも。
その為、時と場合によっては他国に精霊の加護を与えられた人間がいるのを知られないよう伏せられる。ただ確実に国を挙げて保護し、王家が後ろ盾にならなくてはいけないことは確かなことだった。
モンフレール王国国王に精霊の加護を与えられた令嬢の報告がなされ、その令嬢はまだ九歳と幼い令嬢であることから、真っ先に保護、そして後ろ盾になることを王家として表明する必要があった。
例え貴族家の令嬢であっても、平民よりは明らかに富める立場であっても、その内情などその家の者でなければ分からない。それに他家の支援を出来る程裕福な立場であったとしても、家で抱える自衛の為の騎士がどれ程の実力を持つかも、やはりそれぞれで違ってくる。
その為に守られ慈しまれなくてはいけないはずの精霊の加護を与えられた者が、守られないということになってはならない、というのが国の立場だ。
『汝、精霊の加護を与えられし者を護れ、慈しめ、そして尊べ。
さすれば彼の者が心安らかであり、生くる限り、彼の者が住まう土地は平安であり、和であり、富めるであろう』
嘗て精霊の言葉を受け取ることが出来た精霊の祝福を得た者が、王家にいたことがある。その時精霊から頂いた言葉がこれだ。
この世界は、神は身近ではない。けれど、精霊はとても身近な存在だ。だからこそ、精霊は人間達を慈しむ。そして、気に入った者がいれば祝福や加護を与えてきた。そして、彼らがこの世界の発展に寄与してきているのだ。誰も気に留めないようなささやかな発見や発明も、彼らのおかげ、ということが往々にしてあるのだが、そのことに気付いている者は少ない。
けれど、皆まで言わずとも誰もが知っているのは、精霊の加護を与えられるほどに精霊に愛される者は、この世界では奇跡に近い存在だということを。
今日はもう一話、投稿予定です
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