精霊様の加護 11
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モンフレール王国の王城へとラロック伯爵から国王宛の一通の書簡が届けられたのは、アイリスが精霊に攫われた日の二日後のことだった。
その書簡を受け取った国王が、精霊の加護を授かった民が現れたことに酷く喜んだ。しかもその精霊の加護を授かったのが幼馴染みであり、”要職に就かない”腹心の部下でもあるラロック伯爵当主の娘だという事実は、国王にとって僥倖とも言える出来事となった。
この国、モンフレール王国はこの世界では当たり前とされている精霊を神の次に尊い御方としており、精霊信仰はないものの、それに準ずるようなものを国民であれば誰でも持っている。
隣国の友好国の中には精霊信仰が根付き、精霊の祝福を王族の中の誰かが必ず与えられている、という国もあるがモンフレール王国ではそれほどの精霊への強い気持ちはないらしい。
ただし、稀に精霊の加護を与えられる者が現れることがあり、そういう者がいれば国が豊かになるため、王家が後ろ盾になることが義務付けられている。彼らの意に添わないことを強要することは国が荒れる原因となるため、徹底して国での保護、王家の後ろ盾、というのが必須となるのだった。
現在のモンフレール王国国王は、前国王の突然の崩御に、三十代前半で即位しており周辺諸国と比較すれば王としては若い。けれど国民に広く支持されており、立太子が決まっている第一王子も次代の王として期待されるほど優秀であると人気もある。また周辺諸国との関係も問題になるような火種もなく安定した状況であるため、国の運営については概ね問題もなく平和で暮らしやすいと言える国となっている。
現国王になってから外交努力によって、友好国と言える関係となった国も多々あり、国民からも、貴族からも現国王への不満は聞こえてこない状況だ。尤も完全な不満がない状況というものがあるわけではないのが、世の常である。
そんなモンフレール王国に精霊の加護を与えられた者が現れた、という報せは間違い様もなく国の安定を確約されること。そして、その加護を与えられた者が貴族であるというのは、国の保護も王家の後ろ盾も、平民に対するよりも圧倒的に言葉が通じ易いというのが、過去王家での経験則からの総意のようだ。
精霊の加護を与えられた者自身は、精霊に愛される者ということだけあり、誰一人として邪だったり、後ろ暗いところのない、清廉潔白な人物ばかりだった。けれど、彼、彼女らを取り巻く人々は別であるため、精霊の加護を理解していない人物から心ない言葉を投げかけられたり、妬み嫉みは当然のようにあり、最悪の場合には命の危険に晒されることすらもあった。そして、国の保護を悪用する者すらいたこともあったようだ。
しかし今回は、そのようなことを避けられる状況にある。国王の幼馴染みであり友人でもあるラロック伯爵の愛娘だからだ。
国内にある貴族達の派閥の中でも、王家派、貴族派、中立派とあるが、ラロック伯爵は中立派だ。けれど、ラロック伯爵の”要職に就かない”けれど、王城勤めという立場、そしてラロック伯爵の血筋は必ず王家の側近にはならないが、王になる者と幼馴染みとして幼少期から付き合いが始まる家系だった。特殊な家系が故に、王家との繋がりはモンフレール王国が出来た頃から始まっていると言われている。
が、今はそこは問題ではないので本題へ戻ろう。
国王には二人の子供がおり、二人共王子だ。王太子は第一王子が適任だと言われており、実際に優秀であり国民からの人気も高く、金髪碧眼の絵に描いたような王子様らしい王子だ。
第二王子も優秀だが、第一王子程ではないという評価ではある。が、兄弟仲が良い事もあり、第一王子が立太子した後は、王太子を支えていくという明確な目標を掲げている。これはこれで立派な王子らしい王子だ。
第一王子は、隣国のガリカ皇国の第二皇女を婚約者に、と絶賛求婚中。まだ十三歳という年齢だが、皇国へ訪問したさいに皇女に一目惚れをしたとかで、ずっとアプローチを続けているというほどの熱の入れようの為、国王も王妃も少々頭が痛いところはあるようだ。が、もし婚約が整えば、これ以上ない双方の国にとっての良縁を繋ぐ縁談でもあるため、どちらの王も将来的には上手くいくことを願っているようだ。
そろそろ皇女の気持ちも、傾いてきているという状況のようなので、第一王子と第二皇女の婚約は成立するはずだ。
すると、第二王子の婚約のことが期待されるようになる。つまりは、未来の国母にはなれないが、第二王子の王子妃としての立場を望む令嬢達が彼に集中するのが目に見える状況だろう。
現状、王家派に所属する家からの令嬢を婚約者に迎えるのが理想的だ。叶うなら貴族派は避けたい。第一王子と第二王子との対立に繋がっても困るからだ。王家派が無理なら中立派、というのが消去法で考えられていることだったが、その矢先のラロック伯爵の令嬢が精霊の加護を与えられたと連絡があれば、令嬢を保護、そして王家の後ろ盾の為という理由で、第二王子の婚約者に据えることが出来る、と国王はすぐに答えを出していた。第二王子と令嬢は同い年であり、王太子妃になるわけではないため家格的にも問題はない。ラロック伯爵は王国が出来た当初からの歴史ある由緒正しい血筋でもある。だからこその、僥倖なのだ。貴族派への牽制という大きな手として。
§
国王は書簡を読み終えると、すぐさま侍従に王妃の今日のスケジュール確認をしていた。幸いなことに王妃の予定は、午後に王宮内でお茶会があるだけで、その後は自由が利くらしい。国王も王妃も双方の執務の合間に話をするくらいの時間は取れそうだ。そう考えて、王妃に夕食前に少し時間が取れないか、確認をするよう侍従に命じた。
それから第二王子にも、同様に時間を作るよう連絡を入れさせた。
「さて…。まさか私の治世で精霊様の加護を授かる者、精霊の愛し子が出るとは思わなかったが…、しかし僥倖だ。ジェイドにも婚約者を決めることが出来る。しかも、アーネストの娘だからな…」
一人残された執務室で、独り言ちる国王に誰も諫める者はいなかった。
§
王家の四人しか立ち入ることのない、所謂家族として寛ぐ為に整えられている一室が王宮の一角にある。
そこに呼んでもいない第一王子もなぜか居合わせる形となったが、夕食前の僅かな時間を王妃と第二王子に話をするべく国王は二人を呼んでいた。
「父上、私だけ除け者とは酷いですね」
少し拗ねた口調にしてみせながらも、いい笑顔を見せていた第一王子、アレクシス・メカドルニア・モンフレールが口を開いた。父である国王のフランシス・メカドルニア・モンフレールは苦笑しながらも、悪かったと返した。
「フランシス、一体何を話してくれるのかしら?」
「ああ、先に君だけでも、と思っていたんだが…ジェイドの婚約のことなんだ」
「まぁ!」
王妃が国王の名を呼びながら、話をしてほしいことを示せば、第二王子のジェイド・メカドルニア・モンフレールが自身のことだとは思いもしなかったのか、きょとんとしていた。
「父上、僕の婚約…ですか? まだ兄上の婚約のことも確定していないではないですか」
驚きと共にそう言葉を漏らす九歳の少年は、ただただ自身の立場を兄の二番手としての自覚しかない、まだどこかしら幼い少年でしかなかった。
「アレクシスの婚約はほぼ決まるところまで来ているから、ジェイドの婚約者について考えてもおかしくはないさ。それに、今日はいい報せがあった」
国王の顔は、父親のそれから少しだけ為政者の顔を覗かせた。その様子に当事者として唐突に名前を出された第二王子は、まるであの時の夢のようだ、と思うのだった。




