精霊様の加護 10
*たくさんある作品の中から見つけていただいて、お読みいただきありがとうございます*
応接間に家族揃って移動し、人払いをした状態でお父様は応接間に結界を張っていた。会話が外に漏れないようにするためなのだということに気付いたのは、ずっと後のこと。
私は家族全員から注目されている状況で、居心地悪くて仕方なかった。
人払いをした、と言ってもアシュリーだけは別だった。少しだけだったけれど、私が精霊様のことを伝えていたことと、私の護衛兼従者という立場もあり私に起こった事実を知るべきだろうと、お父様が判断されたからだ。
§
「で、アイリスは精霊様に一時的に攫われていた、ということなんだね?」
「はい」
お父様は静かに私にそう確認をする。私はそれに頷きながら、肯定の言葉を返す。
「精霊様がアイリスを呼んだことについては、とても栄誉なことだから問題はないけどね。でも、ただ攫って話をしただけ、ということはないだろう?」
「はい。…えっと、精霊様が三年前の湖の事故で、私を助けてくださったと教えてくださいました」
お父様の問い掛けは続く。本当なら、加護の話をするべきなのだろうけれど、なんとなくすぐには言えなくて、とりあえず三年前のことを伝えた。
「!! それは…本当かい? それなら、精霊様はアイリスの命の恩人じゃないか! ああ、なんてことを…精霊様にどう感謝を伝えれば! それよりもどうお礼をすべきか!!」
三年前精霊様に助けられた事を知り、お父様は混乱した様子を見せたものの、感謝や礼を、と口にしたところで、お母様に窘められた。いつもなら冷静沈着なお父様が取り乱した様子を見せたことで、お兄様達もポカーンとしていた。私も例外ではなかった。きっと子供達全員が口を開けていたのだろう。
「あなた、落ち着いて。アイリス、三年前のことを精霊様は詳しく教えてくださったの?」
「はい、丁度精霊様が全部見てらっしゃったそうです。私が落ちる瞬間から、エディお兄様が私を助けようと手を差し伸べてくれていたことや、急いで大人の手を必要だと判断して屋敷に戻ったことも。その間に精霊様が湖に落ちた私を掬い上げてくださって、体調の悪化がないように祝福をしてくださったとも仰っていました」
「まぁ…!」
お母様に精霊様に伝え聞いた、自身の状況を話せば、いつもにこやかにしている美少女母も驚くしかなかったようだ。とても大きく目を見開いていたから、すぐに分かった。淑女な美少女母はいつも笑顔でいるのだから。
「そう…精霊様に祝福を受けていたのね…。だから、ずっと眠り続けているあなたが何も損なわれずに、元気に目覚められたのね…」
とても安堵したような笑顔を向けられれば、精霊様には本当に感謝する以外何もできないわね、と穏やかに言うお母様に私も頷いた。
それから、しばらくは三年前のことで私以外の家族が精霊様に感謝の気持ちを述べ合うという、なんというか…一種異様な宗教のような状態に陥ったことだけは、ここに報告しておこうと思う。
ただ、この後に私が避けられない話題を提供するに至ると、その雰囲気は霧散した。あっさりと霧散した。
「あの…お父様、お母様。精霊様のことで、まだ伝えていないことがあるのですが…」
「精霊様のことでかい?」
二人のみならず、お兄様達からも是非聞きたいという態度しか見られず、たまらず俯きそうになるけれど、なんとかそれを堪えて笑ってみせる。
「精霊様から加護を、授かりました…」
なんとか勇気を振り絞って、でも声は小さくなってしまったけれど、報告をした。
一瞬にしてその場が凍り付いたように固まったのが分かった。
アシュリーには精霊様のことは話した。でも、精霊様に拉致されたことだけだった。だから…加護のことまでは想像の範疇外だったというのは、表情が固まっているところから容易に理解出来た。
それは家族にとっても同様のことだったらしい。
「アイリス、聞き違いでは…ないかな? 今、精霊様から加護を授かった、と聞こえた気がするんだが」
「そう言いました」
「……はぁー。聞き違いではなかったのか……」
「大変なことになってしまったわ…」
お父様とお母様の様子から、精霊様の加護がとんでもないこと、というのは理解した。理解したけれど、どれ程の事かまでは理解出来ていない私は、二人をただただ小首を傾げて見つめるだけだった。
よくよく見ればエディお兄様も私と似たような顔をさせている。二人揃って「うーん?」と言った感じだ。
するとシトリンお兄様がエディお兄様と私に簡単に説明をしてくれた。
「精霊様の加護というのは、この世界で頂ける祝福の一種で、特大のモノだね。そして、精霊様から頂ける祝福の最大のモノ。
この国で一番尊いお方は、国王陛下だけど…精霊様の加護を授かった人というのは、その陛下よりも立場が上になるんだよ」
私達は二人揃って「え!?」と声を合わせてしまうくらいには、驚いてしまった。
「シトリン兄様、もしかしなくてもアイリスは陛下よりも偉いってこと?」
「…偉い、というのとは少し違う気もするけど、この国で一番尊い子になっちゃったかな」
そんな子供達の話を余所に、両親は私のことを国王へ報告しなくてはいけないから、とすぐにラロック伯爵として書簡を用意しなくては、という話になっているようだった。
ただ私は、精霊様と別れ際に伝えられた十七歳までに死ぬだろうと言われたことについては、伝えられなかった。三年前の湖転落事故で心配をかけて、今回もまた随分心配をかけてしまった。その上で死期を予告されただなんて…言い辛い。正直伝えるのが正解なのか、伝えないのが正解なのか、わからないでいる。
もし私が十年も生きられないと話してしまえば、きっともっと詳しく話さなくてはいけなくなると思うからだ。そうなるときっと、あやめさんのことや、あやめさんの記憶のことも話すことになる。なんとなくだけれど、それは避けた方がいい気がしてる。
でも、ずっと黙っていていいのかも分からない。しばらくは精霊様と相談して、家族に話していいのかを決める形でいいかな。
この日はお父様が書簡の準備をするから、と席を立ったところで家族会議は終わりになった。
でも、お母様やお兄様達から精霊様がどういう方なのかを根掘り葉掘り聞かれることになり、私はぐったり疲れてしまったのだった。




