フォードがラウカー寺院をスレーゼンに誘致する(2)
サーキスがさらに紹介を続ける。
「背が高い兄ちゃんはマシュー。こいつもギルから剣を習っている。お前、結構強い?」
「まだまだだよ。ギルの動きはちょっと見えるけど、全く避けられない」
「ふーん。見えるってのがすごいよな! 俺は全然見えなかったぜ! それから隣の、そばかすがチャーミングな女の子がクレア。賢者なんだって! どうやったらなれるんだ⁉」
明るい茶色のロングヘアの少女が話をずらすように笑いながら言った。
「私はそばかすがあんまり好きじゃないんだけどね」
それからサーキスはサフランと同じぐらいの背丈の丸坊主の子供を紹介する。
「レナード。勉強が好きらしい。アカデミックな男の子だな。しばらく、みんなスレーゼンの学校に通うんだよな。よかったなー! 俺は羨ましいぜ!」
「フォードさんのおかげだよ!」
「ケーキを作らなくていいのが最高!」
ラウカー寺院の子供たちは毎日、ケーキ作りをギルから命じられていた。生活のために仕方のないことだったが、労働から解放されてほとんどの者が喜んでいた。
「毎日毎日、パウンドケーキばっかり作らされてたんだよー! もうつらくて、つらくて…」
「俺はケーキの材料混ぜるの、腕が痛くて…」
「ライオンさん! ケーキが売れ残ったらそれがご飯で出てくるんだよー! もう最悪だよー!」
「私、食べ飽きてた…」
「ええー、僕は学校行くより、ケーキ作りの方がよかったなあ…」
育ての親のギルは娘を抱きながら苦虫をかみ潰したような顔をしている。サーキスがもう一人を紹介。やはりサフラン、ジョセフと同じぐらいの年齢の少女だ。
「ポーラ。魔法使いだ。レベル二の魔法使いの呪文が使えるらしい。育ての親が聖騎士なら僧侶か戦士になるのが普通だろうけど、なんで賢者とか魔法使いがいるんだ⁉ すっごい謎だぜ!」
ポニーテールのポーラはただ笑うだけだった。
「うふふふー!」
「それからギルが抱っこしてる女の子がカシミアだ」
ベビー服に包まれた女の子はご機嫌なようすで笑っている。それを見てリリカとパディが喜んだ。
「かわいいわよねえ!」
「ギル君たちの子供さんと会えて嬉しいよ!」
サーキスは今度は病院側の人間を紹介する。
「絵本でも見たと思うけど、カカシのリリカとブリキの木こりのパディ・ライス先生だ。それと俺は弱虫ライオンのサーキスだぜ。そして俺はもう僧侶じゃないぜ。現在の俺の職業は農家兼、看護師、医者見習いの僧侶もどきだ。
俺がパディ先生の手術をするために刃物で先生を切った。それでもう僧侶としての能力が激減したぜ。みんなは真似したら駄目だぜ」
全員が沈黙して一気に周りの空気が悪くなるのがわかった。おかっぱのサフランだけが口を開いた。
「ライオンさんはもう呪文は使えないのー?」
「いや、使えるぜ。呪文の回数が半分になってもう新しい呪文を覚えることができなくなった。俺はこのことに後悔してない。パディ先生は心臓が悪くて死にそうだったからな。俺が心臓まで開けて治した。俺は命の恩人なんだからパディ先生はもうちょっと弟子の俺に優しくしないと駄目だぜ」
「いーや、そうはいかないね」
「ふーん。せっかくだからもう一つ説明しておくけど、パディ先生は俺が手術したけど、やっぱり心臓が完全とは言えないぜ。普通の人より心臓が弱い。だから驚かせたりしたら絶対に駄目だぜ。後ろを向いてる先生を呼ぶ時は『パディ先生ー』って小声で呼ばないと駄目だぜ。このおじさんをビックリさせたらショック死するかもだぜ。そんなふうになったらもう呪文なんかじゃ生き返らないぜ」
子供たちが関心したように言った。
「だからブリキの木こりなんだ!」
「命が欲しい木こりさん!」
「あの絵本ってそんな意味があったんだー!」
ここでミアがサフランをしつけるように言った。
「サフラン! 先生を脅かしたら絶対に駄目ですからね!」
ギルも同じく声を高くして言う。
「お前、絶対にドクターを脅かすなよ! 殺人になるぞ! ドクターがいなくなればここら一帯の医療は崩壊するぞ!」
「ヒヒヒー!」
いたずらっ子のサフランの顔は危険な臭いしかしなかった。
リリカが付け足すように言う。
「それとみんな。フォードさんだけど、あの人は自分の髪の毛を命の次に大事にしているの。面白そうだからと言って絶対に抜かないこと。お願いよ」
やはりギルとミアが焦ってサフランに注意する。
「サフラン! お前、フォード氏の髪を絶対に抜くなよ!」
「そうですよ! そんなことをしたら次の日から私たちはお外で生活しなくてはならなくなりますよ!」
考え込んでいるサフランに眼鏡のパディは顔を輝かせた。
(サフランがフォードさんの髪の毛を抜いたらきっと面白いことになるぞ!)
パディが言う。
「サフラーン? 絶対にフォードさんの髪の毛を抜いたら駄目だよー? プッツン、プッツン。こうやって後ろからそーっと近寄ってフォードさんの髪の毛をプッツン! 絶対に駄目! 指でバーコードハゲをつまんでプッツン!」
サフランが面白がって髪の毛を抜く真似を始める。
「プッツン、プッツン!」
いやらしい顔のパディがサフランと一緒に「プッツン、プッツン」と喜んでいる。
一同は思った。
(なんかサイテーなお医者さんだな…)
(すごい先生って聞いたけど話と全然違うなあ…)
(精神年齢、低くない…?)
(私たちに野宿しろって言うのかしら…)
(私、病気してもここの病院にはかかりたくないな…)
(先生、俺は猛烈に恥ずかしいぜ…)
パディとサフランは親指と人差し指で空気をつまみながら「プッツン、プッツン!」と楽しそうに声を合わせている。そこにリリカが声を荒げた。
「みんな聞いて!」
パディとサフランの動きが同時に止まる。
「抜けてしまった髪の毛も止まってしまった心臓も決して元に戻ることはないわ! 心臓も髪の毛も同じ生きた命! パディ先生を驚かせても駄目だし、フォードさんの髪の毛を抜いても絶対に駄目よ!」
そして落胆したパディが言った。
「あんなブサイクなおじさんの髪の毛と僕の心臓を一緒にしないでよ…」
一同は大笑いした。