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フォードがラウカー寺院をスレーゼンに誘致する(1)

 パディの手術が終わって二週間ほど経った頃の話。

 フォード不動産の事務所の中央で、バーコードハゲのフォードがスレーゼンの地図を凝視しながら独り言を言っていた。


「この街には絶対に医療に興味がある僧侶がいるはずだ! 呪文なんかで腹の中の痛みは収まらないからな! そいつらをどうにか探せないものか! そしたらそいつらをここら近辺の病院に派遣して…。


 どうせ、医者はヘボばかりだが。僧侶が透視して病気を見つけてもまず治せまい。よその病院から患者をすぐにパディちゃんの所に届けるようにすれば、街の労働力が失われずに済む。街の人間がもう少し医療を信じて健康について考えれば生産性はもっと上がるもんだ。するとワシの元にさらなる金が舞い込んで来る!


 最終的に国全体の病院に僧侶の派遣をすれば強制的に医者どもはさらなる高みを目指さないといけなくなる…。パディちゃんに弟子入りする奴も少なからず現れるだろう。しかし…」


 フォードは地図に載ったカスケード寺院に鉛筆で力強く×印を書きなぐった。

「こいつが全てを邪魔をする! カスケード寺院が! カスケード寺院が! カスケード寺院が!」

 フォードはカスケード寺院に×の字を何度も何度も書きなぐる。


「くそじじい! ミッド・バーツ・カスケード!」

 ガンッ!

 フォードは椅子を思い切り蹴った。

「足が、痛い…」

「フォードさーん」


 フォードが入り口を見ると知らぬ間にサングラスの男が部屋に勝手に入り込んでいた。従業員のフィリップだ。

「貴様、また音もなく忍び込んだな! それから社長と呼べ!」

「フォードさんのいいところをまた見ちゃったー! 社長は俺の中でどんどん印象が良くなりますよー」


「うるせえーっ! 全てワシは金のためにやっているんだ! 目先の金を手にするより、ちょっと寝かせた方がより太って戻って来るんだよー!」

「はいはい。馬車が来ましたよ」

「さっさと言え」



 外は雪は降っていないがまだまだ寒いこの時期。今日、フォードは隣の国、イステラ王国まで訪問する日だった。目的地はラウカー寺院。乗り飽きた馬車に揺られながら、道中居眠りしてフォードは退屈な車内をやり過ごした。

 馬車が通行不能な悪路まで来るとフォードは渋々、下車して一人自らの足で孤児院まで歩いて行った。


 ラウカー寺院への二回目の訪問。フォードは玄関で友達でも呼ぶようにギルを呼んだ。

「ギーリウスー? いるーーっ?」

 玄関が開くと黒い髪に青い瞳。スラックスにセーターを着込んだギルが現れた。そのヤブにらみの目ははっきり言って人相がよくないが、本人も周りも気にするところではなかった。そんな彼が目を大きく見開いて驚いた。


「おおー! ミスターフォード! この前はあんなに金を貰って! 感謝するぞ! で、今日は何用だ⁉」

「ふふーん。単刀直入に言う。お前さん、スレーゼンに引っ越さない? 孤児院ごとね。子供たちの養育費はワシが援助する。住む家もワシが用意する。家賃を少し払ってくれるだけでいい。


 あのねー…。サーキスがパディちゃんの手術をやって、サーキスの呪文の回数が減ったみたいなのよ。リリカちゃんから聞いたんだけど、サーキスが言うには自分はもう僧侶じゃないって。それで病院にサーキスだけじゃ心もとないから、リリカちゃんからギーリウスをスレーゼンに呼んでくれって頼まれちゃった。


 お前さん、病院で働いてくれない? あの貧乏なお医者さんにはお前さんの給料を払えそうにもないから、ワシがお前さんを雇うよ。フォード不動産からライス総合外科病院へ出向だ。


 ワシのメリット? …慈善事業で孤児院を面倒見てるっていうアピールと税金対策かね。それとお前さんはかなり腕が立つらしいじゃないか。ワシのために剣を振ってもらおうかね。それと誰か死んだら蘇生も頼みたい。ギーリウスはスレーゼンに来たらワシの配下だな。

 あー、それとあっちに行けば子供たちに質のいい医療を受けさせてやれるよ。あのチュルチュル眼鏡ので良ければね」


 ギルがそこまで話を聞いているとフォードは(きびす)を返した。

「考えておいてね。また来る」

「もう帰るのか⁉ …いや、もう来なくていい! 次はこちらから顔を出す! 願ってもない! 子供たちもあちらに住みたいと言っていたところだ! 嫁さんもきっと賛成するはず! 今日はあんたにわざわざ出向いてもらって申し訳なかった!」


「そうかい? 今日は来てよかったよ。それとね、パディちゃんは元気だよ。手術、協力してくれてありがとう」

「それも聞こうと思っていた! リリカの手紙でもドクターが全快したと書いていたが、方便だったらどうしようかと思っていた!」


「死にそうだったろ? 手術が終わってあいつは咳一つしなくなったよ。あれから熱があるとだけ言って普通に仕事をしてたんだぞ、たまげたぞ。腰を抜かしそうになった」

「ドクターの顔が見たいな…」

「あー、近いうちにおいで」


     *


 家族との会議でスレーゼン行きがあっさりと決まった。住む家もフォードから用意してもらい、皆が引っ越し準備に勤しむ。

 フォードがギルを訪ねて一月半が経ち、孤児院の全員がスレーゼンの新居に揃う。そしてライス総合病院へギル一家が挨拶へとおもむいた。


 最初に声をかけたのは金髪でツインテールのリリカだった。

「ようこそ! いらっしゃいギーリウス!」

「ああ。これから厄介になる。よろしく頼むぞ」

 ギルの妻、黒いロングヘアのミアがリリカと握手を交わす。


「リリカさん、お久しぶりです! よろしくお願いします。これからの生活が楽しみです!」

 待合室で笑顔のリリカの前にラウカー寺院の子供たち全員が並ぶ。ギルは一歳になる娘を腕に抱えながら、金髪のサーキスとパディ・ライスにも握手をする。


「みんなも歓迎するわよ! えっと…、ジョセフとサフランは知ってるけど…」

 黒髪でおかっぱのサフランに、明るい髪のジョセフ。それに十歳前後の男女が二人。そして少し大きな少年少女が一人ずつ立っている。サーキスが紹介した。


「おかっぱのサフランは先生たちも知ってる通り僧侶だ。天才だぜ。将来有望だ。ジョセフはギルから剣を習っている。動体視力がいいみたいだから将来、めっちゃ強くなりそうだぜ」

「ライオンさん、よろしく! 木こりさんもカカシさんも!」

「よろしくね、サーキスさん!」

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