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失恋した女の子を慰めた話

作者: aiku

「なんで、なんでなんだ…」


学校の屋上に座りながら現実を直視できず、不満の声だけが空間に木霊する。


「勇くん、なんでなの…」


俺の横では久世有栖が泣きながらうわ言のように呟いている。


俺たちは絶賛失恋体験中だ。お互いの好きな人が付き合わないよう、色々な手を使い自らに意識を向くよう協力していた。

しかし、俺たちの願いは叶わず、俺の想い人である柏木奈々さんと有栖の想い人の春山勇は本日をもって恋人同士になった。


今までの努力が水の泡になったことで、お互いの溜め込んでいた思いが爆発していた。しかし、言ったところで現実は変わらない。

そんなことに何となく気づいたのか、俺も有栖も段々と口を閉ざしていく。

お互いが何も言わなくなった頃、気まづい空気だけが俺たちを取り囲んでいた。


「「…」」

「あー、とりあえず飯でも行って愚痴でも言い合うか?

今日は俺が奢るよ」

「…そうする。」


2人で並びながらファミレスへ向かう。横に歩いている有栖の姿を見る。いつも気が強く、あまり落ち込まない彼女とはうってかわって花が枯れたように萎れてしまっている。

俺が失恋するのは仕方ないと思っていた。顔も普通だし、奈々さんには見合わないと思っていた節もある。でもまさか有栖までとは。


有栖は可愛い女の子だった。肩にかかるくらいの短めの髪。少しつり目だが、二重でパッチリとしている眼。あまり存在を主張しない鼻もしっかりと高い。

性格も、強気で少しトゲトゲしている印象がある分、素直になった時のギャップが凄く魅力的に見える。


ファミレスに到着し、席に座り話をする。


「ずっと好きだったの」

「言ってたもんな、長い片想いだって」

「うん。勇くんのために苦手だった化粧も料理とかも色々勉強したんだけど無駄になっちゃった。せっかく夕と好かれる方法を考えたのに」


勇のために学んだ化粧の効果で、有栖は以前よりもさらに綺麗になり続けていた。

こんな娘に好かれているのに見向きもしないなんて腹立たしいやつだ。


ここで無駄じゃないというのは簡単だが、それは何か違うような気がする。


「まあ、確かに勇のためだけだったら無駄だな。」

「っ!そんなこと言わなくて良いじゃない!」


睨みつけるようにこちらを見る有栖。そう言われると思っていなかったのだろう。


「でも、勇と付き合えなかったとしても今まで努力して綺麗になった有栖は残るよ。誰よりも近くでその努力を見てきた俺が断言する。失恋はしたけど前よりすごく魅力的になってるし、その有栖を見てくれる人は必ず存在する。」

「き、急に何よ、気持ち悪いわね」

「まあ確かにキモイな。でも今言ったことは覚えとけよ。

今までこんなに頑張ったんだ、その成果はちゃんと出てるんだよ。」

「あ、ありがとう…」

「おう、じゃあそろそろ行くか。」


そう言いお会計を済ませる。外に出ると彼女は目を伏せ下を覗きあまり目を合わせようとしなかった。何か考えることがあるんだろうなと勝手に納得し、声をかける。


「じゃあ、帰ろうぜ。家まで送るよ」


こくりと頷き歩き始める有栖。まだ本調子では無いが、ファミレスに向かっていた時よりは元気がになったように感じる。


「悪かったわね、私の話だけ聞いてもらって。」

「いいよ、ここまで一緒に頑張ったパートナーだろ。」

「パートナーなんて嫌よ。恥ずかしい。」

「戦友に対してなんて言い草だ。」


いつものようにお互い軽口を叩き合う。毎回毎回俺がやられる側なのもすっかりと慣れてしまった。


「まあでも少し寂しい気もするな」

「寂しいって何がよ?」

「いや、この関係も終わりだから関わることも少なくなるだろうしなって」

「終わりか…そうね、もう話す意味もないしね」


思い出すように呟く有栖。元々好きな人同士をくっつけないようにと生まれた繋がりだ。目的がなくなったなら一緒にいる理由も無くなってしまった。


そんな話をしている間に彼女の家に着いた。作戦会議をしたあとはいつも彼女を送っていたが、これも最後だろう。そう思うと少し名残惜しくなる。しかし、サッパリとしている彼女のことだ、明日には俺がいない日常にすぐ順応するのだろう。

すこし寂しく思いながらも別れを告げる。


「じゃあな、今までありがとうな。忘れるなよ。勇と付き合えなかったとしても今まで頑張った分、有栖は魅力的で最強だ」


そう言い、帰るために振り返ると後ろから焦ったような声が聞こえた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ

別に何も無くても話しかけてきていいんだからね。」

「あんたといる毎日も少しは悪くなかったんだから。」


輝くような笑顔でそう言う有栖。涙が流れた跡は残っているが、それを気にさせない。日差しがパッと差し込んできたような笑顔だ。


「ははっ、少しかよ。」


吹っ切れたようなその笑顔に思わず安心し、笑い声が漏れる。

そんな顔にできるような手伝いが少しでもできたなら、この時間は報われたな。


「明日からは次の相手を見つけるのを手伝いなさいよ。夕がそういう人はいるって言ったんだから責任を取りなさいよね。」

「うわ、余計なことを言っちまったか。」

「そうよ、言ったからには見つかるまではずっと横にいてもらうんだからね!」


そう言う彼女は今まで見た中でも1番魅力的な姿をしていた。

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