8.中二病、仕立てられる
【中二病あるある】
コートが好き。
フード付きパーカーも好き。
アラクネ。
上半身は美女、下半身は蜘蛛の、ファンタジーではド定番の魔物の一つだ。
糸を手繰ることにかけては他の追随を許さないとまで謂われる種族らしい。
虫が苦手すぎる私は、どんな人が来るのかと身構えていたんだけど。
「連れてきたわよ」
「ご苦労さまです。お待たせいたしましたクローナ様。こちらが魔族一の裁縫職人、アラクネのスーリャです」
「どーも」
また中学生っ娘だ。
アリスやルナとは違った、ボーイッシュでクールな印象の女の子。
「失礼ですよスーリャ。クローナ様を前にそんな態度」
「うるさいなぁ。ボクは仕事をしに来ただけだよ。で?ボクは何を直したらいいの?」
「あ、うん。このコートなんだけど。直せるかな?」
「バカにしてるの?ボクは魔族一の裁縫職人だよ?」
「す、すみません」
「フンッ」
ツンツンしてる。
私なんかしたかな…
「さっさと終わらせるから部屋を借りるよ。仕事中は絶対に入ってこないでよね。集中したいんだから」
「う、うん。よろしくねスーリャちゃん」
「ちゃん?!」
「ゴメン!馴れ馴れしかった?!」
「フンッ!!」
頑固一徹の職人って感じだな。
もしかして、あんな安物を直してもらうために呼んだから怒ってるのかも。
あとでお菓子でも持っていこう。
――――――――
スタスタ…バタン。
「っあああああ〜〜〜〜!!♡クー様…本物だぁ〜〜〜〜!!♡♡♡」
スーリャはコートを抱いたまま床を転がった。
「クー様クー様クー様ぁ!♡カッコいいカッコいいカッコいい〜〜〜〜!!♡♡♡顔好き!!♡髪キレイ!!♡声ステキすぎるよ〜〜〜〜!!♡♡♡名前まで呼ばれちゃって…これってもう相思相愛ってことだよね!!!♡♡♡うあぁ、変な態度執っちゃったぁ〜!大丈夫だよね?!嫌われてないよね?!」
なんてことはない。
彼女もまた中二病の王に魅了された者の一人だというだけのことだ。
「クローナの、クローナ様のお召し物〜♡スンスンスンスン、んはぁぁぁぁ!!♡王様の匂ひい〜〜〜〜!!!♡♡♡クローナ様のお召し物ボクが直せるなんて…よしっ!気合い入れるぞ!」
――――――――
「ほら、出来たよ」
「はっや!!全然時間経ってないよ?!」
「ボクを誰だと思ってるのさ。いいからさっさと着てみなよ」
「う、うん」
ん?なんか軽い?
それになんだか快適な気がする。
「はにゃあ〜♡クローナ様ステキです〜♡」
「クロ様カッコいいよ〜♡」
「フ、フン。ボクが仕立て直したんだから当然だろ」
(はわわわわわ!♡クー様こっち向いて〜!♡)
似合ってるって言われるのも微妙な気分だけど、これも青春の思い出って考えれば……うっぷ、無理だな吐くわ。
直してくれてありがとうだけど、もう脱いでいいかな。
「む」
「んぁ?」
「どうしたの二人とも?」
「城に侵入者のようです」
この城お客さん多いね。