19.中二病、吼える
【中二病あるある】
その時のノリで設定を考えるので、最強の自分は完結しないし、ずっと最強の自分を求め続ける。
一瞬で何も無くなった。
みんなが倒れた。
私のくだらない妄想のせいで。
「さすがはクローナ様の愛機。人類の叡智を以ってして、完成に至ったのはこの機体のみですが。フフフ、なんと他愛無い。私たち人類はこれほどの者たちに拮抗していたとは」
私がみんなを。
私が。
「今、あなた様をこの手に」
膝から崩れ落ちる私に前脚が伸びようとしたとき、突風が獅龍機神を押し返した。
「薄汚い脚で、クローナ様の御身に触れるな……!!」
「アリス……」
あんなに強いアリスが傷だらけに……
「クロ様の視界に入ることすら烏滸がましいのよ……!!」
「その汚い口を閉じなよ、人間の女王……!!」
「クローナ様の前で恥をかかせた罪も込めて……!!」
「その玩具ごとぶっ潰して差し上げますわ……!!」
「覚悟するでござるよ……!!」
みんな……
「魔族と人類……全てを賭けた戦争だ!!」
「私こそがクローナ様の寵愛受けし唯一!! 雑多は消えなさい!!」
こうして、長く続いた人と魔族の戦争は、その最後の火蓋を切って落とした。
住民の避難と防衛はベアトリクスが。
ドラゴンの姿になったルナが空から炎を吐いて、ミルクちゃんが銃火器で後方支援。
アリスとアスカが絶え間なく接近戦を挑みつつ、スーリャとゼロが要所要所で的確に攻撃を叩き込む。
もうとっくに目で追うことは出来なくて、音と光と衝撃が後からそれらを認知させた。
私は何も出来ない。
ただみんなが戦ってるのを、倒れていくのを見てることしか。
「はああっ!!」
「そんな剣が効くはずないでしょう!!」
「っ!! 混沌の十三剣が通らない程の堅固な装甲……!! これがクローナ様の……!!」
「あなたたちが到達することの出来ない境地!! これこそがクローナ様の最強!! 私こそが真なる理解者!!」
「そのクローナ様を処刑しようとした蒙昧な愚王が、言うに事欠いて理解者とは片腹痛い!! 身の程を知りなさい!!」
「ッ!!」
アリスが押し勝った。
剣一本で、すごい。
「くっ、さすがクローナ様の愛機……私では長く操縦することが……しかし、クローナ様のためならばこの命、惜しくはありません!!」
「それはこちらとて同じこと!! ミルクティナ!!」
「いいんですのね……どうなっても、知りませんわよ!!」
ミルクちゃんが何かを投げ…………えええええええ?!!
「あ、あれは……ゴゴゴ、ゴッドエクスカリバー?!!」
ででで出たーーーー!!
100均ーーーー!!
「で、でもたしか壊れたはず……」
「僭越ながら直しましたわ!」
すっごいね……
いや、おもちゃ直しただけか?
「ただ、やはり完全にとはいかず……一振りで銀河一つを斬るのが関の山……。本来の性能の1%も再現出来てはいませんわ」
オーバースペック。
「あの紛い物では一撃が限界ですわ」
「構いません。この一撃に全てを賭けます。魔族の未来を。クローナ様の愛を。白亜の剣王、アリス=ベルセリオン。クローナ様に栄光と勝利を!!」
「その意気や良し……ならばこちらも全力で相手をしましょう」
獅龍機神が人型に変形した……
なにあれカッコいい……
「先ほどの超神星核撃とはわけが違うわ。この銀河さえも焼き尽くし滅ぼす。虚無の世界で私はクローナ様と新たなる時代を築く。そこにあなたたちは要らない!!」
「はああああ!!」
「やああああ!!」
規模が大きすぎるしツッコミどころも多すぎるけど……
「全部……私が中二病だったせいだ……」
みんなが必死になってるのも、傷付けあってるのも。
私の妄想がみんなを……
そんなとき、私の足元にそれは落ちてきた。
真っ黒なノート。
全てのきっかけである聖典が。
拾い上げた私の耳に、声が届いた気がした。
それでいいのか、って。
ただの幻聴。ただの妄想。
でも、勇気を出すには充分だった。
責任は取らなきゃいけないよね。
「黒白聖光一閃!!」
「滅神星龍核咆哮!!」
これが漆黒の剣王、クローナ=ダークネスノヴァの最後の中二病だ。
私はこれ以上無いくらい大きな声を出した。
「鎮まれーーーーーーーー!!!」
そう、声を出しただけだった。
あわよくば二人とも止まってくれればいいなとは思ってたけど。
「クロ様が……」
「二人の必殺技を、掻き消した……」
…………いや、違うよ?
よくわからないけど、二人の力が拮抗して打ち消しあっただけだよ?
「これが、母上の本気……」
「もしかしたら……私たちは、クローナ様の御力の片鱗すら気付いてはいなかった……?」
違います本当に偶然なんです。
とはいえ二人が、そして戦いを見守ってた全員が、突如として訪れた静寂に息を呑んだ。
「クローナ様……」
剣が砕け、機体がオーバーヒートする。
もう今、言いたいこと言っておこう。
「このような戦いに何の意味がある!! 人、魔族、共にこの星に生きる尊き命ではないのか!!」
「し、しかし……」
「相容れないからこそ、私たちは……」
「相容れぬのではない!! 貴様らはまだ互いを知らぬだけだ!! 花が咲けば心穏やかに、美味なるものを囲めば笑顔になる!! それは誰もが同じこと!! 何かに夢中になり、人を愛し、敬う!! そこにどのような違いがあるというのだ!!」
私は黒の章を高く掲げた。
「争いに意味は無く、戦いにもまた意義は無い!! これ以上血で血で洗うことを望むのならば、この我を踏み倒してからにするがよい!! 我こそは開闢と終焉を告げし全能の王、クローナ=ダークネスノヴァ!! 偉大なる我が名に臆さぬ者のみ、その刃を振るえ!! 貴様らの怒りを、憎しみを、我が全て呑み干してくれるわ!!」
言った。
言ってやった。
私はやった。やらかした。
立ってるのがやっとのくせに。
今にもおしっこちびりそうなのに。
ああ、でもこれで終わる。
クローナはただの偶像だってことがバレて、私は殺される。
全部私が撒いた種。
恥ずかしくてもどかしかったけど、ほんの少しだけ楽しい思いも出来た。
あの頃なりたかった自分になれたんだから。
ありがとうみんな。
ありがとう私の黒歴史。
私を王様にしてくれて。
そして、さようなら。
私は満足げに目を閉じた。
14:30
最終回、公開します!