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25 新婚旅行

「カリンバルに着いたよ」


「うわぁ、本当に暑いですね」


 三日の船旅を経て、私達はカリンバルの地に降り立った。カラッと照りつける太陽が、シャルゼとは全く違う国なのだとわかる。


「さあ、行こうか」


「はいっ!」


 私は夢の地に降り立った。本当に来たんだ!それもこれもイザークが友好条約を結んでくれたおかげだ。


「イザーク様、ありがとうございます。昔からの私の夢を叶えてくださって」


 改めてお礼を言うと、彼はニコリと嬉しそうに微笑んだ。


「俺はリディアのためなら何でもできる」


「ふふっ、そんなこと言ったらこれから我儘いっぱい言うかもしれませんよ?」


「ああ、望むところだ。妻の我儘を聞けないなんて夫失格だからな。何でも遠慮なく言ってくれ」


 至極真面目な顔でそう答えるイザークを見て、本当に彼なら何でも叶えてくれそうだと思ってしまう。


「ずっと私のそばにいてください。それが一番の我儘です」


「リディア、そんな可愛い事を言われたらホテルに籠りたくなる」


「駄目です!いっぱい行きたいところがありますから、時間が勿体無いです」


「ちぇっ」


 彼は唇を尖らせて拗ねたような仕草を見せた。子どもっぽいその態度も全てが愛おしい。彼は品行方正な紳士であったり意地悪な色気ダダ漏れの男だったり……子どもっぽく可愛いかったりと色んな面を見せてくれるのが嬉しい。




 ちなみに船の上では宣言通りたくさん愛された。豪華客船の中は、高級ホテルのようだった。海を見ながら食事が楽しめて、ダンスホールもあり……船というのを忘れてしまいそうなほどだった。


『わあ、綺麗な夕日ですね』


 オレンジに染まる海を眺めるために、二人でデッキに出た。美しい夕陽がゆっくりと海に沈んでいく様子は芸術的な美しさだ。


『ああ、綺麗だ』


『私こんな綺麗な夕日初めて見ました!』


 隣に顔を向けると、彼はじっと真っ直ぐこちらを見つめていた。


『夕日に照らされたリディアが最高に綺麗だ』


『な、なに言ってるんですか』


『本当のことだ』


 そう言って私の頬を包み込んでちゅっ、と触れるだけのキスをした。


『そ、そ、外ですよ』


 私が小声で抗議すると『みんな夕日しか見てない』と言われ……それもそうかと納得してしまった。そして夕日が完全に沈んで夜が訪れる瞬間に、今度は深くキスをされた。


 それはこのまま時間が止まればいいのに、と思ってしまうくらい素敵な口付けだった。


『大丈夫、暗いから見えない。続きは寝る時に』


 なんて困ったことを言うものだから、船の上での美味しい食事も味がよくわからぬままドキドキして過ごす羽目になった。


 普段より狭いベッドは私達の距離を近づけ、いつもより密着して寝ることになる。非日常な海の上……というシチュエーションも相まってか、かなり盛り上がってしまった。そんな日が二日続き、昨夜は今日に備えてなんとか早く寝たのだった。


 






 カリンバルの方達はみんな開放的だ。暑いからというのもあるだろうが、服は男女問わずお臍や足が出ていたりシースルーの素材を着ていたりとかなり刺激的な格好だ。だが、それがいやらしくなく褐色の肌によく似合っている。そしてキラキラした装飾や派手な明るい色の服が多いのも特徴のひとつだ。


 シャルゼとは全く違う装いを目の当たりにして、私は目を輝かせていた。小説で読んだ通りの格好だわ!凄い。


「先に服を選びに行こうか。今着ているものはホテルに送ってもらおう」


「はい」


 彼等と同じような服を着るのはかなり勇気がいるが、カリンバルの文化を尊重したいし近付きたい。


 イザークははぐれたら大変だから、と私の手をしっかりと握り服屋さんに連れて行ってくれた。


【すまないが、彼女に今流行っている服を何着か着せてくれないだろうか?彼女もカリンバル語を話せる】


【まあ、イザーク様!お久しぶりですね。こちらに来られていたのですか?】


【ああ、今回は()と新婚旅行に来たんだ】


 どうやらこの店は彼が行きつけだったようだ。なかなか高級店に見える。そして……彼はわざと()という箇所に力を入れて話している気がする。きっと夫婦だとアピールしたいのだ。


【まあ!イザーク様ご結婚されたのですか?おめでとうございます。こちらの可愛らしい方が奥様なのですね。素敵です】


【ああ、そうだ。このとても()()()女性が俺の()だ】


 ニコニコとしながら店員さんが気を遣って褒めてくれた言葉を彼は全肯定している。私は恥ずかしすぎて隣で俯いていた。


【ふふ、イザーク様は奥様の前では甘いんですわね。クールな方だとばかり思っていましたわ】


【彼女だけは特別だ】


【素敵な旦那様ですわね】


 店員さんは私にニコリと微笑み、試着室に案内してくださった。











【お似合いですわ!】


【いやぁ……これはさすがに無理です!】


【無理ではありません。細い腰やこの美しい胸を出さないでどうしますか?カリンバルの女は自分の武器を最大限に魅せる努力をするんですよ】


 私は試着室で困っていた。なぜかと言うとカリンバルで一番流行っているという服の面積が少ないからだ。は、恥ずかしい。けれど確かに皆こんな服を着ていた。


 しかし、普段の私の格好は保守的だ。昔からお父様は露出の多いドレスを許さなかったし、イザークも他の男に君の肌を見せたくないとなるべく胸が開いていなかったり首元がレースのドレスを好んでいる。


 ――きっとこれ怒られるよね。


 それにたぶんこの服だとそわそわして、外で自信を持って歩けない気がする。


【とりあえずイザーク様に見てもらいましょう】


【ちょっと待ってくださいっ!】


 そう押し切られて、カーテンを勢いよく開けられた。


【イザーク様!奥様、いかがですか?】


【ああ、着替えられたの……か……】


 こちらをゆっくりと見た彼は、私を見て大きく目を見開いて固まった。うわぁ、フリーズしている。


【ど……う……ですか……ね?】


 私は真っ赤になりながら、不安な気持ちで彼に尋ねた。私の声にハッと正気に戻ったイザークは、ものすごい勢いで試着室のカーテンを閉めた。


「ダメだ!これは絶対にダメだ!!」


 彼が怒りながら叫んでいるのが聞こえてくる。イザークは混乱しているのか、シャルゼ語になってしまっていた。


【イザーク様……?何か怒っています?】


【あの服は()()だ!露出が多すぎる。他の男どもにあんな姿を晒したくない!!】


【美しい妻を見せびらかしながら連れて歩くのが、男のステータスではありませんか。奥様とてもお似合いです】


 カーテンからチラリと顔だけ出して外を覗くと、ニコニコしている店員さんと不機嫌なイザークがまだ話している。


【任せておけない。俺が選ぶ】


【そうですか?お似合いですのに】


 彼は店の中を一周して、何着か手に取り私に渡してきた。


「リディア、その服はすぐに脱ぐように」


「……はい」


 そして彼の選んだ服に着替えた。普段よりは露出が多いが、さっきよりは格段に肌が隠れている。それに下もパンツスタイルになっているので、あまり恥ずかしくはない。


「どうですか?」


「んー、似合う。ものすごく似合うが……臍を出すのは……うーん……」


 イザークは頭を抱えて悩んでいる。恐らくこの服はカリンバルでは控えめな衣装なはずだ。


「あの!せっかくカリンバルに来たので、この服着てみたいです」


「……そうだな、わかった。ただし俺の傍を絶対に離れてはいけないよ。リディアは魅力的だから心配だ」


 彼にちゅっ、とおでこにキスをされた。店員さん達にしっかりと目撃されて、ニコニコと微笑まれた。


「イザーク様、お店の中ですよ!」


「カリンバルでは外で恋人や夫婦がキスをしていても誰も気にとめないさ。それが当たり前だからね」


「……っ!」


「どこでもリディアとイチャイチャし放題だ。俺にとっては天国だな」


 私が真っ赤になって固まっていると、イザークはニヤリと笑いながらいつの間にか自分もラフな服に着替えてお会計を終えていた。


 店員さん達は【イザーク様って案外やきもち焼きね】とか【でもやっぱりイザーク様服のセンスあるわ】とか【奥様は愛されてて幸せですわね】なんて口々に話しているのが聞こえた。


【ありがとうございました】


 店を後にして、外に出ると私達に一気に視線が集まる。


 ――え?なんか見られてる!?


「なんか注目浴びてませんか?」


「リディアが綺麗だからだろ。気にするな」


 ぐっと腰を引き寄せられ、私は彼とくっついたまま歩き出した。


【きゃあ、あの人男前ね】

【本当!でも残念、相手がいるわ】

【素敵ね。シャルゼ人かしら】


 口々に聞こえる女性達の声から、イザークがこの国でもモテることがわかった。いつもより薄着の彼は鍛えた身体がよくわかり、普段より男らしく見える。彼は慣れているのか、何も聞こえていないかのようにスルーをしているが……私はやはり気になってしまう。


 ――留学中も絶対モテてたよね。


 そう思うとなんだか胸がモヤモヤする。今更そんなことでやきもちを焼いてもしょうがないけれど。


【お兄さん、そんな子やめて私と遊びましょうよ】


 一人の美人なお姉さんが、いきなり彼の腕にまとわりついて来た。曲線のしっかりしたグラマラスで色っぽい女性だ。胸を彼の腕に押し付けている。


【お姉さん、可愛いね。そんな色男やめて俺達とこっちで遊ぼうよ。優しくするよ?】


 ほぼ同時にひゅー、と口笛を吹かれ声をかけられた。まさか……これ私に言ってる?


 するとイザークが低く恐ろしい声で【離れろ。俺は愛する妻以外女に見えない】と女性の手を撥ね除けた。すると女性は私をギロリと睨みつけた後、そのまま去って行った。


 そして彼はすぐに私に声をかけた男に、恐ろしい顔で詰め寄った。

 

【お前ら、俺の妻に声をかけるとはいい度胸だな】


【君が他の女で忙しそうだから、手伝ってやろうと思っただけだろ】

【そうだ、そうだ】

【少しはわけろよ】


 ケラケラと笑っている男達の一人が、私の肩に触れた瞬間イザークはその男を投げ飛ばした。


【触れるな。今すぐ去れば許してやる】


 そのあまりの強さに男達はそのまま逃げて行った。私は驚いてポカンと口を開いたまま驚いていた。


 ――彼はいつからこんなに強くなったのだろう?


 昔の彼は、あまり強くなかった気がするのに。周囲から歓声があがる。


【お兄さん格好良いのに一途なんていいね!愛する奥さんを守るなんて最高だ】

【素敵な夫婦だ。お似合いだ】

【スカッとしたな。あの女と逃げてく男の顔見たか!?ハハハ】


 イザークは周囲の声は気にも止めず、私の肩をパッと払って心配そうに見つめた。


「リディア、大丈夫か?怖い思いをさせたね」


「はい。ありがとうございます」


「無事で良かった。ここは目立つから行こう」


 そして大注目された私達は人目を避けるように、その場を足早に去った。




※【】はカリンバル語で話している設定です。



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