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立花とアルチェアリ  作者: 御社こはく
一章 月と調和の国 アルチェアリ
3/4

2話 リデオ・ソレーユ

「………であるからして……」


……………面倒くさい。


「……となりまして、Xが」


やっと外に出られると思ったら、何故護衛など…


「………ま。姫様!聞いておられますか!?」


「は、はいっ!」


やってしまった。今は数学の講習中でした。

別のことを考えるだなんて、大変失礼なことをしてしまいました…。


「集中力が途切れているようですね。何か悩み事でも?」


「いえ、特には。失礼致しました。授業を再開して下さい。」


悩み事と言うほどではない。ただおっくうなだけだ。いつもただ後ろに付いてくるだけの、話し相手にもなってくれない、人形のような使用人がもう一人増える。

とはいえ、護衛をつけることは王女としての務めでもあります。割り切らねばなりません。


「___……それでは、これにて講義を終わらせて頂きます。」


「有難う御座いました。」


まあ、ほとんど集中出来ませんでしたが…。

えっと次は何でしたでしょうか?

振り返り、控えていたメリーに聞こうとして、止めた。何でもかんでも人に頼っていては、国民の模範となる女王にはなれない。

()()14歳だ。嫌でも将来のことを意識せねばならない。アルチェアリ王国は大国であり、その王の存在は、他国にも大きく影響する。ぷれっしゃーというやつである。


「って…数学も集中できていませんでしたのに、何考えているのでしょう。」


もはや当たり前と化した独り言。メリーの視線が痛い。

たしか、次は作法のレッスンだ。

重苦しい気持ちと足を引きずって、会場に移動する。





「…………くあぁ~~~~。」


「はしたないですわ。殿下」


「仕方ないですよぉ…!」


そう言って思い切りのびをした。メリーがまた私をたしなめる。

王宮の作法は複雑で、臨機応変な対応が求められる。おまけに講師の方がとても神経質。

約束の時間の5分前についていなかったので、まず30分の説教から始まった。


「あの時間こそ無駄ではないですか!?だいたい5分前につく意味、判りかねます。」


「……………。」


あぁ、メリーが殿下はいつ大人になられるのだろうって顔をしています。

私が一番知りたいです。どうすれば絵本の中のお姫様のような、完全無欠なお淑やかな女性になれるのでしょうか?


「次は護衛選びで御座います。兵舎へ参りますよ。……そんな虫を噛み砕いたような顔でご覧にならないで下さいませ。王女たるもの」


「常に微笑みを浮かべ、民を安心させるべし。判っています。」


「失礼致しました。それでは参りましょう。」


「えぇ。」


本宮(ローズベル)は、三棟の建物から成っており、兵舎はその最奥にあります。つまり、


「遠い………。あ、メリー、だから言ったのにって思いましたね。」


「そのようなことは、決して」


王宮は一棟4階。そうですね、学院の校舎など想像していただいて、それがコの字に並んでいます。天井も高いので、階段も急です。

勉強と、時々乗馬しかしていない私は、もう、疲れます。

これは体を鍛え直さねばなりませんね。



そして、そんなこんなで兵舎につきました。人々の熱気と、武器のぶつかり合う音。鉄と革のにおいがします。


「お待ちしておりました。姫様」


団長らしき男性が、こちらにと案内する。

一応私は、まだお披露目前の王女だ。人目につかぬよう、近衛の練習場の2階のベランダ席を用意してくれた。


「姫様は、近衛騎士とは何なのかご存じでしょうか?」


男性が私に聞く。


「いいえ。詳しくは…。」


「説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「宜しくお願いします。」


数字や歴史と睨めっこで、こういった、剣の類いは全く判らない。騎士の構成は知って置いた方が良いとメリーにも言われたことがある。


「では、………______

  このアルチェアリ王国は、見習い、兵士、騎士、近衛騎士といったように、階級がつけられております。

戦いで武勲をあげた者や特殊な試験に合格した者が、兵士から騎士になることができます。

更にその中でも、厳しい試験を通過した者だけが、近衛騎士を名乗ることを許されます。

近衛騎士の仕事は、王族の皆様を御守りすること。戦争で一群を率いることもあります。

騎士は兵士10人分、近衛騎士は兵士100人分の力量が無ければなれませんね。」


「ひゃく…?」


思わず耳を疑った。1対100なんて、正気じゃない。


「ではでは!下で訓練されてる方々はみな、100人相手に勝てるのですか?」


「はい。勿論であります。」


即答しましたよ。この男性。

言われてみてから下を覗くと、確かにここにいる方々はみな、なんというか、面構えが違います。響く武器の音も、より研ぎ澄まされています。

屈強な人。ベテランのような人。あ、あの赤茶髪の女性はメリーの妹でしょうか!髪色が同じですし、よく似ています。


「殿下、あまり身を乗り出しませんよう。危のう御座います。」


「メリエル!あれが貴女の妹君ですか?」


「え?あ、そうですね。妹です。」


「彼女が良いです」


「嫌です」


「え?」


またまた即答されてしまった。まさか断られるとは思わず、目を丸くする。

一方のメリーも、反射で答えてしまったらしく、慌てている。


「いえっ、失礼致しました。殿下のご決定に嫌などと…。」


「びっくりしました。何か不備でもあるのですか?」


「不備ではないのですが……その…姉妹で同じ職場というのは…少し……。」


なるほど。私は姉妹がいないのでよく分からないが、そういったこともあるのか。


「愚妹がお気に召したのでしたら、どうぞお取り立て下さいませ。不満を漏らしてしまったこと、どうかお許しを」


「いえいえ、貴女には日ごろから世話になっていますし、聞き入れますよ。」


しかし、だとするとどうしましょう。

屈強な方は遠慮したいですし、堅苦しそうな方は、息が詰まります。

適度に放任的で、冷静な人。


その時、1人の人物が目に止まった。

大人の多い中、おそらく子供で、言ってはなんだがあの中で浮くほどひょろい。

1人だけフードを目目深に被ったその人物は、身長体格からして、同じ位の年齢に見えた。


「彼は?」


私を案内してくれた男性に聞く。

その青年を見て、顎に手を当て頷いた。


「ほほう…。姫様もお目が高い。今、連れて参りますよ。」


程なくして、男性は青年を連れてやってきた。やはり子供だ。この人が兵士100人に勝ててしまうなんて、少し想像できない。なんて、本当に失礼なことを考えてしまった。


「歴代最年少で近衛入りを果たした者です。姫様と年齢も近いかと。ほら、顔をお見せしろ。」


身長は、私より少し高い位。その手がゆっくりと頭にのび、フードを取った。


「え?貴方…。」


フードの下には、長い茶髪後ろでまとめた、端整な顔立ちの少年がいた。

そしてその頭には、大きな狼の耳がついている。

勿論人の耳も、横髪で隠してはいるがついていた。

男性が彼を紹介する。


「リデオ・ソレーユ。人間と獣人種(ビーティス)の間に生まれた、唯一の混血児です。」

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