1話 王女アナベル
「お早う御座います。殿下」
堅苦しい挨拶が頭に響き、目を開ける。豪華な天蓋が目に映った。それと、あったかい朝日。私はこの時間が好きだ。
「御髪を整えますゆえ、こちらへ」
……機械的な使用人の声が無ければ、ね。
「おはよー…。メリー」
「私のことはメリエルとお呼び下さいませ。アナベル王女殿下。」
これもいつもの問答。
小さな頃、離れで暮らしていた時は、この専属メイドも優しかったのに…。あの時はまるで私のことを娘のように可愛がってくれた。
でも、6歳のころに本宮に移ってから、王女としての教育が始まってから、急に仰々しくなってしまった。
「あれから8年ですかあ…。」
気付けばもう14歳。今日から本格的に政務を学んでいく。このアルチェアリ王国では、男王制とかはないので、将来は私が女王となるのだ。
「女王になったら、この階級制度を無くします!寂しいのですよ!全員オトモダチです!」
「……………そんなに動かれては、御髪が乱れてしまいますわ。殿下、王族らしい行動をなさって下さい。」
「はあい…。」
相変わらずの無機質な応答。もうこれが当たり前に感じてしまうのが恐いです。
外になんて一度も出たことないですし、窓からの王都は遠く感じます。
なんて、悶々と考えているうちに支度が終わった。ネグリジェはフレアドレスに変わり、青髪は綺麗に結い上げられている。今日のピンは白ユリだ。
「今日の予定は?」
「午前中は歴史と帝王学、それから数学者様の講習が御座います。それが終わりましたら、作法のレッスン。昼食を挟みまして、騎士団の見学に御座います。」
「騎士団の見学?なぜ?」
いつもなら他の授業で埋まる午後。なぜ騎士団の見学にいくのでしょうか……?と疑問を口にすると、メリーは微笑んだ。あ、久しぶりに見ました、メリーの笑顔。
「今日は護衛選びの日ですわ。殿下」
「え」
「陛下のご配慮です。前皇后陛下のこともありますし…。」
「魔物に襲われ、亡くなられた御母様のこと?でも、なぜ今なの?」
正直言ってしまえば、要らない。
四六時中私の後を付いてくるだなんて、メリーだけで結構だ。窮屈なのだ。
相当私が嫌な顔をしていたのでしょう。メリーは困ったような顔をした。
「殿下はこれから、国王陛下の使者としての仕事を沢山こなすことになります。私では、殿下を守りきれませんわ。」
冗談めかしくメリーは言ったが、王女の専属メイドである彼女は多分相当腕が立つ。だって彼女の家は、近衛騎士の家系であり、彼女の妹は女性ながら近衛騎士だ。
話が少し逸れたが、きっと護衛も、その近衛騎士団から選ぶ。御父様のご厚意をむげにはできない。もう、メリーの妹でもいいですかね。
「判りました。午後、兵舎へ向かいましょう」
「殿下が出向かれる必要は……」
「自分の目で選びたいのです。それ位良いでしょう?」
メリーは少し迷った後、頷いた。