幼馴染みの職質がなにかおかしい
「キミ、キミ。そこのキミ!」
買い物帰りに歩いていると、婦人警官に声を掛けられた。
「キミ、実に怪しいね」
「うっせ」
ニヤニヤと笑う婦人警官にそっぽを向き、再び歩き出すと、婦人警官が笛を吹いて俺の前に回り込んだ。
「キミィ! 公務執行妨害なるぞ!?」
「何だよ碧! 俺はさっさと帰って買ったばかりのアイスを頬張りたいんだよっ!」
他人の振りをしてやり過ごそうとしたが、幼馴染みの婦人警官である碧は俺を見付ける度にこうやって職質しようとするからたちが悪い。
「なんとっ! キミ、アイスを隠し持っているのかね!? ちょっと職務質問いいかな?」
「話聞けよ。てか仕事中に何してんだよ……」
碧が俺の手提げ袋の中をガサガサとまさぐり、ちょいと豪華なたまにしか買えないリッチアイスをかっ攫ってゆく。
「キミ、名前は?」
「黙秘します」
「本部へ連絡。怪しい男が──」
「無線で応援を呼ぼうとするな!! 分かった! 少しだけだぞ!?」
「やたっ!」
ペロペロとアイスの蓋を舐める碧は至極ご満悦だ。
俺のことをからかって憂さ晴らしをする気満々だな……。
「名前は?」
「山田太郎」
「嘘はよくないぞ?」
「本名で悪かったな!!」
「住所は?」
「沼矛町コーポハイツレジデンス沼矛102」
「あの違法建築の?」
「言うな! 家賃が安かったんだ……言うな」
「職業」
「…………」
「しょくぎょー」
「フリーターです」
「無職ね」
「採用試験の結果待ちだから!!」
「何社め?」
「35社」
「諦めな」
「ウガーッ!!」
「身分を証明する物は?」
「ほれ」
免許証をケース丸ごと投げ渡すと、それを見た碧はニヤリと笑って俺を見た。警察官がしていい顔じゃねーな。
「キミィ、この写真は何だね?」
「……何だよ」
免許証入れに挟まっていた写真。そこにはピースしながら山の頂上に居る俺と碧が写っている。
「沼矛山の時のだよ」
「隣に居る美しい女性は誰ですかな?」
「お前だよ!」
「あなたとの関係は?」
「か、彼女……です」
「付き合ってどれくらい?」
「……半年」
コイツ、段々とおふざけが過ぎて来やがったな。
そろそろ切り上げないと本当に署まで連れて行かれかねないぞ。
「彼女のどんなところが好きなのかな?」
「こ、この……!!」
周囲からの目もあり、恥ずかしさから大声を出したくもなったが、そんなことをすれば余計に注目を浴びるだけだ。ココは我慢ここは我慢……我慢だ山田太郎!!
「他の持ち物は何があるかな?」
「おい、あんまり漁るな。袋に穴が開く」
「あ」
「ん?」
袋から一冊の本が出た。古本屋で買った『記念日用クッキング本』だ。もうすぐ半年だからな。
「……なんかゴメン」
「謝るなら最初からすな」
碧は本をペラペラと捲ると、とあるページで手を止め、スッと栞を差し込んだ。
「ほい。じゃ、仕事に戻るね」
「お、おう」
本を押し付け足早に去る碧。
「……インパクト抜群ジャンボハンバーグ?」
記念日の手料理はジャンボハンバーグとなった。