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第7話 尊厳を守りし者

「ん……」


カゲチヨ少年は微睡(まどろ)む。


誰かが部屋に入ってくる。

そして、勢いよくカーテンが開け放たれる。

大きな窓から朝日が差し込んできた。

そこは大きな部屋だった。


「んー……」


「……カゲチヨ様、おはようございます」


見知らぬ女性の声。

困惑するカゲチヨ。


「んー、……え? ……えっと?」


「カゲチヨ様はお寝坊さんですね。今日はとてもいい天気ですよ。それとも、もう少し休まれますか?」


目を開ける。

目の前には、メイドの格好をした女性。


「えっと、すみません……。どなたでしょうか……?」


「え⁉︎ あらあら⁉︎ カゲチヨ様、まだ寝惚けてらっしゃるのですか? ほら、早く着替えて下さいな。すぐ朝食に致しますね。もちろん、カゲチヨ様の大好きな、ラーメンでございますよ」


「え、ラーメン……? えっと、あの、好きは好きなのですが、できれば朝はもう少し軽めのものを……」


「ほら、早く着替えて。シーツも替えますね」


「えっと、パンはありますか? それともラーメン、もう作っちゃいました?」


「まぁこんなに汗ばんで。寝汗がいっぱい。ほら、まずは、脱ぎ脱ぎしましょうね〜?」


メイド女性の指が、カゲチヨの首筋をスッと撫でるように這う。


「ひっ! だ、大丈夫です‼︎ 自分で! 自分でできますので‼︎」


「あら、カゲチヨ様。今日はどうしたのかしら? お着替えなんて、いつもやって差し上げているのに。ほら、早くお脱ぎになって……?」


ぐいぐいと脱がそうとするメイド女性。

その表情は真顔。

しかも、ものすごい力で衣服を掴んで離さない。


「ちょ! 怖っ‼︎ ……ほ、本当に‼︎ 大丈夫ですので‼︎」


そう言ってカゲチヨは、なんとかメイド女性の手を抜け出す。

そして、彼女を部屋の外へと追い出した。


「な、なんなの……?」


カゲチヨはすぐに着替え、リビングに向かった。


「カゲチヨ様、どうぞ召し上がれ」


そう言ってメイドがテーブルの上に置いたのは、ラーメン。


しかも、それはラーメン屋『破壊神』の名物『魔王ラーメン』だ。

赤黒いスープで、ゴボゴボとマグマのように泡が湧き上がっている。

かなりのインパクトだが、お子様でも食べられるような味でかなり美味しい。


だが、その名物ラーメンがなぜ、家にいて出てくるのか。


「やはりラーメンなんですね……」


「はい、これ着けてくださいな、カゲチヨ様」


メイド女性は、カゲチヨに前掛けをかけてくれた。

レースをあしらった、キラキラふりふりの前掛けを。


「お汁が飛ぶと、お洋服が汚れてしまいますので」


どう見ても着ている服より、前掛けの方が汚しちゃいけないものに見える。

だが、カゲチヨは細かいところは、もうツッコむのを諦めた。


メイド女性はカゲチヨの前の席に座り、にっこりと微笑んだ。


「さぁ、どうぞ、カゲチヨ様。召し上がれ。どうですか、美味しいですか?」


「お、おいしいです……」


「本当ですか⁉︎ 腕に()りをかけた甲斐がありましたね‼︎」


ニッコニコのメイド女性。


若干おかしな雰囲気もあるのだが……。

こんな笑顔をされてしまったら、大抵の男はすべて許してしまうだろう。

カゲチヨもそれに釣られ、にっこりと微笑んだ。


……だが、次の瞬間。


メイド女性の頭を何かが貫通する。

その時、同時に音がした。

それは二ヶ所。

窓ガラスと、窓とは逆の位置の壁。


「え?」


カゲチヨは状況をまったく理解できない。


そのまま、力なく倒れていくメイド女性。


窓を見ると小さな穴。

その穴から蜘蛛の巣のように、ヒビが伝わってきている。

さらに、今度は壁の方を見ると、そこにも小さい穴。

何かが埋まっているようだが……。


「え、え? ……え?」


カゲチヨは立ち上がり、メイド女性に近寄る。

彼女は目を見開いたまま、倒れていた。

こめかみには小さな穴。


そして、ようやっとカゲチヨは理解する。

彼女が銃で狙撃されたことに。


「……ひっ⁉︎」


カゲチヨは恐怖に身体が強張る。


……と、その瞬間。

窓ガラスが割れ、何者かが侵入してきた。


黒尽くめの数人の人間。

彼らはどこぞの特殊部隊のような格好で、その手には自動小銃を抱えていた。

間違いなく、メイド女性を撃ったのは彼ら、もしくは彼らの仲間だろう。


「な、な、なんなんですか⁉︎ あなたたちはっ⁉︎」


混乱するカゲチヨ少年。


「……少年、確保。着せますか? ……ラジャー。すぐに脱がせます」


何やら無線で会話をしている黒い侵入者。

言っている内容が理解できない。


「さぁ、立つんだ」


黒い侵入者が、カゲチヨに触れようとした。

……その瞬間。


倒れていたメイド女性は素早く立ち上がる。

そして、奇怪な動きで、侵入者に回し蹴りを食らわす。


「くっ! コイツ‼︎ まだ生きていやがったか⁉︎」


吹き飛ばされる侵入者。

他の侵入者も銃を構え、闇雲に発砲する。


だが、メイド女性はカゲチヨの前に立ちはだかり、手を前にグッと押し出す。

すると、眩く輝く盾のような何かが現れた。


それは、乱射される銃弾を全て防いでしまった。


「なっ⁉︎」


怯む侵入者。

だが、メイド女性は奇怪な人間らしからぬ動きで、侵入者を次々と殴打。

一瞬のうちに制圧してしまう。


「大丈夫ですか、カゲチヨ様? お怪我はありませんか?」


「だ、大丈夫です。メイドさんこそ、大丈夫なのですか? 頭撃たれて……」


「ええ、問題ありません。飾りなので」


「え?」


メイド女性の頭が、ボトっと床に落ちた。

その衝撃で片目がとれる。

そして、その床に落ちた頭が、カゲチヨを見て言う。


「あ、すみません、カゲチヨ様。拾ってもらってもよろしいでしょうか?」


「ひぃいいいいいいい‼︎」


カゲチヨはそこで目を覚ました。





「オイ、大丈夫か?」


「ひっ⁉︎ あ……、えっと、初代勇者さん……。ああ、そうか、夢か……。良かった」


そこは女勇者ノヴェトの自宅。

カゲチヨはこちらの世界に来てから、女勇者の自宅に居候していた。


「えらい、うなされてたぞ? ……って、寝汗すげぇな。風邪ひくぞ。シャワーくらい浴びた方がいいかもな」


「ね、寝汗⁉︎ ……あ、ああそうですね……」


その時、部屋の扉が開けられ、女性が入ってくる。


「カゲチヨ様、おはようございます」


「ひっ⁉︎」


カゲチヨはその人物を見て、一瞬身体が強張った。

彼女は女勇者の家のメイドだ。

実は、夢の中のメイド女性の顔は、彼女と同じだったのだ。


「どうされました? 顔色が良くありませんね?」


そう言って彼女は、カゲチヨの額に手を添える。


「熱はないようですが、汗をかき過ぎて、少々冷えているようですね。朝食は、温かいものにしましょうか」


「え、ああ、そうですね。そうしてもらえると助かります。エミリーさん」


「なに怯えてんだ? 昨日の今日で、事実を知ったからって、別に大して変わらんだろ? この子が実は、自動人形(オートマトン)だったって分かったからって、そんなに急に態度変えなくても。……言わなかった俺も悪いけど」


「ああ、いえ、そうではなくて。たまたま夢でエミリーさんを見てしまったので、それで……」


わたくしを、ですか? 光栄です。それで、どのような夢を?」


「えっと……」


「なんだよ、言えないような夢なのか。大方、殺人マシーン・エミリーに追いかけられるような夢とかなんだろ?」


「ノヴェト様……?」


「じょ、冗談だよ。……ね、エミリーちゃん?」


そう言って、ノヴェトはエミリーのお尻を撫でるように触る。


「キャー! ノヴェト様のエッチー‼︎」


そう言って、メイド女性エミリーはノヴェトを優しく叩く。

それは、じゃれ合うかのような、本当に優しいものだった。


これは魔法人形のノーマル仕様『セクハラオヤジ・カウンター』機能だ。

ある程度強めに突き放すことで、セクハラオヤジを遠ざける。

更にはネタ感を出し、それ以上させないことを目的としている。


だが、女勇者ノヴェトは、この機能をスキンシップ代わりに悪用していた。

ノーマル仕様のカウンターなぞ、ノヴェトにとっては大した威力ではないのだ。


「はははは、…………え?」


にこやかに笑う女勇者。


だが、エミリーの拳はそこで止まらない。

女勇者の身体を蛇のようにスルリと這う。

そのままあっという間に、女勇者の身体をガッチリと妙な体勢でホールドした。


「え? なに? ……え? なにこれ? なにこれ、こんな機能知らない。なに、どういうことエミリーちゃ、……んぎぁあああああああああああああ‼︎」


それはプロレス技の『コブラツイスト』。


自身の足で相手の足をロックした上で、上半身をホールドする技だ。

別名『あばら折り』ともいう。


「痛あああああああああ‼︎ ちょなあああああああ‼︎」


「……実は、先日。魔王様に相談したのです。ノヴェト様のセクハラが酷くて悩んでいる、と。魔王様が言うには、ある程度は反撃しても、きっとノヴェト様なら許してくれるだろう、と」


「ぬあああああああああああああああああああああ‼︎」


「……ですが、私にはノーマル仕様のパワーしかありません。そこで、魔王様は(いにしえ)のスキル『技職人(レスラー)』をインストールしてくださったのです。おかげで私は今ではもう、カゲチヨ様をお守りできるほどのスーパーメイドとなったのです」


「あああああああああああああああああああああん‼︎」


「……エミリーさん! 止めないと。もうそろそろ、止めないと」


「ああ、カゲチヨ様。申し訳ございません。あまりにも自然に身体が動いてしまったために、技をかけていることをすっかり忘れていました」


エミリーは技を解いた。


「うう……、まっちゃん、なに勝手に余計なことしてんの……。俺のオアシスが……」


女勇者ノヴェトは普通に泣いた。





「ほわーっ⁉︎」


一気にテンションの上がるカゲチヨ少年。


目の前には、山盛りパフェ。


女勇者、女魔王、少年の3人は、ファミリーレストランに来ていた。


パフェは、盛りに盛ったバニラ・チョコレート・ストロベリー。

様々なアイスが乗っかっている。

更に、その上にはウエハースや小さなチョコレートにフルーツやら。

それは、子供が喜びそうなあらゆるものが全て乗っている豪華仕様だった。


ちなみにメニューの名前は、『極寒‼︎ 魔王の拷問パフェ・(ウルティメイト)‼︎』だ。


メニューの横には、セリフ調のキャッチコピーまで書いてある。

『者ども、魔王の甘美なる拷問に、その舌を震わせるがいい!』と。

いかついオッサン魔王のイラスト入り。

例に漏れず、これも魔王監修の食べ物だ。


なお、お子様向けの特別仕様なので、よだれが止まらなくなるほどに甘い。


「こ、これ! 食べて良いのですか⁉︎」


「ああ、好きに食っとけ。」


女勇者は、外を見ながらダルそうに答える。


今は、軽く食事を済ませ、食後のコーヒーをゆっくり味わっている。

窓の外は天気が良く、人通りも多い。

そういった風景を見ながら、ゆっくり時間を過ごすのはなかなかの贅沢である。


「ほわーっ! ど、どこから食べよう‼︎ ……あっ‼︎」


カゲチヨ少年が、アイスにスプーンを刺した時、何かを発見する。


「ああ‼︎ なにか! 中になにか! ……あります‼︎」


「お、おう。そ、それはすごいな。よしよし、黙って食え。……な?」


「先日のお礼でござるから、遠慮なく食べてほしいでござるよ」


「はい! ……うわぁ、……うわぁ。……あ! ここも‼︎」


ずっとテンションの高いカゲチヨ少年。


「喜んでくれて良かったでござるな! 拙者も、ついつい顔が(ほころ)んでしまうでござるよー」


「ま、まぁな。でも、正直『コイツこんなんだっけ?』と、俺はちょっと困惑している。小生意気なイメージが……、な」


「そうでござるなぁ、カゲチヨ殿はきっと背伸びしていたでござるよ。色んなことを我慢してきたのでござろうなー。ラーメン屋もレストランも、初めてだと言っていたでござるしなー」


カゲチヨは、本当に幸せそうにパフェを頬張り続けている。


女勇者と女魔王。

二人はしんみりとカゲチヨを見つめ、しばしゆっくりとした時間が流れる。


「あのさ、ちょっと言っておきたいことがあるんだけど」


「なんでござる? エミリーちゃんのことでござるか? ダメでござるよ? 彼女たち魔法人形は機械でござるが、もはや魂が宿ると言っても良い出来栄えでござるよ。なら、きっと人権だって必要でござる」


「くっ! ……で、でもほら、あれはスキンシップでさ……」


「相手が嫌がってるのに、やるのはダメでござろう?」


「嫌がってるの……?」


「見て分からんかったでござるか?」


「……」


女勇者は本当に今事実に気付いたようで、遠くを見つめている。


「ああ、こんな時間がずっと続けば良いのに……、でござる」


窓の外を眺め、遠くを見る女魔王。


「なんでまたイベントの準備、そんなヤバいことになってんの? 前もそんなじゃなかった?」


「ヤバいでござる。ヤバヤバでござるよ。ちょっとずつ進めてはいたのでござるが、メンバーのまとまった時間がなかなかとれなくて……。特に今回は、例の魔女っ子アニメブームで、新刊のボリュームが大変なことに……。エピソード別に2冊なんて、無謀だったでござるよ……」


「ああ、あれ面白いよねぇ。3話で急に食われて、えー⁉︎ って思ってたら、最終的には逆に増えたし。さすがに、あれは予想できんかったわ……」


「ああ、たしかに。でも拙者は、あの展開はちょっとナシでござるかなー」


「えーなんでだよ」


「展開が急過ぎでござるよ。その前の伏線、どこに行ったって話でござるよ。拙者、増えた時、正直ポカーンとしてしまったでござる」


「それはまぁ、分かる」


「まぁ、新刊ではその辺を網羅しつつ、少し新しい趣向を……。こんな感じに。これで、薄い本に革命を起こすでござるよ」


「んー?」


女魔王は、懐からスマホを取り出し、なにやら女勇者に見せた。


「うはぁっ! エッロ‼︎ なんだこれ! いやもう、ダメだろこれ。エッロ‼︎ ヤバい、絶対ダメなやつだってこれ‼︎ どエッロ‼︎」


「そうでござろう! そうでござろう! 勇者氏なら分かってくれると思っていたでござるよ」


「……なんの話をされているんです?」


女勇者と女魔王の怪しい会話に、割って入ったカゲチヨ。

二人がこっそり見ているスマホを覗こうとする。


「それってスマホですか? また『魔法』スマホとかってやつです?」


「ぬわーっ⁉︎ ダメでござる! お子様にはちょっと早いでござるよぉーっ⁉︎」


「ええ⁉︎ なんでですか! スマホぐらいボクだって知ってますよ⁉︎」


「そ、そういう問題ではないでござるーっ⁉︎」


「い、いや待て。早いうちから知っておくのも、ある意味、有り? ……かもしれない。英才教育的に?」


「いやいやいや! そんな子供のうちからダメでござるよ! 教育上良くないでござる! もう、いろいろ歪んでしまうでござるよー⁉︎ 拙者、責任とれないでござるー‼︎」


大人二人がわちゃわちゃと会話してる時。

カゲチヨは、女魔王の手からスマホをひょいと取り上げてしまう。


「あ」


「あ」


画面を見たカゲチヨ少年。

……そのまま固まる。


「お、おい? どうした、大丈夫か?」


「ダメでござるよ、まだカゲチヨ殿には早いでござるよー⁉︎」


次の瞬間。

カゲチヨの鼻から、盛大に何かが吹き出した。


血。


スマホの上に、ドバッとくしゃみでもしたかのように、鮮血がばら撒かれる。


「おおおおおおい! ちょ、オマエ! 大丈夫か⁉︎」


「ま、ま、ま、マズイでござる‼︎ カゲチヨ殿が‼︎ 死んでしまう⁉︎」


あわあわと慌てる女勇者と女魔王。


「いやもうオマエ。エロ画像で鼻血出すって、お約束すぎんだろ……。ちょ、ホラ、少しじっとしろ、すぐ止まるから」


女勇者は、少年の鼻を摘んでやった。


「あー上は向かなくていい。喉に入って気持ち悪くなるぞ。鼻の方に貯めた方が早く固まるんだよ。口で息できるだろ?」


「……なるほど。チョコの食べすぎかもしれないでござるね」


巨大パフェは、食べ慣れないお子様にはオーバーキルだったのかもしれない。


「いやもう、焦ったわ。……ああ、まっちゃん、ゴメン。スマホ」


「ああ、大丈夫でござるよ。拙者のは完全防水でござるから。洗えば問題なしでござる」


「ご()()さい……」


女勇者に鼻を摘まれながら、涙目のカゲチヨ少年。


「問題ないでござるよ! 気にしないでいいでござる。カゲチヨ殿には、少々刺激が強すぎたでござるね」


「違うけど……、はい……」


決してエロ画像で鼻血が出たわけではない。

……だが、今は素直で大人しいカゲチヨだった。


なお、この後。

女魔王はロザリーとロゼッタに見つかり、修羅場の魔王城へ連行された。





女神神殿、地下。


女神アシュノメーと女勇者ハンゾウ(ポチ)。


「ほら……、ちゃんと報告なさいよ? どうだったの、ポチぃ〜?」


「カ、カゲチヨきゅんは……、とても美味しそうにパフェを……」


「パ! パフェ‼︎ ど、どょんな顔で⁉︎ しゃ、写真は撮ってあるんでしょうね⁉︎ 無かったら殺すわよ‼︎ さぁ、ポチ、早く出しなさい‼︎ 早くったら‼︎」


「グフっ‼︎ ……こ、ここに」


女神に蹴られるハンゾウ。


「ああ……、いいわぁ、いいじゃない。きょ、こんな顔(きょんなきゃお)‼︎ ……ああ、ダメよダメ。こんな(きょんな)美味しそうな顔しちゃ……」


女神の言う『美味しそう』は、もちろんパフェの話ではない。

よだれが垂れそうになるも、キュッと口を閉じる女神。


「さぁポチ、なにやっているの⁉︎ 今すぐ戻って、カゲチヨきゅんの写真を……いえ、動画を撮ってくるのよ‼︎ ……次は寝顔‼︎ 絶対寝顔‼︎」


「は⁉︎ ね、寝顔はちょっと……。家の中に入らないといけないので……」


「入ればいいじゃないのよ。なに? アンタ、私の命令がきけないの⁉︎ このトウヘンボク‼︎ またムチで打たれたいのかしら⁉︎」


「そ、それだけは……っ⁉︎」


女神は目一杯振りかぶって、ハンゾウの背中にムチを打ち付ける。

何度も何度も。


「ほぎゃ⁉︎」


「ほぅ〜ら、もっと欲しいんでしょ⁉︎ 欲しがりめ! 欲しがりめ‼︎ この変態がぁ‼︎‼︎」


女神の呼吸は激しく、顔は紅潮する。

彼女の白い肌は、じっとりと汗ばむ。


「くっ。この程度、なんでもないでござる! 拙者は、屈しはせぬっ‼︎」


「だから、その変な言葉遣いやめなさいって言ってるでしょ‼︎」


なおもムチを打ち付ける。

女神は、今日も上機嫌であった。


「ああ‼︎ くっ‼︎ ああ‼︎ もっとぉ‼︎ ……屈しはせぬっ‼︎」


そして、ポチも大満足だった。

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