表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/54

第43話 再び抗う者

王国の広場。


突如現れたのは、全長十数mの『シヴァデュナート・ロボ』。

どうやら、ロミタンが操縦しているようだが……。


アヴァロワーズは、ギリギリと奥歯を噛み締める。


「出ましたね‼︎ 魔王の大罪、シヴァデュナート‼︎ この警戒網の一体どこから……っ⁉︎ 総員、迎撃準備‼︎」


だが、指揮系統はすでに機能しておらず、逃げ惑う魔神(マシン)族。

さらに、NPCやプレイヤーらも大混乱だった。

広場は、蜘蛛の子を散らすような大渋滞だ。


シヴァデュナート・ロボは、魔王の巨躯を手に掴んだまま、ゆっくりと自身の巨体を起こす。

これでもう、誰も魔王へ攻撃できないだろう。


そして、ロボの頭の上から、勝ち誇ったような声が聞こえてきた。


「ふはははっ‼︎ どうだ‼︎ 私は魔王軍・最高軍幹部、アラガウモノ『コウガ・コジロウ』様だ‼︎ このシヴァデュナート・ロボこそ、魔王軍の技術を結集した最終兵器‼︎ そして、今こそ、アラガウモノの真の力を見せる時‼︎ この真紅になびくマフラーと、黒く鈍くキラ光る妖刀『乱切り丸・茨掻(ばらが)き』を見よ‼︎ 我こそは、天を衝く一筋の闇‼︎ この広大な闇夜に……」


延々と喋り続けるコジロウ。

ノヴェトは若干グッタリしながら、それを観察する。


「よう喋るなぁ……。コジロウくん、生きていたのか。……って、誰だあれ? あんなんだっけ?」


端正な顔立ちに、モデルのようにスラリと伸びた手足。

現在のコジロウのアバターは、魔族男性だった。

引きずるほど長く、赤いマフラーが風になびいている。


リンリンの記憶も朧げだった。


「えっとー……、最近見てなかったッスけど、あれはアラガウモノの時のアバターッスね。コジロウさん、アバター二種類あるから。『大天魔』と『抗う者(アラガウモノ)』」


上級クラス『抗う者(アラガウモノ)』──────

『侍』と『忍者』の二つを極めたクラスである。

単体火力に秀でた侍と、トリッキーな忍者。

瞬間火力と搦手を備える、すべてにおいて隙のないクラスだ。


コジロウは印を結び、叫ぶ。


「喰らえ‼︎ 『火遁・一刀神火(いっとうしんか)悶絶(もんぜつ)爆真龍(ばくしんりゅう)の術』‼︎」


コジロウは印を結び終えると、口当てを外し、思い切り息を吸い込む。


「スゥーーーッ、…………ウゲェエエエエエエエエエエ‼︎」


そして、そのまま吐き出した。

コジロウの口から、ロケット弾のような、極太な爆炎の龍が発射される。

それは地表目掛けて飛翔し、高速に風を切り裂いていく。


「なっ⁉︎ 総員、全力で避けなさい‼︎」


叫ぶアヴァロワーズ。

だが、到底間に合わない。


そして、爆炎の龍は直撃する。

……シヴァデュナートの手の中の、魔王に。


「……え?」


目が点になるノヴェトとリンリン。

そしてロミタンも。

……叫ぶコジロウ。


「くぅ⁉︎ 魔王様、大丈夫ですか‼︎ ……いますぐお助けしますので‼︎」


そして、再び爆炎の龍を発射する。

……が、また魔王に直撃。


「ああ‼︎ なぜ⁉︎ こ、これはまさか、魔法人形(オートマトン)の罠っ⁉︎」


ロボを動かしているロミタンは、激しく動揺した。


「ちょ、アナタ、何やってるんです‼︎ どこ狙ってるんです‼︎」


コジロウの爆炎が魔王へ当たらないよう、ロミタンは頑張ってロボの手を動かす。

だが、コジロウは狙い澄ますように、魔王を狙撃し続けた。


「ま、魔王様‼︎ これは魔法人形の策略なんです‼︎ くっ! なんて卑怯な⁉︎」


アワアワと言い訳をしながら、執拗に魔王を狙撃し続けるコジロウ。

……さすがのノヴェトも気付く。


「いや、オイ、アイツ止めろ! ……あのクソ忍者! この機に乗じて、まっちゃん暗殺しようとしてるぞ‼︎」


魔王は度重なる爆炎を食らい、黒焦げになってしまった。

そして……。


「あ……」


全員が見てる状況で、シヴァデュナートの手から、何かがこぼれ落ちた。


絶叫のロミタン。


「う、うわあああああ‼︎ 首が‼︎ 首が‼︎ ……ア、アナタなんてことを‼︎」


動揺するロミタン。

手に持った魔王の胴体を、あわあわと確認し始める。


何やら悦に浸っているコジロウ。


「惜しい人を……。魔王様、アナタの犠牲は忘れません……。でも心配はいりません。私が次の魔王となって、皆を導きます‼︎」


ノヴェトは走り出し叫んだ。


「いやもうアイツ、普通に敵じゃねぇか‼︎ ダメだ、まずあの裏切り者からぶちのめすぞ‼︎」


ロミタンは、シヴァデュナートの手で魔王の遺体を確認していた。


「……あれ? えっと、でも、なんだか変ですね……?」


だが、魔王の遺体は黒いモヤに包まれ、霧散してしまった。


「こ、これは……⁉︎ ニセモノ⁉︎」


ホッとするロミタン。

そして、動揺するコジロウ。


「な、なんですって‼︎ そ、そんなぁ‼︎ 私の魔王の座は……っ⁉︎ ……い、いや私には分かっていたのです。それがニセモノだってことぐらい‼︎ ……魔王様は、きっとどこかで無事はずです。良かったですね‼︎」


「良かったですね、じゃないですよ‼︎ あなた何、もう何⁉︎ しれっと‼︎ しれっと‼︎ こんのぉ‼︎」


シヴァデュナート・ロボの腕が、頭上のコジロウを掴もうとする。

だが、コジロウはぴょんぴょんと簡単に避けてしまう。

そして、地表まで逃げると、魔神族の兵士らの中に飛び込んでいく。


「ふははは! そんなノロい動きでは、私の影すら捕まえられませんよ!」


「ちょ、あなた、待ちなさい‼︎」


ロミタンはコジロウを見失うまいと、懸命にロボを操縦する。

シヴァデュナートはそのまま、どすんどすんと魔神族の中に入っていく。

そして、魔神族らは踏み潰され、次々と神殿送りにされていった。


アヴァロワーズは逃げ惑う兵士たちをかき分け、シヴァデュナートを睨みつける。


「くうっ‼︎ この考えなしのニートどもがっ‼︎」


怒ったロミタンは、ロボの手で魔神族の兵士を数体掴み上げた。

そして、コジロウ目掛けて投げつけた。


「はははは……、お? おおおおお、……おわああああああ‼︎」


魔神族の兵士らが手裏剣のように飛んで、コジロウは巻き込まれてしまった。

それでもなんとかノックダウンした魔神族らの中から、這い上がるコジロウ。


「な、なんの‼︎ 多少当たっても、どうということはない‼︎ …………あ、ああ……」


だが、コジロウの視界には、すでに次々と飛んでくる魔神族の兵士たちが映る。

それは、まるで鳥の群れのように飛来し、コジロウに連続ヒットした。


「ぐお! おぼおお‼︎ べほう‼︎ あばあぅ‼︎ う……、おぼああ‼︎」


ギリギリと歯軋りをするアヴァロワーズ。


「……いいでしょう、こちらも奥の手を出すとしま…………、むきゅ⁉︎」


結局、アヴァロワーズも、シヴァデュナート・ロボに踏み潰されてしまった。





──────少し前に時間は遡る。


カゲチヨらは、別の目的地に到着していた。

実は、魔王処刑の通知があってから、ノヴェトらは三手に別れたのだ。


まず、ノヴェト・リンリンは、一度レジスタンス本部へ戻った。

そして、レジスタンスメンバーらと共に、魔王の救出隊として王国へと向かう。


メルトナ・ミシュはログアウトし、女神領側からアプローチを試みている。


そして、カゲチヨ・アキラ・スアリの3人は、そのまま捜索を続けていた。

目的地は冥界。もちろん目標は、破壊神シュノリンと結界師ロミタンだ。


なお、すでにロミタンは独自に動いていた。

だが、この時の彼らにそれを知る術はなかった。


実は、森の魔宮にあった入り口は、温泉水の流入を防ぐため閉じられている。

そのため、カゲチヨらは、別の出入り口を探す必要があった。

街はすでに異界化し、町並みも変わっている。

ロミタンの作った出入り口も、残っているかは分からない。

結局カゲチヨら3人は、唯一確定で冥界へ行ける場所へと向かった。


それは、廃都の魔宮。


一行が魔宮に到着し、奥へ進むと、不意に声をかけられる。


「やあ、皆さん。ごきげんよう」


「……出たわね。殺し屋」


アキラは身構える。

目の前にいるのは、あの男だ。

色白で銀髪の優男。


「殺し屋だなんて、あんまりですね。……そちらの方は初めてでしょうか。私、この魔宮の管理人をしております、シヴァデュナートと申します」


「ああ、どうも……」


スアリはちょっとだけ頭を下げて、挨拶をした。


ここには冥界へ行く手段がある。

……それは、この管理人に毒殺されることだ。


『冥界』とゲームの『死者の国(ヘルヘイム)』は、完全に融合している。

他の手段が不確定である以上、この手段を使うしかなかった。


「スアリ、騙されちゃダメよ。アイツ、毒入りお菓子出してくるんだからね」


「おやおや。随分な言われようですね。ははは。これは一本取られました。……お菓子だけに? 甘い? ……なーんて。ははは」


「ん、なに? どういう意味? ……って、笑い事じゃないでしょうが! こっちは殺されてんだからね‼︎」


苛立つアキラ。

スアリは、カゲチヨにこっそり耳打ちする。


「今の会話、お菓子に何かかかってたのか? 韻を踏んでたとか? 私は、その例のクエストやってないからか、内容がいまいち理解できてないんだが……」


「え? ああ、大丈夫ですよ。ボクも、まったく理解できていませんので」


管理人シヴァデュナートはニコニコとしながら、改めて問いかけてきた。


「それで……、どんな御用でしょうか。……ああ、まずはお茶を……」


「要らないわよ‼︎」


「ではお菓子を……」


「だから要らないっての‼︎ なんでアンタ、そんなに殺す気マンマンなのよ⁉︎」


「ううう……、ひどいです……。破壊神はすでに復活し、私は役目を終えました。生贄を送らずとも、破壊神は自力でなんとかできるでしょう。私だって、好きで毒を盛っていたわけじゃないんです」


「アキラ……。ダメですよ、あまり強く言っちゃ……」


「だってコイツ、全然反省してないわよ!」


アキラをなだめるカゲチヨ。


「まぁまぁ、冥界へ行くために必要なので……」


カゲチヨはシヴァデュナートへ向き直る。


「あの、シヴァデュナートさん、冥界……、あ、いや、死者の国へは毒殺以外で行く方法はないのでしょうか?」


「死者の国……。そうですね、知らないですね。……それはそうと、お菓子をどうぞ」


「だから要らないって……。しつこいわね……」


お茶とお菓子が目の前に出される。


「えっと、ちょっといいですか」


カゲチヨはメニューを操作し、薬品を取り出した。

そして、お菓子をひとつ掴み、薬品をかける。


「……あ、色が変わりました。毒入りですね」


「ちょっとアンタ! 懲りないわね‼︎」


「チッ! 余計なことを……」


管理人シヴァデュナートは、一瞬だけ別人のような顔つきに変わる。


「こっちが本性か……」


ミシュは、目の前の男の本質をようやっと理解する。

だが、シヴァデュナートは、飄々とした顔に戻る。

そして、いつものようにゆったりと応える。


「ですが、貴方たちは死者の国へ行きたいのですよね? ……でしたら、答えはすでに出ているのではないかと……?」


シヴァデュナートのニヤリとした笑顔。

アキラは唇を噛む。


「くうっ⁉︎ 結局食べないといけないわけ……?」


「え、あ、オイ。正気か。毒入りって分かってて……?」


ミシュの戸惑いとは裏腹に、カゲチヨとアキラはお菓子を手に取っている。


「……え? ホントに? 食べるの? ……冗談じゃなく?」


「いい? 鼻つまんで食べるのよ?」


「それ、意味あるのか……?」


ミシュは血の海に倒れ、ついてきたことを後悔した。





カゲチヨ一行は、無事に毒殺され冥界へ着いた。


少し歩くと、目的の場所へ到着した。

そこは『冥府の秘湯』。

その光景を目にし、ミシュはようやっと納得する。


「暑いな……。温泉と聞いた時、ゲーム内の比喩表現かなにかだと思ってたのだが。まさか、そのまま本当に温泉だったとは……」


結局、毒入りお菓子を食べ、冥界までやってきた。

無限ループの回廊などもなかったので、特に迷うこともなく。

一行は『冥府の秘湯』までやってこれた。


「で……、VIPエリアってどこなのよ?」


「拡張したって話ですから、前には無かったところだと思いますが……。どの辺かは……」


「ん? キミらは、来たことがあるんだよな?」


「あるわよ! でも、前来た時とは少し変わっているみたいなのよ。……その辺、今誰もいないでしょ?」


「誰も? ……って、NPCのことか?」


「違うわよ、死者。こっち側はプレイヤーが出入りするから、シュノリンおばあちゃんや死者の人たちは、みんなVIPエリアに移動したらしいのよ」


「なんだろう、よく理解できんな。死者というNPCではないのか……?」


「とにかくVIPエリア探せばいいのよ。……ってあれじゃない⁉︎」


そこには、あからさまに大きな門。

以前は無かったものだ。


「大きいですね……」


「デカッ! ……重っ! 重いわ! 重過ぎて開けられないじゃないのよ‼︎」


アキラは、その重い扉を力任せに押したり引いたりと試みる。

だが、ピクリともしなかった。

扉の重さもあるが、物理的に固定されているような感触だった。


「鍵かかってるんじゃないのか? ……で、ここがそうなのか?」


「たぶん……。前は無かった扉なので……」


「周りに他の出入り口はなさそうだな。……ん? あのちっこい戸は……?」


「あ、あれは『境界の門』ですね。もしかしたら、商店街があった辺りに抜けられるかもしれませんね。帰りにでも行ってみましょうか」


「門……? あの勝手口が門? …………門?」


ミシュが困惑していると、見ている前でその勝手口が開いた。

そして、誰かが冥界に入ってきた。


「お腹空いたにゃ〜」


「いつもみたいに間食すればいいじゃないですか」


「節約しないと、なくなっちゃうのにゃぁ……。とほほにゃぁ」


それはエルフ娘ロザリーとリゼットだった。


駆け寄るカゲチヨ。


「……ロザリーさん! リゼットさん!」


「え? おわっ⁉︎ ……って、カゲチヨきゅん⁉︎ え? なんで⁉︎」


「ロザリーさん、エルフの方のアバターなんですね」


「カゲチヨきゅんにゃあ‼︎」


リゼットは、ぎゅうぎゅうにカゲチヨを抱き締める。


「リゼットさん! く、苦しいです……」


「ほふぅ〜、美味しいそうなわんわんなのにゃぁ〜‼︎」


アキラも走ってきた。


「ちょ、なにどさくさに紛れて、チチ押し付けてんのよ‼︎ この変態エルフ‼︎」


「フッ……」


「なんでアンタ今、鼻で笑ったのよ‼︎ ちょっと離れなさいよ‼︎」


「ああー、カゲチヨわんわんちゃんは、塩気が聞いてて美味しいにゃ〜。あはー、お腹空いたのにゃぁ〜」


「くっ! この変態がぁ‼︎ なに舐めてんのよ‼︎ 離っ、離せっての‼︎」


「……で、そちらは……?」


ロザリーは、カゲチヨたちの後ろの見慣れぬハーフリング族女性に尋ねた。


「ああ、私はスアリ。……アンタらどっかで……。ああ! 『串刺しのロザリー』‼︎ ってことは、そっちが『墓標のリゼット』か⁉︎」


「……ええ、まぁ。スア……? ああ、もしかして女神領の。以前お会いしましたね。……でもそのお姿、ゲームのアバターですよね。どうしてまた?」


「これには色々事情が……」


そのとき、ロザリーが持っていた包みが動いた。

中から何かが這い出してくる。


「あ……」


「え、なに⁉︎ 何持ってんの⁉︎ ……って子供⁉︎」


「ああ、やっと気がつきましたか……」


「ちょ、アンタら子供誘拐したの⁉︎」


「ええ⁉︎ 違いますよ‼︎ ……魔法人形(オートマトン)たちに捕まっていたので、逃げるときに一緒に連れてきたんですよ。どちらのお子さんかは知りませんが……」


「それ、ギリ誘拐じゃないの……?」


「人族の子供……、でしょうか? 小さくて可愛らしいですね」


幼女はロザリーに抱き抱えられながら、目を擦って辺りを見回した。


「う……、ん……、ここはどこじゃ?」


「え? ああ、ここはえっと……。冥界で……、って言っても分かりませんよね……。お身体は大丈夫ですか? 痛いところは?」


「冥界? 戻ってきたのか。まあいい、ワシは腹が減ったのう……。とりあえずなんか食わせい。……あーロミタンはどこじゃ。あれあったじゃろ、ワシの好物。あれが食いたい」


「は? ……アナタ、一体誰なんです?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ