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第35話 招かざる客

魔王城ビルに、突如珍客が訪れた。


その女性は、入り口から普通に入ってきた。

ビルの1階にいたコンシェルジュは、彼女を認識し、一瞬ギョッとしてしまう。


コンシェルジュは、メイドたちと同型の女性型『魔法人形(オートマトン)』だ。

彼女らは軍用に改造されており、有事の際はビルの防衛も行う。

……そして、今この瞬間こそ、その『有事』なのかもしれない。


コンシェルジュは淡々と言った。


「こんにちわ、どのようなご用件でしょうか。……『女神アシュノメー』様」


現れたのは女神だった。

それもたった一人。


彼女は、ビルの内装をグルっと見回す。

ゆっくりとした歩みでカウンターに近付き、コンシェルジュへ問いかける。


「ちょっといいかしら?」


「はい」


「……魔王はいるかしら?」


「え? ……あ、その……、お約束か何か……、でしょうか?」


コンシェルジュは戸惑いを隠せない。

何せ相手は敵方のトップ。

何年もいがみ合ってきた因縁の相手。

どんな用にせよ、こんな風に普通に訪ねてくるものだろうか。


「お約束……? 事前に連絡しているかどうか、ってこと?」


女神は、カウンターの上にあった呼び鈴を手持ち無沙汰に鳴らした。

指で弾くように、何度も何度も。


その様子を見ながら、コンシェルジュは恐る恐る答える。


「……ええ。そうです」


「そんなもの、私がすると思って? ……いえ、必要……、なのかしら?」


女神から、沸々と煮えたぎるマグマのような魔力の奔流が沸き上がってくる。

それは不可視のものであった。

だが、魔法人形の鋭敏なセンサーには、しっかりとそれが認識できた。


「……人を呼びますよ?」


「ご自由になさい。……何人で、私に勝てると思っているか、知らないけれど。……好きなだけ、呼ぶといいわ」


「では、そうさせていただきます」


だがそれでも、コンシェルジュは特別変わった行動を起こさない。


「……ん? 呼ばないのかしら?」


「すでに呼びました。今ならまだ……。ここでお帰りになっていただければ、こちらは何も……」


「……ああ! アナタ、『お人形』なのね。なにか、そういう機能がついているのかしら。……いいわ、来るまで待っていてあげる」


「そうですか。残念です。私どもは全身を兵器化しており、24時間365日迎撃の準備ができております。……ですが、決して戦いを好むわけではないのです」


「心配はいらないわ。何人来ようと、変わらないから」


「その余裕……。たしかに貴方様は、お強い。……ですが、その傲慢ともとれる自信は、いずれ身を滅ぼしますよ。今ならまだ間に合います。……ここは退いてくださいませんか?」


「お人形の分際で、アナタ……、言うわね。……私に対しての、その口ぶり。それこそ傲慢というものだわ。誰に言っているのか、分かっているのかしら? 分からせてあげるから、さっさと来なさい」


「そうですか。……もう少し、こうしてお話できれば良かったのですが、もう時間切れのようです」


「……あら?」


その時、女神はすでに取り囲まれていた。魔王城のメイドたちだ。

彼女たちは一切の音もなく、まるで最初からその場にいたように立っていた。


コンシェルジュは感情を見せることなく、ゆっくりと告げる。


「女神アシュノメー様、実に残念です。……お命、頂戴致します」





魔on。


カゲチヨたちはゲームを楽しんでいた。

場所は、初心者が集まる街『風の民の都』のすぐ近く。

現在は、新たな6人でパーティを組み、雑魚モンスターと戦闘中だ。


メンバーは犬少年カゲチヨ、犬少女アキラ、猫娘ノヴェト。

更にエルフ娘メルトナと人族娘ミシュ、ハーフリング娘スアリが加わっている。

メルトナたちの新規開始に合わせ、カゲチヨらも新クラスへ変更済みだ。


「ミシュさん、回復します!」


「おお、かたじけない!」


カゲチヨが回復の祈りを捧げると、ミシュの体力は一気に回復した。


カゲチヨは、回復の要である『僧侶(プリースト)』──────

前クラスは同じ回復系の『狂信者(ファナティック)』で、回復はもう御手(おて)のもの。

その上、小さい盾と硬い革鎧を身につけているので、防御も万全だ。

ただし、詠唱用の短い錫杖が武器で、攻撃はあまり期待できない。


なお、魔属性の獣人は本来、聖属性の僧侶には就けない。

だが、カゲチヨらは別クラスで一定レベルまで上げている。

よって、この辺の制限はすでに解除されていた。


「ウラァ‼︎」


目の前のモンスターに、ノヴェトが拳の一撃を入れる。


ノヴェトのクラスは『拳闘士(ゴッドハンド)』──────

革の軽装鎧を装備し、拳にも革と(びょう)のナックルガードを着けている。

打撃とスピード特化で、素早い連続攻撃を得意とするクラスだ。


「アキラ。一体、そっちにいったぞ」


ノヴェトは、標的を仕留めたことを確認し、アキラに向かって叫ぶ。


「分かってるよ‼︎ とうりゃっ‼︎」


アキラのクラスは『聖騎士(パラディン)』──────

革の重装鎧を装備し、片手剣と大盾を装備している。

攻守共に優れたクラスで、モンスターとガチンコするのに向いている。

ただし、スピードはすこぶる遅い。


二人の動きから、スアリはモンスターの動きを先読みした。

自身の操る人形を、メルトナの前へと移動させる。


「ささ、姫様。もう少しですよ。……いつでも詠唱をどうぞ」


スアリのクラスは、人形を使役する『人形使い(パペッティア)』──────

あらかじめカスタマイズした人形を操作し、戦わせることができる。

人形は、攻守共に優秀であり、低レベル帯ではプレイヤーよりも強い。

ただ、命令する必要があるため、機動力は劣る。


「……あ…………た……」


メルトナのクラスは、精霊を使役する『精霊使い(エレメンタラー)』──────

精霊を使役し、良効果(バフ)に特化したオールラウンダーだ。

彼女は長柄の杖を装備しているが、レイピアのような剣も装備できる。


メルトナは風の精霊を召喚し、精霊魔法を実行した。

ミシュの身体に、風のエフェクトが付与される。

それは、衣服をゆっくりとはためかせる程度のもの。

だが、効果は絶大だ。


興奮するミシュ。


「お、おお‼︎ 姫様の精霊が……っ⁉︎ も、もしやこれが愛……っ⁉︎」


ミシュのクラスは、刀を扱う『侍』──────

一撃必殺の剣技を得意とするアタッカーだ。


その高速斬撃は、メルトナの精霊魔法によって更に切っ先を加速させた。

その刃は、次々とモンスターを切り裂いていく。


ここは序盤のエリア。


相手のモンスターも、さほど強くはない。

ただこの辺りは、序盤のパーティ練習によく利用されるエリアだ。

その為、一度に出現するモンスター数が多く、うまく連携をとる必要があった。


アキラの一撃は、更に1体を消滅させる。


「あと2体‼︎」


「1体は任せろ。ささ、姫様はこちらに」


スアリは、人形を盾にしてメルトナを庇う。

人形がモンスターの一撃を受け止めると、激しい金属音が響き渡った。


「……愛の一閃」


ミシュは鞘から流れるように、切っ先を導く。

それは半月のように弧を描き、モンスターの胴を寸断した。


「……からの、愛。……さらに愛」


ミシュの剣撃は、メルトナ姫の良効果(バフ)によって攻撃速度がアップしている。

その返す刀で更に二連撃を繰り出し、もう一体を寸断する。


「おお! すげぇな。一撃必殺の侍と、速度アップがここまで相性良いとは」


「ふ……。これぞ、愛の成せる(わざ)か……」


「お、おう……?」


若干、引き気味のノヴェト。


どうやらミシュは、魔onを始めてからロールプレイにハマってしまったようだ。

メルトナ愛と混ざりあって、独特の厨二病を発病し、今に至る。

そのうち、魔王のように『ござる』とでも言い出しそうな勢いだ。


「これで全部ね! 余裕だわ‼︎ ……カゲチヨ見てた? 私のカッコいいところ⁉︎ これが、これこそが勇者ってもんよ‼︎」


ドヤ顔で、片手剣を振り回すアキラ。

カゲチヨに、妙な決めポーズを見せつける。


実は、アキラ待望の聖騎士にクラスチェンジしてからというもの、ずっとテンションが高いままなのだ。

元々、考えるより武器を振ってたタイプなのだが、更に率先して前に前に突っ込んでいくようになってしまった。


「はい! ……アキラの聖騎士、とってもカッコイイです」


「……う、うん……、あ、ありがとう……」


カゲチヨの裏表のない素直な感想に、顔を赤らめるアキラ。


「べ、別に、その……、気を使わなくてもいいんだよぉ……? カッコイイって……、そりゃまぁ聖騎士だしぃ……? だから、そんなお世辞ぃ……」


「お世辞じゃないです! とってもカッコイイです‼︎ こう……、ズシャーって……、スゴイんですっ‼︎」


アキラはそれから何も喋らず、カゲチヨの前に歩いて行く。


「……ん? アキ……、んぐぅ……」


「んー! カゲチヨぉおーっ‼︎ んんんー‼︎ んほおおおー‼︎」


アキラは感極まって、カゲチヨを目一杯ギュッと抱きしめる。


「ちょ……、アキラ。……よろ、鎧の……、金具が痛いですぅ……」





戦闘後、ノヴェトはモンスターのドロップアイテムを拾い上げ勘定する。


「……んー、こんなもんか。この辺の敵は、もう苦戦しなくなったから、そろそろ頃合いかな。もうちょい狩ったら、一休みして狩場移すか」


「オイ、ノヴェト。それ、ちゃんと後で分配しろよ?」


ミシュは、ノヴェトがアイテムを収集しているのを見て、念のため忠告する。


「心配しなくてもするって。……ああ、スアリの分はちょっと多めにな」


「ん? なんでだ?」


スアリは理由が分からないので、眉間に皺を寄せる。


「人形って序盤から結構強いけど、壊れやすいんだよ。耐久値が低いからな。そのくせ、部品高いし。特に今は、サブ盾でメルトナ庇ったりしてるだろ? あれ、結構耐久ゴリゴリいってるはず。……メニューで確認しておいた方がいいぞ」


「は? ……そんなこと……」


スアリはメニューを開き、人形の耐久値を確認する。


「……う、うわ……。これ……、ええ……?」


ミシュが心配そうに覗き込む。


「そんなにか? ……ゲームってものは、本当に色々考えることが多いなぁ。そんなに覚えられんぞ? どれくらい減ってるんだ?」


「うん……、結構ごそっと。これ、人形の体力とは別、ってことか」


「そう。だから、人形使いのプレイヤーは、あんま矢面に人形立たせたくないみたいよ。……で、そのために、スアリの分前(わけまえ)は多めにって言ったのよ」


「なるほど……。なら、フォーメーションは変えた方がいいのじゃないか? せっかく稼いでも、私の人形代になるのは勿体無いような」


「んー? 今ので十分うまくいっていたろう? 変える必要があるのか? ……はぁ、ゲームってちょっとめんどくさいぞ。こんなんで面白くなるのか?」


若干うんざりとした表情のミシュ。

ノヴェトは少し考え、変更案を伝える。


「そうだな。なら、ミシュとスアリを立ち位置入れ替えて……。人形を、もう少し攻撃寄りの設定に変えるのもありかもな。ミシュは防御寄りのスタンスで、メルトナ庇う……、とか?」


「……なっ⁉︎ 私が直接、姫様を守るというのか……っ⁉︎」


目を瞑り、噛み締めるように考えるミシュ。


「……そうか、そうだな。アリだな。そうしよう。姫様は、拙者が命に替えてもお護り致します故。……主君を身を賭して守る、ああ‼︎ これぞ愛‼︎ 武士道とは愛に死ぬことと見つけたり‼︎」


「……よく分からんけど、頼むわ……」


「分かった。人形の設定組み直すから、ちょっと待ってくれ」


「……え?」


だが、全く話を聞いていなかったアキラ。

なぜかポカーンとしている。


……実はアキラの前には、すでにモンスターの姿があった。


「だからオマエ、勝手に釣るなって言ってんだろうが‼︎」


ノヴェトは叫びながら、走ってモンスターをぶん殴る。


「だって、この子、近くでウロウロしてたし……。寂しそうだったから、とりあえず殴っただけだし……。そしたら、ついてきたっていうか……。ほんのちょっとだけだよ?」


「迷子連れてきたみたいに、お気軽に敵連れてきてんじゃないよ。……オマエ、聖騎士になっても頭狂戦士(バーサーカー)だな……」


ミシュはメルトナ姫の前に、大仰に進み出る。


「さぁ、姫様! 私の背後に‼︎ も、もっと密着して‼︎ ……って、はぁあ! あ、いや、ダ、ダメです! そんなくっついてはああ! ああもう! はぁーーん‼︎」


「あ、いや、人形の設定直す暇ないから、ミシュは前に出て戦ってくれないと……」


「あああああああ‼︎ 姫様ああああ‼︎ はぁーーーーーーーん‼︎」


絶叫するミシュ。それを見てノヴェトはつぶやく。


「なんだかんだ文句言いながら……。コイツが一番、ゲーム堪能してんだよな……」


こうしてまた、バタバタと戦闘を始める彼らだった。





同日。魔王城ビルに、別の客が現れた。コンシェルジュは慌てて出迎える。


「これはこれはシュノリン様。ようこそいらっしゃいました。どのようなご用件でしょうか」


客は破壊神シュノリンだった。


彼女は、魔王城1階ロビーをグルっと見回す。

ロビーは少しだけ乱れていた。

カーペットは一部焼け焦げ、壁紙にも損傷があった。

まるでここで、何か乱闘でもあったかのようだ。


「……なんじゃ、ここは。嵐でもあったのかのう。……まあいい。なぁ、レツ坊はおるか?」


「申し訳ございません。魔王様は、その……、今外に出ておりまして」


「ん? おらんのか?」


「はい……。それで実は、いつ戻られるかは……。あの……、どのような御用でしょうか。申し伝えておきますが……」


「ふむ。いや、いい」


「……そうですか」


「そうだな。貴様でもいいじゃろう」


「……へ?」


「貴様、それなりに腕が立つのであろう?」


「え、ええ。その……、どういった意味で……?」


「暇なのじゃ。ちと相手をせい。……暇つぶしに、レツ坊を軽く捻ってやろうと思っておったのにのう」


「それは……、戦闘訓練を御所望といった意味……、でしょうか?」


「訓練……? 肩っ苦しいのう。ただのお遊びじゃ、お遊び。……この若い身体になってから、力が(みなぎ)ってのう。少々持て余しておる。発散したいのじゃ」


「そういうことですか。では、選りすぐりの精鋭を揃えますので、地下の訓練場でお待ち頂けますでしょうか」


「……いや、貴様でいいと言ったであろう? 聞いてなかったのか?」


その瞬間、コンシェルジュは吹き飛んだ。


そのまま後ろの壁に激突するコンシェルジュ。

彼女は、そのまま力無く床に落ちたが、すぐに身体を起こす。


「ぐ……っ⁉︎ な、なにを……?」


シュノリンは、右手を前に突き出していた。


おそらく今の一撃は、シュノリンが押したのだろう。

それも軽く小突くように。

だがコンシェルジュは、シュノリンがいつ右手を動かしたのかすら、全く認識できていなかった。


「……オイオイ、こんなものか? ガッカリじゃのう、貴様。……レツ坊は、こんなガラクタに城を任せておるのか。……ふむ。少々、甘やかしすぎたかのう? 仕置きが必要か……」


「……ガラ、……クタ?」


「……んー? なにか気に障ったかのう? 文句があるなら、……ほれ、打ってこい。ワシを納得させてみろ」


「いえ……、私はそんな……」


「なんじゃ、つまらんやつじゃのう。……まったくレツ坊は、子供の時から大馬鹿で、ヌルかったからのう。……そうだな。まずはこんな城なぞ、粉微塵にしてやろうか。……そうすれば、もう少し必死になるやもしれん」


「……聞き捨てなりませんね」


コンシェルジュは、自身の身体の埃をはらう。


「……いくらシュノリン様と言えど、数々の主人への暴言。そして、魔王城の破壊予告。……分かりました。我々は誠心誠意、対抗しましょう。……この魔王城の最大戦力を持って」


「……ほう、楽しみじゃのう」


その時、シュノリンは自身が取り囲まれていることに気付く。

それは魔王城の戦闘メイドたちだ。

彼女たちは音もなく、そこに立っていた。


「……ほう? いつの間に」


コンシェルジュは冷たく告げる。


「……シュノリン様、お覚悟を」





同日、現実の魔王城ビル。


カゲチヨとノヴェトは、連絡のつかない魔王を心配し、魔王城を訪問していた。


「な、なんだ、どうしたんだこれは。……ここは、野戦病院か?」


ノヴェトは思わず、見たままを口にした。

カゲチヨも不安げに辺りを見回す。


「皆さん、壊れています……? 何があったのでしょうか……?」


いつもであれば、エントランスの広い空間はガランとしているはずだ。

誰かがいたとしても、カウンターのコンシェルジュがひとりくらいだ。


だが、今は人で溢れ、雑然としていた。

見たところ、どうやら皆、メイドの魔法人形のようだ。

その上、彼女たちは一様にどこかしら破損している。

何かとんでもない異常事態であることはすぐに分かる。


そんな状況に2人が動転していると、不意に声をかけられる。


「勇者ノヴェト様、勇者カゲチヨ様。魔王城へようこそいらっしゃいました」


「ああ……、一体どうし……、ひっ⁉︎」


「ひぃあああ⁉︎」


その声の主の姿に、ギョッとするカゲチヨとノヴェト。


それは、コンシェルジュだった。


いつもならパリッとしたスーツを着こなし、優しい声で案内してくれる彼女。

だが、今の彼女に身体は無かった。

他のメイドの魔法人形に、首だけ抱えられている。

その状態で機能停止してないことも驚きだが……。


コンシェルジュは2人の驚きを理解し、言葉を続ける。


「申し訳ございません。少々、立て込んでおりまして。……魔王様でしたら、まだ戻っていません。必要でしたら、言伝(ことづて)(うけたまわ)りますが……」


燦々(さんさん)たる状況にも関わらず、淡々といつものように話すコンシェルジュ。

ノヴェトは驚きを隠せない。


「い、いや、それどころじゃないだろう。何が……。もしかして、襲撃されたのか? ……って、いや誰に?」


「ああ、その……、お恥ずかしい話なのですが……、少々面倒な来客がありまして……」


「面倒な、来客……?」





カゲチヨとノヴェトは、魔王城の大広間に通された。

そこはイベントの準備やら、多目的に使用される空間だ。


コンシェルジュは小声で言った。


「こちらで……。ほら、あのように」


そこにいたのは、破壊神シュノリンと女神アシュノメーだった。


「き、貴様! ……なんじゃそれは、ズルいぞ‼︎」


「あらぁ? 貴方だって、さっき使ったじゃない。ルールよ、ルール」


二人の目の前には、大型のモニターがあり、家庭用ゲーム機があった。

どうやら2人は、ゲーム機でボードゲームのようなもので対戦しているようだ。


「ほう……、貴様、このワシが破壊神だと知らぬようじゃな……」


「あらぁ、あらあら……? 負けそうになったら、暴力に訴えるのかしら。それは負けを認める……、ということで良いのね?」


「なっ⁉︎ ……なんのなんの、ワシは負けてはおらんぞ。まだまだこれからじゃ。貴様のその()ました顔、今にぐちゃぐちゃに泣かしてやろうぞ」


「あら、やれるもんならやってごらんなさいな。……まぁ無理だと思うけど」


「ふん……、貴様の……、ん? お、これは……、来た、来たぞよ‼︎」


「え……? ちょ、やめなさいよ。それ……、まだ使う時期じゃないんじゃないの?もうちょっと……」


「ええい! 問答無用じゃ‼︎ これでも喰らえい‼︎」


「ぎゃあ‼︎ ちょ、それ、ズルいわ‼︎ 反則よ‼︎」


「ほうほう? 聞こえんなぁ。……そして、更に更に……」


「あ、やだ。なんでよ! ちょっとやめなさいよ‼︎」


「もう1枚……、ほい来た‼︎ ……1マス2マスと……、お?」


「……あはっ! 失敗‼︎ あははははは‼︎ 勝った‼︎ 大逆転よ‼︎ 墓穴掘ったわね‼︎」


「ぐぬぬぬ、まだじゃ、まだこれからじゃ‼︎」


白熱している破壊神と女神。


一見、楽しそうにゲームで遊んでいるように見える。

だが、互いに怒りをギリギリで抑えているような状態だ。

いつ物理的な武力行使に出るか、分かったものではない。

もしもそうなれば、魔王城ビルなど、跡形も無くなるであろう。


困惑するカゲチヨ。


「……なんで、こんなことになっているんです……?」


それはコンシェルジュも同様だった。


「いや、その……、我々もどうしたら良いものかと……」


ノヴェトは目の前の光景を、呆然と見つめるだけだった。

最早、嫌な予感しかしない。


「……俺らもう帰っていい?」

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