第32話 禁書の最終戦争
女神神殿。
第二警護隊のとある隊員は、女神の部屋へ入っていた。
……だが、背後から不意に声をかけられる。
「貴様、そこで何をしている? 部隊はすでに、魔王領へ進行しているのだぞ? こんな大事な時に……」
第二警護隊の隊長だった。
戸惑う隊員。
「へ? ……いや、その……、女神様を探していて……」
「ほう。探していて……、偶然に寝室にまで入ってしまった……、と?」
「ああ、はい……」
「女神様は、侵攻について行ってしまったぞ? 知らなかったのか?」
「ええ⁉︎ ……あの人、そういう面倒なの嫌いだったんじゃ……」
「さぁな。いつもの気まぐれだろう」
「はぁ、そうでしたか……」
「ふむ……」
「えっと……、その何か……?」
「いやその……、なんだな。あの方は、性格は別としても……、見た目は良いからな。匂いも……、な」
「はぁ……。その……? えっとぉ……?」
「分かるぞー。分かる。貴様が間違いを起こしてしまう気持ちも。だがな、それはダメだ。女性の寝室に侵入して、あまつさえベッドにダイブしようなどと」
「へ⁉︎ い……、いや……、私は別にそんなつもりは……」
「まぁ……、だが。一度くらいなら見て見ぬフリをしてやっても……」
妙な間。
困る隊員。
「え? いやぁ……?」
「ほら……、さぁ。ドーンと」
「いや、ホントに違うんですけど……」
「なんだ? しないのか?」
「ええ」
「……そうか。では、私が」
「は?」
ベッドへダイブする隊長。
「はあああああん‼︎ 女神様ぁあああああ‼︎」
「うわぁ……」
隊長の醜態にドン引きの隊員。
「ハァハァ…………、オゲェ⁉︎」
隊長の頭に、四角い缶の箱が降ってきた。
どうやらそれは、ベッドの天幕の上に隠してあったようだ。
衝撃で中身が出て、ベッドの上に散乱してしまった。
「ん? 何か落ちてきましたね。……こ、これは……っ⁉︎」
隊員は、それを手に取る。あまりの衝撃に、手が震える。
「まさか、こんな……。こんなことって……」
隊長も、それを横から覗き見る。
驚きを隠せない。
「……そういうことか、これで合点がいく。俺たちは、こんなモノの為に戦わされていたのか……」
「いや、でも……。こんなことって……、あり得ませんよ!」
「言うな。それ以上、……言うな。俺だって……。だが、間違いない。これがそうなのだ。……これが始まりなのだ。……この、最終戦争の、……な」
それは一冊の禁書。
……だが、一冊では済まなかった。
「『ボクとおねーちゃんシリーズ・お風呂で最終戦争』⁉︎ こっちは、『新・姉ボク物語』、それに『異世界転生・憧れのナイトはおねーちゃんでした』……っ⁉︎」
隊員はプルプルと腕を震わす。
「こ、これって、ただのおねショタ本じゃないですか⁉︎ もしかして、女神様は魔王とかどうでも良くて、あのカゲチヨとかいう少年が目的なんじゃ……?」
「おねショタというのは、最近女神様がどハマりしてるやつだな。まさか、例の研究棟の騒ぎも、これなのか? たしかにあそこは、女ばかりの部署だが」
「この箱は鉄製でしょうか? 『パンドラの箱』と書いてありますが。……手書きで。……え? まさかこれが、禁書が入っていたという、パンドラの箱⁉︎」
「どう見ても、お菓子か何かの詰め合わせが入ってるような箱だな。……あ、裏に『餅熊製菓』と書いてあるな。……内容物は煎餅か。……って、なんでこの箱は、こんなにベタベタしてるんだ? まるでテープで、ぐるぐる巻きにでもしてあったみたいだな……」
「これ、異世界からの漂流物らしいのですが……。もしかして……、あっちの世界のおねショタ好きが、隠してた代物なんじゃ……」
「まさか、……なぁ。それであんな騒ぎ……。だって、今、魔王領に侵攻してるんだぞ? 最終戦争だ‼︎ と息巻いて。その元ネタがおねショタ本って」
「いや、でも。女神様のあの狂いっぷりから……、研究員が同じように狂ってしまっても……」
「……ちょっと待て。これ、我々が見てしまったことが発覚したらまずいんじゃないのか? 禁書がまさか、腐女子の戦利品などと……。しかも、そのせいでこれから戦争になるとは……」
ごくりと喉を鳴らす二人。
隊長は言い含めるように、隊員に伝える。
「いいな? 俺たちはここにはいなかった。何も知らないし、何も見なかった」
「それは、隊長がベッドにダイブしていた、ということもですよね?」
隊員は、念のために確認した。
*
魔on。もうそろそろ夜が明ける頃。
暗闇にそびえ立つ、白き『超破壊神シヴァデュナート・ロボ』。
そして、相対するのは赤黒き『破壊神シュノリン』。
この巨神対決も、そろそろ佳境を迎えつつあった。
シヴァデュナート・ロボのコクピットには、女魔王たちが搭乗していた。
コジロウ、ジルダ、ジーナに加え、カゲチヨとロミタンもそこにいた。
もちろん、全員が全身タイツにヘルメット姿だ。
なぜ破壊神がロボになったのか。
そして、なぜコクピットがあるのか。
もっと言うなら、なぜ全身タイツとヘルメットなのか。
……その辺の疑問に、誰もツッコむことなく状況は進む。
女魔王は、コクピットに座る一同を確認して叫ぶ。
「さぁ、みんな! 準備は良いでござるね⁉︎」
「「はい!」」
だが、カゲチヨだけ返事がない。
「発進‼︎ シヴァデュナー……、ん? カゲチヨ殿は、おねむでござるか?」
「ああ、無理もないですね……。もうこんな遅い……、というか、朝になりそうな時間ですし。さすがに子供には……」
頑張って起きるカゲチヨ。
「ん……、あー! お、起きております‼︎ 食べられまっす、のでっ‼︎」
「食べ? ……む、無理はいかんでござるよ? ……とにかく、あの破壊神を倒すのでござるよ‼︎ 世界を守るのは、魔王戦隊マレンジャーにしかできないのでござる‼︎ さぁ、みんないくでござるよ‼︎」
女魔王は、拳にグッと力を込める。
そして、座席に座りながら腕を伸ばし、グイッとポーズを決める。
「美しいものにはトゲがある‼︎ 真っ赤なバラは情熱の証‼︎ マレンジャー・情熱レッド‼︎ ……って、おわっ‼︎」
女魔王がポーズを決めている間に、破壊光線が飛んでくる。
急いで操縦桿を操作する女魔王。
「くっ⁉︎ 普通、こういう決め台詞は待つのが礼儀でござろう⁉︎」
「いや、無理でしょ……」
冷静に突っ込むコジロウ。
「ほら、ツッコんでる暇ないでござるよ。次はコジロウくんでござる! 早く早く! 巻きで‼︎」
「え? ……ああ、では僭越ながら……。冷たい物は頭がキーンとする‼︎ 真っ青な顔は頭痛の証‼︎ マレンジャー・頭痛ブ……、ごべっ⁉︎」
急なロボの動きのせいで、舌を噛むコジロウ。
また光線が飛んできたのだ。
「わわわっ‼︎ ご、ごめんでござる‼︎ こ、光線が……」
ロミタンは不安そうだ。
「これは、必要な儀式なのでしょうか? というか、私もやる想定……?」
それはジルダやジーナも同様だった。
「とりあえず、目の前のシュノリン様を、何とかしてからで良いのでは……?」
「なっ⁉︎ ……わわわわっ⁉︎」
また光線が飛んでくる。
操縦桿を握る女魔王は必死だ。
「しょ、しょうがないでござるね……。以下省略して……。六魔合体、超魔……、なんだっけ? 超時空? ああ、もういいや。魔王シヴァデュナート・ロボ‼︎ デデン‼︎ ……と、ではロミタン殿、結界をお願いするでござるよ」
「結界⁉︎ え? なんで?」
「このシヴァデュナート・ロボは、同乗者の能力が使えるのでござるよ。……その前にある水晶に、ポーズを決めながら……」
「それが、さっき言ってたやつですか。でも、結界なんて破壊光線の前では……」
「それなんでござるが……。ロミタン殿は、異世界の空間座標もいじれるでござるよね?」
「ま、まぁ造作もない……、ですかね。私ぐらいの結界師ともなれば……」
「あの光線の座標をズラして……、ちょちょいとやってござれば」
「ふぅん、なるほど……。まぁいいでしょう、やってみましょうか」
ロミタンはヘルメットで顔は見えないが、上擦った声で口上を始める。
「ま、魔王戦隊・結界術‼︎ 『黒歪み湾曲光線返し』‼︎ はぁ〜あ‼︎」
ロミタンが水晶に触れると、シヴァデュナートは同じポーズをし始める。
そうして、シヴァデュナートの前に、真っ黒い穴が生成された。
そして、その穴は、シュノリンの破壊光線を見事に吸収する。
「おお‼︎ これで光線を無効化し……」
女魔王が歓喜の声を上げた。
……と同時に、全く別の場所に、もう一つの黒い影が浮き上がった。
そして、そこから先ほどの破壊光線が、明後日の方向へ向かって放出された。
「……おわっ⁉︎ こ、これは、異世界に光線を逃したわけじゃ……?」
「そ、そんなことしたら、異世界ごと壊されてしまいますよ。あくまでも異世界を経由して、別方向に逃すだけです!」
「おお‼︎ ……なら、それをおばあちゃんにぶつければ……」
「い、いえ。そこまで万能では……。出る方向は操作できないので……」
「え……、それってもう運じゃ……」
それから連続で破壊光線が飛んでくるが、すべて穴の結界で湾曲させてしまう。
「な、なにはともあれ、この最強の盾でロボはもう無敵でござるから……」
だが、時間差で破壊光線があちこちにばら撒かれ、一帯は大惨事だ。
「これ、拙者たちが破壊しまくってるみたいになってるでござるが……。ま、まあ、いいでござる。次はカゲチヨ殿が、最強の矛になるのでござるよ‼︎」
「ええ⁉︎ ど、どうやって……?」
「お尻をペロンするでござる‼︎ それできっと、『年上女性限定・光の勇者』が発現するでござるよ‼︎ ……拙者のおばあちゃんとは言え、カゲチヨ殿から見れば年上女性。その効力はあるかもしれんでござるから……。その輝くおケツで、破壊神をねじ伏せるんでござるよ‼︎」
「え、あの……、ボク。今、犬獣人のアバターなのですが……」
「……あ、ああ、そうでござった……」
女魔王がションボリしていると、大きな声が外から聞こえてきた。
「そこまでです、シヴァデュナート‼︎ あなたを再び封印してあげますよ‼︎」
そこにいたのは、魔宮の聖女アスターだった。
*
女魔王らは、破壊神のコクピットからアスターの姿を確認した。
「あれは……?」
カゲチヨは大きな声を出す。
「あ、アスターさんです‼︎」
「アスター?」
「えっと、森の魔宮で……、服びちゃびちゃの人で……、シヴァデュナーを封印しているとかなんとかって……。服びちゃびちゃでしたけど……」
だが、現在の彼女は一糸纏わぬ姿だった。
「……ああ‼︎ アスター。聖女アスターでござるか。そういえば、そんな人いたでござるね。でも、なんでここに? ……というか、NPCでも全裸はまずいでござるよ。あんなエロ過ぎNPC、倫理的にヤバヤバでは……?」
「魔宮も全部無くなりましたからね……。外に放り出されたのでは……?」
「なるほど……」
女魔王はコクピットから、外のアスターに呼びかける。
「あ、あー、テステス。……アスター氏? 聞こえるでござるか?」
「むむむ⁉︎ シヴァデュナートが喋るんです⁉︎ あなたはただ破壊を繰り返すだけの、破壊の化身だったはず……」
「え? そんな設定でござったか? まぁそれはさておき、今は目の前の、別の破壊神を倒さないといけないのでござるよ。……なので、アスター氏はちょっと退いておいてもらえるでござるか? 封印の件は、あとで辻褄合わせるので」
「なにを言っているか分かりませんが、あなたが破壊の化身だと再度認識しました。さぁ観念なさい‼︎」
「……どの辺で、そんな認識になっちゃったのでござるか……」
「さぁ、私のこの身を今一度捧げ、あなたを封印します‼︎」
「とりあえず、何も伝わってないことは理解したでござる。でも、一人の力なんて高が知れているでござるよ。今はみんなの力を合わせ……、ん? んんん⁇」
「ふふふ、私は一人ではありませんよ……」
不敵に笑うアスター。その周りに、どんどん人が集まってくる。
「え? ……ええ⁇」
そこにいたのは、総勢50名の聖女アスターだった。
「「さぁ、封印を始めましょうか」」
コクピットでジタバタと狼狽える女魔王。
「わわわ……」
「あれは? 各インスタンスエリアから、一人一人出てきてしまった、ということでしょうか? たしかにエリアは、何十個かはあると思いますが……」
「ままま、まずいでござる。確か彼女の封印術は、人数に応じて効果が上がる設定のはず……。それで、最終的にプレイヤーたちの助けでその封印を……。パーティメンバー合わせたって、いいとこ7人でござるよ? あんな大人数で始めたら、本当に封印されてしまうでござるよ‼︎」
「お、落ち着いてください、魔王様」
コジロウはなだめるが、状況は変わらない。
そうこうしていると、外のアスターたちはなにやら詠唱を始めてしまった。
アスターたちの身体から、次々と光が照射される。
そしてそれは一本の大きな封印光線となった。
……シヴァデュナート・ロボに襲い掛かる。
「くっ⁉︎ こ、ここで封印されるわけには……、ええい、儘よ‼︎」
女魔王はロボを操作し、ロミタンの作り出した黒い穴でガードした。
すると、封印光線は異世界に消えた。
「や、やった⁉︎」
そして、時間差で別の場所に黒い穴が出現し、封印光線が照射された。
……しかしそれは、よりによってアスターたちの真上だった。
「「なぁああああああ‼︎」」
大絶叫のアスターたち。
「ちょ‼︎ 魔王様、こんなことして大丈夫なんですか⁉︎」
さすがのジーナも慌てる。目を合わせない女魔王。
「いや、そんなこと拙者に言われても……。急にビームが飛んできたので……」
さらに最悪なことに、そのアスターたちにシュノリンの破壊光線も照射された。
「「ぐあああああああああああああ‼︎」」
ドン引きの女魔王たち。
「うわぁ……。せ、拙者は悪くないでござるよ……」
「大惨事ですね……」
だが、ここで予想外のことが起きる。
二つの光線が混じり合ったことで、化学変化が起こったのだ。
眩い光に包まれていくアスターたち。
「な、なんでござるか、この光は⁉︎ み、見えない⁉︎」
光は止み、目が慣れる。
どうやら、アスターたちは消滅してしまった。
……だがその代わり、そこには巨大なアスターが一人だけ立っていた。
困惑する巨大なアスター。
「……こ、これは……?」
そして、女魔王も困惑する。
「……えええ⁉︎ ちょ、なんでそこで巨大化するでござる‼︎ しかも全裸でござるから‼︎ ホントに発禁になるでござるからぁ‼︎」
*
魔onの夜が明ける。
女神神殿からの遠征隊、総勢200名。
彼らは、亀裂から魔on世界に侵入していた。
そして、朝焼けの中に立つ、神々しい巨神たちの姿を目にした。
女神はその光景を見て、つぶやいた。
「なんなのよこれ……」
そこにいたのは……。
白き『超破壊神シヴァデュナート・ロボ』。
赤黒き『破壊神シュノリン』。
……そして、殆どが肌色の『全裸巨人アスター』。
女神は困惑を隠せない。
「意味……、分かんな過ぎるんだけど……? 何がどうなったら、こんなんなるのよ……? ゲームって、こういうものなの……?」
側にいた兵士が女神に問う。
「も、もしやこれが、禁書に記されていたという……、最終戦争なのでしょうか? ま、まさに世界の終わり……、といった状況ですが……」
「え?」
「え?」
「全然違うけど……、もうそれでいいわよ。そう、これが最終戦争なのよ」
「ええ……」
その時、目の前に集団が現れる。
女神はギョッとする。
「なっ⁉︎」
……それは、ノヴェトたちだった。
夜が明け、巨神たちの元へ駆けつけたノヴェトら。
不幸にも、女神兵団の遠征隊とかち合ってしまったのだ。
「ななな、なんなのあんたたち……」
「BBA‼︎ なんでここに⁉︎」
「……ん? その言い方……。貴方、もしかしてクソ勇者かしら?」
「ふん、見た目違ってても俺だって分かるのかよ。俺が恋しかったか?」
「やっぱり。まったく忌々しいヤツね。……ってなんで、どいつもこいつも裸なのよ⁉︎ よくまぁその見苦しい格好で、そんなセリフ言えるわね⁉︎」
「こ、これには色々とワケがあるんだよ‼︎ 察しろ‼︎」
「どう察したら、その格好が肯定されるのか想像もつかないわね……」
だが幸か不幸か……。
ロボの跳ね返すランダム破壊光線は、女神兵団にも照射される。
「「うわああああ‼︎」」
阿鼻叫喚の兵団。
そして、全てを失い、結局全員が全裸へ。
全裸になった女神を見て、ノヴェトは言った。
「……な?」
「くっ⁉︎ ……なに、その、どうだ? みたいな顔やめなさいよ‼︎ って、エロい目でこっちを見るんじゃないわよ‼︎」
女神の側にいた兵士は、もう戦意喪失している。
「め、女神様。武器も何もかもが無くなってしまいました。こ、これでは侵攻も何も……」
「わ、分かっているわよ……っ‼︎」
ノヴェトは、三巨神を見ながらつぶやく。
「とは言ったものの、これはどうしたら……。ん? あれはなんだ? ……人?」
「え? なによ、騙されないわよ⁉︎」
「め、女神様‼︎ ……あんなところに、……ハンゾウが?」
破壊神シヴァデュナートの頭の上に、人影があった。
それは女神兵団に下った裏切り者、女勇者ハンゾウだった。
もちろん全裸だ。
「や、やはり、あれはハンゾウ‼︎ あんなところに……、我々を出し抜きおってからに‼︎ 今までどこに……⁉︎」
「何をするつもりかしら。あんなところに登って。……なんか叫んでるけど、全く聞こえないわね……」
だが、シヴァデュナートは破壊光線をしゃがんで避ける。
結果、光線はハンゾウに直撃。
その衝撃で、ハンゾウは吹っ飛んで何処かに消えていった。
「……何しに出てきたの……、あの子……」
女神は遠くを見つめた。
*
破壊神のコクピット内。
コジロウは叫ぶ。
「魔王様、大変です! 下をご覧下さい! プレイヤーたちが! 全員、裸で!」
「酷いでござるな。ならもう、いっそアレを使うしかないでござるか」
「あれを⁉︎ 正気ですか、魔王様⁉︎ って『あれ』とは一体なんのことで?」
「管理部に連絡をするでござる‼︎ 全プレイヤーを対象に『天人化』を‼︎」
「天人……、うわああ‼︎ あ、あれはさすがにマズイですって‼︎」
「……まずいって、もう全裸だらけで十分マズイんでござるよ!!」
「だって、女性陣に内緒で、こっそり実装してたなんてバレたら……」
「拙者はまた、火炙りでござろうな。ふふふ、だが甘んじて受け入れる所存」
「わ、分かりました‼︎ その覚悟、しかと見届けましょう‼︎ ……あ、もしもし? 管理部? 天人オンでお願いします。ええ、魔王様の命令で……。ええ、ええ……。分かりました。それではお願い致します。失礼します。……魔王様、5分後に天人化発動します‼︎」
「見届けるも何も、たぶん火炙りは、コジロウくんも一緒でござるから……」
「え」
「よし、では全プレイヤーに向け、アナウンスを……。あーテステス。聞こえるでござるかー?」
その声は魔onプレイヤーだけでなく、エリア内の全員に届いた。
狼狽えるノヴェト。
「な、なんだ……、まっちゃんか? ……あ、頭の中に直接だとっ⁉︎」
戸惑う女神。
「なによこれ、どっから声が聞こえてんのよ⁉︎」
女魔王は言葉を続ける。
「これから、全プレイヤーを強制的に天人化するでござる。対象は全プレイヤーでござる。……たぶん5分後くらいに」
「天人……、どっかで聞いたような……?」
ノヴェトは、記憶の片隅を探る。
……と、数秒後。
次々と光に包まれていくプレイヤーたち。
それは女神兵団も例外ではなかった。
「うわっ⁉︎」
「な、なんだ⁉︎」
そして、光が消える。
だがそこにいたのは、変わらず全裸の人々だった。
「なんだったんだ……?」
だが、ノヴェトはいち早く気付く。
「あ、ああ‼︎ これは⁉︎ 天人装備だ‼︎」
ロザリーはハッとする。
「天人……、ええ⁉︎ それって、女性陣で却下したやつですか⁉︎ え? これ⁉︎」
正確には、全裸ではなかった。
局部は、湯気で隠れる仕様のネタ装備だ。
「まっちゃん……、こっそり実装してやがったのか……」
巨人のアスターも一応、天人装備で局部が隠れていた。
ロザリーはドン引きしている。
「え、いや、隠れはしますが、全裸なのは変わってないのですが。武器もないですし。……というか、結局破壊光線で破壊されたら一緒では……」
だが天人装備は、破壊光線でも消えることはなかった。
実際、目の前のアスターが光線の直撃を喰らったが、湯気は消失しなかった。
「なるほど、物理的に装備してるわけじゃないしな。湯気はいくらでも……、ってことか。よし、これで戦えるぜ!」
ロザリーは真顔で問う。
「えっと、何と? ……何と戦うんです?」
ノヴェトは、三体の巨神を見上げる。
「倫理かなぁ……」