第28話 刻忘れの聖女
ノヴェトたちは、魔onに再ログインしていた。
……と言っても、魔on世界は、すでに現実と融合している。
つまり、ここは現実の魔王領であり、その中の異界と化した領域である。
しかし、異界化については、まだ詳しいことは何も分かっていない。
ある意味、これからが本当の探索である。
そこは、廃都から少し離れた『刻忘れの森』。
一行は、聖女に会いにいくところだ。
アップデート前にレベル上げをした場所だが、微妙に地形が異なっている。
隆起しているところや、逆に陥没しているところがチラホラと見えるのだ。
カゲチヨは歩きながら、その見慣れぬ風景を呆然と見ていた。
「すごいですね。なにか地殻変動のようなものがあった、ということでしょうか?噴火とか、地震とか……。」
ロザリーもその光景には驚いていた。
「そうですね……。たしか現実の『刻忘れの森』は、ここまで凹凸の激しい場所じゃなかったように記憶しています。この辺りも異界化領域ですので、アップデート関連……、なのだと思いますが……」
「……なんか臭いにゃ。オナラくさいにゃ」
「たしかに臭うッスね」
「一体誰よ? 私じゃないわよ」
「ははーん、……にゃんの名推理によれば、オマエが犯人にゃ‼︎」
ビシッと指を差すリゼット。
……相手はリンリンだ。
「ちょ‼︎ してないッスよ‼︎」
「最初にオナラのことを言ったのは、リンリンなのにゃ‼︎」
「……え? 先に臭いと言い出しのは、リゼットちゃんじゃ……?」
「なら、犯人はオマエにゃ‼︎」
次は、ビシッとアキラに指を差すリゼット。
「ちょっ、そんなわけないでしょ‼︎ アンタ、自分が犯人だからじゃないの⁉︎」
「なら、犯人はオマエにゃ‼︎」
次は、ロザリーに指を差すリゼット。
「ち、違いますよ‼︎ な、なんですか、急に⁉︎」
「誤魔化すなんて怪しいのにゃ……」
「誤魔化してないです。急に言われたら、誰だってびっくりするでしょう?そもそもリゼットが……」
「なら、犯人はオマエにゃ‼︎」
次は、カゲチヨに指を差すリゼット。
「はわわわわ‼︎ 違います‼︎ ボ、ボクじゃないですぅ‼︎」
「その慌てぶり……? 怪しいのにゃ、怪し過ぎるのにゃぁ……」
「急に言われたら、誰だって慌てるって……、ほらロザリーさんも今言ってましたし‼︎」
「……はて?」
「ええ⁉︎ ロザリーさん⁉︎」
「……白状するのにゃ。プゥってしちゃいましたにゃ、って。今なら、死刑は許してあげるのにゃ……?」
「し、死刑⁉︎ オナラしたら死刑なんですか⁉︎ ……そ、そんなのひどいです‼︎ 無茶苦茶です‼︎」
涙目のカゲチヨ。
面白がっているのか、リゼットだけでなくロザリーも参加し始める。
ロザリーは、カゲチヨの肩にポンと手を乗せる。
「いいのよ、カゲチヨきゅん、いいの。カゲチヨきゅんのオナラなら、おねーさんがぜーんぶ吸ってあげるから。いっぱいしていいんだよ?」
「だ、だからしてないですって‼︎」
そこに、アキラが助け舟を出す。
「アンタたち、いい加減にしなさいよ。カゲチヨも困ってるじゃないの。……そういうのはそっとしておきなさいよ。本人が一番分かってるんだから……」
「アキラ……」
カゲチヨはアキラの目を見る。
……カゲチヨは気付く。
「……ん? あれ? それってなんか……、結局ボクがやったことになってません? だからやってないんですって‼︎」
「いいのよ、カゲチヨ。それはもう終わったの。オナラなんて無かった。……そういうことでしょ?」
「ちーーー! がーーー! うーーー!」
カゲチヨが絶望していると、ノヴェトがカゲチヨの頭にポンと手を置いた。
「これ、温泉の臭いだぞ。冥界でも嗅いだろ? コイツら分かってやってんだよ」
「ホントですか……? ノヴェトさんは、ボクのこと信じてくれるんですか?」
涙目でノヴェトを見上げるカゲチヨ。
「……お、おう? ほら、もう近いんじゃないか? 結構臭いが……」
進んでいくと、森の中に大きな湖があった。
だが、湯気が立ち上っている。
「以前はこんなとこに、湖は無かったッスよね……?」
「湖っていうか、湯気立ってんぞ。もしかしてこれ、全部温泉ってことか?」
巨大な温泉湖の中央には、魔宮があった。
湖となった場所は、少し窪んでいるとはいえ、元々は森があった場所だ。
温泉の中に生えている木は、案の定枯れている。
魔宮も温泉に浸かった状態で、枯れ木のおかげで妙に禍々しく見えてしまう。
「さすがに暑いな……。これ、この温泉のせいか?」
「あれが魔宮でしょうか? 温泉に囲まれていて、どうやって行けば……」
「これ、そんなに熱くないわよ。浅そうだし、歩いていけるんじゃない?」
「この温泉の中をッスか? 湯は透き通っているッスが……」
「たしかに、他のプレイヤーもチラホラいますね」
「見たところ、モンスターもいないし。……しょうがねぇ歩いていくか」
温泉湖をゆっくりと進む一行。
たしかに、湯はそこまで熱くはないし、膝下ぐらいの深さしかない。
深いところでも腰まではいかない。
だが、足は取られ続けるし、なにより気温が高い。
湯から立ち上る熱気が、延々と熱を篭らせるので体力が削られ続けてしまう。
そんな温泉湖を歩き、なんとか魔宮へと到着した一行。
「たしかに廃都の魔宮と似てるな、これは」
「妙に真新しい……。まるで、刻が止まったような建物ですね」
魔宮の1階部分は、完全に床上浸水の状態。
他のプレイヤーが向かう先には、狭い通路への入り口が見える。
作りとしては、廃都の魔宮とほぼ同じなのだろう。
「これ、入って大丈夫なんだよな……?」
温泉水は、もはや川のように流れている。
先の方は見えないが、完全に水没しているだろう。
それどころか流れを見る限り、通路の先から湧き出ているのかもしれない。
「他のプレイヤーが入っていってますね。……これ、ここも廃都の魔宮と同じように、庭園のインスタンス・エリアへ続いてそうです」
「うん……。この温泉水、悪い予感しかしないんだが……」
「とりあえず、入ってみるしかないですね……」
一行は、温泉水に浸る通路へゆっくりと入っていった。
*
中は、廃都の魔宮とほぼ同じ作りだった。
広い庭園は人工的に整備されており、小川が流れている。
吹き抜けで採光も申し分ない。
中央には石のテーブルや椅子などがあった。
周囲は木々や草花が生い茂り、とても居心地の良い空間だ。
……と、おそらくは、少し前までそうだったと思われる。
というのも、この場所にも大量の温泉水が行き渡ってしまっているのだ。
床上浸水しているので、草木は枯れ、独特の硫黄臭が辺りを包む。
そして、なにより最悪なのが熱気。
外とは比べ物にならないほど、とにかく暑いのだ。
インスタンス・エリアというものは、外界から遮断された空間である。
そのため、物理的にも遮蔽物などで密閉されている場合が多い。
この場所も例外ではなく、出入口以外に出口はない。
しかも吹き抜けがあるせいなのか、出入口から大量の熱気が入り込んでくる。
その熱気は上空へと昇っていくようだ。
だが、足元は全面温泉ということもあり、熱が冷めることもない。
「うわぁ……、なんじゃこりゃあ。蒸し風呂だぞ、これ」
「暑い……」
「中央のテーブル、誰かいますね。白いローブ……、例の聖女でしょうか?」
中央に行くと、白いローブを着た女性が声をかけてきた。
「ああ、これはこれは皆さん……、ふぅ……。こんなところまで、ようこそおいで下さいましたぁ……、はぁ……」
「……え、あ、はい」
彼女を見たノヴェトは、妙にかしこまってしまった。
おそらく彼女の衣服は、相当高価なローブなのだろう。
薄手の布に、金色の装飾がされている。
彼女がどういった位の人物かは分からない。
だが、その着衣からは、彼女が特別な人物であることはすぐに分かる。
「……エ、エロいッスね……」
「え? ……なにか? ……はぁ」
「ああ! い、いえ‼︎ なんでもないです‼︎」
ノヴェトは声が裏返って返事をする。
それは無理もなかった。
なぜなら、ここは温泉水に侵食されており、サウナ状態。
こんなところで薄いローブを着るのは、まさに鴨がネギを背負っている。
……ようなもの。
彼女の身体の線がクッキリ……。
……どころか、肌に張り付いて、完全に色々見えてしまっているのだ。
だが、彼女はそれを理解していないのか、普通の振る舞いで出迎えてくるのだ。
「さぁ、はぁ……、どうぞ。そちらにおかけください。……ふぅ」
彼女にすすめられたのは石のイス。
「うわぁ……」
だが、イスはもう蒸気でびちゃびちゃだ。
「……どうしました? ……ふぅ」
「ええ……、ああいや、はい……」
一行は諦めて、びちゃびちゃの椅子に座る。
聖女は、ふぅっとため息をつくと語り出した。
「私の名はアスター。……はぁ。この魔宮に破壊神を封じた者であり、私自身がその封印なのです。私は刻忘れの秘術により、歳をとることはありません。ふぅ……。私が死なない限り、この封印も守られ続ける……、はずでした」
聖女は何度も気怠そうに、ため息をつく。
「ところがここ最近、破壊神に復活の兆候が見られるのです。理由は分かりませんが、封印が弱まりつつあるようなのです。その証拠に、森の都に魔宮の影が出現し、次々と生贄を捧げているようです。……あなたたちは『幽鬼』ですね。それは、破壊神への生贄となった者の証。それを解くことは容易ではありません」
聖女は時折言葉を止め、フリーズしたように固まってしまう。
だが、ノヴェトたちが話しかけようとすると、また言葉を再開する。
「幽鬼とは、現世と死者の国の狭間に漂う魂です。放置すれば、いずれその生命も……、はぁ……。ですが、幽鬼であれば、自由に『死者の国』と行き来ができます、ふぅー」
聖女はノヴェトたちに向き直り、しっかりと力を込めて言葉を吐き出す。
「……そこで、お願いがあります。ふぅーっ。……死者の国で、封印が弱まっている原因を特定してください。おそらく、幽鬼化を解くカギもそこにあるはずです……。ふぅ……」
聖女の怪しい動きを見て、リンリンがパーティメンバーに小声で話す。
「さっきから、あの聖女さん、妙に息が荒いんッスけど……? あのスケベ衣装も相まって、ちょっとお子様には見せられないエロさが……。これ、推奨年齢上がってないッスか……?」
「ゲームのNPCは、思考が自動人形とほぼ同じです。今回、異界化したことにより、その思考のまま、受肉したのではないでしょうか。だからこの暑さも、普通にシンドイと感じているのだと思います」
「そうか……。しかもあのNPC、ゲームの仕様上、ここから出られないんだよな……? このサウナ状態の密室でずっと。これはなかなかの拷問だぞ……?」
ノヴェトは少し考え、聖女に話しかける。
「自由に『死者の国』へ行けるというが、どうやって行けばいいんだ?」
「それでしたら、この魔宮に入り口があります。……ほら、あそこに階段が」
だが、聖女アスターが指を差した場所には、何もなかった。
なぜなら、温泉水が床上浸水していたからだ。
少し離れた今の場所からは、お湯の水面しか見えない。
だが丁度その場所で、気泡が吹き出すように水面が一瞬盛り上がる。
それからまた数秒後にまた盛り上がる。
そのようにして、何度もそれは繰り返されている。
どうやら、温泉水はその階段から、ひたすら湧き出しているようだ。
「……見てください。破壊神の……、魔力がどんどんと溢れてきて、もはやこの魔宮も地獄を呼び込んだように……」
「たしかに地獄のような暑さだが……。溢れてきてんのは、魔力じゃなく温泉だな。もしかして、ここ一帯の温泉って、あそこから湧いてんのか? そもそもインスタンス・エリアと、どう繋がってんのか分からんけども」
一行はその階段を確認しにいった。
なおも溢れ続ける温泉水。
「うわぁ……。奥見えねぇよ……」
「さぁ、死者の国へ旅立つのです」
「さぁって。ホントに旅立っちゃうだろ、これ。……溺死して」
「毒殺の次は、溺死ッスか……。エグいッスね……」
カゲチヨは怯えている。
そして、珍しくアキラも怯えていた。
「わ、私、絶対嫌だからね。こんなの入ったら死ぬじゃないのよ! 泳げたって絶対死ぬし‼︎」
「……もしかしてオマエ、泳げないのか?」
「そ、そんなのどっちだって関係ないじゃない! 泳ぐ以前の問題よ‼︎」
「……たしかに」
「他のプレイヤーはどうしているんでしょうね」
「なんかこの温泉自体がもう、冥界絡っぽいんだよな……」
ノヴェトは温泉に顔を浸けて、中を見てみた。
「ごほっ! ……なんでか知らんが、呼吸できる……」
ノヴェトは一瞬考える。
「……いや、違うな。俺らもしかして今、呼吸止まってない?」
*
一行は、水中の螺旋階段を下っていく。
幽鬼になったせいなのか、無呼吸で活動してたようだ。
結局、水中でも何の問題もなかった。
問題があるとすれば、温泉の熱だ。
ずっと温水に浸かり続けるのは、なかなかにしんどかった。
そして、嫌がるアキラを無理矢理連れ、パーティは死者の国へ向かう。
水中では喋ることもできないので、身振り手振りでなんとかやり過ごす。
螺旋階段の最後には、通路があった。
だが、その行き止まりには扉も何もない。
そこでリゼットが何かに気付き、上を指差す。
そこには、僅かな明かりが見えた。
全員、そこに向かって上昇していく。
泳げないアキラも懸命に昇る。
そして、光を抜けると、そこは水面だった。
眩しい光で、視界が塞がれる。
……目が少しずつ慣れていく。
「……ん?」
そこに数人がいた。
全員裸でタオルを身につけている。
見知らぬエルフ女性や、獣人娘、ハーフリングの娘など。
そこは紛れもなく、温泉だった。
「温泉⁉︎」
「ここが⁉︎ 死者の国、ッスか⁉︎」
ふと気づけば、足元の大穴は塞がってしまっている。
周りにいた女性たちが何事かと集まってくる。
「えっと……、いやーその、別に覗こうとかそういうのではなくー、エヘヘ」
「ノ、ノヴェトさん、このカンジ……、なんか既視感が……」
案の定、みるみる骨になっていく女性たち。
「アアアアアアーッ‼︎ またこのパターン⁉︎」
「ひぃいいいい‼︎」
「わわわわわ‼︎」
急いで温泉から岩場に上がるパーティメンバーたち。
そして、背後から何者かに声をかけられる。
「……なんです。またアナタたちなんです?」
「へ?」
そこにいたのは、ロミタンことエセ子だった。
*
ノヴェトはゆっくりと振り返る。
「エセ……、子?」
「だからそのエセ子ってのを、やめろと何度言えば……」
「マジか、……また⁉︎」
周りを見渡し、項垂れるノヴェト。
それはリンリンも同様で、アキラに至っては大層ご立腹だ。
「なによ! またここじゃないのよ‼︎ 頑張って泳いだのに‼︎」
ノヴェトたちは、また冥界の大浴場『常闇の秘湯』に戻ってきてしまったのだ。
「まったく……、ここへは来ない方がいいと言いましたよね?」
「言ったね……」
「ホントに今日は、どうしてこう騒がしいのでしょうか。……ここは死者のための湯なんですよ? どうしてこう、次から次へと……」
「いや、たしかに忠告されながら、また来てしまったのは悪いと思うよ。でも、そこまで言わなくても……」
「言いたくもなります‼︎ ……あなた方が帰ってから、何人も何人も無断で湯に入ってくる。せっかくの秘湯が、人だらけで全く落ち着かないんですが⁉︎」
「いや、それはもう……、って、ん? 人……、だらけ……?」
「見てくださいよ‼︎ この有様を‼︎」
エセ子は温泉全体を見るように、ノヴェトたちに促した。
湯気に見え隠れする人影。
しかし、それは死者たちではなく、魔onのプレイヤー達であった。
彼らは、温泉の中でバタバタと忙しなく動き回っていた。
「……オ、オイ。これはどういうことだ……っ⁉︎」
「それは、こっちが聞きたいのですよ‼︎」
温泉を堪能するプレイヤーもいるが、ほとんどの者は忙しなく動いている。
どうやら出口を探して彷徨っているようだ。
「もうすでに、今日は『境界の門』へ何十人誘導したことか。でも、あっちこっちの湯からこう……、ひっきりなしに出てこられては、私も対処しきれないのですよ! あなた達、早くこの方々を連れて、ここから出ていって下さい‼︎」
「わ、分かった! 分かった! ……け、けど、これはえらいことだぞ……?」
「もしかして全プレイヤーが、『森の魔宮』から冥界に、来てしまっているということでしょうか⁉︎」
「見てる限り……、その可能性が……」
「可能性とかどうでもいいのです! 早く出てってください! ……さもないと破壊神様が……っ‼︎」
破壊神シュノリンの周りも、同じような状態だった。
バタバタと歩き回るプレイヤーだけでなく、彼女を取り囲み何やら話している。
プレイヤーたちは、彼女のこともNPCだと思っているので、扱いもぞんざい。
不用意に肩に触れ、揺らしたりする。
ノヴェトたちは、シュノリンおばあちゃんのところまで走ってきた。
衣服はびしゃびしゃのままだったが、そんなことを気にしている場合ではない。
ノヴェトたちはシュノリンを庇うように、プレイヤーたちとの間に割って入る。
「あ、オイ! やめろ! ……なにしてんだ!」
「な、なんだよ⁉︎ コイツ、NPCのくせに全然喋らなくて……」
「……は? ……いや、NPCじゃねぇ! ここは本物の冥界なんだよ‼︎」
「ハァ⁉︎ 冥界ってなんだよ‼︎ ここは『死者の国』だぞ?」
ノヴェトが状況を説明し始めるが、プレイヤーらはそれを素直に飲み込めない。
そのせいで、シュノリンおばあちゃんの周りで、いざこざが発生し始める。
「……うるさいのう……」
それは地に響くような、低くしわがれた声。
……全員が声の主を見る。
だが、シュノリンおばあちゃんは微動だにしない。
全員気のせいだと思い、いざこざを再開させる。
「だから! バグかなんかで、冥界と繋がっちゃったんですよ‼︎」
「なんだよオマエら! 順番守れよ! 邪魔すんな‼︎」
「まぁまぁほら、ここは穏便に……、ッスよ?」
ノヴェトたちのパーティが、なんとか場を収拾させようとする。
だが、騒ぎを聞きつけた他のパーティもやってくる。
そして、シュノリンおばあちゃんの周りは人だかりができてしまう。
そして、再びあの低い声。
……それは叫び声に変わる。
「うるさいと、……言っているのじゃーーーーーーーーーーーっ‼︎」
すると、シュノリンの全身は真っ赤に変色した。
そして、その全身は、禍々しくドス黒い闇の魔力の奔流に包まれた。
その魔力は、一本一本が意志を持つ大蛇のようにのたうつ。
「お、おばあちゃん……⁉︎」
ノヴェトたちはその光景に圧倒され、腰を抜かす。
そしてそれは、他のプレイヤーたちも同様であった。
「ア……、アア……、アアアアアア、……アアアアアアアア‼︎‼︎」
シュノリンの叫び。
彼女の身体は、みるみる大きく膨れ上がっていく。
そして、3倍ほどに膨れ上がったところで、一瞬止まった。
「なななななな⁉︎」
「はわわわわ‼︎」
「ちょ、どうすんのよこれ⁉︎ どうすんの⁉︎」
「わぁ、おっきいにゃあー」
「お、おばあちゃん、彼らも反省していると思うので……、な⁉︎ な⁉︎」
ノヴェトの言葉に、ブンブン頭を振って頷く他プレイヤー。
だがその時、エセ子はすでに諦めた表情をしていた。
「……ああ、ついに解放されてしまったのですね。破壊神様。……さぁ始まりです。……この世の終わりの」
破壊神シュノリンは、その力を解放した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」
シュノリンの身体から閃光が放たれる。
そこにいた全員は、吹き飛ばされてしまう。
殆どの者は、そこで気を失った。