第26話 封印されし破壊の神
魔on。謎の神殿内部。
ノヴェトらは、謎の神殿ダンジョンを進んでいた。
パーティ分断、仲間の偽物、そして同士討ち。
一行は、大規模アップデートの初日から、イベントを十分に堪能したようだ。
そして、その最後には謎の少女が登場した。
だが、彼女はノヴェトの不意の一撃で気絶し、偽物が全て消えてしまった。
そのことから、彼女こそがこのイベントのキーであることは間違いない。
「ん……、んー。……あれ? 私……」
「あ、ノヴェトさん。エセ子さんが、気付いたようですよ」
カゲチヨは少女の顔を覗き込み、様子を見ている。
『エセ子』というのは、ノヴェトが決めた暫定の呼び名だ。
それは『偽物たちの子供ボス』という意味だ。
その少女が、ようやく目を覚ました。
「……ん? ……え⁉︎ あ、ちょ⁉︎ なにこれ⁉︎ どういうことです⁉︎」
少女が困惑するのも無理はない。
彼女は今拘束されていたのだ。
それも、ノヴェトの槍に手足をくくりつけられ、ぶら下がっている状態。
槍の両端は、骸骨の兵士とノヴェトによって担がれている。
その姿は、山で捕獲された猪のようだ。
「ちょ、ちょっとぉ‼︎ なんで、こんなことになってるんです⁉︎」
「なんでって、オマエ……。あの偽物騒ぎは、オマエのせいなんだろうが」
「えっと、いやーそのぅー……」
「オマエ、あれだろ? ボスかなんか、なんだろ? だったら、拘束するし、逃がさねぇよ? ボコボコにされないだけ、有難いと思え」
「百歩譲って拘束するとしても、どうしてこんな⁉︎ 私がまるで、捕獲された獣みたいじゃないですか⁉︎」
「しょうがねぇだろうが。移動せんとならんのに気絶しやがって……。俺は仕方なく、こうして運んでやってんだよ」
「いや、おぶればいいじゃないですか! こんな可愛らしい少女なんだから‼︎」
「自分で言うか……。あんだけバンバン偽物出しておいて、見た目がなんだろうと信じられねぇよ。その格好も、なんかの偽物だろ? ……まぁ置いてくわけにもいかねぇから、運んでやってんだよ。……良かったな、楽チンで」
「ええ、そうですね。とても楽チンですね。……って、なるか! しんどいっ! 首‼︎ 首しんどっ‼︎ 頭に血が上るんですけど⁉︎ ……このぉ‼︎」
暴れる少女。
だが、手足はガッチリと固定されている。
ブランコのようにぶらんぶらんするだけで、何一つ状況は変わらない。
むしろ頭に血が昇って、気分が悪くなる。
「オイ、暴れんな、エセ子。担いでるこっちの身にもなれ」
「エセ子ってもしかして私のこと? ちょ、エセ子ってやめてもらえます⁉︎」
「うるさいなぁ……。だったら、どこの何様なんだよ?」
「……」
だんまりのエセ子。
実はこの時、ノヴェトたちは神殿を進んでいた。
だが、終わりは見えなかった。
「しっかし、これ、どこまで行けばいいんだ? 無限ループは終わったけど、どこ向かえばいいのか、ホント分かんねぇ」
「まだ仕掛けがあるのかもしれないッスね」
「えぇー? ……うーん? ……となると、やっぱコイツか?」
ノヴェトたちはエセ子を見る。
彼女は目を逸らす。
「それっぽいな。こういう場合だと、生かして新たなイベント発生するパターンと……。殺して何かが解除されるパターン……、か」
エセ子は、明らかに動揺をし始める。
「こ、殺すとか、そういうのは無しの方向でお願いしたくー。……ほ、ほら、小っちゃい子にそういうこと……、ね?」
「じゃあ出口まで案内しろ。……じゃなかったら、このまま火で炙って食っちまうからな」
「わ、分かりました。案内すれば良いのですね⁉︎ えーと、えーと……」
エセ子は、キョロキョロと周りを見回す。
だが、段々と顔が青ざめてくる。
「……えっとそのぉー」
「なんだ? どうした? もう、騙しは無しだぞ?」
「できれば、火炙りは無しの方向でお願いしたくー……」
「だからそれは、案内すればいいって言ってんだろうが」
「いやそのー……」
妙に歯切れの悪いエセ子。
目が泳ぐ。
「……ここ、どこかなー……、って?」
「……は?」
「ちょっと知らない場所かなー、……みたいな?」
*
一行は、紆余曲折を経て、なんとか最終地点らしき場所に着く。
目の前には、大きな扉。
なお、エセ子は相変わらず、槍からぶら下げられている。
ノヴェトは慎重だった。
「……オイ、また罠じゃねぇだろうな?」
「ち、違いますって! 確かに先ほどは間違いましたけど、今度こそ正解なのです! ほ、ほらそれっぽい場所でしょう? だ、だから、もうそろそろ縄を解いてほしーかなー……、って?」
「にょあああ‼︎ にゃあが一番乗りにゃん‼︎」
猫巫女リゼットは、ガシャンと乱暴に扉を開け放つ。
そして、さっさと中に飛び込んでいく。
当たり前のように、アキラとカゲチヨもそれに続く。
「ちょ! 待ちなさいよ‼︎ 私が一番なんだから‼︎ ……て、うわあ‼︎ すんごい広い‼︎ なんかボス部屋っぽい‼︎」
「わぁ……、広いですねぇ……」
「オマエら、もうちょい警戒せぇよ……。なんかこういうの、もう驚かなくなってきたな……」
ノヴェトは、少女を担ぎながら骸骨と共に部屋に入る。
リンリンや兎娘ロザリーも、それに続く。
部屋はとんでもなく大きく広い。
その広さは、向こう側が見えないほどだ。
途中、なにやらモヤのようなものがあり、視界を遮っている。
妙に室内が暖かいのは、その湯気のせいだろうか。
「なんか臭くない……、ッスか?」
「たしかに。何の臭いでしょうか」
「硫黄のような? ……ああこれ、温泉の臭いだな」
エセ子が口を開く。
「えっとー、はい。ここは、大浴場『常闇の秘湯』です。死者たちが心と身体を癒す、冥府の温泉なのす」
「冥府の温泉? ……大浴場⁉︎」
ノヴェトは困惑しながら奥に入っていくと、たしかにそこは大浴場だった。
それもプールのように広い。
神殿の装飾と同じように、温泉内も飾り付けられていた。
中央の大きな像からは、温泉水らしきものが滔々と湧き出ている。
猫巫女リゼットはテンションが上がり過ぎて、着衣のまま湯にダイブする。
「にゃはーーー⁉︎ ……トウッ‼︎ ちょわああ‼︎ ……ぷはっ‼︎ 気持ちいいにゃあーーー‼︎」
さすがにアキラとカゲチヨは入らなかった。
彼らもさすがに、リゼットの奇行にドン引き。
リゼットの着衣は、死にかけのクラゲのように彼女にまとわりつく。
「オイ、ビショビショじゃねぇか! 服着たまま入るやつがあるか!」
ノヴェトもさすがにツッコむ。
温泉から出ようとするリゼット。
「むぐ……、重……っ。重にゃ……」
「だろうな……」
リゼットの巫女装束は、存分に水分を吸って物凄い重量になっていた。
スケスケでエロエロ……、なんてことはなく。
その姿は、不定形モンスターに食われている真っ最中にしか見えない。
「オマエはちょっと反省しとけ……」
「ふにゅう……」
奥に山のように岩場があり、滝のように温泉水が流れ落ちている。
どうやら岩場の上も温泉のようだ。
さながら、温泉テーマパークといった作りだ。
ノヴェトたちは見上げる。
岩場は結構な高さだった。
エセ子は首を動かして、その岩場の方を指し示す。
「それでその……、あそこに座す方こそ、『破壊神様』です」
「「え?」」
*
大浴場の岩場の中腹。
岩場は階段状で、いくつもの温泉が点在していた。
目の前の温泉には、4人の女性が浸かっていた。
エルフだったり、獣人だったりと種族はバラバラだ。
タオルで隠しているが、全員裸のようだ。
ノヴェトは、そっと温泉に近づいていく。
若干顔がイヤラシイ。
「えっとぉ、お嬢さんたち……? どなたが破壊神様……、かなー?」
「ノ、ノヴェトさん、まずいですって‼︎」
リンリンも、ノヴェトを止める振りをしながら、一緒に近付く。
「えっと……、ご機嫌よう……?」
湯に浸かっていたエルフ女性が、ノヴェトを見る。
ニコリと笑い、口を開く。
「ご機嫌よ……、オゴオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎」
だが、彼女の声は、途中から不快なノイズに変化する。
そして、彼女の顔がみるみると痩せこけていく。
肉は消滅し、残ったのは骨だけだった。
それは、他の3人も同じだった。
そこには4人の骸骨しかいない。
ノヴェトとリンリンは、腰が抜ける。
「ひ、ひぃ⁉︎」
「あわわわわ‼︎」
背後から、エセ子の声が聞こえてくる。
「あ、彼女たちは死者です。破壊神様はあちらに」
よく見ると、そのすぐ先の滝に人影が見える。
どうやら本命は、そっちのようだ。
「そ、そういうサプライズは要らないのよ……」
「さぁ、行きましょう。破壊神様に紹介いたします」
滝へ向かうノヴェトら一行。
先ほどは気付かなかったが、あちこちにある温泉にも人影があった。
だが、彼らは一様に生気がなく、身体が透けている。
おそらく、全員死者なのだろう。
ノヴェトとリンリンは周りを見て、コソコソと話す。
「ゲームの趣向としては、死者の国ってのはアリなんだろうけど……」
「あの演出はエグいッスね……。本当に血の気が引いたッスよ……」
「ラッキースケベ的なイベント期待しちゃったわ……。そんなとこにホラーテイストぶっ込んでくるなんて……。まんまと引っかかった……」
「なぜ温泉かは分かりませんが……。でも、ようやっと破壊神シヴァデュナートとご対面ッスよ。けど、いきなりボス戦ッスかね?」
「いや、たぶん違うだろ。ここを拠点に……、ってことじゃないか? たとえば、破壊神と言われてたけど、実は……、的なやつだったりしてさ。シヴァデュナートから、クエスト受注したりするパターンじゃねぇかな。だって、こんな序盤に出てこられたって、倒せねぇだろ」
「ああ、敵だと思っていたら敵じゃなくて。……でも最終的にやっぱり敵でした、とかってパターンッスかね」
「ありえる、ありえる。でも、俺ら毒殺したやつも、シヴァデュナートを名乗ってなんだよな。結局アイツはなんだったんだ……?」
「分裂した良心と悪心とか……? 現世に良心、冥界に悪心が……、みたいなパターンで」
「分裂ってのはアリかもだけど、毒殺されたから良心ではないよな……」
ノヴェトがリンリンと会話をしていると、猫巫女リゼットに呼び止られる。
「にゅう……。ノヴェトにゃん、着替え持ってないかにゃぁー……? 服が重いのにゃ……」
リゼットは、まだびしょびしょだった。
彼女の巫女装束は、袖も袴も布が多めである。
そのため、水を吸ってしまうとものすごい重量だった。
彼女は、床をびちゃびちゃにしながら、がんばって歩いた。
だが、さすがにこの重量は、しんどいようだ。
「まったく……、余計な荷物は持ってねぇぞ?」
「むぅ……。にゃんはずっと、びしょびしょなのかにゃん?」
「まるっと自業自得だろうが。ちょっと待て、……ほら、これでも着ておけ」
ノヴェトはメニューを操作し、自分の持ち物から衣服を取り出す。
「わぁ‼︎ ありがとにゃん‼︎ ……って、こ、これはっ⁉︎」
受け取った衣服を広げると、それはビキニの真っ白い水着だった。
「ノヴェトにゃん、なんでこんなの……。ちょっと引くにゃ……」
「そ、それは、見た目そんなだけどな、魔力ブーストが高いんだよ! べ、別に好きでそんな格好……」
「それよりもブースト値高いのあったッスよね……、ぶへぇ‼︎」
余計なことを言ったリンリン。
ノヴェトは、間髪を入れずボディブロー。
「とりあえず、それ着ておけ。どうせオマエ、また温泉飛び込むんだろうが」
「たしかに。……ってことは、にゃんはいつでも温泉入れるにゃん! ノヴェトにゃんあったまいいのにゃー!」
素直に着替えるリゼット。
「……覗いちゃダメなのにゃ?」
「メニューの装備変更で、一瞬だろうが……」
リゼットが着替え終え、その後、一行は目的の滝へ着いた。
目の前の滝には大きな岩があり、岩上に向こうをむいている人が座っていた。
槍に縛り付けられたままのエセ子は、岩の上の人物に話しかける。
「破壊神様、お連れ致しました」
岩の上の人物は、こちらに向き直る。
だがそれは、背中を丸めた小さい老婆だった。
彼女は白い着物を着ていた。
「……」
彼女は何も言わない。
ノヴェトたちは困惑する。
「……えっとぉ? 破壊神シヴァデュナート……、ってことでいいんだよね?」
あまりにも想像と全然違うのだ。
無理もない。
だが、エセ子はそれを否定。
「え? ……いえ、この方は『破壊神シュノリン』様です」
一行は、目の前のおばあちゃんを見つめる。
ノヴェトは、ゆっくりと口を開く。
「……誰だって?」
*
一行の前にいたのは、全くの別人だった。
「なんだこれ、どういうことだ……」
ノヴェトは、ポカーンとした表情。
それは、他のパーティメンバーも同様だった。
「ねぇ、誰なのよ、このおばーちゃん。敵なの? 私、嫌だよ、こんなおばーちゃん倒すの」
「アキラ……、倒したがりのオマエでもか。まぁ俺も嫌だわ。というか、誰なんだよ……。破壊神ってことは、なんらかのイベントに関係するんだろうけど。急に新キャラ出てきて、どう反応していいやら……」
「う、うーん、今までの設定にも出てきてないッスよ、たぶん。初めて聞いたッスから」
猫水着リゼットと犬っ子カゲチヨは、破壊神の側まで駆け寄っていった。
「おばあにゃん‼︎ なにしてるのにゃん?」
「こんにちわ!」
だが、彼らの不遜な態度に、少女は怒りを露わにする。
「失礼ですよ、あなたたち。破壊神様は湯治にいらしているんです。破壊神様が侵入者を感知したので、まず私が実力を測り……。その結果、まぁまぁの者たちと判断し、こうして私がお連れして……」
「連れられてんのは、オマエの方だけどな」
未だ、ノヴェトの槍に括られたエセ子。
今もぶら下がっている。
「シュノリン……?」
兎娘ロザリーは、深く考えながら呟く。
なにかを思い出そうとしているようだ。
そして、ハッとなにかを思い出す。
「……ああ‼︎ シュノリン様⁉︎ ……ああ‼︎」
「むむ? 知っているのかにゃー⁉︎ ロザリー⁉︎」
「なにぶん、私も子供の時なので……。しかし、シュノリン様は遠方へ旅立ったと聞いており……」
「……ん? なに、なんの話? そういう設定ってこと?」
「あ、いえ。ゲームでなく現実の話です。魔王領には、以前、破壊神様がおられたのです。その名前が『シュノリン』様、と。小さい時に遊んでもらった記憶が……。ただ理由は知りませんが、遠方へ旅立ったと聞いたような。私が子供の頃に聞いた話なので、曖昧な部分もありますが……」
「……だって、ここ、ゲームの中よ? よく分からんが……。まっちゃんがゲームの中に、現実の破壊神を追加したってこと……? 魔王領で有名な人なん? リゼットちゃんは知ってんの?」
「うんにゃ? 知らんにゃ?」
「リゼットも遊んでもらっていたはずなのですが、なにせ小さい頃の話なので……」
困惑する一行に、エセ子は神妙な顔で説明を付け加える。
「破壊神様は、封印されたのだ……。この冥府にな……」
「さっきは『湯治』って言ってたじゃねぇかよ。設定グズグズだな。なんかもう混乱してきたぞ。……これ、ゲームの話なんだよな? ……で? それで、シヴァデュナートはどこに……」
その時、シュノリンおばあちゃんは、湯飲みを手に持った。
それを見たエセ子は、叫ぶように言う。
「ああ! シヴァなんとか! もしかして! ……みなさん、破壊神様の湯飲みをご覧ください」
「……見てるが?」
「あ、いや、中をご覧ください」
「どういうことだよ……」
側に寄って、湯飲みの中を覗く一行。
中には、緑色のお茶が入っていた。
「……で? ……この茶がなんだって?」
全員でお茶を見る。
すると、ゴボッと泡だった。
「……オイ、中になんか……、人……か?」
お茶の中に何者かがいて、何かを喋っている。
全員、そーっと聞き耳を立てる。
「……わたゴボッ、シヴァデゴボッ、あゴボッ!」
「なんか……、色白で、手がいっぱい生えたオッサン喋っとるが、ほとんど聞き取れねぇ……」
「これ、『私はシヴァデュナートだ』って言ってません?」
「わゴボッ、シゴボッゴボッ、ボゴボゴボゴッ‼︎」
「言ってるか……? いや、言ってねぇだろ。ってか、大して聞き取れんな」
「……あ、もしかして、ボクのお茶の時も、この人が喋ってたんです?」
「ボクのお茶? ……ああ、オープニングのバグのやつか。…………あ」
ノヴェトが気付く。
「これもバグなのか……?」
ノヴェトは考える。
「……なぁ。冥界ってのは、実在するものなのか?」
ノヴェトの問いに、兎娘ロザリーが答える。
「冥界という存在は聞いていますが……。死者の国ですし、生きている限り確認はできないかと……」
「ふむ。……あのさ、これ、あくまでも仮説なんだが……。実際の冥界とゲームの世界が、バグで繋がっちゃったってパターンはアリ?」
「え、ゲームの世界ッスよ? それはないんじゃないかと……」
「いや、実は魔onのゲーム世界ってのは、電子データの世界じゃないんだ。魔法で、異世界を擬似的に作ってんだよ。だからぶっちゃけ、魔onの世界は、もうひとつの現実みたいなイメージかな。だから、何らかの原因で、世界が繋がっちゃう可能性って無くはないような……」
ノヴェトは湯飲みを見つめる。
「まぁ、どこまでがバグかは知らんけど。……シヴァデュナートがお茶の中ってのは、間違いなくバグだろうな……」
「いや、ノヴェトさん。もしそうだとしたら、ここ本当に死者の国ってことになるんッスけど。さきほどの人たちのあの骨の……。あれも本物ってことに……」
ノヴェトの顔は、みるみると青ざめていく。
「そそそ、そうだな。そんなわけないか。あははは……」
「そ、そうッスよ。縁起悪いこと言わんでくださいッスよ。マジ怖いッスよ」
青ざめたノヴェトとリンリンを見て、エセ子は言った。
「先ほどからゲームだなんだと、何を言っているのです?」
「え……?」
「ゲームというのはあれでしょう? 最近、魔王が傾注している遊戯のことでしょう? あの子は昔から真面目なのですが、なんというか熱しやすくて、すぐに視野が狭まってしまう。今も、そのゲームばかりやっていると聞いていますよ。まぁ国は今、魔法人形が実務を執り行っているので、問題はないとは思いますが……」
「えっと、エセ子さん……?」
「だから、エセ子というのは止めて‼︎ 私は長年、破壊神様の側役を務めております。『ロミタン』と申します。愛着を込めて、ロミタンたん、と呼んでくだされば……」
「オ、オイ……。NPCがゲーム云々なんて、メタ発言しとるぞ……」
「メタ……?」
カゲチヨは知らない言葉だった。
「メタ発言っていうのはッスね。物語の登場人物が、本来知らないはずの内容を言っちゃったりするやつッスよ」
「ホラーゲームしてる時とかに、『キミ、そこにいるんだろ? ほら、ゲーム機の前にいるキミのことだよ』みたいなことを、突然言い出したりするやつ」
「はぇー。そ、それは怖いですね……」
「まぁメタ発言って、結構賛否あるからなぁ。俺も好きじゃないし。……たしか、まっちゃんもその手の演出は嫌いだぜ? だから、エセ子は……、本物なのか? ゲームのNPCじゃなく?」
「だから、エセ子と呼ぶな‼︎ 私がゲームの……、NPC? それは住人という意味ですか? なら、違いますよ。ここは冥界です。ゲームではありませんよ」
「いや、ならおかしいだろ。ここって死者の国なんだろ? なんでゲームのこと知ってんだ? ……エセ子はもう死んでるんだろ?」
「だから、エセ子って……。とにかく、私は死者ではありませんよ。破壊神様もです。ほら、あそこに。あれは『境界の門』。あそこから、いつでも現世に戻ることができますので……」
エセ子は、首をそちらに向ける。
たしかに出入り口が見える。
とても小さいのが。
「いや、門っていうより、勝手口にしか見えんのだが……」
「破壊神様はオシャレさんなので、シャンプーとリンスはブランドモノなのですよ。定期的に、私が外へ買いに行ってる次第で……」
「えっと……、つまり、話を総合すると、ここって現実なの? じゃ、じゃあ、あの死者たちもすべて本物……?」
ノヴェトとリンリンの顔色は、みるみると青ざめていく。
そしてもはや、青色を通り越して真っ白となった。