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第25話 再び勇者対勇者

女神は信者と共に、神殿で魔王領のテレビ中継を観ていた。


魔王領に起こった謎の現象。


それは、魔王の仕業である。

兼ねてから準備されたもの。

異世界と現世界との融合。

その恐ろしい試みは、すでに行われてしまったのだ。


事前に情報があったとはいえ、不確定なものも多かった。

そのせいで女神は、読み間違えた。

これほど大規模なものだとは予想していなかったのだ。

女神神殿から潜入した者たちは、全員漏れなく巻き込まれているはずだ。


CM明けで、魔王の顔が映る。

そして、アナウンサーへ。


テレビを観ながら、女神の横の信者が言う。


「おそらく、何らかの宣言があるのでしょうね……。世界へ向けての宣戦布告……、でしょうか」


女神は画面を見つめ、何も言わない。


アナウンサーが喋ろうとした瞬間、突如テロップが入る。


『ズーラッタちゃん、無事発見‼︎』というテロップ


「……と? ここで、臨時ニュースです。えっと……、ちょっとお待ちください。はい、えー、先日行方不明となっていたサーベルタイガーのズーラッタちゃん2歳ですが、無事保護されたそうです‼︎」


魔王は、威厳たっぷりの表情のまま固まっている。


本人は、てっきりCM明けで喋るものだと思っていた。

そのため、緊急ニュースで待たされる間も表情を崩すことができないのだ。


「すでに3日が経過しており、近隣住民の方々も眠れぬ夜を過ごしたかと思いますが……。どうやら、お腹が空いて、普通に飼い主の元に戻ったようです。いや、何はともあれ、良かったですねー。……魔王様。どうでしょうか」


「……」


「……魔王様?」


「ふぇ⁉︎」


「ズーラッタちゃん、戻って良かったですね!」


「ああ、うむ。ズーラッタちゃんもきっと、笑っているでござろうな‼︎」


「ござ……?」


「ああ、とにかく、無事なこと‼︎ これが第一だ‼︎ ……き、近隣住民にも被害は無かったのであろう?」


「ええ、今のところは特に無かったという話です」


「……よしよし。では、本題に入ろうか。諸君、私が魔王……」


「おっと! おおっと⁉︎ ここで再び臨時速報です‼︎」


「……」


魔王は、再び真顔で固まっている。


そこからのニュースは、かなり大規模な災害事故だった。

そして、完全に番組内容は変更されてしまった。

結局、ニュース番組は、魔王の話が無いまま終了を迎えてしまう。


「では、みなさんごきげんよう。また明日……」


アナウンサーは頭を下げ、カメラが引きになる。

魔王も慌ててお辞儀。

スタジオを遠間から映す形に。

そして、そのままタイトルが出て、番組は終了してしまった。


おそらく魔王が、何か重要なことを宣言する予定だったのは確かだ。

だが、そこには一切触れることなく、番組は終わってしまった。


それを観ていた女神たち。


「なんなのよ、これ……。なんなの、この居たたまれない気持ち……」





魔on。謎の神殿内部。


パーティ分断イベントで、一行は2人ずつ3チームに分かれてしまう。

彼らはそれぞれ、小さな部屋で目覚めた。


そして、犬少年カゲチヨは兎娘ロザリーと同じ部屋。

この時のカゲチヨは、おねーさんの歪んだ呪縛に拘束されていた。


「ロザリーさん……?」


「んーん」


「……ロザリーさん!」


「なぁに? カゲチヨきゅん?」


仰向けで横になっているカゲチヨ。


その下半身には、纏わりつくようにロザリーがしがみついている。

呼びかける度に彼女の長い耳がヒクヒク揺れ動く。

そんな甘えるようなおねーさんに、カゲチヨはされるがままであった。


だが……。


「……ダメなんです。このままじゃ」


「んーん。ダメじゃないよぉ? カゲチヨきゅんは、イイ子イイ子なんだよぉ?」


ロザリーの甘えさせるようで、甘える声色。

もはやそれは、醜態と言ってもいい。


「いえ! ダメなんです‼︎」


グッと、起き上がるカゲチヨ。

しかしロザリーは、なおもカゲチヨの下半身にしがみつき、それに抵抗する。


「……ここから出ましょう!」


「大丈夫、だからぁ! これは、おねーさんとの大事なやつだからぁ! いっぱい、いっぱい、いい子いい子してあげるんだからぁ‼︎」


カゲチヨが起きあがろうとすると、力ずくでねじ伏せようとするロザリー。

おねーさんの少年に甘えたい願望は切実だ。

腕力でねじ伏せてでも、甘え続けたい。


だが、カゲチヨも負けていない。


「んんんーー‼︎」


カゲチヨは顔を真っ赤にして、ロザリーの呪縛から抜けようと抵抗する。

それを見たロザリーは、何かのスイッチが入る。


「な⁉︎ なななな、なんで? ど、どうしたの⁉︎ おねーちゃん、ギュッとしてあげようか? それともギューーゥってする? ……それとも、ニュッてする?」


「んんんーーーー‼︎」


だが、カゲチヨは目をつぶったまま、懸命に力を込める。

その賢明さにロザリーは、思わずホールドする力を抜いた。

そして、ぴょんとロザリーのホールドから抜け出るカゲチヨ。


「ハァハァ……。このままじゃ、ダメなんです。みんなと合流するのです。きっと、アキラだって困ってると思います! ボクが頑張らないと‼︎」


「ふんむぅ……」


カゲチヨのその気迫に、ロザリーは胸の奥をギュッと掴まれる錯覚を覚える。

もはや有無を言わさず、押し倒してしまいたい。耐えるロザリー。

……というか、先ほどまで押し倒していたのだが。


だが、この幼気(いたいけ)なカゲチヨの思いを尊重したい、という思いもあった。


ここで、ロザリーの思考に『選択の天秤』が現れる。

一方は『カゲチヨを束縛し、この場に留まる』という選択。

もう一方は『カゲチヨの想いを尊重し、この場を離れる』という選択。


だがロザリーは、ほぼ迷うことなく、カゲチヨを押し倒す選択をした。


「もおおおお‼︎ ああああああ‼︎ カゲチヨきゅううううううん‼︎」


「わああああ‼︎」


「おーい?」


だが、そこで誰かに声をかけられる。

それは、部屋の入り口からだ。


「オマエら、何をやってんだ……?」


「え? ……あ! ノヴェトさん⁉︎」





その頃、猫娘ノヴェトと猫巫女リゼットは歩みを進めていた。


神殿の廊下は、迷路のように続いている。

大きな柱が立ち並ぶ様は、なかなか威圧感がある。

広い廊下の天井を支えるには、これくらいの柱が必要なのだろう。


「思ったよりも、複雑な作りだな。うむ……。って、うわ……、嫌なことを思いついちまった……」


「何にゃ? にゃんの魅力に、今更気付いたのかにゃん?」


「はいはい。……この廊下だよ。これさ、無限ループしてない? 最初は、パターンを使い回してんじゃないかと思ってたんだが……。この細かい傷、さっきも見たような気が……」


ノヴェトは柱をさする。

CGというにはあまりにもリアルで、現実としか思えない作りだ。

だがそれ故に、そういった不自然なものが気になってしまった。


「出口が見つからないにゃ? にゃんたち、出られないにゃ?」


リゼットはションボリしている。

歩き疲れたのか、さっきまでの歌まで歌っていたハイテンションは、とっくにもう消え失せていた。


「ゲームの無限ループとなれば、何らかの『条件』を満たせってことだろうな。うーん、やっぱパーティ分断イベントの関連か。パターンは大体予想できるけど。……例えば、各々のチームに仕掛けを解かせる、とか。あと考えられるのは……」


「ノヴェトさん!」


ノヴェトは、不意に背後から話しかけられた。

それはカゲチヨだった。隣には兎娘ロザリーもいる。


「え? ……あ! おお、カゲチヨ‼︎ ロザリーちゃんも‼︎」


「やっと見つけました。ここ、もう迷路みたいで……。さぁ早くアキラたちも探しましょう」


「ノヴェト様、ここは一体どうなっているのでしょう……? 他の方々を探して、早く脱出しましょう」


「あ、ああ。そうだな……」


だが、ノヴェトは迷うことなく、持っていた槍でカゲチヨを串刺しにした。


猫巫女リゼットはギョッとし、叫ぶ。


「な、なにをするにゃァーーーー‼︎⁉︎」


「……やっぱりか。こういうことだよなぁ」


カゲチヨの姿は、黒い影となって消えた。


「なかなか王道の仕掛けをぶっ込んできたな。パーティ分断イベントの、もうひとつのお約束だぜ。仲間の偽物が出現するパターンさ。リゼットちゃん、コイツらニセモンだぜ。……悪いな。俺は、その手の騙しには引っかからないぜ?」


「……クッ⁉︎」


偽物と思われる兎娘ロザリーは、逃げ出した。


「にゃぁ〜んだ! そーゆーことなら、逃がさないのにゃん! ……おりゃあ‼︎ 死に晒すのにゃん‼︎」


猫巫女リゼットは、すぐにロザリーへ追いつき、フルスイングでぶん殴る。

ロザリーも黒い影となって消えた。


「にゃ、にゃうー。知り合いの顔をしてると、攻撃しにくいのにゃー」


「いま、思いっきり(こぶし)、振り抜いてたけどな……」


「それを言ったら、ノヴェトにゃんもグンッって刺してたにゃん」


「すぐ見分けついたからな。これもお約束だが、この手のイベントって、見分けつくようになってんだよ。どうやら本物とは、あからさまに違う部分があるみたいだな。これで無限ループが解除されるといいんだが……」


「……あ、ノヴェトさん‼︎」


廊下の少し先に、再びカゲチヨが現れた。


「……あれも偽物、……ぽいな」


「ノヴェトさん?」


今度は背後からカゲチヨ。


「……え、あ、いや。何人出てくんの、これ? ……まさか、この偽物も無限じゃないだろうな……?」


「「「ノヴェトさん?」」」


「おわっ⁉︎」


また、カゲチヨ3人追加。


「きゃわいい‼︎ カゲチヨわんわんちゃんが、五人もいるのにゃん⁉︎」


合計五人の、犬っ子カゲチヨ。

彼らは、無防備にちょこちょこと歩いてきた。

ノヴェトとリゼットを愛らしい目でキョトンと見上げている。


「えーっと、えーっとぉ?」


リゼットは一生懸命間違い探しをしてみる。

だが、一斉に五人も出てくると、頭は混乱した。

そして、何が正しいのか分からなくなってくる。


「ふえええ⁉︎ にゃにゃにゃ⁉︎ ノヴェトにゃん⁉︎ こ、これどうしたらいいのにゃん⁉︎」


「「リゼット、探しましたよ? さぁ早く、他の人たちも見つけましょう」」


今度は、兎娘ロザリー。

……が五人。声が重なって聞こえる。


「ひぃええええ⁉︎ ウサたんオネーサンもいっぱいなのにゃーーーっ⁉︎」





リゼットはもう思考停止している。

ノヴェトも状況に呆れている。


「もう偽物なの、隠す気もねぇな、これ……」


「ノヴェトにゃん! これじゃ誰が誰やら、頭が追いつかないのにゃん‼︎ もしも、もしも本物が混じっていたら……」


だが、ノヴェトは偽カゲチヨを一人、また一人と倒していく。


「いや、普通に考えろ。自分のそっくりさんがいるのに、戸惑ってないのおかしいだろうが。……要は、全部ニセモンだ‼︎」


そして、また偽カゲチヨを一人撃破。


「ええい、(まま)よ‼︎ ……なのにゃ‼︎」


リゼットの方は、やっと偽ロザリーを一人撃破。


だが、偽カゲチヨの中に、オロオロとするカゲチヨが出現する。


「ふふぇぇ⁉︎ ノヴェトさん、ボクがいっぱい⁉︎ ど、どうしましょう⁉︎」


「くっ⁉︎」


一瞬、躊躇うノヴェト。

偽カゲチヨは、先ほどまではしてなかった行動を急にし始めた。

だが、一瞬の躊躇のあと、ノヴェトは偽カゲチヨを撃破する。


「くそ‼︎ コイツら、こっちの思考でも読んでんのか⁉︎ 偽物だって分かっていても、いい気はしないぜ。攻撃してこないのはありがたいが……。さっさと倒すぞ‼︎ このパターン、めんどうなのがもう一個あるんだよ、それは……」


偽カゲチヨは最後の一人になると、脱兎の如く逃げ出した。


「はわわわ……」


「くっ⁉︎ ……待てこの‼︎」


だが、偽カゲチヨは廊下の曲がり角で、誰かと接触。

接触した二人は倒れ込んだ。


「なっ、わわ⁉︎」


「わっ⁉︎ ……カ、カゲチヨ⁉︎ 良かった‼︎ 見つけた‼︎」


相手は犬少女アキラだった。

偽カゲチヨは、アキラの腰にしがみつくような形になってしまう。


ここでノヴェトは、すでに自分がやらかしたことに気付く。

……だがもう遅い。


「……やべぇ。来たよ、もう一つのパターン。一番めんどくせぇやつだ」


偽カゲチヨは、涙目でアキラに懇願する。


「た、助けて! ノヴェトさんが、ノヴェトさんが! ……おねーちゃん‼︎」


「お、ねー……、ちゃん……?」


偽カゲチヨの声に、アキラは一瞬ビクンッと身体を震わせた。

そして、偽カゲチヨを抱き抱えるように、ゆっくりと立ち上がった。


「ノヴェトぉ……? アンタ……、私の弟に何してくれてんの……?」


「ほら……、これだよ。もう一つのパターン。同士討ちするやつ……」


「アキラにゃんも偽物……?」


猫巫女リゼットは、じっとアキラを見る。

だが、判別がつかない。


「い、いや、たぶんあれは本物だろうな。……たぶんだけど、もう廊下の無限ループも解除されてんじゃねぇかな。要するにこれ、この同士討ちパターンやるためのイベントってことじゃ……。読めてきたぜ」


「ノぉおおお‼︎ ヴェぇええ‼︎ トぉおおおおお‼︎」


両手剣を、ガリガリと床に引き摺りながら迫るアキラ。

凄まじい気迫だった。


「ひぇ⁉︎ わ、忘れてた。アイツ今、狂戦士(バーサーカー)じゃねぇか。俺の死霊使い(ネクロマンサー)じゃ、物理戦闘は歯が立たねぇぞ⁉︎ くっ⁉︎」


ノヴェトは、急いで『盾の骸骨』を召喚。


そして、すぐさま金属のかち合う音。

両手剣と盾の間に、火花が散る。


「許っっっさん‼︎」


「ちょ、オマエ‼︎ 危っ‼︎ 危ねぇ‼︎ 聞け‼︎ まずは俺の話を聞け‼︎ 大体よく考えてみろ。俺がカゲチヨを攻撃すると思うか? あれは、ニセモンだ。そういうイベントなんだよ‼︎」


「へぇ……?」


再び金属音。

だが、打ち据えられた両手剣は、その勢いのままギリギリと押し付けられる。

盾の骸骨は、地面にめり込みそうなほど、グイグイと押し込められる。


「なら……、アンタが本物って証拠は? アンタこそ偽物なんでしょ⁉︎」


「……え?」


「私は、どんな時だってカゲチヨを信じる‼︎ エイ‼︎ ヤァ‼︎ タァ‼︎」


両手剣は、なおも盾に打ち据えられる。

狂戦士の攻撃は、盾の上からでも体力が削られていく威力だった。

表情のない骸骨だが、可哀想に見えてくる。


「だ、だから、そのカゲチヨが偽物なんだって言ってんだろうが‼︎ ……ちょ‼︎ オマエ‼︎ 話聞けぇ‼︎」


攻撃し返すわけにもいかず、骸骨と共に逃げ惑うノヴェト。


そこに、猫幼女リンリンも走ってきた。


「ハァハァ、早いッスよ、アキラちゃん。……って、ノヴェトさん⁉︎」


「オラァ‼︎ 死にさらせ、ノヴェトぉ‼︎」


叫ぶアキラ。

骸骨の盾に打ちつけられる両手剣。

響く金属音。


彼女は、ノヴェトの話をまるで聞こうとしない。


「死ねェ‼︎ ノヴェトの偽物ぉ‼︎」


「だからぁ‼︎」


「ま、待つッス‼︎」


猫幼女リンリンは、咄嗟に盾でノヴェトを庇った。

さすがに拷問官(トーメンター)の大きな盾は、狂戦士の両手剣でもびくともしない。


「た、助かった……。さんきゅー、リンリン!」


「アキラちゃん、何があったッスか? 仲間ッスよ⁉︎ ……とにかくまずは冷静に……」


「アンタもなの……? アンタも偽物だったの……?」


「へ?」


金属音が何度も鳴り響く。


「ちょ、ちょっと‼︎ 待っ‼︎ ……さっきまで一緒にいたじゃ……っ‼︎ アキラちゃ……‼︎」


リンリンの言葉は、アキラには一切届かない。

それを分かってか、偽カゲチヨがアキラを応援する。


「おねーちゃん、頑張ってー‼︎ フレーフレー! おねーちゃん‼︎」


「うん‼︎ おねーちゃん頑張る‼︎ カゲチヨ待っててね‼︎ 今、偽物……、全員ぶっ殺すから‼︎」





猫巫女リゼットは、柱の影から見守っていた。

4人のニセ兎娘ロザリーたちも、同じように柱の影から見守っている。


「はわわ……。どうしたらいいのにゃ……」


アキラは偽カゲチヨに踊らされるまま、攻撃をし続けていた。

攻撃される二人は、なんとか逃げに徹して躱していた。

だが、三人ともすでに息が上がっている。


「も、もういいだろ……? だから、俺たちは本物なんだって……っ!」


「そ、そうッスよ!」


「そ、そんなこと、どうだっていいのよ……。カゲチヨがおねーちゃんと呼んでくれるだけで、私は戦えるんだから……っ‼︎」


「ダメだな、コイツ。完全に血迷ってやがる。もう倒すしかないのか……」


その時、少し離れた場所から、声が聞こえてきた。

ざわざわと複数人が会話しているのが分かる。

こちらへ向かってきている。


さすがのノヴェトも絶望する。


「オ、オイ……、マジか。ここでさらに、ニセモン増えんのかよ⁉︎ このイベント、エグ過ぎない⁉︎」


集団の姿を確認できた。

……カゲチヨだった。


「あ! ……ノヴェトさん‼︎ またノヴェトさんだ‼︎」


「お? カゲチヨ! 本物か? ……ん? 『また』⁉︎」


よく見ると、カゲチヨの周りには大勢の人物がいた。

兎娘ロザリーと……。

偽物と思われるリゼット、リンリン、アキラが一人ずつ。

そして、十一人のノヴェト。


「お、俺が、1、2、……10、11……。俺が11人いる⁉︎」


「12番目のノヴェトさんですね」


「なんだよ、12番目って。おかしいだろ……。なんでそんなに、俺をゾロゾロと引き連れてんだよ。さすがに気付けよ」


「12番目のノヴェトさんも本物なんですか?」


「だから『も』ってなんだ、『も』って。まるで、本物がいっぱいいるみたいじゃねぇか」


ノヴェトが偽物にグッタリしていると、アキラも自分の偽物の存在に気付く。

そっと近付いていく……。


「ちょ⁉︎ 私がもう一人⁉︎ って、あ、あれ⁉︎ カゲチヨが二人……?」


さっきまで守っていたカゲチヨと、別のカゲチヨが現れてしまったのだ。

偽物ということを理解しているようで、全く理解していなかったアキラ。

大いに混乱した。


「だから、偽物だって言ってんだろうが……」


「カゲチヨ、オマエは……、たぶん本物だな。俺以外はニセモンだから、全部倒すぞ」


「ええ⁉︎ でも、みんな本物だって言ってますよ⁉︎ ダ、ダメですよぉ! 倒しちゃ‼︎」


「じゃあどうすんだよ。ずっとこのままか?」


「えっと、でも、みんな本物だって言うし……。どどどど、どうしましょう⁉︎」


「どうしましょうって。そりゃオマエ、偽物は偽物だって言わねぇだろうよ」


「で、でも……。あ、そうです! いっそのこと、みんな一緒に暮らすと言うのは……? 偽物さんも一緒に!」


「一体どういうご家庭なんだよ。俺は嫌だぞ……。ご近所に『実は12人兄弟でした』って説明すんの……」


「でもぉ……」


「だいたい、明らかに偽物ってバレバレなやつは、さすがに排除しておけよ。キョロキョロしてんじゃねぇよ、オマエだよオマエ。似せる気無ぇな、オイ」


11人のノヴェトの内、全くに似てないノヴェトが1人混じっていた。

挙動不審にキョロキョロしたあとに、そっぽを向いて誤魔化した。


「うわぁ、なんか腹立つわコイツ……」


「オマエこそ、何なのにゃん。ああ……、さては偽物にゃん?」


別の偽ノヴェトが、にゃんにゃん言葉で本物ノヴェトに因縁をつけた。


本物ノヴェトは一言も発せず、にゃんにゃん偽ノヴェトを槍で串刺しにする。

それは、黒い影となって消えていった。


「もうめんどくせぇ。本人が偽物を全部排除しちまえばいいんじゃねぇか。さっさとこのイベント終わらすぞ。もう疲れたわ……」


それから偽物排除が始まった。


だが、ノヴェトが6人目の偽ノヴェトを倒そうと、槍を持ち替えた時だ。


「あの……、助けていただいて、ありがとうござ……、ぐへぇ⁉︎」


それは小さな少女。

突然視界に現れた。

そのせいで、不意にノヴェトの槍の()をぶつけてしまった。


「うわっ⁉︎ なんだ急に、誰だ⁉︎ ……えっと悪ぃ、ぶつけちまった」


「くっ……、どうして分かっ、……た……? ……ぐはっ⁉︎」


そのまま倒れて動かなくなった少女。


すると、偽物が次々と消滅した。

だが、少女は消えない。

気絶しているようだ。


「……もしかして、コイツか? このイベントのボス? なんかよく分からんが、倒しちまったな。これでイベントクリアか?」


ノヴェトは少女をつまみ上げる。

少女は、だらしない顔でのびていた。

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