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第19話 十字を背負いし勇者

「こ、これは……っ⁉︎」


男は、それを手に取る。

あまりの衝撃に手が震える。


「まさかこんな……。こんなことって……」


隣の男も、それを横から覗き見る。

驚きを隠せない。


「そういうことか、これで合点がいく。俺たちは、こんなモノの為に戦わされていたのか……」


「いや、でも……。こんなことって……、あり得ませんよ!」


「言うな。それ以上言うな。俺だって……。だが、間違いない。これがそうなのだ。これが始まりなのだ。……この、最終戦争(ハルマゲドン)の、な」


それは一冊の禁書。

それが、すべての始まりだった。


だが、それはまだ、もう少し先の話。





朝。


女神神殿からカゲチヨが救出され、三日が経つ。

カゲチヨは、ゆったりとした日常の中にいた。


「おはようございます、カゲチヨ様」


「う……、ん……。ああ……、おはようございます、エミリーさん」


エミリーの声で、カゲチヨは目を覚ます。


そこは、ノヴェト宅のカゲチヨの部屋。

暖かい日の光がレースのカーテンを通して差し込む。

それは優しい温もりとなって、カゲチヨの身体を包み込んだ。

穏やかな朝だった。


カゲチヨは、ぼんやりと目を開ける。

……だが、全身が強張る。


「……ひっ⁉︎」


そこにあったのは、エミリーの首。


首は天井からぶら下がっていた。

首から伸びているのは、大蛇のように太いワイヤーの塊。

それは天井を()うようにゆっくりと蠢いていた。

そして、そのまま部屋の外へと続いている。


たとえこれが悪夢の中だとしても、納得してしまうだろう。


「エ、エミリー……、さん……? これは、また、……夢?」


「あらあら、カゲチヨ様はまだ寝惚けていらっしゃるのですか……? もうすぐ朝食をご用意致しますので、早く降りてきて下さいね」


そう言うと、エミリーの首は天井の方に引き上げられていく。

首が逆さまに吊られているにも関わらず、妙に表情豊かでシュールだった。

そして、首はズルズルと天井を這って、部屋を出ていった。


「げ……、現実なの、かな……、これ……?」


カゲチヨは汗ばむ手で、ギュッと布団を掴む。


「どうか……、朝食はラーメンじゃありませんように……」





カゲチヨは着替え、顔を洗う。

そして、リビングへ。


「カゲチヨ様、今日は食パンで宜しいですか?」


「……良かった。ラーメンじゃないんですね」


カゲチヨがテーブルにつくと、パンが置いてあった。

ホッとするカゲチヨ。


「え? ……ラーメンの方が良かったです?」


「い、いえ! ……ラーメンじゃない方がいいです」


「そう……、ですか? ご希望なら、ラーメンもご用意しておきますが……」


「あ、いえ、全然! パンが良いです! パン大好きです!」


「そうですか。……あ、あと丸いパンもありますよ」


「あ、それが良いです。柔らかくてふわふわの。今日はそっちが良いです」


カゲチヨは、出された丸いパンを頬張る。

ニコニコと美味しそうに食べている。


「さぁこちらもどうぞ」


エミリーはテーブルの上に、スクランブルエッグを置いた。

そして、彼女はカゲチヨの前に座る。

ニコニコとした笑顔で、カゲチヨの食事を見守っている。


「美味しいですか?」


「え、っと……、はい……。とても……、美味しいです……」


カゲチヨは、何かを確かめるように恐る恐る答えた。

このやりとりに既視感を感じてしまったせいだ。

そして、窓をチラリと確認する。


だが、当たり前だが何もない。思い過ごしのようだ。


「それは良かったです」


ニコニコのエミリー。

カゲチヨも、つられてニコッと笑った。


だが、その時。

案の定、事が起きる。


窓ガラスが、大きな音と共に派手に砕け散った。


「……ひっ⁉︎ なななな、なんです⁉︎」


カゲチヨは咄嗟に頭を下げる。

エミリーは、カゲチヨを抱き抱えるように(かば)う。


「カ、カゲチヨ様‼︎ 大丈夫ですか⁉︎ お怪我はありませんか⁉︎」


「え、っと……、ボ、ボクは大丈夫ですが……っ」


「敵の襲撃かもしれません。カゲチヨ様はどこかに身を潜めて……」


だが、この時、カゲチヨは違和感を感じる。

抱き抱えられているが、彼女の声は少し離れた位置から聞こえるからだ。


「さぁ、こちらに……」


「ひ、ひぃ……っ⁉︎」


目の前のエミリーの姿を見て、カゲチヨは怯えた。


首がなかった。


エミリーの首は、床に転がっていた。

こめかみには、野球のボールがめり込んでいる。

顔は半壊しており、口だけが動いていた。


「ままままま、またこのパターン⁉︎」


……と、その時、ドアのチャイムが鳴る。

そして、大きな声が聞こえた。


「……カゲチヨくーん! あーそーぼー!」


「……え、アキラ?」





アキラが遊びに来た。


「カゲチヨ、ビックリさせようとしたら窓壊しちゃった。ごめんごめん」


「ああ、うん……。ホントにビックリした……」


これは、現実の出来事。

どうやら今回の状況は、彼女のいたずらだったようだ。

カゲチヨは気が抜けたのか、グッタリしている。


「……まったく。女神神殿では、どういう教育をしているのでしょうか」


エミリーはすごく怒っていた。

なにせ、窓ガラスを割った上に、エミリーの頭も破損したのだ。

それはそれは、お(かんむり)だった。


「まぁまぁ。いいじゃないの、子供がした事なんだし。ちょっとぐらいやんちゃな方が、元気でさ」


「それ、本人が言ってはいけないと思います……」


「そうです! 躾のできていないお子様は、カゲチヨ様とは遊ばせませんよ⁉︎ さぁほら、帰った帰った」


「も、もういいじゃないのよ! さっき謝ったし。この話、終わり終わり‼︎ ……カゲチヨ、何して遊ぶー?」


「話は終わってません‼︎ 今すぐ女神神殿に連絡して、迎えに来てもらいますからね‼︎」


「え⁉︎ な、なんでよ⁉︎ やだよ‼︎ そしたら、バレちゃう……っ⁉︎」


「バレ……、って、もしかしてアナタ、こっそり来たんじゃ……?」


「うっ! いや……、その……」


「これもう、連絡しないとダメですねぇ……?」


エミリーはニヤニヤとし始める。


「くっ……」


「エミリーさん、エミリーさん」


カゲチヨは、エミリーの服の裾を引っ張る。

その見上げる瞳は、何か言いたげだ。


「カ、カゲチヨ様……。言いたいことは分かりますが……。でも、この小娘、私の……」


「アキラ、……きちんと謝らないとダメですよ」


「さっき謝ったし!」


カゲチヨは、アキラをじっと見つめた。

さすがのアキラも折れた。


「ごめんなさい……」


アキラは、素直にエミリーに謝った。


「わかりました。反省はしているようですね。最初からそう言えば……。まぁでも、女神神殿には一報入れておきます」


「ええ⁉︎ なんで、ちゃんと謝ったのに‼︎」


「そうでなくて。あなたは未成年でしょ。きちんと保護者には、居場所を伝えておかないといけませんので」


「……」


アキラは若干ムスッとした顔をしたが、納得はしたようだった。


「じゃぁ何して遊びましょうか?」


カゲチヨは話題を変えるように、ニコニコとアキラに話しかけた。


「……ゲームある?」


「ありますよ! ノヴェトさんが好きにしていいって……。こっち!」


そう言って、カゲチヨはアキラの手を引いて、奥へ走っていった。

そして、エミリーはため息をつく。


「よくよく考えたら、女神神殿への連絡方法なんて知らないですね……。魔王様に確認しますか……」





「お? ……なんでオマエ、いるんだ?」


女勇者ノヴェトは帰ってきて、アキラを見るなりそう言った。

朝イチでどこかへ出掛けていたようだ。


そこは2階の部屋。ゲームやら漫画やら、雑多な部屋だった。

ベランダから外が見渡せる。快晴だった。


「悪い? 弟に会いに来るのに、許可がいるの?」


「弟? ……何の話だ?」


「ああ! ……えっとー、そのー」


カゲチヨはなにやら、しどろもどろしている。

ノヴェトは、意味が分からず困惑している。


「なんでもいいの! 私はカゲチヨのおねーちゃんなの! あと、お母さんだし!」


「私? おねーちゃん……? お母……、んー?」


何も理解できないノヴェト。


「っていうか、大人はあっち行ってよ! 子供の大事な時間なんだから‼︎」


「はいはい、そうですか」


ノヴェトはため息。

そして、子供らの様子を観察しながら、ゆっくり口を開く。


「ところでよ……、下のガラスやったのオマエか? 今、エミリーちゃん直してたけど。……で、上にいる人に聞けって、言われたんだけどよ」


「……」


アキラは、露骨に目が泳ぎ出す。


「……やっぱオマエか。女神神殿には玄関ないのか?」


「あ、あるわよ! 失礼ね‼︎ なんでよ⁉︎」


「なんでって、オマエ。窓からこう……、入ってきたんだろ? ガシャーンって。厨二病か。ダイナミック過ぎんだろ」


ノヴェトは腕をクロスさせ、前に突き出す。


「ち、違うわよ! 危ないじゃないのよ‼︎ 馬鹿じゃないの⁉︎」


「神殿は毎回、窓直してんの?」


「だから、違うって言ってんでしょ‼︎」


イライラしたアキラは、ノヴェトに殴りかかる。

それを簡単に躱すノヴェト。


「話は聞かせてもらったーっ‼︎ ガシャーン‼︎ って?」


ノヴェトはニヤニヤとしながら、何度も手をクロスさせる。

とても楽しそうだ。

だんだんアキラは涙目になってきた。


「わかっ……、違っ……、ゴメンって……、グズッ……」


割と本気で泣いてきたので、逆に困るノヴェト。


「い、いやマジ泣きすんなよ……、冗談だろ? ……まぁ危ねぇから、次はちゃんと玄関から入れよ?」


「だから、違うって言ってるでしょ⁉︎」


アキラは、泣きながら本気でキレた。


「……で、何やってんの? ゲーム。それ、家にあったやつじゃねぇな? 見たことない。


「……グズッ、……私が持ってきた格ゲー。『ストリート・ジーチャン vs バーチャン・ファイター』」


「なんか、いろいろ混ざったようなタイトルだな……。というか、倫理的にいいのか、それ?」


ノヴェトは、画面を食い入るように見る。


「……なぁ、その上の数字はなんだ?」


「上?」


「画面のこれ。93/0/0って。カゲチヨの方は0/93/0だな。体力……、ではないよな。ランキング……、いや違うか」


ノヴェトは、画面の上部を指差した。


「ああ、それは勝敗。93勝0敗0分って意味」


「ああ、なるほど! へぇ。……って、オマエ。ちょっとは勝たせてやれよ。カゲチヨ惨敗過ぎんだろ。いや、それでカゲチヨは楽しいのか……?」


「え? あ、はい! ゲームってやったことがないので……。あ、魔王onlineはやったことありましたね! でも、勝敗って何ですか? ボタンを押した回数ですか?」


「そのレベルか……。アキラ、オマエ。ちゃんと説明してやれよ……。オマエの弟、何やってるか全く理解してねぇぞ?」


「いいの! カゲチヨ楽しいよね⁉︎」


「はい‼︎」


「いや、オマエらがそれでいいなら良いけどよ。(いびつ)な遊び方してんな……。最近の子は、みんなそういう感じなの……?」





ノヴェトは下に降り、窓の修理を手伝った。


そして、また二人の子供らの元へ戻ると、まだ同じゲームをしていた。

アキラは121勝0敗0分まで記録を伸ばしていた。


ただ二人の遊ぶ様子を見ていると、アキラも別に上手いわけではないようだ。

コントローラーをガチャガチャするばかりで、効率的に動いてる感じではない。

単純にカゲチヨの方が、下手くそというだけのようだ。


それに、気になる点がもうひとつ。


「カゲチヨ」


「はい?」


「オマエそれ、コントローラー、上下逆だからな?」


「そう……、なんですか? あ、本当だ! 右に動く! あ……、でもそれだと、ボタン押しにくい……」


カゲチヨはさっきまで逆さまに持っていたので、ボタンは左手側にあった。

持ち変えると、方向キーは思った通りに動くようになる。

だが、今度はボタンが右手側に変わってしまった。

もう逆で慣れ始めていたので、かえって混乱してしまったようだ。


カゲチヨは少し考え、コントローラーを持ち変えた。


「あ、これなら大丈夫です」


腕をクロスさせ、コントローラーの右側を左手で、左側を右手で操作し始めた。

だが、コントローラーを見ながらでないと操作できない。

それで腕をクロスに組んで、その隙間から下を覗く。

カゲチヨは、そんな大道芸バリのポーズで操作し始めた。


「あ! これはいいです! 操作しやすいです‼︎ ノヴェトさん、ありがとうございます‼︎」


「えぇ……。いや……、オマエがそれで良いなら、何も言わねぇけど……。予想とだいぶ違うものになったな……」


ところが、ノヴェトの予想とは裏腹に……。

カゲチヨの操作するおじいちゃんの動きは、目に見えて良くなった。


そして、初の1勝。


「わぁ‼︎ 勝った……? 勝ちました‼︎ ボタンいっぱい押せました‼︎」


「だから、ボタン押した回数じゃねぇからな? そこから説明した方がいいか?」


「……」


ニコニコのカゲチヨと対照的に、明らかに不機嫌なアキラ。


彼女はとにかく負けず嫌いだった。

些細なことでも、負けるのが嫌でしょうがない性格なのだ。

目に見えて、ムスッとする。


「……アンタが、余計なこと言うせいで‼︎」


ちょっと半べそのアキラ。

ノヴェトにつっかかる。


「オマエ、100勝してんだから、ちょっとはカゲチヨにも譲って……」


本気で泣き出したアキラ。


「うわぁ、もうコイツめんどくせぇな……。もう窓から入ってくんなよ?」


分かってて煽るノヴェト。


「うーーーー‼︎」


泣きながら、床をバンバン叩くアキラ。そして、ノヴェトに飛びかかる。


「はははっ‼︎ 悪かったって、泣くなよぉ〜」


ニヤニヤして楽しそうなノヴェト。

簡単にアキラの攻撃を躱す。


だが、調子に乗り過ぎた。

ぴょんぴょんと躱してソファーでジャンプすると、棚に頭をぶつけた。


「……おべぇ‼︎」


そして、棚の上の小物が降ってくる。


「おわっ‼︎ 危っ‼︎ ……んきゅ⁉︎」


そこに、棚の板も降ってきて、ノヴェトの頭を直撃した。


「天罰だわ」


アキラは、泣きながらちょっと笑った。


だが、それでは終わらなかった。


「痛ぅ……」


ノヴェトは頭を押さえてふらつく。

その時、カゲチヨのコントローラーに足を引っ掛け、すっ転ぶ。


「ぬはっ⁉︎ ……なんのぉ‼︎」


バランスを立て直そうとするノヴェト。


コードが足に絡まったままで、片足でぴょんぴょんと跳ねる。

ノヴェトはそのまま、2階のベランダまで跳ねていく。

そして、ガラスを派手に突き破る。


「アーーーーーーーッ‼︎」


叫びながら、そのままベランダから落下していった。


あまりにも意味不明の状況に、カゲチヨもアキラも呆然としていた。

そして、我に帰る。


「……ちょっ⁉︎ ……あ、でもアイツ、不死身のはずよね?」


「う、うん……、たぶん……」


「アイツ、腕をクロスしてたわ。ガシャーンって、冗談じゃなかったのね……」


アキラは今日一番、すごく納得していた。


なお、ノヴェトは無傷であった。

だが、エミリーにはすごい怒られた。





夕方。


カゲチヨ、アキラ、ノヴェトの三人は、例のラーメン屋『破壊神』にいた。


「ねぇ! カゲチヨは何にするの⁉︎」


「ボクは、魔王ラーメンが食べたいです」


「魔王? ……うげっ⁉︎ この溶岩みたいの? これ、人間食べていいの?」


「大丈夫ですよ。前に食べましたが、美味しかったです」


「へ、へぇ……」


「でも、エミリーさんや魔王さんも来られれば良かったのに……」


「まぁエミリーちゃんは元々飯食わんしなぁ。まっちゃんはまた何かやってるみたいだから、また今度な?」


「はい!」


「うーん、じゃあ私も魔王……、って勇者ラーメンはないの? 勇者ラーメンがいい!」


「無いな、勇者ラーメンは。そもそもどんなラーメンだったら勇者っぽいんだよ。想像つかんわ。……ほらそれより、さっさと決めろ」


「うーん、じゃあ魔王ラーメンでいいや」


店員を呼ぶノヴェト。


「お決まりですか?」


「あ、はい。えっと……、魔王ラーメン2つ。どっちも油少なめで。あと……、醤油チャーシュー大盛りネギ多め、ライス大盛り」


「へい! では、魔王ラーメンが2つで……」


店員は注文を復唱し、足早に去っていく。


「あ、そーだ。光とか……、あ! 電気とか⁉︎」


「ん? 勇者ラーメンの話? まだ続くの?」


「あ! 花火を乗せれば……っ‼︎ こう……、シュババババって」


「面白そうです! あ、電気ウナギは⁉︎」


「スープが光りそう‼︎ ピカーッ‼︎ ビリビリビリビリって‼︎」


「あ、じゃあ、麺も‼︎ でも、ラーメン見えなくなっちゃいます‼︎」


アキラとカゲチヨは、二人でキャッキャと笑っている。

何が面白いのか分からないが、楽しそうだ。


ノヴェトは子供が好きと言うわけではない。

むしろ面倒臭いと思っている。

だが、それでもこういう時間は悪くはないかな、とは感じた。


「あ、ボク、おトイレ行ってきます!」


「お、おう」


アキラとノヴェトは二人きりに。


「今日、泊まっていってもいいんでしょ⁉︎」


「ん? ……ああ、神殿には連絡してあるからな。というか、オマエ、来るならちゃんと言っとけ。心配してたぞ」


「心配って誰が? ……誰も、私のことなんて気にしてないよ」


「そんな悲しいこと言うなよ。エミリーちゃんが連絡したみたいだけど、急にいなくなって、あっちで探してたらしいぞ。ミシュがそう言ってたってよ」


「……ふん。私がいなくたって、別に誰も困んないし。いいじゃん」


「子供が急にいなくなったら、ビックリするだろうが。BBAは知らんが、メルトナたちからすれば、妹みたいなもんだろ。子供のうちはさ、親の……」


「私、強いし! ……子供扱いしないでよ。親なんて必要ない」


「……」


少し考えるノヴェト。


「カゲチヨにもそう言うのか?」


「……なんでよ。なんでそこで、カゲチヨが出てくるのよ」


「オマエ、カゲチヨの母親で、お姉ちゃんなんだろ? どっちも要らんのか」


「それは……」


「オマエが元の世界で、どういう暮らしをしていたかは知らん。でも、今の世界でオマエのことを考えてくれる人がいるなら、そういうのは大事にしろ」


「……めんどくさい」


「そうだよ、めんどくさいんだよ。人間関係ってのは」


「……私、ノヴェト宅(こっち)で暮らしちゃダメなの?」


「……女神神殿(あっち)でうまくいってないのか?」


「そういうわけじゃないけど……」


「そうだなぁ。……あ、そうだ。アキラ、オマエ。魔on(マオン)やらねぇか?」


「魔onって、ネットゲームの?」


「ああ、それ。それだったら、あっちでログインすれば、いつでもカゲチヨに会えるだろ」


「う、うーん……、でも神殿に無いよ、そういう機械」


「まぁ、その辺はなんとかしてやるから。今日ちょっと試しにやってみようぜ」


カゲチヨが戻ってきた。


「なんの話です? 何をするんです?」


「魔onの話だよ」


「ああ! アキラもやるんですか?」


「カゲチヨ、やったことあるの?」


「はい。でも、ログインだけですけど」


「へ、へぇ……、じゃあ私もやる!」


店員がラーメンを運んできた。


「魔王ラーメンのお客様は……?」


「こっち! ……と、こっち!」


アキラは元気よく、自分とカゲチヨを指す。


「……お⁉︎ う、うわぁ……。ホントにこれ、大丈夫なの……?」


目の前でゴボゴボと泡立つ魔王ラーメンに、ドン引きのアキラ。


「うわあ、美味しそうです!」


「お、美味しそう⁉︎ 美味しそう……? 美味しそうって一体なんだろう……?」


「まぁ、騙されたと思って食ってみろよ」


店員はラーメンを置いて去っていった。

恐る恐るラーメンを口に運ぶアキラ。


「ん⁉︎ ……ん? ……うーん」


アキラは、それから何も言わずに黙々と食べ出した。


「美味しいですね!」


「まぁまぁね」


ニコニコのカゲチヨ。

アキラも、まんざらではなかったようだ。


「そうか、良かった良かった。んじゃ帰ったら、魔onやるからな! 楽しみにしておけよ‼︎」


ノヴェトも上機嫌だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう女神と魔界の人間の関係が学校の仲良しの親御さん同士になっているところでまた笑ってしまいました。アキラちゃんもすっかりカゲチヨくんとなかよくなっていますし。その一方でハルマゲドンというなか…
2022/06/18 01:21 退会済み
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