第17話 最強のおねーちゃん
アキラは、真っ黒い部屋の中にいた──────
何かが漂って消え、ふと脳裏に蘇る。
……それは、見覚えのある景色。
「晶さ。……アンタ、パパのとこに行きなよ」
それは、アキラの母親だった。
隣の男は知らない人。
「え?……だって、パパとは離婚したって……」
「別にそれでアンタ、パパの子じゃなくなったの? 違うでしょ? ……ママ、忙しいのよ。大丈夫だって。パパもきっと喜んでくれるから」
……だが。
「はああ⁉︎ ……なんでオマエ、こっちに来てんだよ⁉︎」
それは、アキラの父親だった。
隣の女は知らない人。
「で、でも、ママがパパのところに行けって……」
「俺はもう、オマエのパパじゃねぇんだよ。……大体、血繋がってねぇだろうが。俺は騙されたんだよ! ……ほら、あっち行け。シッシッ!」
そうしてアキラは、一人になった。
黒い部屋には、もう何もなかった。
そして何も見えなくなった。
……だが、そこに一筋の光が差し込む。
「え? ……誰?」
アキラは、そこに向かって歩いていく。
光に向かった彼女の顔は、明るく照らされた。
……そして、ようやく気付いた。
──────自分が泣いていたことに。
*
「……やっと、お目覚めかしら?」
「ママ……?」
「……残念。私は、アナタのママじゃないわよ? ……ふぅ」
アキラが目を覚ますと、そこには女神アシュノメーがいた。
彼女のため息は深い。
その理由は分からない。
だが、彼女にしては珍しく、何やらひどく落ち込んでいるように見えた。
……その時、アキラは何か不快な臭いを感じた。
だが、すぐにそれを忘れた。
アキラは自身の頬に、僅かな違和感を感じていた。
寝ている間に泣いていたのだろうか。
……だが、夢の内容を思い出せない。
あたりを見回す。
そこは、アキラの部屋。
女神神殿内にある一室で、物が散乱しているのはアキラが片付けないせいだ。
ベッドで寝ていたようだが、それ以前のことはよく思い出せない。
「……どうして、ここに?」
「どうしてって。……貴方ね、あのあと大変だったんだからね? ……はぁ。カゲチヨきゅん……」
「……?」
アキラは思い出せない。
「良い子……、だったのに。あんなに可愛らしくて、柔らかくて、いい匂いで、ぽわぽわしてて……。本当は、貴方にもきちんと紹介できていれば、一緒に遊んだりもできたかもしれないのに。でも……、それももう……」
女神は、部屋の隅に視線を移す。
そこには、小さな人形が座っていた。
だが、それは首が千切れかけており、右腕も無い。
少女の癇癪よって、それはそうなってしまったのだ。
「ウッ……⁉︎」
アキラは、頭に痛みを感じた。
思い出そうとすると、何かが邪魔をする。
何を忘れているのか。
そして、何が邪魔をしているのか。
……今のアキラには、何も分からない。
「……なにが、あったの……?」
「覚えてないのね。……全然覚えていないの? まったく? ……自分が何をしたのか。……そう、いいわ。それがいいかもしれない。アナタには、きっとその方がいいのよ。たぶん……、覚えてないのは、そういうことなのよ……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! なに? 教えてよ⁉︎ ……私、どうしたの⁉︎ 一体何が……、あったの……?」
二人の間に、重苦しい空気が流れる。
「分かったわ。……貴方、頭の方はもう大丈夫よね? 痛みはまだあるかもしれないけど。……一人で歩けるかしら?」
「だ、大丈夫……。歩けるよ」
「……そう。だったら、ついてきなさい。貴方が一体何をしたか。……教えてあげるわ」
*
女神神殿屋上。
陽はすでに落ち、満点の星空。
だが、そこにあったのは喧騒。
先ほどまで戦っていた勇者や魔王、護衛兵らがどんちゃん騒ぎをしていた。
食事をしながら、お酒も入っているのだろうか。
随分と、羽目を外しているように見える。
「……え? 何がどうなってんの……?」
アキラは混乱する。
なぜなら、アキラの記憶には、戦っていた彼らの姿しか残っていない。
だが、今はもう、そんな様子は微塵も感じられないのだ。
そして、アキラは気付く。
大きな祭壇。
……以前は、そんなもの無かった。
白で統一された荘厳なそれは、何かを祀っているのだろう。
おそらくは、葬式用の飾り付けだと予想がついた。
なぜならそこには、たくさんの花が飾り付けられていたからだ。
そして、真ん中にはカゲチヨの笑顔の写真。
祭壇の前には、大きな箱が置いてあった。
人が横たわれるような、大きな箱だ。
……そこに、ノヴェトや女魔王、エミリーもいた。
彼女たちは泣いていた。
その大きな箱を覗き込み、縋り付くように。
「カゲチヨぉ……カゲチヨぉおおおおおおおおおおおっ‼︎ ……んぐっ! んぐっ! んぐっ! ……ああーーーっ‼︎」
「カゲチヨ殿ぉおおおおおおおっ‼︎ ……んぐっ! んぐっ! んぐっ! ……かぁあーーーっ‼︎」
「おいたわしや、カゲチヨ様……」
三人とも泣き叫ぶ。
そして、酒を飲む。
この動作を何度も繰り返している。
アキラは、その場の雰囲気に飲まれ、立ちすくんだ。
だが、そんなアキラの背中を、女神はそっと押した。
「さぁ、……ほら、アンタも。ちゃんとお別れしてあげて」
「……は? お別れ? え? ……ちょっと、何言ってるの? ……分かんない。意味分かんない。……ねぇ、どういうこと⁉︎」
アキラは歩いていく。
そして、箱の中を見た。
そこには、目を閉じたカゲチヨが横たわる。
「な、なんでっ⁉︎ ……ぐうっ! ううううう……っ」
アキラは、突然の頭痛に襲われた。
そして、すべてを思い出す。
*
少し時間は遡る──────
それは、カゲチヨが光り輝いてた時だ。
「ううううううううううう‼︎‼︎ くそがああああああああああ‼︎‼︎」
アキラは強制的に跪かされたまま、必死に抗った。
カゲチヨの尻の効力は凄まじく、本来なら抵抗する意思すらも消え失せる。
だが、アキラは生来の負けず嫌いだった。容易には屈しない。
そうして、アキラはカゲチヨの足首を掴む。
「……ひっ⁉︎」
全裸で、必死に薄い布で隠そうとしているカゲチヨ。足元はふらふら。
さらに足を掴まれたことで、バランスを保つのもやっとだった。
そして、その場にアキラが立ち上がる。
「グッ……、フフ……、フフフッ!」
不敵に笑うアキラ。
だが、彼女にできたのは、そこまでだった。
力は入らないし、抵抗の意志すらもどんどん削られていく。
カゲチヨの可愛らしい顔を見るたびに、自分の抵抗に疑問を感じてしまうのだ。
もはや、その胸に飛び込んでしまいたいという、恐ろしい願望すら抱いてしまう。
だが、アキラは最後まで抗う。
「負けない……。アンタには負けない。俺は強いんだ! 一人でだって生きられる‼︎ 誰にも負けないんだぁ‼︎」
だが、その時。
カゲチヨは、アキラのその気迫に押され、後退りしてしまった。
そして、薄い布を踏んでよろける。
アキラはアキラで、ふらふらの身体は立っているのもやっとだった。
カゲチヨがよろけたことで、一緒によろけてしまう。
「……ああ!」
カゲチヨは叫ぶ。アキラ側に倒れていく。
だが、アキラはそれに抵抗する。
そして、そこで頭と頭が接触。
鼻と鼻が微かに触れる。
カゲチヨとアキラは、一瞬時間が止まったように錯覚した。
そして、二人は崩れるように膝を落とす。
この時、接触によって、カゲチヨは少し鼻血が出てしまった。
薄布にポタポタと垂れる。
「うわぁ……、ど、どうしよう」
「……」
慌てるカゲチヨとは対極的に、アキラは何も言わない。
全く微動だにしない。
だが……。
「う、うあああああああああああああああああああああああんっ‼︎‼︎」
突如泣き出すアキラ。カゲチヨを殴る
「え⁉︎ あ、ちょ⁉︎」
カゲチヨは、パタパタと叩くアキラから逃げようと、身を捩る。
そこで、アキラはカゲチヨの薄い布を踏んで転んだ。
……そして頭を打って、気を失ってしまった。
*
──────そして、現在。女神神殿屋上。
「えっと、……結局、どういうこと? コイツ、死ぬ要素どこ……?」
アキラは記憶を取り戻したが、結局何の答えも得られない。
「カゲチヨぉ‼︎」
「カゲチヨ殿ぉ‼︎」
「カゲチヨ様ぁ‼︎」
ノヴェトと女魔王、エミリーが、棺桶に横たわるカゲチヨを好き勝手に弄る。
「ちょっとぉ! アンタら、私のカゲチヨきゅんに触りすぎなのよ‼︎」
女神が三人のそれをやめさせようと、必死に抵抗する。
……が、自分では、もっと弄った。
「ひゃ‼︎ ちょ! さ、触らないでください‼︎ ……ああ‼︎ やぁ‼︎」
……と、飛び起きるカゲチヨ。
急に敏感なところを触れられ、身を捩ってなんとか避けようとしている。
アキラは、その光景にポカーンとした表情になる。
……そして次第に、アキラは無性に腹が立ってきた。
「……オイ、ババア。コイツ、生きてんじゃねぇか。ど、どういうことなんだよ⁉︎ ……なに⁉︎ なんなの⁉︎」
「何って決まってるじゃない! カゲチヨきゅんのファーストキスのお葬式よ!」
「……は?」
「死んだのよ! アンタが殺したのよ! カゲチヨきゅんのファーストキス‼︎」
「いや……、とりあえずオマエ、正気にもどれ」
「アンタ、当事者なんだからちゃんと反省なさい‼︎ 大人だったら、市中引き回しの上、獄門にして、もう一回引き回してから磔にして、島流しにするところよ‼︎」
アキラは、後ろから女神にぎゅうぎゅうと首を抱きしめられる。
……顔と顔が近い。
「アンタね、聞きなさいよ‼︎ ……いい? そういうのは、泥棒猫って言うのよ? 分かるかしら? 私とカゲチヨきゅんがラブラブラ……、ぶらぶら……、あははははははははは‼︎ ……ってバカぁあああああ‼︎ あははははは‼︎」
急に笑い出した女神。
「なんなんだよ! ババア、オマエ……、って臭っ‼︎ 酒くっさっ‼︎ ……なんだ、オマエ酔っ払いかっ⁉︎」
エミリーは素面のようだが、ノヴェトも女魔王も泥酔している。
カゲチヨは棺桶に寝かされているが、あちこちセクハラされまくっている。
しかも、相変わらず、例の薄い布を着せられていた。
そして、ノヴェトと女魔王、エミリーはどんどんエスカレートしていく。
「えへへへへへへへへ‼︎ カゲチヨぉ〜! 可愛ぇええのう、可愛ぇえええのう……、ほれほれぇ〜‼︎」
「うひひひひひひ、カゲチヨ殿は……、あははははははははははははは‼︎」
「はぁはぁ……、カゲチヨ様、薄っ、……薄い布が、あああ……。あああああっ‼︎ もう‼︎ あああああああ‼︎」
「わぁああ‼︎ ちょ、どこ触ってるんです‼︎ ノヴェトさん‼︎ ……ほわぁ‼︎ 魔王さんまで‼︎ ひゃぁ‼︎ にゃ‼︎ 触っ‼︎ エミリーさっ‼︎ んっ⁉︎ あん⁉︎ ……もぉ‼︎ うわああああああん‼︎‼︎」
完全に酔っぱらいの二人。
プラス、正気を失った一人。
向こうでは、メルトな姫ら警備兵も歓談中のようだ。
カゲチヨへのセクハラを、誰も咎めない。
アキラもだんだん状況が見えてきた。
おそらくこれは、女神らが酔ってやり始めた悪ふざけなのだろう。
素直なカゲチヨは、こんな謎の儀式にもまじめに付き合っているに違いない。
さらに絡んでくる女神。
「……ちょ、っとぉ……、ね? カゲチヨちんのぅ……、カゲチヨちん? ……ちん⁉︎ ……おちん? おちん⁉︎ ……ちん? ……あははははははは‼︎ あああああああ‼︎ ……んぐっ! んぐっ! んぐっ! ……かあああーーーーーーっ‼︎」
女神はどこからか一升瓶を取り出し、ぐいぐいと飲み干す。
まるで、運動後のスポーツドリンクのように、酒が喉の奥へと消えていく。
「だいたいねぇ、……あーた、ねぇ、ああ、ちょっっと⁉︎ 聞いてりゅー?」
「ああもうオマエ! ちょっ、ババア‼︎ ……ああ‼︎ もう邪魔っ‼︎」
アキラは女神のホールドから抜け出し、カゲチヨの元へ駆け寄る。
「ほら! ……アンタもなに素直に、そんなところで寝てんのよ‼︎ 酔っぱらいの相手しなくていいから! 行くよ‼︎」
「……え? あ、でも」
「……いいの! こんなの相手しても、キリ無いんだから。放っておけばいいの‼︎ ほら、あっち行こうよ‼︎」
「……あ、うん」
アキラは、カゲチヨの手を引いて走る。
二人は、メルトナ姫らがいる、食事が置いてあるところに向かった。
*
「うわぁ……、美味しそう」
カゲチヨは嬉しそうだ。
そこには、メルトナ姫らが総出で作った料理が並んでいた。
肉を串に刺して、さっと味付けしたようなもの。
鉄板で焼く肉や野菜、麺類。
さらには、美味しそうな匂いを漂わす煮込み料理など。
腕に縒りをかけた一品たちだ。
これには、アキラも目を見開いた。
「ね、ねぇ……、これ、なんで? なんで今日、こんな豪華なの?」
アキラは、目の前のメルトナ姫に問いかける。
「……き…………な……」
「……?」
彼女の声は全く聞き取れなかった。
だが、聞き返すのも悪いと思い、ぎこちない笑顔を返してしまうアキラ。
「これは姫様の計らいですよ」
そこにミシュの助け船。
「計らい?」
「ええ。皆さんいっぱい戦っていたので、きっとお腹が空くだろう、と。それで準備したのです」
「……ふぅん」
アキラはメルトナ姫を見たが、小刻みに頷いている。
ミシュは言葉を続ける。
「まぁ結果的に、用意しておいて良かったですかね。アナタが気絶した後、妙な空気になりましてね」
「妙な空気?」
「ええ。ノヴェトらが、突然『休戦しよう』と言い出したんです。アナタの無事が分かるまでは……、という期限付きで」
「わた、……俺が? どうして?」
「どうしてって。アナタはまだ子供ではないですか。頭を打ったんですよ? まぁ、女神様はその手の魔法にも長けていらっしゃいますので、安静にしていれば、治すのは難しくはないのでしょうが」
「ふぅん……」
アキラは、ノヴェトの方に視線を移した。
アキラは大人が嫌いだ。
だが、その中にもまともなやつが、多少はいるのかもしれない。
少しだけそう感じた。
……だが。
彼らは、また何やら奇行を始めたようだ。
もはや、ただの酔っ払いでしかない。
屋上の中央に、女魔王が立つ。
「ご歓談の皆様ーっ‼︎ では一曲……、ゔぉおおおおおおおおいいいいい‼︎」
女魔王による、突然のデスボイス。
「魔王様‼︎ まだ、曲が‼︎ 曲が‼︎ ……かかっておりやしぇん‼︎」
コジロウは、必死にスマホで選曲する。
だが、自身も結構酔っているので、割ともう字が読めない。
「……え? ……もうかかった? ……ゔぉおおおおおおおおおいいいいい‼︎」
「まだです‼︎」
「ちょ、頼むよ、コジ……」
「かかりやす!」
「なっ⁉︎ ……ゔぉおおおおおおおおおおおおおいいいいい‼︎‼︎」
「早っ‼︎ まだ前奏です‼︎」
「もういい⁉︎」
「はい‼︎ どうぞ‼︎ ……って、あ、いや違う曲だった」
「ゔぉおおおおおおおおおおおおおいいいいい‼︎‼︎ ……ええ⁉︎」
「いやもうなにしてん……、まっちゃん……」
そこにノヴェト乱入。
そして、ようやっと曲がかかり、前奏が始まる。
「いや、もうちょっとね、ご歓談向きなやつを……」
「ゔぉおおおおおおおおおおおおおいいいいい‼︎‼︎」
女魔王のシャウトのあと、軽快なリズムが走る。
そして、ノリでヘッドバンキングを始めた女魔王。
ちなみにヘッドバンキングとは……。
頭を上下に振りまくる、地獄の亡者がやるカッコイイ動作のことだ。
高確率で首を痛めるので、人間はやってはいけない。
「ちょ! ダメですって、酔ってる時にそんな……っ‼︎」
……と言いながら、一緒にヘッドバンキングを始めるコジロウ。
「いや、もうだからご歓談……っ‼︎」
……と言いながら、ノヴェトも参加。
「いや、酔っ払ってそんなことしたら死ぬッスよ……っ‼︎」
……と言いながら、リンリンも参加。
そのあと、護衛兵らも続々とヘッドバンキングを始めた。
女神神殿屋上の中央では、女魔王が歌う。
そして、その周りの者たちが、ひたすらヘドバンし続ける。
……という地獄のコンサートが急遽開催された。
なお、全員酔っ払いである。
酔った状態でそんなことをしたらどうなるか。
普通の状態なら分かりそうなものだが……。
すでに泥酔に近い状態であったため、全員の判断力は著しく低下していた。
……この後、地獄絵図になったことは、言うまでもない。
*
満天の星の下。
カゲチヨとアキラは、屋上のバイキングでゆっくりとした時間を過ごす。
「美味しいね」
アキラはベンチに座りながら、足をパタパタとさせる。
手に持った肉串食べながら、満足げだ。
カゲチヨも同じように肉串を食べる。
こういうものを食べたことがないので、アキラの食べ方の真似をする。
「はい。美味しいです」
「えっと、アンタさ……、カゲチヨだっけ……?」
「え?……あ、はい」
「ふぅん……。カゲチヨさ、アンタ、歳いくつ?」
「え?」
「歳!」
「えっと、10歳です……」
「へぇ、そう。……なんだ年下じゃない」
「……えっと、アキラさんはいくつなのでしょうか……?」
「アキラ」
「え?」
「アキラさんじゃなくて、アキラ。……あと、敬語やめてよね」
「あ、はい。……うん」
「11歳よ。私の方がおねーちゃんね。……そうだ、いいこと思いついた。カゲチヨ、私の弟になりなよ」
「え⁉︎ 弟⁉︎ ……ど、どうして……?」
「どうだっていいでしょ、決まりね。もう決まったから。今日からカゲチヨは、私の弟だからね」
「え、あ、いや……、そういうことは、お母さんに相談しないと……」
「なによ⁉︎ アンタ、お母さんに言われないとなにもできないの⁉︎ 子供ね‼︎ だいたい、こっちにお母さんいるの?」
「……いないです」
「だったら、相談なんてできないじゃない。……なら、そうだ。私がお母さんになってあげる」
「は?」
「だから、私がお母さんで、お姉ちゃんなの‼︎」
「えっと……?」
「だから、もういいのよ! なんでもいいの‼︎ もう決まり‼︎ 決まり決まり決まり‼︎」
「……あ、はい」
そして、アキラは小声で言った。
「だって、おねーちゃんなら、チューしたっていいでしょ?」
「え?」