第16話 最弱の勇者
場所は女神神殿、屋上。
眼前には、女神アシュノメーと勇者アキラが待ち構えている。
女神が放った爆炎の龍は、中空をうねるように漂う。
それはまるで、獲物を探す猛禽類のように悠然と空を支配していた。
だが、その光景を視界に入れながらも、ノヴェトの疑問は晴れない。
それは、女魔王に端を発する現状についてだ。
ノヴェトは女魔王に問う。
「……で?」
「で? ……とは?」
「まっちゃんが言うとおりに、屋上来たけど。それでどうなるんだ、これ?」
「どうなるって。……見てみるでござるよ、この360度のパノラマビューを! 遥か向こうに望む、悠然と佇む山々。最高のロケーションでござるなぁ。ミシュ殿に聞いた通りでござったー」
「……うん? いや、だからそれから? ……言われた通りに移動したら、BBAもなんでか素直についてきちゃったけど。あの空飛んで燃えてるやつも、なんでか普通に階段通ってきたしなぁ……」
急な場所移動で困惑しているのは、ノヴェトだけではない。
それは、女神も一緒のようだ。
「素直にって……。アンタら、勝手に移動するからじゃないのよ……。逃げるわけでもなしに、何かあるって思うじゃないのよ……」
「……ほら」
「ほらって。……フフフ、勇者氏。甘いでござるよ? これはもうラストバトル。ここで盛り上げないで、どこで盛り上がるんでござるか⁉︎ ……そう! ここぉおお‼︎ ……コジロウくん、レッツぅ・スタぁート・ミュージックぅ‼︎」
「はい、魔王様っ‼︎」
魔王の謎の掛け声に、反応するコジロウ。
またもやスマホを取り出し、なにやら選曲を始める。
「……え、またその件やるの?」
「またまたぁ〜、勇者氏も好きなくせにぃ〜」
スマホから大音響で曲が流れる。
今回は、手始めにバイオリンのソロ。
「……え、違う曲⁉︎ こ、これは、またロック調になる前振り……っ⁉︎」
コジロウがニヤリと笑う。
「フフフ、ノヴェトくん。この曲は、私が作詞作曲した、女性の魔王様に捧げる逸品。曲名は『魔王に捧げる鎮魂歌』‼︎」
「……え、魔王に捧げるの? それ、魔王死んでない?」
そしてバイオリンが止まる。
一瞬の無音、……からのデスボイス。
「うおお‼︎ デスボイスきたー‼︎ ……って、え? まっちゃんが歌ってる? ……今? あ、え? これ、ライブ、……生歌なの⁉︎」
そのデスボイスは、女魔王の口から直接発せられている。
そして、曲はガンガンのロック調になり、そのまま普通に歌い出す女魔王。
「いや、まぁ確かに盛り上がるとは思うんだけど。ここで歌うの? え? ずっと? いや、え? まっちゃんは、戦闘に参加しないながれなの? ……っていうか、そもそも魔王へ捧げる歌を、本人が歌うの?」
混乱のノヴェト。
「ところでノヴェトくん、身体に何か変調はないかい?」
「え? ……ま、まさか⁉︎ ゲームの詩人的なやつ⁉︎ 歌に効果が⁉︎ 良効果的な⁉︎」
だがノヴェトは、特に何の手応えも感じない。
「……えっと?」
「士気……、上がってるよね。もう爆上がりじゃない?」
テンション高めのコジロウ。
それはもう、語尾上がり気味に聞いてくる。
「……ああ、うん。上がる……。もうアゲアゲ……」
ノヴェトは真顔になった。
そして、不安げなカゲチヨ。
「あ、あの……、ボ、ボク、こういう曲不慣れで、どういう風に聞けば……」
「い、いや。俺だって分かんねぇよ……」
ノヴェトもカゲチヨも士気が上がるどころか、あわあわとし始める。
その間も気持ち良さそうに、美声を響かせ続ける女魔王。
そして、サビに入る。
「クソー、無駄にカッコイイなぁ。まぁもういいや。一丁やってやるか!」
そうノヴェトが決意し、女神の方へ向く。
だが、女神はすでに魔法を唱えていた。
「なっ⁉︎ ヤバい! こんなことしてる場合じゃねぇ! ……ってあれ⁉︎」
だが、魔法は飛んでこなかった。
女神の手から光が現れ、アキラを包む。
……困惑するアキラ。
「こ、これは……?」
「熟練格闘家の技術をコピーする魔法よ。これでアナタ、簡単に受け流されたりしなくなるわ」
「なんか、ズルいなそれ。もうなんでもありじゃん! 良効果るなんてズルいぞ‼︎」
猛抗議するノヴェト。
「何言ってんのよ。アンタたちもなんかやってんでしょ、それ」
「え?」
女神は、熱唱中の女魔王を指差した。
「ああ、そうさ‼︎ こちらはもう気分アゲアゲさ‼︎」
得意げなコジロウ。
「ほら、やってるじゃないのよ」
「……」
いろいろ諦めたノヴェト。
「なんかもうめんどくせぇ! 行くぜっ! ラストバトルだっ‼︎」
ノヴェト、カゲチヨ、エミリー、コジロウ。
4人は、女神と勇者アキラとのラストバトルに突入した。
*
「うわぁ、姫様。お上手です‼︎」
ミシュはにっこりとした。
メルトナの手元には、包丁で切られたお野菜。
「アイツら何してんの……?」
ノヴェトは、屋上の端に視線を移す。
そこでは、メルトナたちが晩ご飯の支度をしていた。
わざわざ野営用の調理道具まで持ち出し、警備兵らも一緒に準備を進めている。
「……ほう、美味しそうな匂いがしてきたね! ……んぐふっ‼︎」
吹っ飛ぶコジロウ。
「いや、まぁうん……」
「私たちの分もあるのかな? ……はべっ‼︎」
なおもコジロウは吹っ飛ぶ。
「さぁ……?」
ノヴェトにも理解できない。
なぜなら……。
「ぶわはあああああべばばばばばばばばばばばあああああああん‼︎」
吹き飛ばされ、床を舐めるように滑ってくる女魔王。
……なぜなら、まだラスボス戦の最中だったからだ。
そこには、息を切らすノヴェトが。
そして、エミリー、カゲチヨ、コジロウ。
彼らは全員、一様に疲弊していた。
そして、みっともなく泣き叫ぶ女魔王。
「ズ、ズルいでござる‼︎ ……魔法ほぼ無効ボス(女神)と、物理ほぼ無効ボス(アキラ)の同時攻略なんて‼︎ クソボスにも程があるでござるよ‼︎」
結局、歌には何の効果もなく、のちに女魔王も参戦。
だが、それでも、女神とアキラの前に為す術もなかった。
カゲチヨは半泣きだ。
「ど、どうしましょう⁉︎ もう無理です‼︎」
「諦めんじゃねぇ‼︎ ……というか、諦めたらオマエ、あのBBAの着せ替え人形だぞ⁉︎」
「うっ! ……そ、それは嫌です……」
「あらぁ? 酷いわねぇ、カゲチヨきゅん? 私たち、あんなに愛し合っていたじゃないの……?」
「ひ……っ!」
本気で怯えるカゲチヨ。
一体何があったのだろうか。
「いや、あのさ。そのお子様出てきてから、ずっと思ってたんだけどさ」
「な、何よっ⁉︎ またなにかの作戦なのっ⁉︎ も、もう騙されないわよ⁉︎」
疑心暗鬼の女神。
「じゃぁいいや」
「ちょ、言いなさいよ、バカ‼︎ 気になるじゃないのよ‼︎ 途中で止めるんじゃないわよ‼︎ バカなのっ⁉︎」
「なら聞くがよ。そいつ、カゲチヨの後に召喚したんだろ? そいつがいるなら、もうカゲチヨいなくてもいいんじゃねぇか? なんでそんなにカゲチヨにこだわるんだよ」
女神は、アキラの方に視線を移す。
「……可愛くないのよ。見た目はともかくとして。……可愛くないのよこの子! すぐババアって言うし‼︎ 私はカゲチヨきゅんがいいのぉ‼︎」
「うるせぇババア……」
「ほら! ……また言った‼︎ またババアって言った‼︎ こんな若くてムチムチプリンなのに‼︎」
「……いや、たしかに見た目は若いけどよ。でもオマエ……、もう誰も歳知らんくらい、長生きしてんだろうが」
ノヴェトのツッコミに、何かのスイッチが入る女神。
「そういうとこよ⁉︎ ……アンタ、そういうとこなのよっ⁉︎ 女は、いつまでもキレイでいたいのよ‼︎ いつまでもオンリーワンでいたいのよ‼︎」
女神の意思を汲み取るかのように、爆炎の龍がノヴェトに襲い掛かる。
咄嗟にガードしたノヴェト。
「ぐっ⁉︎」
だが、爆炎の龍は床スレスレに這い、ガードの下から打ち上げた。
「なあああああああっ⁉︎」
そして、上空へ打ち上げられるが、それでも上昇を続ける爆炎の龍。
ノヴェトは、そのまま遥か上空に漂い、自由落下を始める。
爆炎の龍は、さまざまな方向から執拗に体当たりを食らわす。
そして、身体が接触するたびに、激しい爆炎を巻き起こしていく。
最後に爆炎の龍は、ノヴェトを打ち付けるように下へダイブした。
大爆発と共に打ち付けられたノヴェトは、そのままグッタリと倒れていた。
「ああ‼︎ 初代勇者さんっ‼︎」
カゲチヨは、拳にグッと力を込める。
何もできない歯痒さ。
今は、それを噛み締めることしかできない。
「まったく忌々しいわね、それ。そんなつもりで付けた覚えないんだけど⁉︎」
女神はギリギリと唇を噛む。
「ううう……、痛えだろうが。……ちょっとは手加減しろよ」
無傷で起き上がってくるノヴェト。
カゲチヨはポカーンとしている。
「カゲチヨ殿、心配ござらんよ。勇者氏は、この程度じゃ死なんでござる」
「え、っと……、どういう……?」
「フフフ、それは……、勇者氏の異能力『鈍感力』でござるよ‼︎」
「鈍感力?」
「あっちのブラック社会に疲れた勇者氏は、タフな心を欲したそうでござるよ。ところがさすがは勇者氏、それだけで終わらなかったでござる。……心と体は二つで一つ。ついでに、身体も無敵になっちゃったのでござるよ!」
「そ、それはすごいです! 動じない心、無敵の身体! ……あれ? でもボク、落ち込んでるところを、結構見た記憶があるのですが……?」
小声で、カゲチヨに耳打ちする女魔王。
「これ、内緒でござるが……。勇者氏の鈍感力、なんでか心の方は効きが鈍いようで……。特に女性相手には、ほぼ機能しないでござるよ……」
「ええ⁉︎」
「ただ……、勇者氏が闘うと、いつも確実に泥試合になるんでござるが……。あのアキラ殿の精神攻撃は、ヤバイでござるね。もうそろそろ、勇者氏も限界かもござらんな……」
カゲチヨと女魔王が話している間も、ノヴェトは一方的に酷い目に遭っていた。
アキラの一撃。
……からのダウン攻撃(精神)。
「勇者のおばさ〜ん? 弱くない? なんで? どうしてそんなに弱いの? ヤバくない? 弱過ぎ、ヤッバァ⁉︎ そんなに弱いと、生きるの辛くなぁい? なんで生きてるの? 呼吸したら骨折しそう! ねぇ、なんで生きてるのぉ⁉︎」
「ぐっ‼︎ 大したこと言われてないのに、ダウン時に言われるとすげぇ効く……」
涙目のノヴェト。
「し、心配ないでござるよ、カゲチヨ殿‼︎ 勇者氏ならきっと……っ‼︎」
「はい‼︎ きっと……っ‼︎」
「いや、あの、キミたちさ……。喋ってないで……、手伝って……?」
床に這いつくばりながら、カゲチヨに手を伸ばすノヴェト。
そして、とうとうノヴェトはキレる。
……泣いた。
「だってアイツ! もう俺の受け流し、全然効かねぇし! しかも、ダウンする度に精神攻撃してくるし! お腹空いたし! もうやだぁーーーアイツぅーーー‼︎ しんどいぃーーー‼︎」
「勇者氏の心のHPは、もうゼロでござるな……」
カゲチヨの目に、情けないノヴェトが映る。
今まで見たことのないほどに、その姿は見苦しい。
大の大人の醜態というものは、子供にとってなかなかにショッキングな映像だ。
だから、カゲチヨは立った。
意を決して、ノヴェトの前に。
「……なんのつもりだ?」
アキラはカゲチヨに問う。
今まで、影に隠れていたカゲチヨ。
それが今、目の前に立ちはだかっているのだ。
……両手を広げて。
「これ以上、初代勇者さん、……いえ。ノヴェトさんに手を触れさせません!」
「……はぁ? 何言ってんだ⁉︎」
ポカーンとした表情のアキラ。
「オ、オイ……、カゲチヨ……?」
「カゲチヨ殿⁉︎」
ノヴェトと女魔王は、突然のカゲチヨの行動に言葉が出てこない。
「カ、カゲチヨ様……。そんな……、素敵……っ‼︎」
普段はカゲチヨを庇うエミリーだが、今はその勇姿に見惚れてしまっていた。
アキラはカゲチヨの肩を掴み、押す。
「邪魔だ!」
だが、頑なに避けようとしないカゲチヨ。
「くっ、なんだよ! 弱いくせに、突っかかってくんなよ‼︎」
なおも押すアキラ。必死に掴み返すカゲチヨ。
「うううう……っ‼︎」
「な、なんだよオマエ‼︎ なんだよ‼︎」
半べそになりながらも、必死に抵抗するカゲチヨ。
唸るように声を発しながら、アキラを掴む手を離さない。
だが、力はアキラが上。
その手は外されてしまう。
「弱いんだから、オマエ、あっち行ってろよ!」
「うあああああああああああ‼︎」
カゲチヨは腕を振り回す。
動揺するアキラ。
「なっ⁉︎ なんだよ‼︎ ちょ、痛っ! お、オマエ‼︎ ふざっ、ぶっ、止め! やめろって……、止めろって‼︎ ……ああもう、ああ‼︎」
カゲチヨの懸命な抵抗を、力で押さえつけようとしたアキラ。
だが、思うようにいかずに、だんだん悔しくなってくる。
「もうなっ! なんだよ……、あああ‼︎ くっ‼︎ もう……、止め……、やだぁ‼︎ やだああ‼︎ 止めろぅ‼︎ やだああああ‼︎」
アキラは次第に涙目になり、気がつくと泣いていた。
「うええええええええええん……、んんんんんーーーーーーー‼︎‼︎」
泣きながら、カゲチヨを殴るアキラ。
「んーーーーーーーーーー‼︎」
カゲチヨも、半べそをかきながらその手を掴もうと抵抗する。
その二人の様子を見て、ノヴェトがぽつりと言う。
「……なんだこれ」
「なんでござろうなぁ……」
それは女魔王も同じだった。
さっきまでそれなりに死闘っぽい感じだった。
だが、今目の前で繰り広げられているのは、明らかに子供の喧嘩。
「……なぁ俺たち、なにやってんだろうな」
「いつの世も、戦いは不毛でござるなぁ……」
ノヴェトと女魔王がボーッと成り行きを見ている。
こうしている間も、カゲチヨとアキラの不毛な喧嘩は続いている。
「カ、カゲチヨ様! そこ! そこです! そこで腕をとって、ああ! 惜しい‼︎」
「なかなか、カゲチヨくんもやるじゃないか」
完全に、観戦モードのエミリーとコジロウ。
女神も興を削がれたのか、メルトナ姫らが作った晩ご飯をつまみ食いしている。
そしてそれを食べながら、子供の喧嘩を観戦中。
もごもごしながら、ヤジを飛ばす。
「そう! そこ! ジャブよ、ジャブ! 右ストレートからの……‼︎ ああん、もう何やってるのよ‼︎ ……そこよ! そこ‼︎」
「なんだこれ……」
ノヴェトも、すでに完全に興を削がれていた。
そして空を見上げた。
日はもう落ちかけて、あともう少しで星空となるだろう。
「……ああ、腹減ったなぁ……」
泣きながら、取っ組み合いを続けるカゲチヨとアキラ。
この時、アキラは気が付いていた。
自身の力が、著しく制限されていることに。
アキラの能力。
それは、相手のパワーやスピードをコピーし、更に2割増にする能力だ。
だが、この能力にも大きな欠陥があった。
それは、相手が自分より弱いと、本来の自分よりも弱くなってしまうのだ。
たとえば、アキラの力を1とし、オーガが1万とする。
その場合なら、アキラは1万2千の力を得られるだろう。
だが、これがカゲチヨであれば、せいぜい0.1。
これが2割増で0.12になったところで、もはや誤差でしかない。
それが、この子供の喧嘩という結果となったのである。
だがそれも、アキラの打った一手によって終わりを迎える。
「あああん‼︎ もうぉぉ‼︎ しつこぉおいいい‼︎」
アキラはカゲチヨの足元に食い下がり、押し倒そうとした。
耐えるカゲチヨ。
だが、カゲチヨが纏っていた薄布は耐えられなかった。
カゲチヨはズルッと衣服を脱がされ、全裸となった。
そして。
……それは光った。
屋上を照らす。
あまねく照らす。
何人もそれを遮ることができない。
眩い光。
「こ、これは……っ⁉︎」
ノヴェトは、突然の現象に声を失う。
そして、なぜか調理をしていたメルトナ姫らも女性全員がその場に跪いた。
彼女たちは、そう考えたからではない。
……そうすべきと、身体が本能的に動いたのだ。
「な、なんだ⁉︎ ……何が起きている⁉︎」
辺りを見回すノヴェト。
さっきまで、つまみ食いしていた女神までも跪いている。
この不可解な状況に、戸惑っているのはノヴェトだけではない。
女魔王、コジロウ、護衛兵たち。
つまり男。彼らは跪いてはいない。
跪いているのは、全員女性だった。
「……勇者氏、勇者氏。こ、これは……?」
「お、俺にも分からねぇよ……。何が起きてんだ……?」
護衛兵の隊長が歩いてくる。
つぶやくように言う。
「こ、これはまさか……」
「ア、アンタ……、何か知っているのか?」
ノヴェトは問う。
「これは伝承の……? いや、まさか、本当に……、『光の勇者』?」
「光の……、勇者……?」
「伝承にはこうある。『光の勇者、高貴なる光を纏い、世を統べる王とならん』……と」
「王……? カゲチヨが、その王だっていうのか⁉︎」
「そして、その伝承の続きはこうだ。『その光は、すべての歳上女性を虜にするであろう』……と」
「……ただの女タラシじゃねぇか」
だが、不可解なことがあった。
「でも、どうして俺らは大丈夫なんだ。姿だけだからか?」
「いや、勇者氏。大丈夫ではござらん。……自分の姿をよく見るでござる」
「はぁ⁉︎ ……い、いつの間にか跪いている、だと……っ⁉︎」
「おそらく、純粋な女性ではないでござるから、完全には効かないのでござろう。だがそれでも、一定の効果はあるということでは……」
「マ、マジか……」
そして、不可解なことはもう一つ。
アキラも跪いていたのだ。
「……オ、オマエ? ……女の子、……だったのか⁉︎」
ノヴェトを含め、誰も気付いていなかった。
アキラは泣きながら、その力に対抗しようとする。
「グッ……、グソッ……、なんで……、こんな……」
だが、アキラは跪いたまま、その姿勢を変えることができなかった。
「そ、そうよ……、アキラちゃんは女の子よ……」
跪いたまま、下を見ながら女神がつぶやく。
「でも、勘違いしないで。これは、正確には異能力の効果ではないわ。カゲチヨきゅんの異能力『美尻』。その効力は、その魅力をより輝かせ、ダイレクトに伝えるだけの能力。魅力自体に、手が加えられているわけではないの。跪いてしまうのは、その美しさに敬意を払ってしまうからよ」
下を見ながら、解説する女神。
地味に喋りづらい。
「な⁉︎ それじゃあ、本当にカゲチヨが、その伝承の勇者ってことなのかよ……っ⁉︎」
下を見ながら、つぶやくノヴェト。
地味に喋りづらい。
「凄まじい威力でござる……。見た目はまるで、蛍のようでござるが」
下を見ながら、つぶやく女魔王。
地味に喋りづらい。
「えっと……、ど、ど、ど、ど、ど、どうしたんですか⁉︎ えっグッ! ……グズっ……ええ⁉︎」
半泣き全裸のカゲチヨ。
何が起こっているのか、自身は全く理解していない。
だが、尻は光り輝いていた。