第14話 魔王と呼ばれた男
これは、女神が大広間に現れるよりも、少し前の時間──────
女神神殿の廊下。
コジロウは笑う。
そして、ハンゾウは床に突っ伏すように倒れていた。
「ぐ……っ!」
「もう終わりなのかい? ……あっははは‼︎ さすがはニンジャ・マスター。床を這うのが上手じゃないか! 何度も何度も床をペロペロして、なにか美味しいものでも塗ってあったかい? ククク……、あーっははは‼︎」
コジロウは大きな声で笑った。
肩で息を切らすハンゾウとは対照的だ。
「ひ、卑怯だぞ‼︎ ドッカンドッカン魔法使いやがって‼︎ ……そんな忍者がどこにいる⁉︎」
「しつこいなぁ、これは忍術だって言ってるだろ? ほら、避けてみなよ。……フレデ・セェダマルテ・ディマー、『火遁・炎蛇の術』‼︎」
大きな火の玉が現れ、そこから放物線を描くように火の柱が伸びる。
それは何度も何度も、執拗にハンゾウに襲い掛かる。
「くっ‼︎ ……ちょ、……だ、からズルいっ! ……んだって‼︎ ……ああもう! オマエもう! 殺す! 殺す‼︎」
縄跳びでもするかのように、火炎の猛攻を避けるハンゾウ。
だが実は、コジロウはわざと手を抜いていた。
もちろん、この状況を見て楽しむ為だ。
あえてギリギリ避けられるスピードで、魔法を操っているのだ。
ハンゾウの方も遊ばれていることに気付いている。
先ほどから腸が煮え繰り返る思いであった。
だが、力の差があり過ぎた。
ハンゾウは、防戦を強いられ続けている。
「オマエ‼︎ さっきから、取ってつけたように火遁とか言ってるけど、魔法だろそれ‼︎ きっちり呪文唱えてるだろうがっ‼︎」
「まだ、そんな減らず口がきけるのかい。まだまだ余裕じゃないか、ほれ‼︎ フレデ・セェダマルテ・ディマー、『火遁・炎蛇の術』‼︎」
荒れ狂う蛇のような火柱。
もはや泣きながら、躱し続けることしかできないハンゾウ。
なにより炎によって酸素は奪われ、さらに高温の息苦しさ。
それはもう、呼吸すらもままならないのだ。
「ああ! 美味しい! 美味しいねぇ! ハンゾウくん! 床は、さぞかし美味しかろう! ほぅら、お食べ! もっとお食べ! 床をもっとペロペロするんだよぉ‼︎ あっはははははは‼︎」
「うぐぅううう‼︎ くっそおおおお‼︎」
正直、ハンゾウは舐めていた。
コジロウと名乗るこの男は、魔王軍幹部の魔道士だ。
魔道士といえば、詠唱に時間がかかるという弱点がある。
実際この男も、最初の詠唱にはそこそこ時間がかかっていた。
だが、問題はその後だった。
なぜか、それからの魔法は、詠唱を殆どせずに連発してくるのだ。
おかげで、反撃どころか躱すので手一杯。
矢継ぎ早の魔法が、ここまでも手の付けられない代物とは想像していなかった。
だが、ハンゾウは機をうかがっていた。
そして、炎の柱でハンゾウの姿が、コジロウの視界から一瞬見えなくなった。
……その瞬間、それは行われる。
炎の柱が引く。
廊下の炎が消える。
だが、そこにハンゾウの姿はない。
「おっと? 消えた? なんだい、それ。魔法じゃないな……? 勇者の異能力ってやつかい? 消えるってのは、なかなかキミらしい能力じゃないか。でも……」
コジロウは炎の柱を再び走らせる。
今度は全方位攻撃だった。
「ほうら、出ておいでよ! 隠れても無駄さ! フレデ・セェダマルテ・ディマー、『火遁・炎蛇の術』‼︎」
「ぶわっ‼︎‼︎‼︎」
爆炎にまかれたハンゾウが姿を現す。
ハンゾウは、すでにコジロウと目と鼻の先のところまで来ていたのだ。
「ぶっ……、くっそおお‼︎ お、俺の『漆黒の翼』がっ‼︎ ……な、なんで目の前にいたのが分かったんだ⁉︎」
「なんでって、キミはアホなのかい? 消えてるだけなら、そこにはいるんだろう? 攻撃すれば当たるってことじゃないか」
「もしかしたら、ワープする能力だったかもしれないじゃないか! それに、消える能力の場合、逃げてる可能性だって……っ‼︎」
「それはない。少なくともキミは逃げないさ。この知的な私が、無駄に煽っていたと思うかい? キミを逃がさない為なんだよ? なんせキミはもう、喋り方を忘れるほどに腹を立ててるんだからね。それに……」
コジロウは、ハンゾウの足元に指を刺す。
「それ、見えるかい? ススだよ。ここまで派手に燃やしたからね。キミの能力、姿は消せても、足跡は消せないみたいだね! あっははは!」
「なっ⁉︎ ……くっそおおおお‼︎」
ハンゾウはコジロウに向かっていった。
「フレデ・セェダマルテ・ディマー、『火遁・炎蛇の術』‼︎ ……敗因は、キミの奢りさ。……あとは、単純に実力の差……、かな?」
ハンゾウに爆炎が直撃し、スス塗れで床に転がる。
「安心するといい。その炎は普通のとは違うから、死ぬことはないはずだよ。まぁしばらく動けないと思うけどね。さて、私はさっさと女神を……、っと」
奥の方から歩いてくる足音。
「燃えカス臭いはねぇ? だぁれ〜? こんなところで焚き火しちゃったのは?」
コジロウは、その声から無意識に距離をとっていた。
*
「なに、なにか転がってるわ? ちょっと、アナタ。ちゃんと掃除しなさいよ。……って、これポチじゃないの。きったないわね。おら、起きなさい‼︎ 寝てんじゃないわよ‼︎」
ハンゾウに蹴りを入れる女神。
「おげっ‼︎ ……あ、女神様っ⁉︎ どうしてここへ?」
「ああん⁉︎ どうしてって、アンタが言われたこともしないで、遊んでるからでしょうがっ⁉︎ あの子使っていいって言ったわよね⁉︎ なのに、何放ったらかして遊んでんのよ、アンタはっ‼︎」
「ひぃっ⁉︎ あ、いえ、でも、あのアキラさんは、その……、ゲーム中だったので……」
「そんなの関係ないでしょ⁉︎ 言われたことぐらいちゃんとやりなさいよ‼︎ グズね‼︎ ……ん? そこにいるのは……、どこのおチビさん、だったかしら? 見覚えあるわね」
「相変わらず、物覚えが悪いようですね。さすがは原初。長生きし過ぎて、脳細胞ダメになっちゃいましたかね?」
「はぁ⁉︎ ああ、思い出したわ。アナタ、ただのゴミカスよねっ‼︎」
「そうですか。だったら、そのゴミカスにやられるわけですね、アナタは‼︎」
コジロウは素早い動きで、女神の目の前に到達。そこですかさず魔法を放つ。
「フレデ・セェダマルテ・ディマー‼︎」
火柱が女神を襲う。
「チシフェベィ……、ゼルモトゥ…………、フレデ・デヴェレト!」
女神も魔法を放った。
だが、彼女の声は、常人では考えられないほど早く、殆ど聞き取れない。
本来なら、長くかかる詠唱を一瞬で終わらせてしまった。
女神の前に大きな火玉が生成され、コジロウの火柱を容易に打ち消した。
「私は、この機を待っていたんだ‼︎ ……さぁ終わりだ‼︎」
コジロウは短刀を懐から取り出し、女神に斬りつけた。
魔道士の弱点はふたつ。
その長い詠唱。
そして、もう一つは詠唱直後だ。
だが。
「なにやってんだ、ババア。アンタが死んだら、誰が俺を扶養してくれんだよ」
少年が、コジロウの短刀を受け止めた。
腕が掴まれている。
残念ながら、その刃先は何にも到達しない。
「な……っ⁉︎」
コジロウは動揺する。
だが、すぐさま距離をとった。
「あらぁアキラちゃん、遅いわよ? レディを待たせるなんて、い・け・ず」
「どこにレディがいるんだよ? だから、キリのいいとこでセーブするって、言ったろうが」
「とにかくそいつ、さっさとやっちゃうわよ! アキラちゃん‼︎」
「俺を『ちゃん』付けすんなって言ってんだろうが、ババア‼︎ くそ、オマエ、ゲームの邪魔しやがって……」
アキラと呼ばれた少年は、コジロウの方を見る。
「な、なんなんだその子は……っ⁉︎ す、素手で刀をっ⁉︎」
「なんだ? 俺の力にビビったか⁉︎ って、もしかしてアンタ、ちっこいけどオッサンなの⁉︎ ……ハッ! ウケる。だったら、もっと驚かせてやろうか⁉︎」
そう言うと、アキラはコジロウの目の前に一瞬で移動する。
「お⁉︎ っと、あれ? アンタもしかして結構強いの⁉︎ そうは見えない……、けどっ‼︎」
アキラはコジロウを殴りつける。
コジロウは、壁に打ち付けられるように吹き飛ばされた。
「ぐうっ⁉︎」
「ほうら、燃えなさい! おチビちゃん! デメデヒィティ……、シルギニエフ…………、フレデ・アーギャセフト!」
今度は女神の爆炎魔法。
「ぐわああああっ‼︎」
爆炎にまかれるコジロウ。
「え⁉︎ おわっ‼︎ め、女神様‼︎ まだ拙者が‼︎ うわああああああ‼︎」
ついでに爆炎にまかれるハンゾウ。
「ほらほら、まだまだおかわりが欲しいのぉ〜?」
狭い通路に高火力の魔道士。逃げ場はなかった。
こうして、女神も大広間へ到達した。
*
──────そして、現在の女神神殿大広間。
「あはははははっ‼︎ 弱い、弱いよ‼︎ おじさん達‼︎ 俺よりもいっぱい生きてきたんでしょ⁉︎ なんでこんなに弱いのっ⁉︎ ねぇ、それってさ、生きる意味ある⁉︎ 生きてる意味ある⁉︎ はははっ‼︎ 無いよね⁉︎ 無いよねぇ⁉︎」
大広間の中央で、片手で成人男性を持ち上げる少年。
「こらぁ、アキラちゃん? それ、ウチの兵隊さんなんだから、そっと下ろしなさい。そっと。……そっとよ?」
「えいっ」
「あっ」
女神に言われ、アキラは手に持っていた第二警備隊の隊長を放った。
まるで、庭で捕まえた虫でも放るかのように。
「だってコイツさ、生意気なんだもん。弱いくせに、俺をガキ扱いしやがって。弱い奴は生きる資格ねぇんだよ‼︎」
中央で、注目を集めるアキラを余所に……。
ノヴェトたちは小声で、緊急対策会議を開催していた。
そこにはノヴェト、女魔王、カゲチヨ、エミリー、コジロウの5人。
なお、リンリンは向こうで消し炭になっている。
「オ、オイ。どうすんだよ、えらい怖いお子様出てきたぞ……。俺、嫌だぞ、あんなのとやるの……」
「ええ⁉︎ 拙者だって嫌でござるよ! 敵味方構わずボコボコにした挙句、『生きる意味ない!』なんて……、精神攻撃でござるよ⁉︎ あんなの食らったら立ち直れないでござるよ。……ほら、見てみるでござる」
その場の5人は、無造作に放られた敵の隊長を見た。
「ほら、グッタリしてるでござる。……ああ、可哀想に。もう明らかに、物理的なダメージ以上にグッタリしてるでござるよ‼︎ 物理と精神の同時攻撃なんて、拙者も絶対イヤでござるからぁ‼︎」
「まぁたしかに、エグい。私も先ほど軽く手合わせしたが、勝てる気がしなかった。年の頃なんて、カゲチヨくんとさして変わらない感じなのにね。どういう環境で育ったら、あんなバーサーカーみたいな子になるんだろうか。熊にでも育てられたんだろうか」
「く、熊ですか⁉︎ ボクだったら食べられちゃいますよ⁉︎」
「大丈夫ですよ、カゲチヨ様。そんな熊など、私が八つ裂きに致します。……そうですね、熊鍋にでもしてやりましょう。作ったことはありませんが、鍋にぶち込めば大概なんとかなりますので」
「俺は、それ食わねぇからな……。まぁとにかく、あのガキなんとかしねぇと、逃げるもなにもないぞ。どちらにしろ、魔法関係なら、……コジロウ。アンタがBBAを抑えてくれんとどうにもならん。……やれるか?」
「そうでござるな、拙者も扱えなくはないでござるが……。コジロウくんは、魔王軍随一の大魔道士でござるから、拙者なぞ足元にも及ばないでござる故」
「ま、魔王様‼︎ そんなに私のことを……。任せてください‼︎ あんな魔女など、叩き潰してご覧にいれましょう‼︎」
「おお、心強いでござるよ‼︎」
「……ちょっと。ちょっとアンタたち⁉︎」
そこで5人は、横槍を入れられる。
女神アシュノメーだ。
「なんでござる? ……今忙しいのでござるが?」
「忙しいって。『え? なにか御用ですか?』みたいなテンションで言ってんじゃないわよ。アンタ、状況分かってる?なんで敵の目の前で、堂々と作戦会議してるのよ。普通にちょっと待ったじゃないの。ほら、さっさと来なさいよ。ほら?」
「だから、それをどうするか決めてるでござるよ。もう少し待つでござるよ」
「もう少しって……」
女魔王は、何事もなかったように会議を再開する。
「それで……、『相対上位』でござったか? 筋力とか、物理的なものだけでござるかね?」
「まぁそうでしょうねぇ。私の魔法に関しては、魔女が防御してましたので。もしかしたら、魔法は普通に効くかもしれませんね」
「でも、やはり女神は、コジロウくんが抑えて欲しいのでござる。あっちはあっちで手がつけられない故。あとはその間に、みんなであの子をなんとかする、という作戦……、しかないような?」
「ねぇ、ねぇってば‼︎」
また横槍を入れられる。今度はアキラだ。
「……それ、まだかかるの?」
「もう少しでござるよ」
「じゃぁ帰ってゲームしててもいい?」
「いいでござるよ? 準備ができたら、あとで呼びに行くでござる」
「おっけー」
軽快に返事をしたアキラは、そのまま部屋から出て行こうとした。
だが、それを女神が呼び止める。
「いや、ちょっと待てぇい‼︎ いいわけないでしょ‼︎」
「だって、まだかかるっていうし。ボーッとしてるくらいなら、ゲームしたいもん。言っておくけど、俺、暇じゃないから」
「アンタ、ゲーム以外、基本何もしてないじゃないのよ‼︎ なんなのもう⁉︎ アンタまでニートじゃないの⁉︎」
「ああん⁉︎」
「そもそもアンタを去らせるのは、あのクソ魔王の作戦なんだから、コロッと騙されるんじゃないわよ‼︎」
「……バレてたでござるか」
女魔王を睨みつけるアキラ。
「おばさん、俺のこと騙したの?」
「ふ、大人とは汚いのでござるよ……」
「じゃぁいいやもう。おばさんも……、ぶっ倒してやんよっ‼︎」
アキラはそう叫ぶと、女魔王に飛びかかる。
「かかったでござるね‼︎ ……ルンルン、……変わルンルン……」
女魔王は、魔法のステッキのようなものを取り出し、呪文を唱え始めた。
「ま、まっちゃん‼︎ まさか‼︎」
「見て驚けでござる! これが、真の魔王の姿! 真の力でござるよおおお‼︎」
女魔王の身体が光に包まれる。
その光は、急速に大きな物体へと変容する。
そして、光が消え、そこに巨大なものが出現した。
「よく来たな、勇者よっ‼︎ 魔王の真の力、今こそ見せてくれよう‼︎」
そこに現れたのは、体長3mほど巨躯。
魔王の声は、神殿を震わせるほどに低く。
その場にいた殆どのものを恐怖に陥らせた。
「あわわわわわ……」
「カゲチヨ様、しっかり!」
恐れ慄くカゲチヨを、そっと抱き止めるエミリー。
そして、どこからともなくかかってくる魔王のテーマ。
荘厳なパイプオルガンの音色。
それは、ゆっくりと立ち上がり、ロック調に変わっていく。
まさにラストバトルのような熱い演出。
……だが、音質が若干悪く、籠ったような音色だった。
実は、音の発信元はコジロウのスマホだった。
「えっと……、それは?」
「ふふふ、ノヴェトくん。驚いたかい? これは魔王のテーマだよ。大丈夫さ、魔王様向けにファンが作ってくれた曲だから、著作権とか全然おっけー」
「……ああ、そう」
曲はガンガンのロック。
そして丁度今、デスボイスがギンギンに響いて最盛り上がりな場所だ。
魔王もテンション爆上げだった。
ちなみにデスボイスとは、地獄の叫びみたいなダミ声のことだ。
その様子に、アキラは少したじろぐ。
「くっ! ホントにラスボスっぽいじゃん‼︎ ……おば? オッサン? ……ちょっとカッケぇーし」
「フフフ、そうであろう! さぁ、勇者よっ! ……この魔王が、直々に相手をしてくれよう! さぁ来るがいい‼︎」
そんな風に、魔王とアキラがラストバトル風に掛け合いをしている最中。
ノヴェトとコジロウは後ろで座っていた。
「えっと、コジロウくん」
「え? なんです? ノヴェトくん?」
「キミはほら、BBAの相手しないと……」
「え⁉︎ でも、私は魔王のテーマを……。というか、あの人も普通に見てるだけだし……」
女神アシュノメーは、独特の空気についてこれず、呆然と成り行きを見ていた。
「ああ、そうね。じゃぁ俺もそうするか。……結果、分かってるけど」
魔王は叫ぶ。
「ふははは! 勇者よ、行くぞ! これぞ『生者必滅・超魔王竜巻脚』‼︎」
魔王は回し蹴りの勢いのまま、ぐるぐると竜巻のように回転する。
どこぞの格闘ゲームで見た技かと思えば……。
両手を真上に上げているので、どちらかと言えばバレリーナの方に近い。
一見、そんな可憐な技だが、体長3mもの巨大な体では話が違う。
それは、本当の竜巻のようにアキラに襲い掛かかった。
「そういうことなら! 俺も行くぜ! こっちは『勇者流拳法・雷撃昇天拳』‼︎」
アキラは魔王のすぐ下で屈み、溜めるように上空に拳を撃ち放つ。
その拳は、回転し続ける魔王の身体ごと、上空へと打ち上げる。
「……んなぁ⁉︎」
素っ頓狂な声を上げる魔王。
中空に舞う、魔王とアキラ。
「……からのぉ、……『勇者流拳法・雷光落とし』‼︎」
アキラは魔王の足を空中で掴み、床に目一杯叩きつける。
「ぐは……っ‼︎」
「……からのぉ……」
「ちょ、連続技はズルいでござるよぉ‼︎」
野太い声で叫ぶ魔王。
「『勇者流拳法・天地ドッカンドッカン』‼︎」
アキラは容赦しなかった。
足を掴み、魔王を右へ左にぶん投げ、床に何度も叩きつける。
「あばっ‼︎ ……そっ、ぶへっ‼︎ ……ちょっ、ぶほっ‼︎ ……待っ、べふっ‼︎ ……だああ、べはっ‼︎」
魔王は何かを懸命に喋ろうとしている。
だが、アキラはそれを待つ様子もなく、一方的に叩きつけ続ける。
それを見ていたノヴェトとコジロウ。
「まぁ、そりゃそうなるよね……。筋力的に上かも? みたいなオーガくんが、速攻でやられてんのに。まっちゃんが元の体に戻ったところで、そりゃまぁ負けるよね」
「い、いやノヴェトくん。黙って見てないで助けるとか……」
「まっちゃん、魔王の姿なのよ? これで助けに入るって。相手、あんな小ちゃい子なのに? 絵面、ヤバくない? というか、それで二人とも負けようもんなら、俺ら立ち直れんて……」
「……いや、たぶん、もう遅い」
二人が見守る中、アキラは手を離し、魔王はそのまま壁に叩きつけられた。
「……弱い。……弱いぞ、魔王‼︎ 無様だな‼︎ 無様すぎる‼︎ よくそんなんで魔王を名乗っていられるなぁ⁉︎ お家でママに慰めてもらったらどうだ⁉︎ なぁ魔王⁉︎ もう生きてる意味ねぇな‼︎ あははははは‼︎」
ノヴェトもドン引きしている。
「う、うわあ……、ダウン攻撃エグぅ……。俺的には、あっちの精神攻撃の方がくるわ……」
魔王は、壁に衝突してから起き上がってこない。
おそらくこれは、肉体の方ではなく、精神的なダメージの方だ。
「さて、オッサンたち。さっさと終わらせてもらうよ? ……俺、ゲームで忙しいんだよね」
アキラはニヤッと笑った。