第13話 最強の勇者
女神神殿。
大混戦の大広間を抜けた廊下。
そこで、コジロウは呼び止められる。
「おっと……? どこ行くでござるか?」
相手はハンゾウだった。
現在ここには、コジロウとハンゾウの二人のみ。
「……ああ、キミか。ハンゾウくん。私は急いでいるのでね、キミに構っている暇はないのだよ。……いや、ああそうだな。こういうのは、キミに確認するのが一番良いのかもしれない」
「……?」
「……女神はどこにいるのかな?」
「何をするつもりでござる? 暗殺でもしようってことでござるか? ……知ってるでござるよ? アンタ、昔は結構ヤバい事やってたんでござろう?いわゆる汚れ仕事……、とか」
「……いや? ふふふ、まあいい。……そうだな。分かったよ、キミの相手をしてあげようじゃないか。私は心が広いからね。それに、私は前からキミに言いたい事があったしね」
「へぇ、奇遇でござるな。拙者もでござるよ。……偽物さん」
「偽物……? あははは、本当にキミは面白いよ。言うなれば道化だ。キミこそ、偽物ではないかね? あー、なんだったかな、ニンジャ・マスターだったかい?いい大人がまったく。ゴッコ遊びなぞ、いい加減卒業した方が良いと思うがね」
「ゴッコ遊び……? アンタの方こそ、どうなんだ。アラガウモノ? なんだそりゃ。聞いた事がない。アンタこそ、ゴッコ遊びは控えた方がいいんじゃないのかい?アラガウモノ……、えっと……? 肛門……、コシ郎さん?」
「コウガ・コジロウだっ‼︎ ……キミは、本当に無礼なヤツだ。私は魔王軍幹部だよ? アラガウモノの、どこがいけないと言うんだい?」
「そんなもの存在しないって言ってんだよ‼︎」
「お、おう⁉︎ キミ、本当にハンゾウくんかい? 『ござるござる』はどうしたんだい? 面倒臭くて忘れてしまったかい? キャラがブレブレだよ?」
「なっ⁉︎ 拙者はブレておらんでござるよ? 何を言ってござるか? 意味不明でござるな?」
「そう、それ。それについても、前から気に食わなかったんだよ。まったく『ござるござる』と、魔王様の猿真似をしよって……、この紛い物が」
「ま、紛い物だと⁉︎ ……ははは、良いでござるよ。ならいっそ、本物を決めるというのはどうでござる? ……今、ここで‼︎」
「あはははは、初めてだな。キミと意見が合うなんて。望み通りに、キミをグッチャグチャに叩き潰してあげるとしよう」
女神神殿の廊下で、今まさに、二人の忍者対決が始まろうとしていた……。
*
女神神殿大広間の大混戦。
ゴーレムによって、メイド女性エミリーは大破。
そして、女勇者ノヴェトも吹き飛ばされた。
今や、カゲチヨを守るのは、女魔王のみ。
しかし、多くの兵を相手にしたままでは、それもままならない。
そして、ようやっとオーガが立ち上がる。
ゴーレムに殴られ、まだ頭がクラクラしているのか、手で頭を押さえている。
ここぞとばかりに兵が抑えに回る。
だが、オーガが腕を振り回すだけで、すぐに兵は逃げ始める。
だが、ダメージがまだ残っているのか、少しふらついている。
以前のように、兵士たちを牽制することもできていない。
「わあああああああああ‼︎ 魔王さあああああん‼︎」
「し、しまったでござる‼︎」
カゲチヨはゴーレムに捕まってしまう。
「あははははっ‼︎ カゲチヨくん、げっとぉおおおおお‼︎」
スアリの歓喜の声。
ゴーレムに捕まれたカゲチヨは、手足すらも動かせない。
だが、その時。メルトナ姫が突然走り出した。
「……なっ⁉︎ ひ、姫様⁉︎ ど、どこへ⁉︎」
慌てふためくミシュ。
姫は全速力で走っていく。
ただ、あまり運動の得意ではない姫は、足はそんなに早くはなかった。
すぐにミシュが追いついてしまう。
「どこに行くのです‼︎ 危ないですから‼︎」
ミシュは姫の腕を引いたが、姫はそれを振り払い、一目散に駆けていく。
「なっ……、そ、そうか。そういうことか……」
姫が向かう場所。
それは、ノヴェトが吹き飛ばされたところだった。
ミシュは、意図せず姫の気持ちを汲み取ってしまう。
そして、そこで棒立ちになってしまった。
だが、姫がそこに着く寸前。
それは起こる。
姫は、自身の足元の影に気付いた。
それは、とてつもなく大きい影。
だが、気付いた時はもう手遅れだった。
それは、ゴーレムに再度殴り飛ばされたオーガの影。
その巨躯は、すでに姫の真上に到達していた。
「ひ、姫様っ‼︎」
ミシュは手を伸ばす。
だが、その手は届くはずもない。
「エルゴイッッツォ‼︎ 姫様をっ‼︎」
スアリはゴーレムに命じる。
だが、それも無意味だ。
姫は、ようやく中空を見上げた。
そこには肉の天井。
彼女の足では、もはや全方位逃げ場もない。
オーガの硬い背中が、もう落ちてくる。
姫は理解する。
あと数秒後には、自分の存在はこの世から消え去ってしまうだろう、と。
彼女の脳は限界まで加速し、その結末を先延ばしにした。
だが、結末はすぐに訪れた。
大きな音。
オーガは背中を打ち付けるようにして、そこに落下した。
その衝撃からか、オーガは微動だにしない。
「ひ、姫……、様……?」
ミシュは右手の剣を落とす。
そのまま崩れるように膝が落ちた。
そして、それはスアリも同様であった。
「あ……、あああああああああ……」
声が震える。
そのミシュの声は、その叫びは。
その場にいたすべての者を止めた。
大混乱の大広間に、久しぶりの静寂が訪れる。
そこにいた誰もが、倒れたオーガの方を見ている。
そして、呆然と立ち尽くしていた。
だが、そこに声が響く。
「……ったく、オマエは相変わらずトロくさいな。戦えないのに、なんでこんなところにいるんだよ。……危ねぇだろうが‼︎」
ノヴェトだった。
その腕には、メルトナ姫が抱き抱えられている。
「……ああ、あ、あ、あ……、姫様っ‼︎」
泣き崩れるミシュとスアリ。
「あ、あれ? なんでこんな静かなの? もう終わり? ……って、うお⁉︎ なんで、みんなしてこっち見てんだよ⁉︎ 照れるだろうがよ‼︎」
「勇者氏……」
ホッとしたような表情の女魔王。
「き、貴様‼︎ ひ、姫様をお姫様抱っこするなど‼︎ 許さんぞ‼︎」
ミシュはおんおんと泣きながら、ノヴェトに文句を言った。
「ああん⁉︎ 何言ってんだオマエ。……ってうおっ! なんで泣いてんの、オマエ? ……ええ⁉︎」
ちょっと引いたノヴェト。
「……よ、っと。……ほら、立てるか?」
ノヴェトはメルトナ姫を立たせる。
そして、姫の元へミシュとスアリが駆けてくる。
「うわあああああ‼︎ 姫様ぁああああああ‼︎」
「姫様ぁああああああああ‼︎」
二人にギュウギュウに抱きしめられ、困惑するメルトナ姫。
姫は、二人の頭をポンポンと撫でる。
「「うああああああああああああああん‼︎」」
場は静寂。
ミシュとスアリの泣き声だけが響いていた。
「えっと……、なんだこれ?」
状況を理解していないのは、ノヴェトだけだった。
*
「……姫を助けたからといって、今までのことが許されると思うなよ‼︎」
ミシュは未だ泣きながら、ノヴェトに指を突きつける。
「助けたって、いつもやってたじゃねぇかよ。……で? なんかみなさん、もうシラけてる感じなんだけどよ。まだやんのかこれ?」
すでに戦闘は収まってしまっている。
暴れ回っていたオーガですら、キョトンとした顔をしているくらいだ。
「まだって……。そ、そうだ! これをよく見ろ‼︎ こっちには、カゲチヨくんがいるんだぞ‼︎」
ゴーレムの手の中には、碌に身動きもできないカゲチヨが。
「人質かよ……」
「そ、そうだ! こちらにカゲチヨくんがいる限り、きさ……、え?」
「……う…………め……」
ノヴェトへ強く言い放つミシュに、メルトナ姫が何かを言った。
「いや、ですが!」
「……め……」
「……は、はい。分かりました」
「スアリ!」
「……えっと、分かった。エルゴイッッツォ‼︎ ……解放しろ」
ゴーレムは、ゆっくりと優しくカゲチヨを床に下ろした。
そして、手を離す。
カゲチヨは、突然解放されて逆に困惑した。
「え? えっと……、これ、もう行っていいのです?」
「さぁ、こっち来るでござるよ、カゲチヨ殿」
女魔王が呼ぶ。
カゲチヨは、女魔王の側に駆け寄った。
困惑しているのはノヴェトも同様だった。
「なんだ、どうした?」
「姫様が……。そういう、小さい子を人質にしたり、卑怯なのはダメだと」
「ああ、そう……」
ミシュは、まるで悪戯を咎められた子供のよう、若干不貞腐れて言った。
「だ、だが‼︎ ここからは簡単に帰さんぞ‼︎ 全員引っ捕えてやる‼︎」
ミシュが叫ぶ。
ゴーレムが立ちはだかっている。
だが、他の兵士たちの士気は、すでにだだ下がり状態だった。
「ほ、ほら⁉︎ どうした⁉︎ ……貴様ら‼︎」
「いや、だって、ねぇ。今、なんか良い雰囲気でしたし。これでまた戦うってのも……」
第二警護隊の隊長ですら、もうやる気がない。
「なっ⁉︎ だから男はダメなんですよ! スアリ‼︎」
「……」
スアリの返事はなかった。
「スアリ! あれ? なに、どうした? ……ひっ⁉︎ な、なんだ⁉︎」
ミシュはスアリを見る。
その時、スアリの身体に何かが巻き付いていた。
それは太い糸か、ワイヤーのようなもの。
スアリの口は塞がれており、声も出せないようだ。
そして、そのワイヤーの塊はどんどん這ってきていた。
……崩れた壁の方から。
そして、ワイヤーと共に、より大きな塊がズルリと巻きつき、声を発する。
「油断大敵……、ですね」
それは、エミリーの首。
顔の半分はすでに破損している。
だが、パラパラと破片を撒き散らしながら、それは喋っている。
「エ、エミリーさん‼︎」
カゲチヨは叫んだ。
そのワイヤーの塊は、先ほど破壊されたエミリーだったのだ。
ミシュはスアリの元に向かおうとするが、その異様な光景に足がすくむ。
スアリの全身は、エミリーの残骸とワイヤーに覆い尽くされていたからだ。
「な、なんで動ける⁉︎ 壊したはずだぞ⁉︎」
「私には使命があるのです。カゲチヨ様を守るという使命が。そのためならどんなことだって……」
エミリーが話している間も、スアリを包むワイヤーはどんどん締まっていく。
「き、貴様‼︎ 術者を狙うなんて卑怯だぞ‼︎ 人形なら人形らしく、正々堂々人形と戦え‼︎」
「まぁこれは異なことを。傀儡士と戦う際、術者を狙うのは正攻法です。それにカゲチヨ様を人質に取ろうとした輩に、卑怯云々を問われる言われはございませんよ。……といいますか、そもそも自動制御もできない出来損ないの土塊の分際で、この私と対等などとは烏滸がましいとは思いませんか……?」
その間も、ワイヤーは締まり続ける。
もはや、中のスアリがどうなっているかは分からない。
「……わ、分かった。オマエの勝ちでいい……」
「……でいい? 勝ちでいい? ……はて?」
「違う、すまない。……オマエの勝ちだ。頼む、スアリを解放してくれ」
「そうですか。素直で宜しいですね。では……」
エミリーはそう言うと、スアリを包んでいたワイヤーを少しずつ戻す。
ワイヤーは無数の蛇の群れのように、元のエミリーの身体へと還っていく。
破損はそのままだったが、五体は何事もなく元の位置に接続された。
「ス、スアリ‼︎ ……だ、大丈夫か?」
「あ、ああ……」
グッタリとするスアリ。
ミシュに支えられる。
エミリーはカゲチヨの元へ。
「カゲチヨ様、申し訳ございません。怖い思いをさせてしまいました」
「い、いえ! エミリーさん良かったです! 無事……、ではないですけど、良かったです‼︎」
普通に歩いているエミリー。
だが、ボディはあちこち破損しており、なぜ歩けるかも不思議なほどだ。
これでは、到底無事だったとは言えない。
「いや、えっとエミリーちゃん? それ、なに……、それ、どうなってんの……?」
「もはや、どうやって動いているかも分からんレベルでござるよ……」
戸惑うノヴェトと女魔王。
「人間の筋トレと同じです。私も同じように、自分で肉体改造したのです」
「改造って、そういう意味じゃねぇ……」
*
「……さて、帰るとするでござるか」
「ふん、まぁ、……いいか。俺もなんか気が抜けたわ。あちらさんも、もうやる気ないみたいだし」
「そうでござるよ! さっさと帰って、今日はゆっくり休んで! 明日のイベントは、みんなで行くでござるよ‼︎」
「イベント⁉︎ ボクも行きたいです‼︎」
「当たり前だろ、オマエは行きたくないって言っても強制参加だぞ。出店もあるしな。美味いもん食わしてやるから、覚悟しておけよ」
「ほわわわわ‼︎ ホントですか⁉︎ 楽しみだなぁ」
「わ、私がカゲチヨ様と一緒に歩くんですからね‼︎ 御手手繋いで‼︎」
「いや、エミリーちゃんはさすがに修理せんと……。その顔じゃ……」
「頭なんてスペア付け替えればいいんです‼︎ どうせ、飾りなんですから‼︎」
「飾りなんだ……」
勇者御一行はもう帰る気マンマンで、明日のことなんて話したりしている状態。
それを遠くで見つめるメルトナ姫。
胸の前でハンカチをぐっと握る。
「姫……、様……?」
ミシュは姫の気持ちを察するが、これ以上何ができようというのか。
……だが、そんな空気の中、破損した入り口から何かが転がり込んできた。
それは入り口の近くで、クタッと失速した。
ノヴェトは、いち早くそれに気付く。
「オイ、あれ、ハンゾウじゃねぇか。アイツ生きてたのか」
ノヴェトは、不意に近付こうとした。
だが、その時。
破損した入り口から、爆炎がまるで生き物のように現れる。
一瞬、天井を這い回るように煙と火炎が暴れる。
そして、それはすぐに扉の奥へと引っ込んだ。
「……なっ⁉︎」
驚くノヴェトの足元に、再び何かが転がり込んできた。
そして、それも同じようにクタッと失速する。
「やあやあ、ノヴェトくん。元気で何より」
それはハーフリングのコジロウだった。
顔が真っ黒いススで覆われている。
「え? ……ええ?」
「はははは、すまない。さすがにアレは無理だ。あんなのチート過ぎる」
困惑するノヴェトに、笑いながらコジロウは言う。
だが、その笑顔はかなり引き攣っている。
その時、入り口から声が。
「あらぁ〜? 皆さんお揃いじゃないのぉ〜? 出迎えが遅れてごめんなさい〜。女は準備に時間がかかるのよぉ。いい男なら、いくらだって待てるわよねぇ⁉︎」
入り口から入ってきたのは、女神アシュノメーだった。
「……くっ‼︎ BBAか‼︎」
「あら? クソ勇者ちゃん、まだ生きてたのぉ〜? まったく、どいつもこいつも使えないわねぇ〜?」
「ハッ‼︎ オマエのご自慢の兵隊は、もう戦いたくないとさ‼︎ みんなオマエにうんざりしてんだよ‼︎」
「ホント、目障りねアナタ。もう面倒だから、私が殺しちゃおうかしら?」
女神とノヴェトの会話の最中、こっそり女神の死角からリンリンが飛びかかる。
「先手必勝ッスよ‼︎」
「……あら?」
だが、それは不発に終わる。
女神は何かを短く詠唱すると、指をスッと横に引いた。
すると、そこには小さな蛇を象ったような爆炎が発生する。
それは本物の生き物のようにのたうち、リンリンを襲う。
そして、リンリンの周りで爆ぜた。
「ぐはっ‼︎」
爆風をモロに受けたリンリンは、その場に倒れた。
「おいたが過ぎるわよ。その汚い手で触れないでちょうだい?」
余裕の女神。
ノヴェトは、初めて目にする彼女の強さに驚愕する。
「オ、オイ。なんだアイツ。……アイツあんな強いのか?」
「……そうか、ノヴェトくんは知らなかったんだね。彼女は強いよ。なにせ、元魔女だからね」
煤けた顔で、身体を起こすコジロウ。
「それもただの魔女じゃない。『原初の魔女』って言われてるくらいのヤバい奴さ。私のお師匠様のそのまた師匠の……、って話。私もそれなりに魔導を極めたつもりだったが……、あれは規格外だよ。それでもまぁ、私ならなんとかできなくも……、ないかな?」
「じゃあ、なんでそんなススだらけなの……?」
「彼女にはさ、弱点があるんだよ。魔導士特有のね。魔法には詠唱が必要だから、近接攻撃には弱いのさ。まぁ、大抵はそこに行くまでが大変なんだけど。だから私は、対魔女用に近接を鍛えたのさ。……でもね、ところがね。それもダメなんだ。あれを見なよ。彼女の後ろ」
女神の後ろには、小さな子供がいた。
カゲチヨと同じくらいの歳だろうか。
「あれが彼女の秘密兵器だ。魔女の強さは知っていたけど、あの子もヤバい。チートレベルだ」
ノヴェトの目には、ただの子供にしか見えない。
短い髪の男の子……、だろうか。
この子がチート級に強いというのも、にわかには信じ難い。
女神は、コジロウに嘲笑の眼差しを向ける。
「そこのチンチクリン。アナタ、魔王のとこの魔導士ちゃんなんでしょ? まぁまぁ強いって噂だったけど、噂が独り歩きしてただけみたいね。私に手も足も出なかったじゃないの」
「ハッ‼︎ よく言う。その子がいなければ、私にだって勝機はあった。貴方如き、私だけで十分さ」
「負け犬ちゃんがキャンキャン吠えたって、なんにも感じないわ? 準備を怠ったアナタが悪いのよ」
女神の後ろの少年が、女神に話しかける。
「オイ、ババア。もう帰って寝たいんだけど?」
「はぁ⁉︎ 今来たばかりでしょ? もう少し付き合いなさいよ!」
「知らねぇよ。さっきまでゲームやってて、もう眠いんだよ。じゃぁね」
「ちょ、待ちなさいってば! それから、ババアって言うのよしなさいって、いつも言ってるでしょ‼︎」
何やら揉め出した女神と少年。
「な、なんだあれ……」
「その隙に、こちらはもう帰るでござるか? あちらさんも、立て込んでるみたいでござるから」
「ちょ、帰るんじゃないわよ‼︎ 誰が帰っていいって言ったのよ! ……あ、ほら、アンタも……。わ、分かったわ。……ゲーム。ゲーム新しいの買ってあげるから。だからちょっとだけ手伝ってよ‼︎」
「ふぅん。いいけど? じゃぁさっさと終わらすから」
そう言うと、少年は歩いてくる。
少年は、オーガの前に立った。
オーガはそれをキョトンとした目で見つめている。
そして、少年はオーガの手に触れる。
……その瞬間。
オーガは宙を舞い、床に叩きつけられた。
ノヴェトは、目の前の光景を受け入れられない。
「はぁああああ⁉︎ な、どういうこと?」
「か、怪力少年でござるか⁉︎」
「いや、違う。あれは……」
女神が不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ。驚いたようね、この子は一番新しい勇者よ。異能力は『相対上位』。相手がどんな筋力を持っていたとしても、必ずこの子の方が上回るって能力よ。そう、そこの力自慢のオーガさんだって、この子にかかれば、子供と一緒」
「……そんなに簡単に能力言っていいのかよ」
「あら、ご心配どうも。……構わないわよ? だって実際、アナタ達、……それを知ったところでこの子に勝てないでしょ?」